メインコンテンツへスキップ
見出し画像

天才推理小説家の事件録 第3話「横浜ホテル VIPスイート密室殺人」

    第3話「横浜ホテル VIPスイート密室殺人」

    宝条家 本邸・書斎

    静かな書斎。
    潤は机に向かい、原稿に赤ペンを入れている。

    宝条 潤(心の声)
    (……ここは論理が甘いな。読者に気づかれてしまう)

    ペンを置き、軽く伸びをする潤。

    黒田
    「坊ちゃま、失礼いたします」

    宝条 潤
    「どうぞ」

    黒田が一礼し、上品な封筒を差し出す。それは招待状。

    黒田
    「横浜の『UGAKI HOTEL』より、正式な招待状が届いております」

    宝条 潤
    「UGAKI HOTEL……?」

    潤が封筒を開き、目を通す。少し目を輝かせる。

    宝条 潤
    「なるほど。開業70周年記念パーティーか。宝条グループとしての招待、というわけだね」

    黒田
    「はい。各界の要人が集まるとのことです」

    そこへ叔父・充が入ってくる。

    宝条 充
    「お、横浜か。いいじゃないか潤」

    宝条 潤
    「叔父さん、いつからそこに?」

    宝条 充
    「今だ。UGAKI HOTELといえば、神奈川県じゃ顔役だぞ」

    充、ニヤリ。

    宝条 充
    「総帥としての仕事も、ちゃんとこなしてるじゃないか。推理作家が表に出すぎると、世間は忘れがちだからな」

    宝条 潤
    「分かってるよ。宝条の名を預かっている以上、欠席するわけにはいかない」

    潤、招待状を見つめて言う。

    宝条 潤
    「……それに」

    宝条 充
    「それに?」

    潤、少し楽しそうな様子。

    宝条 潤
    「UGAKI HOTELって、前から評判が良かっただろ。料理も、サービスも一流だって」

    黒田
    「坊ちゃまは、そういう場もお好きですからね」

    宝条 潤
    「はは、否定はしない」

    潤、立ち上がる。

    宝条 潤
    「せっかくだ。久しぶりに“事件のない夜”を楽しむとしよう」

    充、意味深に言う。

    宝条 充
    「……本当に事件がなければいいがな」

    宝条 潤
    「縁起でもないこと言わないでよ、叔父さん」

    潤、微笑みながら言う。

    宝条 潤
    「ただのパーティーだ。
     今回は“招かれた客”として、純粋に楽しみにしてる」

    黒田が深く一礼する。

    黒田
    「では、当日のご準備を進めておきます」

    宝条 潤
    「頼むよ」

    宝条 潤(心の声)
    (横浜の夜、か……たまには、何も考えずに楽しむのも悪くない)

