
天才推理小説家の事件録 第25話「原宿傷害事件」
第25話「原宿傷害事件」
原宿駅前(昼・休日)
人で賑わう原宿駅前。観光客、若者、カメラを構える人々。その中で、少し離れた場所に立つ潤。
宝条 潤(心の声)
(……相変わらず人が多いな。ここで待ち合わせとか、完全にデートじゃないか)
潤、スマホで時間を確認する。
その時——少し離れた場所から、手を大きく振る女性が見える。
神谷 遥香
「潤ーっ!!」
遥香が人混みを縫うように走ってくる。
軽やかに駆け寄り、潤の目の前で止まる。
神谷 遥香
「お待たせ」
宝条 潤
「いや、待ってないよ」
遥香はにっと笑い、その場でくるりと一回転。
ミニスカートにロングブーツ、シンプルだが洗練されたトップス。ナチュラルメイクで、普段の捜査服とは別人のよう。
神谷 遥香
「どう?今日の私」
少し胸を張り、両手を広げてポーズを決める。
宝条 潤
「……似合ってる」
即答に近い。
神谷 遥香
「ふふっ。ありがと」
遥香が嬉しそうに笑う。
宝条 潤
「それが逆にウケる」
遥香は潤の額に軽く、コツンとげんこつ。
宝条 潤
「いって」
神谷 遥香
「ウケるは余計よウケるは」
宝条 潤(心の声)
(完全にいつもの神谷管理官だ……)
遥香が今度は何の前触れもなく潤の手を掴む。
宝条 潤
「っ!?」
神谷 遥香
「ほら、行くわよ」
潤の手を引きながら、振り返っていたずらっぽく微笑む。
宝条 潤
「……」
潤の顔がじわっと赤くなる。
宝条 潤(心の声)
(手、近い……というか、周りからどう見えてるんだこれ)
神谷 遥香
「顔赤いわよ?」
宝条 潤
「うるさい……」
神谷 遥香
「ふふ」
潤の手を離さないまま、そのまま原宿の人混みへと歩き出す。
竹下通り(昼)
休日の原宿は人で埋め尽くされ、看板やBGM、甘い匂いが混ざり合う。潤と遥香は手を繋いだまま歩いている。
宝条 潤(心の声)
(……やっぱり人多いな。でも遥香が楽しそうなの、なんかいい)
2人が歩いていると、派手な看板が目に入る。
「変身!衣装!仮装!被り物!」
と書かれた、原宿らしい店。
神谷 遥香
「ねえ、見て。衣装屋さん」
宝条 潤
「……入るの?」
神谷 遥香
「うん。面白そうじゃない」
遥香が潤の手を引いて、店内へ入る。
店内
衣装がずらり。学園系、アイドル、メイド、警官、忍者、動物、怪獣……
潤が圧倒されて周囲を見回す。
宝条 潤
「すごいな……なんでもある」
神谷 遥香
「ほら、潤。この衣装どう?」
遥香がメイド服のハンガーに手をかけて、冗談っぽく持ち上げる。
宝条 潤
「そういえば遥香、高校時代にメイド喫茶でバイトしてたことあったね」
神谷 遥香
「あの頃の黒歴史を思い出させないで」
そのまま奥へ進んでいくと、視界の端に「被り物コーナー」の文字。
壁一面に動物のマスクが並んでいる。狼、虎、鹿、カエル、鳥、恐竜……。
神谷 遥香
「被り物まである……」
宝条 潤
「……」
潤がふと、あるマスクに目を止める。それは馬のマスク。
潤の口角がわずかに上がる。そして無言で馬のマスクを指さす。
宝条 潤
「遥香、あれ被って」
神谷 遥香
「は!?被らないわよ!!」
遥香が即座に赤くなる。
周りの客がちらっと見る。
宝条 潤
「絶対似合う」
神谷 遥香
「似合うとかの問題じゃない!!」
宝条 潤
「でも遥香、ああいうの被った時……すごい面白いんだよな」
神谷 遥香
「恥ずかしい想い出しかない!!」
潤は楽しそうに笑う。遥香が頬を膨らませて睨む。
神谷 遥香
「……潤、悪い顔してる」
宝条 潤
「褒め言葉?」
神谷 遥香
「違うわ」
遥香は少し迷って、周りを確認してから小さく呟く。そして顔をそらしたまま、悔しそうに言う。
神谷 遥香
「……じゃあ被せて」
宝条 潤
「いいの?」
神谷 遥香
「いいわよ……!その代わり、後で覚悟して」
