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宮廷賢者アルトリア 第22話「ホゴンの捜索」

    第22話「ホゴンの捜索」

    レオニスの部屋

    重苦しい空気。

    机の上にはホゴン・ジャロムに関する資料が並べられている。

    レオニスとアルトリアが向かい合っている。

    レオニス
    「……ホゴンを捕らえる、だと?」

    アルトリア
    「はい」

    アルトリアの目は真剣そのもの。

    アルトリア
    「おそらくホゴンは、すでに次の薬を開発しています」

    レオニス
    「……次の毒か」

    アルトリアは静かに頷く。

    アルトリア
    「ロウラル領の時と同じく“遅効性”。さらに――」

    アルトリアの表情が険しくなる。

    アルトリア
    「接触感染の性質も付加した、極めて厄介な薬でしょう」

    レオニス
    「……っ」

    空気が張り詰める。

    レオニス
    「つまり……放置すれば、王都全体に広がる可能性があると?」

    アルトリア
    「はい。症状発現前に感染が拡大すれば、対処は極めて困難になります」

    レオニスは腕を組み、静かに考え込む。

    レオニス
    「だから……先手を打つということか」

    アルトリア
    「はい。ホゴンが動く前に捕らえるしかありません」

    沈黙。

    やがてレオニスがゆっくり頷く。

    レオニス
    「……よかろう」

    レオニスは立ち上がる。

    レオニス
    「騎士団を動かす」

    アルトリア
    「ありがとうございます」

    レオニス
    「ただし、奴も愚かではない。簡単には姿を現すまい」

    アルトリア
    「ええ……ですが」

    アルトリアの目が鋭く光る。

    アルトリア
    「追い詰めれば、必ず綻びは出ます」

    王都・街中

    騎士たちが慌ただしく動いている。

    騎士
    「そっちに貼れ!」

    騎士団員たちが、街の掲示板や壁に次々と張り紙を貼っていく。張り紙には、老人の似顔絵。

    【ホゴン・ジャロム】

    市民たちがざわめく。

    市民A
    「誰だこれ……?」

    市民B
    「指名手配か?」

    市民C
    「なんだか気味悪い顔だな……」

    騎士
    「この男を見かけた者は直ちに報告しろ!危険人物だ!」

    王都全体に緊張が広がっていく。

    旧貴族派・隠れ家

    薄暗い部屋からオリオンが窓越しに街を見る。遠くには張り紙を貼る騎士団の姿が。

    オリオン
    「……フッフッフ……」

    不気味に笑う。

    オリオン
    「バカなやつらめ……」

    オリオンは椅子にもたれかかる。

    オリオン
    「貴様らごときに……ホゴンが捕まえられるものか……」

    オリオンの目が妖しく光る。

    オリオン
    「奴は“影”そのもの……見つけたと思った時には、すでに別の場所にいる」

    静かな笑い声。

    オリオン
    「せいぜい踊らされるがいい……アルトリア・フィリア……」

    国務長官室

    重厚な本棚。壁には各地の地図と報告書。
    静かな部屋の中、ピエールが書類に目を通している。

    扉がノックされる。

    ピエール
    「入れ」

    アルトリアが入室する。

    アルトリア
    「失礼します、叔父上」

    ピエールは顔を上げる。

    ピエール
    「アルトリアか」

    アルトリアは机の前まで歩み寄る。

    アルトリア
    「ホゴン・ジャロムについて、新たな動きがあります」

    ピエールの目が鋭くなる。

    ピエール
    「……ほう?」

    アルトリア
    「こちらから先手を打ち、ホゴンを捕らえます」

    ピエール
    「先手を打ってホゴンを捕らえる……か」

    アルトリア
    「はい、叔父上」

    ピエールは静かに椅子にもたれる。

    ピエール
    「確かに……放っておけば、新たな薬を作りかねん。先手を打って捕らえるのは上策だ」

    アルトリア
    「ええ」

    ピエールはゆっくりと立ち上がる。窓の方へ歩き、王都を見下ろす。

    ピエール
    「……だが」

    空気が少し重くなる。

    ピエール
    「アントニウスもまた、頭の切れる男だ」

    アルトリア
    「はい」

    ピエール
    「その程度の動き……当然読んでいるだろう」

    アルトリアの目が細まる。