    数日後 警視庁 捜査一課・執務室

    忙しなくキーボード音、紙のめくれる音。
    遥香はデスクで報告書に赤ペンを入れている。

    遥香の前には、冷や汗をかきながら立つ奈良。
    遥香、奈良の報告書を添削。

    神谷 遥香
    「奈良君」

    奈良 修平
    「はいっ!」

    神谷 遥香
    「……“犯行時刻は午後25時”。あなたは新しい時空を発見したの?」

    奈良 修平
    「す、すみません!!」

    遥香はため息をつき、淡々と指摘を続ける。

    神谷 遥香
    「あと、この部分。“被害者は生存していた可能性が高い”。その次の行で“死亡していた”って書いてあるけど」

    奈良 修平
    「えっ……あ、ほんとだ……」

    遥香、冷静に追い込む。

    神谷 遥香
    「大丈夫?寝てる?」

    奈良 修平
    「寝てません!たぶん!」

    神谷 遥香
    「“たぶん”はいらない。刑事の報告書に曖昧語は禁止」

    奈良が涙目でうなずく。
    隣の席の三浦が小声で奈良に言う。

    三浦 忍
    「お前……またやったな……」

    奈良 修平
    「ごめん……」

    柴田、事件を思い出して感心する。
    少し離れたところで柴田がコーヒー片手に遥香に話しかける。

    柴田 元治
    「そういやこの前の事件さ」

    遥香が顔を上げる。

    柴田 元治
    「宝条先生の推理。あれは何回思い出しても見事だったな」

    柴田はしみじみ言う。

    柴田 元治
    「俺ぁ鳥肌立ったよ。“その視点かよ”って」

    遥香、思わず微笑む
    遥香は少しだけ口元を緩める。

    神谷 遥香
    「……ええ。私も」

    柴田 元治
    「誇らしそうだな、ハルちゃん」

    神谷 遥香
    「別に。誇らしくなんか…」

    と言いながら、明らかに機嫌が良い。
    そこへ松岡が手を挙げるように言う。

    松岡 遼
    「あ、管理官」

    遥香が視線を向ける。

    神谷 遥香
    「何?松岡君」

    松岡 遼
    「実は先ほど、宝条家の屋敷の近くを通りかかったので」

    神谷 遥香
    「……通りかかった?」

    周囲の刑事たちが松岡を見る。

    松岡 遼
    「お礼を言いに行こうと思ったのですが、今日はお屋敷にいないと聞きまして」

    遥香の眉がピクリと動く。

    神谷 遥香
    「……いない?」

    松岡 遼
    「はい。どうやら」

    松岡は少し誇らしげに言う。

    松岡 遼
    「横浜の《UGAKI HOTEL》で開催されるパーティーに
    招待されたそうです」

    遥香の表情がほんの一瞬だけ固まる。
    その一瞬を、柴田・瀬尾・三浦が見逃さない。

    遥香はすぐに口角を上げ、完璧な笑顔を作る。

    神谷 遥香
    「……へえ。楽しそうね」

    神谷 遥香(心の声)
    (よりによって……潤が……あいつの実家のホテルに……)

    遥香の背後に、黒いオーラが漂う演出。

    瀬尾 隆(小声で柴田に)
    「今、空気冷えましたよね」

    柴田 元治(小声)
    「……冷えたな」

    三浦 忍(小声)
    「あれ、管理官…笑ってませんでした?」

    奈良 修平(小声)
    「笑ってたと思う…たぶん…」

    遥香がゆっくり視線を巡らせる。

    神谷 遥香
    「……何か?」

    全員、背筋が伸びる。

    全員
    「いえっ!!」

    遥香が報告書へ目を落とす。

    神谷 遥香
    「奈良君。続き」

    奈良 修平
    「ひぃっ、はい!!」

    遥香が赤ペンを強く走らせる。
    報告書の文字が赤ペンで真っ赤になっていく。

    横浜 夜/UGAKI HOTEL 最上階スイート

    時間:20:00頃

    窓の外には、横浜の夜景。
    みなとみらいの高層ビル群、観覧車の光、港の明かりが宝石のように瞬く。

    スイートの室内は落ち着いた照明。
    高級感あるソファとテーブル。
    控えめに香るアロマ。

    潤はグラスの水を片手に、窓際に立って街並みを眺めている。

    宝条 潤(心の声)
    (……横浜の夜景か。東京とは違う、“余裕”みたいなものがある)

    ふっと息をつき、肩の力を抜く潤。

    宝条 潤
    「宝条グループ総帥としての仕事。推理作家としての仕事……たまには、こういう夜があってもいい」

    ???
    「……宝条潤先生、ですよね」

    潤がゆっくり振り返る。

    スーツ姿の男。
    余裕のある笑み、鋭い目。
    “成功者”の香りと、“裏”の気配が同居している。

    桐生 丈
    「初めまして。投資ファンド代表、桐生丈と申します」

    桐生は丁寧に会釈するが、目だけは値踏みするように潤を見ている。

    潤は穏やかな笑みで返す。

    宝条 潤
    「初めまして。宝条潤です。……先生と呼ばれると、どうも慣れませんね」

    桐生 丈
    「謙遜なさる。あなたは“名家の当主”でもいらっしゃる」

    桐生はさらりと言う。

    桐生 丈
    「宝条グループ総帥。そのお名前の方が、むしろ響きますよ」

    宝条 潤
    「仕事をしているだけです。肩書きは、周りが勝手につけるものですから」

    桐生は少し笑い、潤に一歩近づく。

    桐生 丈
    「……ふふ。噂通りだ。頭が切れるだけじゃない。言葉選びも上手い」

    潤は笑顔のまま、桐生を観察する。

    宝条 潤(心の声)
    (……妙だ。この人の笑顔は“社交”じゃない。何かを探っている目だ)

