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不思議体験記

「イタコの蟲を取る話」


私の実家の隣には、イタコさんが住んでいる。
そのせいか、子供の頃から不可思議な出来事は、 どこか当たり前のように感じていた。

私が育った地域では、 子どもが小学校に上がる前に「蟲取り」という儀式を行うことがあった。
体内に住まう“蟲”を取り除くための儀式だ。

「蟲が湧いている」と言われる状態は、 眉間に青白い血管のような痣が浮き上がり、 特に女の子に起こりやすい。
その現象が出ると、 性格が急にキツくなり、泣き喚いたり叫んだりする。

親が子どもの眉間を見て、 「ああ、蟲が湧いた」と判断すると、 イタコさんの家へ連れて行き、蟲を取ってもらうのだ。

頻繁に起こるわけではない。
ごくたまに、突然その“痣”が現れる。

私の同級生の妹もその一人だった。
実際に、彼女の眉間に青い痣が浮かんでいるのを私は見ている。

そして──
私はその「蟲取り」の儀式を、実際に目の前で見た。

不安がる家族に頼まれ、 私と母が彼女を連れてイタコさんの家へ向かった。

儀式は静かに始まった。
イタコさんは少女の手を握りながら、 「大丈夫、すぐに終わるから」と優しく声をかける。
見えないはずのイタコさんの目は、 ずっと少女の眉間だけを見つめていた。

少女の手のひらを上に向けると、 イタコさんは呪文を唱えながら、 その手のひらから“何か”を摘み取るような動作をした。

一瞬、白い糸のようなものが 手のひらから引き抜かれたように見えた。
だが、それは糸ではなかった。

近づいてよく見ると──
それは見たことのない“蟲”の姿だった。

灰色がかった細長い体。
ミミズほどの長さで、 身をくねらせながら、 手のひらの上でふっと消えていった。

その瞬間、 部屋の空気がわずかに揺れたように感じた。

儀式はそれで終わった。

少女の顔は穏やかな笑顔に戻り、 眉間の青い痣は跡形もなく消えていた。

あの“蟲”は何だったのだろう。
どのように表現すればいいのか、今でも迷う。

ただ──
諸星大二郎の作品『黄泉からの声』に登場する“蟲”の姿に、 驚くほどよく似ていたことだけは、 ここに付け加えておきたい。

「黄泉からの声」諸星大二郎

あとがき

今回の不思議体験記は、 青森の民俗文化に根ざした「蟲取り」の儀式についての実話です。

イタコという存在は、 霊的な世界と人の暮らしの境界に立つ存在として知られていますが、 その力は“口寄せ”だけではありません。

地域によっては、 子どもの心身の不調を“蟲”として捉え、 それを取り除く儀式が行われてきました。

今回の体験は、 その文化の一端を垣間見る貴重な記録です。

不思議で、少し怖くて、 けれどどこか温かい──
そんな青森の民俗の空気を感じていただければ幸いです。


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