    アルトリア
    「……おそらく。すでに何らかの対策を打っているはずです」

    ピエールは腕を組む。

    ピエール
    「ホゴンを隠すための偽装。あるいは……こちらを誘導する罠」

    アルトリア
    「十分あり得ます」

    一瞬の沈黙。

    ピエールは苦い表情を浮かべる。

    ピエール
    「本来なら、私も動きたいところだが……」

    アルトリア
    「……オリオン、ですか?」

    ピエールは静かに頷く。

    ピエール
    「ああ。今、奴は私を監視している」

    アルトリア
    「……」

    ピエール
    「下手に動けば、“こちらが何を掴んだか”を悟られる」

    ピエールは窓の外を見つめる。

    ピエール
    「アントニウスは、常に人を見ている男だ。誰が動いたか、誰が焦ったか、誰が沈黙したか、そこから情報を読む」

    アルトリア
    「……厄介ですね」

    ピエールは小さく笑う。

    ピエール
    「だからこそ、長年生き残ってきた」

    ピエールは振り返る。

    ピエール
    「アルトリア」

    アルトリア
    「はい」

    ピエール
    「今回の相手は、“毒”ではない」

    ピエールの目が鋭く光る。

    ピエール
    「“情報”だ」

    アルトリアの表情も引き締まる。

    ピエール
    「騙された瞬間、こちらが終わる」

    アルトリア
    「……肝に銘じます」

    ピエールは少しだけ穏やかな顔になる。

    ピエール
    「お前ならできる。バーンズ兄上の息子だからな」

    アルトリアはわずかに目を伏せる。

    アルトリア
    「……ありがとうございます」

    ピエール
    「気をつけろ。これは“捕り物”ではない。アントニウスとの頭脳戦だ」

    アルトリアの瞳が静かに燃える。

    アルトリア
    「……負けません」

    国務省 宮廷賢者専用執務室

    机の上に大量の地図と報告書。室内には重苦しい空気が漂っている。
    アルトリアが報告書を机に叩きつける。

    アルトリア
    「……見つからない!?」

    ザック
    「は、はい……」

    ザックは冷や汗を流している。

    アルトリア
    「詳しく聞かせてくれ」

    ザック
    「はっ……!」

    ザックは慌てて資料を広げる。

    ザック
    「王都東区の廃工房、西地区の地下倉庫、旧貴族派所有の別荘……騎士団が一斉に捜索を行いましたが……ホゴン・ジャロム本人は確認できませんでした……!」

    アルトリアの表情が険しくなる。

    アルトリア
    「研究設備は?」

    ザック
    「痕跡はありました。ですが……」

    ザックは悔しそうに拳を握る。

    ザック
    「どこも、つい最近まで使用されていた形跡だけ残して……完全に撤収されています」

    ジェームズ
    「……やはりか」

    ダイム
    「一歩遅かった、ということか」

    アルトリアは静かに目を閉じる。

    アルトリア(心の声)
    (……違う。これは偶然じゃない)

    アルトリア
    「……読まれている」

    ジェームズ
    「アルトリア様……」

    アルトリアはゆっくり目を開く。

    アルトリア
    「……アントニウス公爵が表舞台から消えた今も、王宮内には旧貴族派の大臣が多い」

    アルトリアは地図に視線を落とす。

    アルトリア
    「アントニウス公爵の長男――国務副長官、オリオン侯爵。ヴァレンツ元公爵の弟――財務副長官、ウラド侯爵。その他にも、旧貴族派に属する大臣は複数いる」

    ジェームズ
    「……つまり」

    アルトリア
    「彼らが根回ししたんだろう」

    沈黙。

    ダイム
    「でしょうな」

    ダイムは腕を組む。

    ダイム
    「こちらが動く前に、情報が流れていたと考えるべきでしょう」

    ザック
    「そ、そんな……!王宮の中に、そこまで協力者が……?」

    アルトリア
    「旧貴族派は、まだ死んでいない」

    アルトリアの声が低くなる。

    アルトリア
    「アントニウス公爵が消えても……彼らの“影響力”は残っている」

    ジェームズの表情も険しくなる。

    ジェームズ
    「厄介ですね……」

    アルトリア
    「うん」

    アルトリアは静かに資料を見つめる。

    アルトリア(心の声)
    (こちらが動けば、向こうも動く……まるで先回りされているようだ……)

