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Photo byuta100_

【短編小説】わたしと彼女。

    私は、叶わない恋をしている。相手とは二年の付き合いで、仲は良く、喧嘩もほとんどしたことがない。二年という長い期間を共にして、今や相手の事で知らないことはほとんどない。なのに、叶わない恋と詠うのは、“彼女”と相思相愛であるからこそ、叶わないのである。

     普通の人ならば、「相思相愛ならばくっつけばいいじゃないか」と肘でつついてくるだろう。しかし叶わないのだ、何度も言う。叶わない恋なのだ。叶わない恋に溺れている心地が、堪らなく悔しいとも思うし、心地よくとも思う。矛盾した私のこの感情は、今や誰の目にも触れない場所にある。深い深い海の底、或いは、雲の上。誰も、彼女も触れられない場所に置いている私の心は、私でさえも触れられないのに。


     そんなある日、彼女と馴染みの喫茶店で待ち合わせをした。彼女はめかしこんで来ていて、大変綺麗でした。私ときたら、みっともない格好で彼女の目の前に腰掛けている。恥ずかしいが、これが私のスタイルなのだと、彼女も分かっている。彼女はそれを笑うことも叱ることもない。ただ私と目を合わせ、何気ない話を繰り返す。彼女の言葉の節々、言葉遣い、視線から「それがあなたでしょう」と私への信頼が滲んでいる。
    そして、馴染みのウエイトレスに彼女はクリームソーダを頼んだ。私は珈琲を頼んで、先に来たそれをゆっくり口に含んで舌の上で酸味のある苦い液体を啜った。砂糖もミルクもない、ただ苦い。目の醒めるような苦みに、私の視界は鮮明になる。よく見れば彼女は顔を顰めていた、どうやら苦い香りが苦手らしい。私はどうしようもなく可笑しく感じて、そっと目を逸らした。同時に、彼女のクリームソーダが届いた。目の前の彼女は瞳を輝かせて緑と白で奏でられる夏の味を楽しんでいる。今度は私が顔を顰める番だった。私は彼女と真逆の嗜好を持っている為、苦いものは好きだが甘いものは苦手だった。裏腹に、彼女は苦いものを嫌うが、甘いものを好物だと常々言っていた。好みのものから、ファッションの趣味まで異なる私たちは、対照的な互いを想い合っていた。想い、見つめ合い、時折黙り込んで互いの存在を五感で認識する。でも、これは叶わない恋だった。


     店を出ると、彼女のスカートがふわりと風で舞った。続いて揃いのスカートが、舞う。彼女の、私と変わらない小さな手を取った。同じ目線で、彼女の丸い琥珀の瞳に黒い長髪が映り込む。
     “わたし”は、叶わない恋をしている。胸の内に閉じ込めた秘密の恋が、今日もバレなくてよかったなんて閉じた唇で呟けば、貴女の歌う愛に耳を傾けた。


    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

     
     

    泡沫

     
     
    ゆっくりと。

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