潤がニヤリとする。
宝条 潤
「店員さんに言ってくる」
潤は店員に近づき、軽く会釈する。
宝条 潤
「すみません、こちら試着できますか?」
店員
「はい、大丈夫ですよ〜!」
潤が馬マスクを手に取り、遥香の元へ戻る。遥香は恥ずかしさで耳まで赤くなりながら、ゆっくり頭を下げる。
宝条 潤
「……いくぞ」
遥香が小さく頷く。
神谷 遥香
「……うん」
潤は抑えきれない笑いを含みながら丁寧に馬マスクを両手で持ち、遥香の頭に——そっと馬マスクを被せる。
神谷 遥香(馬マスク)
「ど……どう……?」
遥香は恥ずかしがりながらもポーズを取る。
宝条 潤
「ハハハハ!めちゃめちゃ似合う!」
神谷 遥香(馬マスク)
「笑わないでよ~!」
遥香が恥ずかしがる。
神谷 遥香(心の声)
(にしても……これ本当にゴム臭い……)
潤は肩を揺らしながら笑いを堪え、スマホを取り出してカメラを起動する。
宝条 潤
「よし……撮る」
スマホを構える潤。
遥香が「ピクッ」と反応し、勢いよくマスクの顔部分を持ち上げて顔を出す。
神谷 遥香
「写真も撮るの!?」
宝条 潤
「だってこういう時の遥香は面白いし」
神谷 遥香
「面白いって何よ!!」
潤は満面の笑みでスマホを構えたまま。
遥香は顔を赤くして、しばし睨みつける。
神谷 遥香(心の声)
(……やるしかないわね)
遥香はふっと息を吐いて、マスクをもう一度しっかりかぶり直す。
宝条 潤
「……お、やる気?」
遥香は突然馬のように胸を張り、両腕を少し曲げて“前脚っぽいポーズ”。
神谷 遥香(馬マスク)
「ヒヒィーーーン!!」
宝条 潤
「ぶっ!!!!!」
潤が吹き出す。
宝条 潤(笑いながら)
「やめろ……!腹痛い……!!」
潤は笑いながら連写。
シャッター音が止まらない。
カシャカシャカシャ!!
神谷 遥香(馬マスク)
「ヒヒィィィーン!!」
遥香は完全にスイッチが入る。次は、突然——モデルのようなキメ顔ポーズ。
片手を腰に当て、もう片方の手で顎を軽く触り、脚を交差。馬マスクのまま。
宝条 潤(笑いながら)
「いやモデルやめろ!!馬のくせに色気出すな!!!」
潤は涙目になりながらスマホで撮影。
遥香はさらに角度を変え、顎を上げて“原宿系トップモデル”のように立つ。
神谷 遥香(馬マスク)
「どう?」
宝条 潤
「黙ってキメるのが一番笑える!!」
宝条 潤(心の声)
(なんでこんな完成度高いんだよ……)
遥香は馬らしく床を蹴るようなステップを踏む。
神谷 遥香(馬マスク)
「ヒヒィィーン!!パカラッ……パカラッ……!」
宝条 潤
「馬になり切りすぎ!!!」
潤の笑いが止まらない。店員も他の客も、チラ見しながら肩を震わせている。
遥香が突然、自分のバッグからスマホを取り出し、潤の前へ差し出す。
神谷 遥香(馬マスク)
「潤……私のスマホでも撮って」
宝条 潤
「え?」
神谷 遥香(馬マスク)
「ほら。こっちのカメラの方が画質いいから」
潤は遥香のスマホを受け取り、カメラを起動。
宝条 潤
「はい、馬さんこっち見て〜」
神谷 遥香(馬マスク)
「ヒヒィィーン♥」
宝条 潤
「可愛く鳴くな!!」
潤は写真だけでなく動画も回す。
宝条 潤
「はい動画ね。動いてください」
遥香は小走りの馬ステップ。
神谷 遥香(馬マスク)
「パカラッ……パカラッ……ヒヒィーーン!!」
宝条 潤
「最高すぎる……!!」
しかし——途中で遥香が突然ピタッと止まり、馬マスクのまま両手をゆっくり頭に当てる。
神谷 遥香(馬マスク)
「…………」
そして、低く震える声で言う。
神谷 遥香(馬マスク)
「私は何をしているのかしら!?」
宝条 潤
「遅いよ気づくの!!」
遥香は恥ずかしさが爆発し、馬マスクの顔部分を両手で押さえ、身を縮める。
神谷 遥香(心の声)
(何なのこれ……!私は警視庁捜査一課管理官なのよ……!!)