    ダイム
    「どうしますか?」

    アルトリアは答えない。その目は、机の上の報告書に向けられている。

    アルトリア(心の声)
    (……だが)

    アルトリア
    「妙だな……」

    ジェームズ
    「?」

    アルトリアは1枚の報告書を手に取る。

    アルトリア
    「……どの拠点も、“撤収が早すぎる”」

    ダイム
    「どういう意味です?」

    アルトリア
    「こちらが動いた瞬間、すべて消えている……」

    アルトリアの目が鋭く光る。

    アルトリア
    「まるで……最初から“逃げる準備”ができていたみたいだ」

    沈黙。

    ジェームズ
    「……!」

    ダイム
    「それはつまり……」

    アルトリア
    「……ホゴンは“固定された研究施設”を持っていない可能性がある」

    一同
    「!!」

    空気が変わる。

    レオニスの部屋

    重い沈黙。

    机の上には捜索報告書が山のように積まれている。レオニスがその1枚を見つめている。

    レオニス
    「……固定の研究施設を持っていない、だと!?」

    アルトリア
    「はい」

    アルトリアは静かに頷く。

    アルトリア
    「そう考えるのが自然です」

    レオニス
    「しかし……!」

    レオニスは報告書を机に置く。

    レオニス
    「研究には設備が必要だ!薬品、器具、素材……そんなものを持ち歩けるはずが――」

    アルトリア
    「いいえ」

    アルトリアが静かに遮る。

    アルトリア
    「持ち歩いているのではありません」

    レオニス
    「……?」

    アルトリアは机の地図を指差す。

    アルトリア
    「分散しているんです。研究設備、薬品、素材、保管場所……それぞれを別の場所へ分けています。だから1つ拠点を見つけても、決定打になりません」

    レオニスの表情が険しくなる。

    レオニス
    「……まるで遊撃陣地だな」

    アルトリア
    「ええ。しかも、おそらく定期的に移動しています」

    アルトリアは報告書を1枚取る。

    アルトリア
    「騎士団が踏み込んだ拠点……どこも“撤収の速度”が異常でした。まるで事前に、こちらの動きを知っていたように」

    レオニス
    「……旧貴族派の連中か」

    アルトリア
    「おそらく」

    レオニスは深く椅子にもたれかかる。

    レオニス
    「厄介極まりないな……」

    アルトリア
    「はい」

    レオニスは額を押さえる。

    レオニス
    「固定拠点がないとなれば……王都中どこでも研究が可能ということになる……!」

    アルトリア
    「さらに厄介なのは――」

    アルトリアの目が鋭くなる。

    アルトリア
    「ホゴン本人が、必ずしも研究現場にいる必要がない点です」

    レオニス
    「……何?」

    アルトリア
    「奴ほどの人間なら、弟子や協力者を使って薬を作らせることも可能でしょう。つまり――“ホゴンを探す”という発想自体が、罠の可能性があります」

    沈黙。

    レオニスの目がわずかに見開かれる。

    レオニス
    「……ではどうする?」

    アルトリアは静かに答える。

    アルトリア
    「追う対象を変えます」

    レオニス
    「対象を?」

    アルトリア
    「はい」

    アルトリアは机の上の小瓶を手に取る。

    アルトリア
    「ホゴン本人ではなく――“毒そのもの”を追う」

    空気が変わる。

    レオニス
    「……毒を?」

    アルトリア