    桐生 丈
    「今日はあなたと話せるのを楽しみにしていました」

    宝条 潤
    「僕と?」

    桐生 丈
    「ええ。あなたは“推理作家”としても一流ですが――」

    桐生はゆっくり言葉を切る。

    桐生 丈
    「宝条家の当主として、非常に面白い存在だ」

    宝条 潤
    「それはどうも。でも僕は、今日はただの“招待客”ですよ」

    桐生の目が一瞬だけ鋭くなる。

    桐生 丈
    「……なるほど。招待客、ですか」

    窓の外を見ると、遠くで花火のように光が瞬く。
    横浜の夜は美しい。

    だがスイートの空気は、少しだけ張り詰める。

    宝条 潤(心の声)
    (……この男。笑っているのに、どこか危険な匂いがする)

    桐生が軽くグラスを掲げる。

    桐生 丈
    「今夜は、良い夜になりそうだ」

    潤も微笑んでグラスを持ち上げる。

    宝条 潤
    「ええ。……きっと」

    時間:21:00頃

    バンケット会場

    天井の高い豪華な会場。
    横浜の夜景を一望できる大窓。
    シャンデリアが上品に輝き、グラスが微かに触れ合う音が心地よく響く。

    潤は招待客たちに囲まれ、穏やかな笑みで会話をしている。
    手元には料理、グラス。

    招待客A
    「宝条先生、あの新作、拝読しましたよ。まさかあんな結末とは……!」

    宝条 潤
    「ありがとうございます。でも、結末は最初から決めて書く派なんです。……いわば、真犯人を先に決めるタイプですね」

    招待客たちが笑う。

    招待客B
    「さすが推理作家……(笑)」

    宝条 潤(心の声)
    (こういう場は嫌いじゃない。宝条グループの総帥としても、顔を売っておく必要があるし……)

    潤はグラスを口に運ぶ。
    潤がふと胸元を押さえる。

    宝条 潤(心の声)
    (……少し、飲みすぎたかな)

    宝条 潤
    「すみません。少し席を外します」

    招待客A
    「もちろん、どうぞどうぞ」

    潤は軽く会釈し、人混みを抜ける。

    シーン:UGAKI HOTEL 廊下(トイレ付近)

    時間:21:20頃

    廊下

    高級ホテル特有の静けさ。
    絨毯が音を吸い込み、足音がほとんどしない。

    潤がトイレから出てくる。
    ネクタイを整え、息をつく。

    宝条 潤
    「……やっぱり、こういう場は緊張するな。
    推理なら得意でも、“社交”は別だ」

    潤は小さく笑い、バンケットへ戻ろうと歩き出す。

    その瞬間、遠くから響く――

    女性の悲鳴
    「きゃあああああっ!!」

    潤の表情が一変する。
    視線が鋭くなる。

    宝条 潤
    「……っ!」

    潤は悲鳴の方向へ駆け出す。

    UGAKI HOTEL 廊下(奥の一角)
    時間:直後

    廊下の角。
    人だかりができ、ホテルスタッフが慌てている。

    スタッフ
    「お客様、下がってください!」

    招待客たち
    「なにがあったんだ…?」
    「事件…?」
    「うそでしょ…」

    潤は人混みをかき分け、前へ出る。

    潤が視線を落とす――

    廊下の床に倒れている男。
    スーツ姿。
    顔色は悪く、動かない。

    宝条 潤(心の声)
    (……倒れているのは……)

    潤の目が見開かれる。

    桐生丈の死体
    倒れているのは、先ほど挨拶を交わした男。
    桐生丈(45)

    潤が絞り出すように言う。

    宝条 潤
    「……桐生さん……?」

    潤は一歩近づこうとするが、スタッフに止められる。

    スタッフ
    「お客様!危険です!」

    潤の脳内で、瞬時に“推理”が走り始める。

    宝条 潤(心の声)
    (……事故じゃない。この倒れ方、この空気……)

    潤の目が鋭く細まる。

    宝条 潤(心の声)
    (――“事件”だ)