潤はまだ笑っている。肩を震わせながらスマホを持っている。
遥香は静かに潤の方を向く。
神谷 遥香(馬マスク)
「…………」
無言。そして、馬マスクのまま首を傾ける。ゆっくり、ゆっくりと潤に近づく。
宝条 潤(笑いながら)
「馬の顔で近寄るな!!」
潤が反射的に——
バシン!
馬マスクの口の部分を叩く。遥香が口の部分を抑え、潤をじっと見つめる。
神谷 遥香(マスクの口を抑えながら)
「痛い……ひどいわ潤……」
宝条 潤(笑いながら)
「馬の顔で痛がるな!!」
神谷 遥香(馬マスク)
「……」
遥香がゆっくりマスクを脱ぎ、乱れた髪を手で整える。その頬は真っ赤。
神谷 遥香
「はぁ……」
遥香は手で顔を仰ぎ、恥ずかしさを必死に冷ます。
宝条 潤
「……いや、最高だった」
神谷 遥香
「……聞いてない」
遥香は視線を逸らしたまま、潤の手を軽く掴む。
神谷 遥香
「……次、行くわよ」
宝条 潤
「はいはい」
2人は再び原宿の喧騒へ戻っていく。
竹下通り
衣装屋のドアが開き、潤と遥香が外へ出る。
原宿の光と喧騒が2人を包む。人混みの熱、甘い匂い、どこか遠くの音楽。
宝条 潤
「いやあ楽しかったな~」
神谷 遥香
「お店の中で恥ずかしかったな……」
遥香が思い出したように頬を赤くする。
神谷 遥香
「……まあ私も正直、楽しかったし」
宝条 潤
「だろ?」
神谷 遥香
「……潤が楽しそうだったから、ついノってしまっただけよ」
宝条 潤
「はいはい」
潤は少し先を歩きながら、嬉しそうに笑って遥香の方を見る。遥香はぷいっと目をそらしつつも、口元が少し緩んでいる。
2人は並んで竹下通りを歩く。人の波を縫うようにゆっくり進む。
宝条 潤(心の声)
(……こういうの、いいな)
その時潤の視線がふと横へ流れる。通りの向こうから、モデルみたいな美女が歩いてくる。
髪、スタイル、服装。完璧に“原宿の映え”を体現したような存在。
宝条 潤(心の声)
(……うわ、すごい美人)
潤は一瞬だけ——ほんの一瞬だけ、目を奪われてしまう。
その瞬間——
神谷 遥香
「…………」
遥香の表情が、すっと無表情に切り替わる。
宝条 潤
「……あ」
気づいた時には遅い。
神谷 遥香(にっこり)
「潤?」
宝条 潤
「いや、違、今のは——」
遥香が潤の頬を掴む。そして——思いっきり引っ張る。
宝条 潤
「いだだだだだだだだ!!!!!」
神谷 遥香
「ふーん?」
宝条 潤
「痛い痛い痛い!!!遥香、ここ外!!!」
神谷 遥香
「外だから何?」
宝条 潤
「みんな見てる!!」
遥香は潤の頬を引っ張ったまま、通り過ぎた美女の方をチラリ。
神谷 遥香
「見てたのはあなたでしょ?」
宝条 潤
「見てない!見てない!!」
神谷 遥香
「ほぉ……」
遥香が指に力を込める。
宝条 潤
「いだだだだだ!!ごめんごめん!!!俺が悪かった!!」
遥香は頬を引っ張ったまま、冷たく囁く。
神谷 遥香
「デート中なんだから、見ていいのは——」
潤の耳元に顔を寄せる。
神谷 遥香(低い声)
「私だけ」
宝条 潤
「怖っ……」
神谷 遥香
「何か言った?」
宝条 潤
「何も言ってません!!!」
遥香はようやく潤の頬を離す。
宝条 潤
「……顔、取れるかと思った……」
神谷 遥香(ふふっ)
「取れないわよ」
宝条 潤(心の声)
(いや、取れる……この人なら取れる……)