    「毒は嘘をつきません。どれほど痕跡を消しても、材料や調合には必ず特徴が残る。つまり――流通を辿れば、必ず奴へ繋がります」

    レオニスはゆっくりと顔を上げる。

    レオニス
    「……なるほど」

    レオニスの目に再び光が戻る。

    レオニス
    「“場所”ではなく、“流れ”を読むか」

    アルトリア
    「はい。ホゴンは影に潜む。ですが毒は、必ず誰かの手を渡る」

    アルトリアの瞳が鋭く光る。

    アルトリア
    「そこが……突破口です」

    円卓の間

    王族たちが円卓を囲んでいる。
    空気は重いが、どこか緊張感が張り詰めている。

    レオニス
    「――つまりホゴン本人ではなく、“毒そのもの”を追う」

    ガイナス
    「毒そのものを追う……ですか?」

    レオニス
    「そうだ」

    アルトリアは静かに説明を続ける。

    アルトリア
    「ホゴンは固定拠点を持たず、移動しながら研究している可能性が高い。ですが、毒の材料までは消せません。特殊な薬草、鉱物、抽出液――それらは必ずどこかから流通しています」

    ガイナス
    「なるほど……」

    ガイナスは感心したように頷く。

    ガイナス
    「人ではなく、“流れ”を追うわけか」

    アグニスがニヤニヤしながらアルトリアを見る。

    アグニス
    「さすがア〜ちんだ〜」

    セリア
    「……は?」

    空気が一瞬止まる。

    セリア
    「……何ですか?その呼び方」

    アグニス
    「親しみを込めて」

    セリア
    「却下です」

    アグニス
    「えぇ〜?」

    セリア
    「“ア〜ちん”って何ですか?」

    アグニス
    「可愛いじゃん」

    セリア
    「可愛くありません」

    アグニス
    「本人に聞いてみる?」

    全員の視線がアルトリアへ向く。

    アルトリア
    「…………」

    アルトリアは若干引き気味。

    アルトリア(心の声)
    (……どう反応すればいいんだこれ……?)

    アグニス
    「どう?」

    アルトリア
    「…………えっと……」

    セリア
    「却下でいいですね?」

    アルトリア
    「……はい」

    アグニス
    「えぇぇぇぇぇっ!?」

    ユリナが小さく吹き出す。

    ユリナ
    「ふふっ……」

    エリス
    「兄上、センスなさすぎ……」

    アグニス
    「なんでだよ!?」

    セリアは腕を組み、少し不満そう。

    セリア
    「そもそも軽すぎるんです」

    アグニス
    「じゃあセリアはなんて呼んでんの?」

    セリア
    「……アルトリア、ですけど?」

    アグニス
    「普通〜」

    セリア
    「うるさいです」

    アルトリア
    「…………」

    アルトリア(心の声)
    (……話が脱線している……)

    レオニスが軽く咳払いする。

    レオニス
    「……話を戻すぞ」

    全員が姿勢を正す。

    レオニス
    「今回の鍵は、“毒の流通経路”だ」

    レオニスは地図を広げる。

    レオニス
    「ホゴンほどの男なら、特殊な材料を使っている可能性が高い」

    アルトリア
    「はい。通常では入手困難な素材であれば、逆に追跡しやすいでしょう」

    ガイナス
    「つまり密売ルートか」

    アルトリア
    「ええ。闇市場、密輸商、旧貴族派の商人……必ずどこかに“接点”があります」

    レオニス
    「そこを叩く」

    空気が再び引き締まる。
    アルトリアの瞳が静かに鋭くなる。

    アルトリア(心の声)
    (……今度はこちらが追い詰める番だ)