    廊下の一角。
    倒れている桐生丈を中心に、人だかり。
    ホテルスタッフが必死に制止している。

    スタッフ
    「お客様は下がってください!ただいま対応中です!」

    招待客
    「なにがあった…?」
    「倒れてる…死んでるの…?」

    廊下の奥から足音――だが早い。
    現場を割って入るように現れたのは、制服ではなくスーツ姿の刑事たち。

    先頭に立つ男が低い声で響かせる。

    斎藤 恵一
    「神奈川県警の斉藤です。現場は我々が検証します。」

    その声だけで、現場の空気が締まる。
    斎藤は倒れている桐生を一瞥し、即座に指示を飛ばす。

    斎藤 恵一
    「相模、現場規制!スタッフと協力して一般客を距離取らせろ!」

    相模 直人
    「はい!」

    斎藤 恵一
    「小野寺、出入り口とエレベータの導線を確保!関係者以外を通すな!」

    小野寺 恒一郎
    「了解です」

    斎藤 恵一
    「今井――」

    斎藤が言いかけた瞬間、先に立っていた女性が軽く手を上げる。

    今井 もえ
    「もうここにいまーす」

    斎藤 恵一
    「……今井。お前また、バイクで飛ばしてきたのか」

    今井 もえ(悪びれず)
    「え?最短ルートなんで」

    斎藤 恵一
    「お前の最短ルートは交通法規を無視するんだよ」

    今井 もえ
    「ちゃんと見てますよ!信号!」

    斎藤 恵一
    「信号“だけ”な」

    もえはケロッとしている。

    相模が規制線を張りながら、ニヤッとして言う。

    相模 直人
    「でも斎藤さん、もえちゃんが一番早いんですよね〜。この人いないと、現場が始まらないっす」

    今井 もえ
    「でしょ?」

    そこへ小野寺が冷静に口を挟む。

    小野寺 恒一郎
    「“早い”のと“適法”は別だ。事故を起こして遅れたら本末転倒だろ」

    相模が「うっ」と詰まる。

    相模 直人
    「……いや、そうなんすけど、今は空気が」

    小野寺 恒一郎
    「空気より規則」

    相模 直人(小声)
    「この人、毎回そうなんだよ…」

    今井 もえ(小声)
    「分かります…」

    少し離れた位置で、潤が静かに一連を見つめている。
    推理モードの鋭い目。

    宝条 潤(小声)
    「……神奈川県警の刑事さんたちも、個性派ぞろいだな」

    潤は小さくため息混じりに笑う。
    斎藤は即座に切り替え、現場の中心へ歩み寄る。

    斎藤 恵一
    「……よし。
    救急要請は?」

    今井 もえ
    「手配済みです。
    あと、監視カメラの管理室にも連絡入れてます」

    斎藤は小さく頷く。

    斎藤 恵一
    「よくやった」

    斎藤、全員に告げる。

    斎藤 恵一
    「――これは事故じゃない可能性が高い。全員、気を引き締めろ」

    空気がピンと張り詰める。
    潤が静かに桐生の方へ視線を落とす。

    宝条 潤(心の声)
    (……始まったな)

    規制線が張られ、招待客たちが遠ざけられている。
    床には倒れた桐生丈。スタッフは青ざめ、ざわめきが止まらない。

    そこへ――

    コツ、コツ――
    冷静で迷いのない足音。

    現場の空気が一段引き締まる。

    宇垣綾、到着。
    人混みを割って、ひときわ目を引く女性が現れる。

    黒のスーツ。凛とした立ち姿。
    整った顔立ちに、上品な気配。
    視線だけで場を制圧するような存在感。

    斎藤が即座に姿勢を正す。

    斎藤 恵一
    「管理官!」

    全員が敬礼・一礼。

    小野寺 恒一郎
    「お疲れ様です」

    相模 直人
    「お疲れ様です!」

    今井 もえ
    「管理官、お疲れ様でーす!」

    綾は短く頷き、落ち着いた声で答える。

    宇垣 綾
    「お疲れさま。現場状況は?」

    斎藤 恵一
    「被害者は桐生丈さん、45歳。倒れていたのを招待客が発見。現在、現場規制中です」

    綾は倒れている桐生を一瞥する。
    表情は微動だにしない。

    潤は少し離れた位置から、綾を見つめる。

    宝条 潤(心の声)
    (……あれが神奈川県警の管理官か……美人だな)

