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海の王者オルカ 第3話「命の誕生、最後の別れ」

    第3話「命の誕生、最後の別れ」

    夜の岩礁

    夜。シリウスの住む岩礁の海域。静かな水の中に、星明かりが差し込んでいる。
    シリウスがセアの傍らに寄り添っている。ドルンは少し離れた場所で見守っている。
    セアの体が規則的に揺れている。出産が近い。

    シリウス(低く穏やかに)
    「……息を整えなさい。焦る必要はない」

    セア(苦しそうに、しかし落ち着いて)
    「……わかって、います……」

    ドルンが不安そうに二頭を見ている。

    ドルン(小声で)
    「シリウス様……セア様は大丈夫でしょうか?」

    シリウス(静かに、しかしはっきりと)
    「黙って見守れ。今のセア殿に必要なのは静けさだ」

    ドルンは口を閉じ、祈るように目を細める。

    セアはゆっくりと目を閉じる。心の中で、シャーオンの声が聞こえるように。

    セア(心の声)
    (……シャーオン。見ていてください。あなたの子が、産まれますよ)

    時が経つ。夜が深まり、海がいっそう静まり返る。
    そして──小さな影が、セアの体からゆっくりと離れていく。
    産まれたての子シャチ。まだ体は小さく、泳ぎもおぼつかない。しかし目だけが、不思議なほど力強く輝いている。
    子供は呼吸をするために水面に上がっていく。

    シリウスがゆっくりと近寄り、その小さな体をそっと確かめる。

    シリウス(静かに)
    「……生きている。元気な男の子だ。しっかりした子だ」

    セアは疲れ果てた体で、それでも首を伸ばして我が子を見る。

    セア(微笑んで、囁くように)
    「……あなたは、オルカ」

    子シャチ──オルカは、初めて母の顔を見る。セアの目をじっと見つめる。

    ドルン(感動で声が震えて)
    「……生まれた……。シャーオン様の子が……!」

    しかし、セアの体の揺れが少しずつ弱くなっていく。
    シリウスはそれに気づいている。静かに、しかし胸が痛むように目を伏せる。

    セアはオルカを見つめ続ける。その目が、すべてを語っている。

    セア
    「オルカ……。あなたに伝えたいことが、たくさんあったの……」

    オルカはまだ言葉を知らない。でも母の声を、じっと聞いている。

    セア
    「あなたの父さんは、この海で一番優しくて、一番強い王だった……大きな声で笑って、困っている者がいれば必ず助けて……本当に、不器用なくらい真っ直ぐな人だったわ……」

    セアの目に、涙のような光が滲む。

    セア
    「あなたもきっと、そんな人になる。私にはわかる……だってあなたは──シャーオンの子だから……」

    セアはゆっくりとオルカの額に自分の額をそっと当てる。
    静かな、最後の抱擁。

    セア(囁くように)
    「……ありが……とう……産まれて……きて……くれて……母さんは……あなた……に会えて……よか……った……」

    セアの体から、力が抜けていく。ゆっくりと、静かに。まるで眠りにつくように。
    ──そして、動かなくなる。

    ドルンが嗚咽をこらえるように体を震わせる。

    ドルン(声を詰まらせて)
    「セア様……」

    静寂。海だけが、変わらず揺れている。
    シリウスはセアの体をしばらく見つめ、それからオルカへと目を向ける。

    オルカはまだセアのそばを離れない。母の体にぴったりと寄り添って、じっとしている。

    シリウス(静かに、しかし力強く)
    「……オルカ」

    オルカがシリウスを見上げる。

    シリウス
    「お前の父は海の王だった。お前の母は、命をかけてお前をここまで連れてきた。その重さを、いつかお前が知る時が来る」

    シリウスはゆっくりと身を低くし、オルカと目線を合わせる。

    シリウス
    「私がお前を育てる。それがシャーオン殿とセア殿への、私なりの答えだ。お前の両親の名に恥じない生き物になるまで、この海で共に生きよう」

    オルカはシリウスの目を見る。大きな、深い、海のような目。
    オルカは何も言わない。でもその目に、何かが灯った気がした。

    ドルン(涙をぬぐいながら)
    「……私も、できる限りそばにいます。シャーオン様とセア様に誓って」

    シリウスはドルンを見て、わずかに目を細める。

    シリウス
    「……頼もしいな、小さきイルカよ」

    夜明けと新しい命

    夜が明け始める。水平線の向こうから、光がゆっくりと差し込んでくる。
    岩礁の海域が、朝の光に照らされていく。

    シリウスの背の上に、オルカがちょこんと乗っている。
    小さな体で初めて見る朝の光を受けている。

    シリウス(穏やかに)
    「どうだ?初めて見る朝は」

    オルカは何も言わない。ただ、光の方を向いている。
    その瞳の中に、朝の海が映っている。広くて、果てしなくて──美しい海が。

    ドルンがそっと近づく。

    ドルン(優しく)
    「オルカ。この海が君の家だよ」

    オルカはドルンを見る。それからまた、海を見る。
    小さな尾ひれが、ゆっくりと動く。

    シリウスは空を見上げる。遠い雲の向こうに、何かを見るように。

    シリウス(心の声)
    (……シャーオン。セア。この子は私が必ず、海の王へと導く。2人が命をかけて守ったこの子を──必ず……!)

    朝の光が、オルカの体を包む。
    小さな命が、広い海の中で静かに輝いている。

    第3話 完

     
     
     
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