    国務省 宮廷賢者専用執務室

    巨大な地図。
    机には薬品資料、流通記録、商会一覧。

    アルトリアたちが集まっている。

    イルハレム
    「流通経路を追跡するんですか?」

    アルトリア
    「ああ」

    アルトリアは地図上の複数地点を指差す。

    アルトリア
    「毒そのものを隠すことはできても……材料の流れまでは消せない」

    ダイム
    「確かに、特殊素材ともなれば扱える商人も限られますな」

    アルトリア
    「そういうことだ」

    ジェームズは腕を組み、少し考え込む。

    ジェームズ
    「ですが……」

    アルトリア
    「?」

    ジェームズ
    「仮に流通経路を辿れたとして……そこから、どうやってホゴン本人を見つけるんです?」

    室内が静かになる。

    イルハレム
    「……確かに」

    ダイム
    「奴は姿を隠すことに長けていますからな……」

    ザック
    「材料を運ぶ役と、ホゴン本人が直接接触しているとも限りませんし……」

    沈黙。

    しかし――アルトリアの口元が、わずかに吊り上がる。

    アルトリア
    「……問題ない」

    一同
    「?」

    ジェームズ
    「アルトリア様……?」

    アルトリアはゆっくりと椅子にもたれる。

    アルトリア
    「ホゴンは天才だ。だからこそ、自分の研究に絶対の自信を持っている」

    アルトリアの目が鋭く光る。

    アルトリア
    「そういう人間には、共通点がある」

    イルハレム
    「共通点……?」

    アルトリア
    「“こだわり”だ」

    アルトリアは机の上の薬品資料を手に取る。

    アルトリア
    「毒の調合、素材の選別、保存方法、天才ほど自分だけの“癖”を持つ」

    ジェームズの表情が変わる。

    ジェームズ
    「……まさか」

    アルトリア
    「そう。流通を追えば、“ホゴン特有の痕跡”が見えてくる」

    ダイム
    「なるほど……!」

    アルトリア
    「奴は完璧主義者だ。だからこそ、“必ず同じ素材を使う”」

    イルハレム
    「……!」

    アルトリアは地図の一点を指差す。

    アルトリア
    「そして、その素材は――特定地域でしか採れない」

    空気が変わる。

    ジェームズ
    「つまり……」

    アルトリア
    「流れを絞れる」

    アルトリアの目が静かに燃える。

    アルトリア
    「ホゴンは自分では気づいていない。“毒そのもの”が、奴を裏切っていることに」

    沈黙。

    そして――ダイムがニヤリと笑う。

    ダイム
    「……反撃開始、ですな」

    アルトリアも静かに笑う。

    アルトリア
    「うん。今度はこちらが追い詰める番だ」

    ホゴンの研究施設(地下)

    薄暗い地下施設。

    壁一面に並ぶ薬品、試験管、奇妙な器具。
    不気味な液体が泡立っている。

    その中央で、ホゴンが1人ほくそ笑んでいた。

    ホゴン
    「クックックック……」

    ホゴンは黒い液体の入った試験管を見つめる。

    ホゴン
    「バカな奴らじゃ……誰もワシを捕らえることなどできぬわ……!」

    ホゴンは高らかに笑う。

    ホゴン
    「ワシの毒は完成する……!そして王都は――」

    その瞬間――

    キィン――

    ホゴンの首筋へ、鋭い剣が突きつけられる。

    ???
    「……やっと見つけたわ」

    ホゴン
    「……っ!?」

    ???
    「アルトリアの推理通りに追跡した結果ね」

    ホゴンの顔が引きつる。

    ホゴン
    「な……何者じゃ!?」

    ???
    「私のこと……知らないはずがないわよね?」

    騎士がゆっくりと兜を脱ぐ。白銀の髪が流れる。それは――セリアだった。

    ホゴン
    「な……っ!?こ……これはこれは姫様……!」

    ホゴンは冷や汗を流しながら笑みを作る。

    ホゴン
    「このような場所まで、わざわざ……」

    セリアの目は冷え切っている。

    セリア
    「随分好き勝手してくれたわね」

    ホゴン
    「ひ、姫様、誤解ですぞ……!」

    ホゴンはゆっくりと後ろ手を動かす。その指先には小さな毒瓶。

    ホゴン(心の声)
    (クク……隙を見て浴びせれば――)

    しかしセリアの瞳が鋭く光る。

    セリア
    「……遅い」

    一閃。

    ザンッ――!!!