    相模が勇気を出したように口を開く。

    相模 直人
    「あの……管理官。どうして現場に?指揮だけなら本部でも…」

    綾は視線を相模へ向け、淡々と告げる。

    宇垣 綾
    「ここは私の実家が経営しているホテルよ」

    相模が目を見開く。

    相模 直人
    「……えっ」

    綾は一切の迷いなく続ける。

    宇垣 綾
    「自分の家で起きた事件に、出てこないわけにはいかないでしょう」

    今井 もえ
    「あっ……そういえば…!」

    斎藤 恵一
    「……確かに」

    相模 直人
    「そうだった……!」

    現場の刑事たちが一斉に納得の顔。
    潤は驚きながらも、ふと気づく。

    宝条 潤(心の声)
    (……実家がこのホテル?本物のお嬢様か)

    さらに。

    宝条 潤(心の声)
    (……そういえば、“宇垣”って名字、ホテルのと同じだな)

    潤は軽く首を傾げる。
    綾はスタッフへ視線を向ける。

    宇垣 綾
    「支配人をここへ」

    スタッフが慌てて駆け出す。

    すぐに支配人が駆けつける。
    額に汗を浮かべた支配人が深々と頭を下げる。

    支配人
    「綾お嬢様!」

    潤が内心で突っ込む。

    宝条 潤(心の声)
    (……お嬢様って呼んだぞ。本当にここのお嬢様なのか……)

    綾は支配人をまっすぐ見据える。

    宇垣 綾
    「今すぐ、ホテル内の動線を封鎖して」

    支配人の喉が鳴る。

    支配人
    「え、封鎖ですか!?」

    綾の声は静かだが、逆らえない威圧がある。

    宇垣綾
    「招待客は“絶対に”外へ出さない。このホテルから証拠も人も逃がさない」

    支配人
    「し、しかし……お客様が……」

    綾は一歩も引かない。

    宇垣 綾
    「今このホテルで最優先すべきは“信用”よ。外へ出して、噂が広がったら終わり」

    支配人がゴクリと唾を飲む。

    支配人
    「……承知しました!」

    潤が綾を見つめながら思う。

    宝条 潤(心の声)
    (美人で、いいところのお嬢様。しかも、若くして神奈川県警の警視……何より、あの陣頭指揮)

    潤の目が細くなる。

    宝条 潤(心の声)
    (遥香と似ているな……)

    テーブルの上には事件資料、平面図、招待客リスト。
    刑事たちの表情は硬い。

    斎藤 恵一
    「……容疑者は三人に絞れました」

    ホワイトボードに名前が並ぶ。

    • 三浦真也

    • 桐生美和

    • 佐久間亮

    斎藤 恵一
    「ただ事情聴取の結果ですが――全員、アリバイがあります」

    小野寺 恒一郎
    「三浦さんはパーティー会場で複数の招待客と会話。美和さんは外出先の防犯カメラで確認済み。佐久間さんはフロントで勤務中……」

    小野寺は資料をめくる。

    小野寺 恒一郎
    「どれも崩せません」

    相模 直人
    「……全員、白に見えますね」

    今井 もえ
    「でも、誰かがやってるのは間違いないですよね」

    重苦しい沈黙。
    綾は招待客リストに目を落とし、指を止める。

    宇垣 綾
    「……そういえば」

    刑事たちが顔を上げる。

    宇垣 綾
    「今夜の招待客の中に、宝条潤先生がいたはず」

    相模 直人
    「宝条……?」

    今井 もえ
    「あっ、もしかして……」

    斎藤 恵一
    「……あの、推理小説作家の?」

    一斉に綾を見る。

    小野寺が一歩前に出る。

    小野寺 恒一郎
    「しかし管理官。民間の方に捜査協力を求めるのは……」

    綾は静かに、だが迷いなく言う。

    宇垣 綾
    「警視庁にいる“あの子”は、難事件のたびに先生に手を貸してもらっています」

    刑事たちが察する。

    斎藤 恵一
    「……神谷管理官、ですね」

    宇垣 綾
    「はい」

    綾ははっきり言い切る。

    宇垣 綾
    「実績は十分。この状況なら、頼る価値はある」

    綾は立ち上がり、ラウンジの外で待機している招待客たちへ向かって声をかける。

    宇垣 綾(警察手帳を見せながら)
    「神奈川県警の宇垣です。皆さまの中に、宝条潤先生はいらっしゃいますか」

    一瞬の静寂。
    潤が小さく息を吸い、心の中でつぶやく。

    宝条 潤(心の声)
    (……出番、か)