2人はまた並んで歩き出す。しかし潤は頬をさすりながら、警戒して横を見る。
遥香は満足そうに微笑んでいる。
KIRAMEKI 店舗前
潤は引っ張られた頬をさすりながら歩いている。
遥香は何事もなかったように、すっと前を向く。
宝条 潤
「……まだジンジンするんだけど」
神谷 遥香
「反省の痛みよ」
宝条 潤
「見るだけでアウトって厳しくないか?」
神谷 遥香
「“見るだけ”の顔じゃなかったもの」
宝条 潤
「そんなに分かる?」
神谷 遥香
「分かるわよ。子供の頃からあなたを見てるんだから」
宝条 潤(心の声)
(それはそれで怖いな……)
通りの少し先——人だかりができている場所に差しかかる。
宝条 潤
「……ん?」
神谷 遥香
「……人、多くない?」
KIRAMEKIのロゴ看板。店の前には簡易ステージとロープ。
警備スタッフが慌ただしく動いている。
宝条 潤
「ここ、さっき話題になってた店だよな」
神谷 遥香
「天城レイナの来店イベント……」
その瞬間……
「きゃあっ!!!」
女の悲鳴が、通りに響く。
宝条 潤
「……!」
遥香の表情が一変する。
一瞬で“オフ”が消え、管理官の顔になる。
人だかりの奥で、スタッフが叫ぶ。
スタッフ
「誰か!レイナさんを医務室に……!!」
宝条 潤
「……レイナ?」
神谷 遥香
「天城レイナ……アンバサダーよ」
遥香はロープの方へ一直線に向かう。
警備員が立ちはだかる。
警備員
「すみません!関係者以外は——」
遥香は迷いなく手帳を出す。
神谷 遥香
「警視庁の神谷です。状況を教えてください」
警備員が一瞬で表情を変える。
警備員
「え、あ、はい……!」
潤もその後ろから覗き込む。
店舗裏・バックヤード入口
人が集まり、ざわついている。
床に座り込む天城レイナ(23)。頭を押さえ、スタッフに支えられている。
スタッフ
「突然、裏で……物音がして……!」
神谷 遥香
「意識は?」
スタッフ
「あります!でも、フラフラして……!」
遥香はしゃがみ込み、レイナの目線に合わせる。
神谷 遥香
「警察です。お名前は言えますか?」
天城 レイナ
「……あま、ぎ……レイナ……」
神谷 遥香
「誰かに殴られましたか?」
天城 レイナ
「……後ろから……急に……」
遥香は一瞬、目を伏せる。
神谷 遥香
「分かりました。すぐに医務室までお願いします。念のために救急車も」
遥香は立ち上がり、周囲を見渡す。
神谷 遥香(低い声)
「潤」
宝条 潤
「……ああ」
神谷 遥香
「事故じゃない。これは明確な傷害」
宝条 潤
「……だな」
潤はバックヤード入口、床、スタッフの動線、人の集まり方を静かに見回す。
宝条 潤(心の声)
(人が多い。騒ぎも早い……でも“犯行そのもの”を見た人はいない)
宝条 潤
「……遥香」
神谷 遥香
「何?」
宝条 潤
「犯人はまだこの中にいる可能性が高い」
遥香が小さく頷く。
神谷 遥香
「ええ」
KIRAMEKI前はロープが張られ、警備員とスタッフが誘導している。
周囲の一般客はスマホを構え、ざわめきながら動画を回している者もいる。遥香はすでに現場を仕切り、スタッフに指示を出している。潤は少し離れた位置で現場全体の流れと人の配置を観察している。
ほどなくして捜査車両が到着し、捜一の面々が現場へ入ってくる。
柴田 元治
「おーい!ハルちゃん!!」