    毒瓶が真っ二つに砕け散る。同時に――

    ホゴン
    「ぎ――」

    ドサッ

    ホゴンの右手が床に落ちる。

    ホゴン
    「ぎゃあああああああっっっ!!!!」

    ホゴンは絶叫しながら転げ回る。

    ホゴン
    「て、手がぁぁぁっっっ!!!ワシの手がああああっっっ!!!!」

    床に血が広がる。
    セリアは無表情のまま、再び剣を突きつける。

    ホゴン
    「ひぃぃぃぃっっっ!!!」

    セリア
    「また変な真似をしたら――」

    セリアの声は冷たい。

    セリア
    「次は首を斬る」

    ホゴンの顔が恐怖で歪む。

    ホゴン
    「ひっ……!つ、償います!!罪は償いますから!!」

    ホゴンは涙と鼻水を流しながら土下座する。

    ホゴン
    「ですから命だけは……!命だけはお助けくださいぃぃっっ!!!」

    セリアは一切表情を変えない。

    セリア
    「……見苦しい」

    そのとき――騎士団が雪崩れ込む。

    騎士
    「姫様!」

    セリア
    「こいつを拘束しなさい」

    騎士
    「はっ!!」

    騎士たちがホゴンを押さえつける。

    ホゴン
    「やめろぉぉぉっっ!!!離せぇぇぇっっ!!!」

    セリアは周囲を見渡す。机の上には大量の毒薬。謎の薬品。黒い液体。
    セリアの表情が険しくなる。

    セリア
    「……これ全部、奴の研究か……」

    騎士
    「すぐ押収します!」

    ホゴンはなおも暴れている。

    ホゴン
    「貴様らには分からん!!ワシの研究は完成するはずだったのだ!!!」

    セリアは冷たく言い放つ。

    セリア
    「その研究で、どれだけの人が苦しんだと思ってるの?」

    ホゴン
    「……っ」

    セリア
    「あなたの好きにはさせない」

    ホゴンは絶望したように崩れ落ちる。

    カーン邸

    重苦しい空気。
    アントニウスが報告書を握り潰さんばかりに掴んでいる。

    アントニウス
    「ホゴンが捕らえられただと!!??」

    オリオン
    「は、はい父上!」

    オリオンは額に汗を浮かべている。

    オリオン
    「すでに王都へ護送されました!」

    アントニウスの表情が険しく歪む。

    アントニウス
    「馬鹿な……!奴の居場所は完全に秘匿していたはずだぞ……!」

    オリオン
    「アルトリア・フィリアが流通経路を逆算し……」

    アントニウス
    「……っ!!」

    アントニウスは拳を握る。

    アントニウス
    「アルトリアァァ……!!」

    アントニウスは机を叩きつける。

    ドンッ!!!

    アントニウス
    「これでは毒が作れぬではないか……!!」

    オリオン
    「申し訳ありません……!」

    アントニウスは険しい表情のまま黙り込む。

    アントニウス(心の声)
    (……やはり危険だ……アルトリア・フィリア……!)

    王宮・正門前

    セリアが騎士団を率いて戻ってくる。中央の巨大な檻馬車の中には、拘束されたホゴンがいる。右手を失い、青ざめている。

    騎士
    「道を開けろ!」

    その時――アルトリアがちょうど通りかかる。

    アルトリア
    「……?」

    アルトリアは檻を見る。

    アルトリア
    「この老人が……ホゴンですか?」

    セリア
    「ええ」

    アルトリアはゆっくり檻へ近づく。ホゴンはギロリとアルトリアを睨みつける。

    ホゴン
    「……貴様が……アルトリア・フィリアか……」

    アルトリアは冷静にホゴンを観察する。その視線が止まる。

    アルトリア(心の声)
    (……右手を斬られたんだな……)

    ホゴンは震えながらアルトリアを睨む。

    ホゴン
    「き、貴様さえいなければ……!」

    しかし――

    シャキン

    セリアが即座に剣を向ける。

    ホゴン
    「ひぃっ!!」

    セリアの目は冷たい。

    セリア
    「あなたが作った毒で――妹のユリナは長いこと、生死の境を彷徨った。そして……」

    セリアの視線が鋭くなる。

    セリア
    「レグナスの国民たちも」

    ホゴンは完全に怯え切っている。

    ホゴン
    「ひぃいいいい〜っっっっ!!!命だけは!!命だけはお助けくださいぃぃぃっっ!!!」

    セリアはしばらく無言で見下ろす。やがて――

    シャッ

    剣を鞘へ収める。

    セリア
    「……こいつはこのまま刑務省へ引き渡すわ」

    騎士
    「はっ!!」

    騎士団がホゴンを連行していく。

    ホゴン
    「いやだぁぁぁぁっっっ!!!!死にたくないぃぃぃっっっ!!!!」

    絶叫が遠ざかっていく。

    静寂。

    アルトリアはその背を静かに見つめる。

    アルトリア(心の声)
    (……シャルル兄上……ハンス兄上……)

