メインコンテンツへスキップ
見出し画像

『水色は、色ではなかった』

    天音 翔

    世界には、色がなかった。
    それは欠落ではなく、そういう構造だった。
    誰も疑わなかったし、疑う理由もなかった。
    すべては正しく、区別され、そこにあった。
    ある日、はじめて

    “何か”

    が見えた。
    名前は、分からない。
    ただ、それは他のどれとも一致しなかった。
    形でもなく、光でもなく、影でもなかった。
    それは、そこにあった。
    僕はそれを見ていた。
    見ている、という確信だけがあった。
    触れようとして、やめた。
    触れてしまえば、それが何かになってしまう気がした。
    それは、ただそこにあるべきだった。
    しばらくして、それは消えた。
    跡は残らなかった。
    最初から存在していなかったかのように、世界は整っていた。
    けれど、何かがずれていた。
    すべては同じなのに、同じではなかった。
    区別は保たれているのに、区別できていない気がした。
    僕は知ってしまった。
    この世界には、最初から色がなかった。
    あれは、水色だった。
    水色とは、色ではない。
    それは、
    見えなかった構造に気づくためのズレだった。



    色の世界へ あなたは何色が見えますか?


     
     
     
    文学は、自らの身勝手さに気づいた人間が残す、最も美しい抵抗である。

    あなたへのおすすめ