柴田が現場規制線の内側へ入る。その瞬間——柴田の目が遥香に釘付けになる。
ミニスカート、ロングブーツ、ナチュラルメイク。完全にいつもの“捜査一課管理官”ではなく、休日の美女。
柴田が固まる。
柴田 元治
「ハ……ハルちゃんがそんなおしゃれな格好してるなんて……」
神谷 遥香(顔を赤くして)
「別にいいじゃないですかオフの日ぐらい!!」
柴田 元治
「いやあ……びっくりしちゃってさあ……」
柴田は咳払いをして、平静を装う。
柴田 元治
「で?被害者は?」
神谷 遥香
「医務室で治療済みで、今救急車で搬送されました。頭部裂傷と打撲。命に別状はありません」
柴田 元治
「傷害か……原宿でか……」
柴田は潤の方を見る。
柴田 元治
「しかしお2人さん、せっかくのデートだったのに災難だな」
潤は苦笑いしながら頷く。
宝条 潤
「……慣れてます」
神谷 遥香
「慣れないで」
柴田 元治
「はは……まぁ、そうだよな」
柴田は一気に刑事の顔に戻り、手を叩く。
柴田 元治
「よし!関係者から詳しい話を聞くぞ」
田村 水咲
「了解です。被害者の動線と接触者、確認します」
村井 修平(目を輝かせて)
「宝条先生の目の前で事件が……!す、すごい現場ですね……!」
奈良 修平
「いやー、原宿かあ……SNSのトラブルで殺人未遂ってやつですよね?たぶん犯人はストーカーで、被害者は二重人格で——」
柴田がゆっくり奈良の方を向く。
柴田 元治(低い声)
「……奈良」
奈良 修平
「はいっ!」
柴田 元治
「三浦が非番だからってボケ倒すんじゃねぇ」
奈良 修平
「えっ!?ボケてません!!これは推理です!!」
柴田 元治
「どこが推理だ。いいか?今日は関係者が多い。余計なこと言って現場荒らすなよ」
奈良 修平
「はい……(しょんぼり)」
遥香が現場の中心に立ち、手短にまとめる。
神谷 遥香
「容疑者は5名。全員現場関係者です。それぞれ“表向きのアリバイ”があります」
柴田 元治
「よし。まずは全員、確保して話を聞く」
遥香が頷く。
神谷 遥香
「田村さん、列整理係とスタッフのスマホ動画回収を。村井君は現場の記録を確認。奈良君は関係者に余計なこと言わないで聞き込み」
奈良 修平
「余計なこと言いません!!」
柴田 元治
「よし、始めるぞ!」
捜査が本格的に動き出す。
KIRAMEKI 店舗前・簡易規制エリア
ロープ内に関係者が集められる。スマホは一時回収。
周囲は田村と警備員が規制。
遥香は腕を組み、全員を一瞥する。
潤は一歩後ろで静かに観察。
神谷 遥香
「皆さん落ち着いてください。これから順にお話を伺います」
関係者5人が前に立つ。
柴田 元治
「皆さんの名前と立場をもう一度確認します。まずあなたから」
最初の関係者は朝倉ユウ(26)。レイナの彼氏兼マネージャーである。
朝倉 ユウ
「朝倉ユウです。レイナの彼氏で、マネージャーもやってます」
柴田 元治
「事件の時は?」
朝倉 ユウ
「店の前で司会の人と段取りの最終確認してました。ほら、あのステージの横です」
田村 水咲
「その場にいたスタッフ数名が確認しています」
奈良 修平
「恋人同士のトラブルってやつですか?」
神谷 遥香
「奈良君」
奈良 修平
「……すみません」
朝倉は苛立ちを隠さず潤を見る。
朝倉 ユウ
「正直言っていいですか?こんな騒ぎになって一番困ってるの、俺なんですけど」
宝条 潤(心の声)
