
「緑の葉っぱが灯る夜」 第7章:まだらの悲悶(ひもん)⑤
レモテの姿が見えなくなるとアルグは、もっと手ごろな木はないかと公園の広場を見渡した。
すぐに小ぶりのモミジが目に留まった。遊歩道のわきのブロック塀から乗り出すように、細かく分かれた枝を差し出している。
「……あれがいい」
アルグは大急ぎで飛んで行った。
(そういえば、昨日はこの辺に猫がいたな)
よじ登ってくる緑を見て、慌てて向こう側に姿を消したっけ――。塀の上に降り立ちながら、ふとそんなことを思い出した。あのときは裕子もいて、仕事が楽しくて仕方がなかったのに、一夜明けた途端、やけに大変なものになってしまった。
(変だな。ずいぶん昔のことみたいだ)
アルグはこつんと自分の頭をたたいた。
上空でびょうびょうと風が鳴り響いていたが、樹木や建物に囲まれているせいか、ここだけは外部から隔絶されたように静かで、点火にはうってつけの状況だった。細くしなやかな枝が、ひっそりと春の息吹を立ち上らせている。
「ちゃんと出てる……よな」
アルグはあらためて確かめた。
(さっきのだってしっかり出てたんだが――)
なのにうまくいかなかった。
それからしばらくためらっていたが、
「よしっ」
とばかりに覚悟を決め、杖をぐっと握りしめると、目を閉じながら一番近くの枝に先端を向けた。
ボッシュウゥ~ ボッ……ボッ……
妙に気の抜けた音だ。アルグはおそるおそる目を開けてみた。
「……」
赤ん坊の手をすぼめたような黄緑色の炎が揺らめき、ぎざぎざのセロファンを思わせる新芽が塀の上に薄緑色の影を落としている。
「お、やったか……」
と、思うのもつかの間、アルグはまたもや首を傾げた。
たしかに芽は出ているが、よく見ると、それは杖を近づけたあたりだけで、他のところにはほとんど燃え移っていない。葉と葉の間隔が不自然に開いていて、そこから燃えそこなった春の息吹が、小さな陽炎のように弱々しく揺れ出ていた。
「なんであれに点火できないんだ?」
それを見ているうちにだんだんと腹が立ってきた。
「あ~もう!」
大きな声で杖を構えなおすと、
「ちくしょう。燃えろっ、燃えろっ!」
やけを起こしたアルグは、ひとつの枝だけを執拗に攻めた。
ボシュッ ボシュッ ボシュッ……
幾度か繰り返すうちに、杖を向けた周辺にだけ、ようやく新芽が行き渡りはじめた。
「おっ、そうか。こうすればいいんだ」
にわかにアルグの表情が明るくなった。要は気合いなんだ。狭い範囲にターゲットを絞って、がむしゃらに点火を続ければいい。よくわからないけど、それがコツなんだ。
「よぉし――」
このやり方で木全体を点火して、あいつに見せてやろう。レモテの驚く顔が目に浮かぶ。
それから再びモミジに向き直ると、手当たり次第に稲妻のような光を浴びせかけた。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問16)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞こえる? ⇩ ⇩ ⇩
問15の答え:おとろし
使った単語:auto loss she