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不思議体験記

「3.11の前、イタコさんが告げたこと…」

東日本大震災にまつわる、 今でも信じられないような話をしたい。

あの日の一週間前――
私の実家の隣に住むイタコさんが、突然家を訪ねてきた。

普段は家から出ない人だ。
玄関に立つ姿を見た母は、 その瞬間に“ただ事ではない”と悟ったという。

イタコさんは、静かだが切迫した声で告げた。

「これから数日後、とんでもないことが起きる。 早く避難しなさい。なるべく遠くへ。 南はダメだ。岩手より南へ行ってはいけない。 ここに居るなら、十分に備えなさい」

そう言うと、 袋から一升瓶のお神酒を二本取り出し、 母の手にそっと渡した。

「私はこれから北海道へ行く。 これはお神酒だ。 何かあったら、これを飲みなさい。 体の不調はこれで治る」

その言葉は、 まるで“神様のお告げ”のようだった。

母はすぐに水や食料を確保し、 父は家の周りを点検し、タンスを固定した。 母は近所にも伝えた。

「イタコさんが、逃げろと言っている」

ほとんどの家は真剣に耳を傾けた。
しかし数件は笑っていたという。

「そんな大げさな」

だがその夜、 近所の人が“ある光景”を目撃した。

イタコさんが、 念仏を唱えながら、 お神酒を家々の四隅にふりかけて歩いていたという。

ゆっくりと、丁寧に、 ひとつひとつの家の角に酒を注ぎ、 まるで見えない線を描くように歩いていた。

その姿は、 まさに“結界を張る”儀式そのものだった。

――そして、3月11日が来た。

午後2時46分。
大地が突然、うなり声を上げた。

家が揺れるというより、 地面そのものが波打つような、 経験したことのない揺れだった。

直後に停電。
テレビは真っ暗になり、情報は途絶えた。

ラジオをつけても、 なぜか電波が悪く、 「大きな地震が発生しました」 という断片的な声しか聞こえない。

外に出ても、 自分たちと周囲の状況しか分からない。

「何が起きているのか」
「どれほどの被害なのか」
誰にも分からなかった。

ただ、 “とんでもないことが起きた” という実感だけが、胸の奥に重く沈んでいた。

電気が復旧したのは、しばらく経ってからだった。

テレビをつけた瞬間、 画面に映ったのは――
信じられないほど巨大な津波が、 街を飲み込む映像だった。

母は震えながら言った。

「これを…予言していたの…?」

幸い、私の実家周辺は 人的被害はなく、物理的な被害もわずかだった。

しかし、 イタコさんの言葉を笑っていた家々は、 例外なく被害に遭った。

まるで、 見えない“結界”が張られていたかのように。

一ヶ月後。
北海道から戻ってきたイタコさんは、 真っ先に実家へ来てくれた。

「無事でよかった…」

母から近所の無事を聞き、 その場で深く息をついたという。

その後、 地元だけでなく東北各地から人々が訪ねてきた。

  • 亡くなった家族の口寄せ

  • 行方不明者の安否

  • 心の拠り所を求める人々

震災後、イタコさんの家には 毎日のように人が訪れた。
その流れは、今も続いている。

あの日、イタコさんは 未来を見ていたのだろうか。

そして、 実家の周囲に“結界”を張ってくれたのだろうか。

被害がなかったのは、 本当に――
うちの実家の近所だけだった。


あとがき

東日本大震災の直前、 穏やかな日常の中に突然現れた“警告”。

それは恐怖ではなく、 ただただ「守りたい」という 静かな祈りのようなものだったのかもしれません。

震災は多くの命を奪い、 多くの家族を引き裂きました。

しかしその中で、 確かに“守られた場所”があったことも事実です。

あの日の出来事は、 今でも私に問いかけてきます。

――神様は、本当にいるのかもしれない。

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