(感情は強いが、焦りは“事件後”のものだ)
次にレイナのライバルインフルエンサー、桐谷ミサ(24)の証言。
桐谷 ミサ
「桐谷ミサ、インフルエンサーでーす。私は別の店で生配信してましたー。ほら、アーカイブも残ってますし」
スマホ画面を示す。
村井 修平
「すごいフォロワー数……」
神谷 遥香
「配信開始と終了の正確な時刻は?」
桐谷 ミサ
「え?まあ……その時間帯ずっと、ですけど?」
宝条 潤(心の声)
(“ずっと”ね……)
次にKIRAMEKI店長、相馬タクミ(29)。
相馬 タクミ
「KIRAMEKIの店長の相馬タクミです。事件の時はレジ締めと在庫確認を」
田村 水咲
「POSログ、確認取れてます」
相馬 タクミ
「今日は大事なイベントでしたから。トラブル起こす理由がありません」
宝条 潤(心の声)
(数字の人間だ。感情より損得が先に来るタイプ)
次にKIRAMEKIの新人店員、佐久間ヒナ(22)。
佐久間 ヒナ
「佐久間ヒナ……最近KIRAMEKIに入ったばかりの新人です」
声が小さい。
佐久間 ヒナ
「列整理係でした。お客さんの動画にも……映ってると思います」
奈良 修平
「ファンだったとか?」
佐久間 ヒナ
「……はい。でも傷つけるなんて、絶対にしません」
宝条 潤(心の声)
(この子は“近づく”より“守る”側だ)
最期はフリーカメラマンの黒瀬カズマ(31)。
黒瀬 カズマ
「黒瀬カズマ、フリーのカメラマンです。イベント撮影請け負ってました。事件の瞬間も、ずっとカメラ回してましたよ」
黒瀬は自信満々にカメラを指す。
黒瀬 カズマ
「ほら。これ、さっきの時間の映像です」
村井が覗き込む。
村井 修平
「本当だ……ちゃんと撮れてますね」
奈良 修平
「じゃあ黒瀬さんはシロですね!」
柴田 元治
「奈良、早ぇ」
遥香は黙って映像を見る。
潤も横から覗き込む。
宝条 潤(心の声)
(……妙だ)
潤はふと、映像の隅に映る店頭照明を見る。
宝条 潤(心の声)
(光の周期が……さっき見たのと、違う)
潤は何も言わず、一歩下がって全体を見る。
宝条 潤(心の声)
(証拠がある人間ほど、慎重に見るべきだ)
遥香が全員に向き直る。
神谷 遥香
「全員の話は聞きました。これから細かく確認に入ります」
柴田 元治
「田村、裏の動線洗え」
田村 水咲
「はい」
潤は遥香に近づく。
宝条 潤
「遥香」
神谷 遥香
「……何?」
宝条 潤
「黒瀬さんの映像、ちょっと借りられるか?」
神谷 遥香
「気づいた?」
宝条 潤
「まだ“違和感”だけだけど」
遥香は一瞬だけ、デート中の柔らかい顔に戻り、すぐ管理官の表情に切り替える。
神谷 遥香
「……貸してもらうわ」
遥香は黒瀬に向き直る。
神谷 遥香
「黒瀬さん。その映像、詳しく確認させてください」
黒瀬 カズマ
「どうぞどうぞ。撮ってただけですから」
潤はスマホ画面を見つめる。
宝条 潤(心の声)
(SNS、配信、映像……“見えているもの”が一番信用できない時代だ)
潤は遥香から黒瀬のカメラ映像を受け取り、スマホで再生しながら静かに口を開く。
宝条 潤
「……少しいいですか?」
ざわついていた空気が、一瞬で変わる。容疑者たちが息をのむ。
遥香は腕を組み、潤を見つめる。(“さあ、やって”)という無言の合図。
宝条 潤
「まず確認しておきます。これは“偶然の接触事故”ではありません」