    アルトリアは静かに目を閉じる。

    アルトリア(心の声)
    (仇は……捕らえました)

    風が吹く。
    セリアがそっとアルトリアを見る。

    セリア
    「……アルトリア?」

    アルトリアはゆっくり目を開く。

    アルトリア
    「……ありがとうございます、姫様」

    セリアは少しだけ微笑む。

    セリア
    「礼なんていらないわ。当然のことをしただけよ」

    アルトリアは小さく笑う。

    フィリア邸・応接間(夜)

    静かな部屋。フィリア家の面々が集まっている。

    アルトリアがバーンズへ報告している。

    アルトリア
    「……以上です。ホゴン・ジャロムは捕縛され、現在は刑務省に移送されました」

    静寂。

    バーンズはゆっくりと目を閉じる。

    バーンズ
    「……そうか……シャルルと……ハンスを殺した毒を作った奴が……」

    バーンズの声がわずかに震える。


    バーンズ
    「……捕らえられたのか……」

    アルトリア
    「はい、父上」

    バーンズは深く息を吐く。

    バーンズ(心の声)
    (……ようやく……)

    部屋の空気が少しだけ和らぐ。
    シャルルの妻が静かに微笑む。

    シャルルの妻
    「……これで……」

    ピーターが母を見る。

    ピーター
    「これで父上も浮かばれますね、母上」

    シャルルの妻
    「ええ……そうね……」

    その目には涙が浮かんでいる。
    リオンも静かに頷く。

    リオン
    「父上のお墓に報告しましょう」

    ハンスの妻
    「ええ……きっと喜んでくれるわ……」

    しばし穏やかな空気。
    その中で――ピエールがふとイルハレムを見る。

    ピエール
    「……なんだイルハレム?少し不満そうだな?」

    イルハレムは腕を組み、少しむくれた顔でいる。

    イルハレム
    「……今回は出番がなかったので」

    アルトリア
    「え?出番ほしかった?」

    イルハレム
    「はい、従兄上」

    イルハレムは真面目な顔になる。

    イルハレム
    「フィリア家にとっても……因縁深い相手でしたから」

    アルトリアは少し驚いたようにイルハレムを見る。

    アルトリア(心の声)
    (……そうか)

    アルトリア
    「……ありがとう、イルハレム」

    イルハレムは少し照れたように視線を逸らす。

    イルハレム
    「い、いえ……」

    アルトリアの表情が再び引き締まる。

    アルトリア
    「……そういえば」

    アルトリアはイルハレムを見る。

    アルトリア
    「旧貴族派の動きはどうだ?」

    部屋の空気が再び変わる。イルハレムも真剣な顔になる。

    イルハレム
    「はい。実は……」

    イルハレムは1枚の報告書を差し出す。

    イルハレム
    「ホゴン捕縛以降――旧貴族派の連中が、急に動き始めています」

    一同
    「……!」

    ピエールの目が鋭くなる。

    ピエール
    「何だと……?」

    イルハレム
    「特にオリオン侯爵とウラド侯爵が頻繁に接触しています」

    アルトリアの目が細まる。

    アルトリア(心の声)
    (……やはり)

    アルトリア
    「ホゴンを失って、向こうも焦り始めたか……」

    バーンズは静かに言う。

    バーンズ
    「……気をつけろ、アルトリア。追い詰められた人間ほど危険なものはない」

    アルトリアは静かに頷く。

    アルトリア
    「はい」

    アルトリア(心の声)
    (……まだ終わっていない。本当の敵は――)

    アルトリアの目が鋭く光る。

    アルトリア(心の声)
    (アントニウス公爵だ)

    第22話 完

     
     
     
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