
三分後の犯人 完全版
人は三分あれば、誰かを殺せるらしい。
コンビニのレジで、前に並んでいた男がそう言った。
独り言みたいな声だった。
けれど、明らかに俺に聞かせていた。
「……なんですか、それ」
男はガムを手に取る。
黒いパーカー。
無精髭。
特徴があるのに、なぜか記憶に残りにくい顔。
「例えば」
男は言う。
「三分後に誰かが死ぬとして」
少しだけ振り返る。
「犯人って、いつ決まると思う?」
冗談には聞こえなかった。
「知りません」
「だよね」
男は笑い、
そのままガムをポケットに入れた。
万引き。
けれど店員は止めない。
いや——止められなかったように見えた。
「ほら」
男が言う。
「今、世界が少し変わった」
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なぜか、追いかけていた。
たぶんその時点で、
もう巻き込まれていた。
店の外。
街灯の下。
「なんで来たの」
男が聞く。
「……なんとなく」
男は笑う。
「人は大抵、“なんとなく”で人生を壊す」
ポケットからガムを投げてくる。
受け取る。
「それ万引きしたやつですよね」
「じゃあ君も共犯だ」
妙に、その言葉だけ残った。
⸻
男は歩き出した。
「因果には犯人がいると思う?」
「犯人?」
「最初に結果を押したやつ」
信号を渡る。
夜は静かすぎた。
「店員は万引きを見逃した」
「明日から、少し疑い深くなるかもしれない」
「そのせいで、傷つく誰かが出るかもしれない」
「全部想像ですよね」
そう言うと男は頷いた。
「現実って、大体そうできてる」
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男が立ち止まる。
「本題だけど」
沈黙。
「君、三分前に誰かとぶつかったろ」
胸が嫌な跳ね方をした。
思い出す。
信号。
肩が触れた誰か。
「あ……」
男は鍵を出した。
俺の家の鍵。
「落としたやつ」
さらにもう一つ。
小さな折りたたみナイフ。
「これは?」
「ぶつかった相手の」
喉が乾く。
⸻
「その人、このあと車に轢かれかけた」
「え」
「君とぶつかって、タイミングがずれたから」
男はナイフを見つめる。
「もしぶつからなければ」
静かに言う。
「三分後、誰か刺してたかもしれない」
「……かもしれない?」
「刺してないかもしれない」
少し笑う。
「未来って、犯人が曖昧なんだ」
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遠くでサイレン。
男が初めて真顔になる。
「でも一つだけ確かなことがある」
「君は三分前」
「未来を一度、ずらした」
沈黙。
「犯人って」
男が言う。
「事件のあとに決まるんじゃない」
間。
「三分前に決まるんだよ」
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