相馬 タクミ
「……は?」
宝条 潤
「被害者・天城レイナさんは、後方から不意打ちで強く殴打された。その結果、転倒し頭部裂傷。つまり“狙った傷害”です」
朝倉 ユウ
「……犯人は誰なんだよ?」
朝倉が苛立ちを露わにする。
宝条 潤
「容疑者は5名。全員アリバイを主張しています」
潤は1人ずつ視線を送る。
宝条 潤
「朝倉さんは“ステージで打ち合わせ”。相馬店長は“レジ締め&在庫管理”。佐久間さんは“列整理で動画に映り込み”。桐谷さんは“生配信”。そして黒瀬さんは――」
潤が黒瀬を見る。
宝条 潤
「“事件の瞬間もカメラを回していた”んでしたね?」
黒瀬 カズマ
「そうですよ。俺はずっと撮影してました」
宝条 潤
「……はい。その主張が一見、完璧に見えます」
黒瀬は余裕の笑みを浮かべる。
黒瀬 カズマ
「ほら、映像があるんですから」
宝条 潤
「ええ。映像がある。だからこそ――あなたが犯人です」
黒瀬 カズマ
「……は?」
空気が凍る。
奈良 修平
「ええええ!?黒瀬さんが!?でも撮ってたじゃないですか!!」
柴田 元治
「奈良、黙れ」
潤は淡々と続ける。
宝条 潤
「黒瀬さんの映像は、確かに“事件時刻のように見える”。しかし、それは事件の瞬間に撮影された映像ではありません」
黒瀬 カズマ
「何言ってんだよ?」
宝条 潤
「あなたの映像には、店頭看板の照明が映っています。調べたんですが、KIRAMEKIの外装照明は一定周期で明滅するんです」
潤はスマホの動画を止め、指で示す。
宝条 潤
「ですが今この現場で見える明滅周期と、映像内の周期が違う」
村井 修平
「……えっ?」
田村 水咲
「周期が違う……?」
宝条 潤
「つまり――その映像は“今”の映像じゃない」
黒瀬 カズマ
「……くだらねぇ。照明なんて誤差だろ」
宝条 潤
「誤差では済みません」
潤はさらに畳みかける。
宝条 潤
「加えて、あなたの映像だけ“やけに安定している”。事件直後の現場なら、悲鳴、揺れ、人の移動が入るはずなのに」
潤は黒瀬のカメラを指差す。
宝条 潤
「あなたは事件直前までの映像をループ再生に仕込んでいた。撮影機材の知識があるあなたなら可能です」
黒瀬の頬がひくつく。
黒瀬 カズマ
「……証拠は?」
宝条 潤
「あります」
潤が遥香を見る。
宝条 潤
「遥香。黒瀬さんの“撮影データのファイル番号”、確認できる?」
神谷 遥香
「もう確認済み」
遥香が冷静に言う。
神谷 遥香
「事件時刻の“新規データ”が存在しない。つまり――回していたはずの時間帯、記録がない」
黒瀬 カズマ
「……っ!」
宝条 潤
「カメラを“回しているフリ”をしていた。その間に、あなたはレイナさんの背後へ回り――」
潤が一歩前へ出る。
宝条 潤
「撮影用の三脚、あるいはモノポッドの先端で殴打した」
田村 水咲
「確かに……カメラマンなら不自然に近づいても誰も疑わない」
黒瀬 カズマ
「……違う」
宝条 潤
「違わない」
潤は黒瀬の“手”を見る。
宝条 潤
「あなたはさっきから、ずっと右手をポケットに入れてますよね?」
黒瀬 カズマ
「……?」
宝条 潤
「そこに“滑り止めテープの破片”が付いている。モノポッドのグリップを強く握ると、剥がれて付着する」
村井が息をのむ。
村井 修平
「……!」
宝条 潤
「そして決定的なのは――」
潤が淡々と告げる。
宝条 潤
「被害者の髪に付着していた黒い繊維が、あなたのカメラストラップと一致した。鑑識の方々からの報告です」
黒瀬は歯を食いしばり、突然叫ぶ。
黒瀬 カズマ
「俺だって!必死なんだよ!!」
周囲がざわつく。
黒瀬 カズマ
「インフルエンサーのイベントなんてさぁ!撮れなきゃ次が無いんだよ!でもあの女……!!勝手なことばっか言ってスケジュール壊して、こっちの段取りも全部めちゃくちゃにして!!」
神谷 遥香
「だから殴った?」
遥香の声が冷える。
黒瀬 カズマ
「……ちょっとだけだ!黙らせるつもりだった!!」
宝条 潤
「“ちょっとだけ”で、人は死ぬこともある」
黒瀬は膝から崩れ落ちる。
柴田がゆっくり前に出る。
手錠を取り出す音が、やけに大きく響く。
柴田 元治
「詳しい話は署で聞こう」
柴田が黒瀬の背後に回り、手錠をかける。
カチャリ
遥香は黒瀬を見下ろし、短く告げる。
神谷 遥香
「被害者が助かったのは運が良かっただけ。それを忘れないで」
黒瀬は俯いたまま、抵抗せず連行されていく。
潤はふっと息を吐く。
宝条 潤(心の声)
(デート……だったはずなんだけどな)
遥香が潤の横に立つ。
神谷 遥香(小声)
「……すごかった」
宝条 潤
「仕事だよ」
神谷 遥香(小声)
「それでもよ」
遥香は少しだけ顔を赤くして、潤の袖をつまむ。
神谷 遥香
「……デートの続き、あとで、少しだけ」
宝条 潤
「……うん」
遥香は急に現場から視線を切り替え、柴田へ歩み寄る。
神谷 遥香
「柴田さん」
柴田 元治
「おう、ハルちゃん」
遥香が少しだけ口調を柔らかくして。
神谷 遥香
「ここから先はお願いします。私は……このあと私用があるので」
柴田が一瞬目を丸くし、すぐニヤつく。
柴田 元治
「私用(デート)だな?」
神谷 遥香(顔を赤くして)
「……うるさいです」
柴田 元治
「ははは!任せとけ。捜一は優秀だからな」
遥香は潤の方へ戻り、小さく頷く。
神谷 遥香
「……行こ?」
宝条 潤
「いいのか?」
神谷 遥香
「だって……」
遥香は潤の腕を掴む。
神谷 遥香
「せっかくのデートを事件に奪われたくない」
宝条 潤
「……うん」
潤と遥香は人混みの方へ歩き出す。
原宿駅前・夕方
原宿駅前。人通りは減ったが、まだ明かりは賑やか。
潤と遥香が並んで立つ。
宝条 潤
「……結局、事件あったな」
神谷 遥香
「うん」
宝条 潤
「でも、楽しかった」
神谷 遥香
「……私も」
一拍。
神谷 遥香
「潤」
宝条 潤
「ん?」
遥香は潤の前に立ち、少しだけ顎を上げる。潤が一瞬、理解できず固まる。
宝条 潤
「……遥香?」
遥香は頬を赤くして、でも目は逸らさない。
神谷 遥香
「……今日の分」
宝条 潤
「今日の分?」
神谷 遥香
「事件で止まった分」
遥香は潤の胸元を軽く掴み、引き寄せる。
宝条 潤
「っ……!」
次の瞬間、遥香が背伸びして――潤の頬にキスをする。短く、でも迷いのないキス。
潤は固まったまま、目を見開く。遥香は唇を離し、数秒だけ潤の顔を見つめる。
神谷 遥香(小声)
「……じゃあね」
宝条 潤
「……え、待っ」
遥香はくるりと背を向け、早足で駅の方へ歩き出す。
宝条 潤(心の声)
(……強すぎるだろ)
潤は頬に手を当て、呆然としたまま立ち尽くす。
宝条 潤
「……やられた」
第25話 完