    潤は静かに手を挙げ、一歩前へ出る。

    宝条 潤
    「……はい。宝条潤です」

    綾は潤へ歩み寄り、丁寧に一礼する。

    宇垣 綾
    「初めまして。神奈川県警捜査一課管理官の、宇垣綾です。お噂は、かねがね」

    潤は少し驚きながらも礼を返す。

    宝条 潤
    「こちらこそ……」

    宇垣 綾
    「神谷遥香の幼馴染だとも、聞いています」

    宝条 潤
    「……え?」

    綾は続ける。

    宇垣 綾
    「私と彼女は、同じキャリア組で警察大学校時代の同期です」

    潤の目が見開かれる。

    宝条 潤
    「……同期?」

    宝条 潤(心の声)
    (遥香の同期……しかも、この若さで警視……そして何より同じお嬢様……)

    潤は改めて綾を見る。

    宇垣 綾
    「宝条先生。この事件――行き詰まっています」

    綾の目が真っ直ぐ潤を射抜く。

    宇垣 綾
    「あなたの力を、借りたい」

    UGAKI HOTEL 最上階 廊下(事件現場前)

    規制線の前。
    ホテルスタッフが青ざめ、遠巻きにしている。
    赤色灯の反射が廊下を淡く照らす。

    綾が潤を連れて現場へ近づく。

    宇垣 綾
    「宝条先生。こちらです」

    宝条 潤
    「……はい」

    潤の表情は穏やかだが、目だけが鋭い。
    “推理作家”ではなく、“観察者”の目。

    規制線の内側へ
    綾が手帳を見せ、スタッフに一言。

    宇垣 綾
    「通して」

    スタッフが慌てて道を開ける。

    現場内で待機していた刑事たちが潤を見て、姿勢を正す。

    斎藤 恵一
    「警部の斉藤恵一です。宝条先生。本日はご協力ありがとうございます」

    小野寺 恒一郎
    「警部補の小野寺恒一郎です。ご迷惑をおかけします」

    相模 直人
    「巡査部長の相模直人です!…えっと、先生、テレビで見ました!本物だ…」

    今井 もえ
    「同じく巡査部長の今井もえです!よろしくお願いします!ほんと助かります!」

    潤は軽く会釈する。

    宝条 潤
    「いえ。こちらこそ」

    潤は倒れている桐生丈の遺体を遠目に見ながら言う。

    宝条 潤
    「……容疑者は、三人に絞られていると聞きました」

    綾が頷く。

    宇垣 綾
    「はい。三浦真也さん、桐生美和さん、佐久間亮さんです」

    宝条 潤
    「その三人が、“現時点で最も可能性が高い”ということですね」

    斎藤 恵一
    「はい」

    潤は続けて核心を突く。

    宝条 潤
    「……その三人が容疑者なら、誰かが“現場に来られない理由”があるはずだ」

    相模 直人
    「えっと……全員アリバイあるんです」

    斎藤が簡潔に説明する。

    斎藤 恵一
    「三浦さんはパーティー会場。複数名の証言。美和さんは外出中でカメラで確認済み。佐久間さんはフロント勤務で監視カメラもあります」

    宝条 潤
    「……なるほど」

    潤は現場に視線を走らせる。
    床。壁。照明。人だかりの位置。
    そして遺体の姿勢。

    潤は一切喋らない。
    その沈黙が、逆に現場の緊張を増す。

    潤が数歩進み、屈んで桐生の状態を観察する。
    触れはしない。目だけで判断していく。

    宝条 潤(心の声)
    (争った形跡……ない。転倒にしては倒れ方が整いすぎている)

    小野寺 恒一郎
    「外傷は少ないです。ただし、被害者は倒れる直前に“悲鳴”が上がっています」

    宝条 潤
    「悲鳴は“驚き”ですか、“恐怖”ですか」

    斎藤 恵一
    「驚きに近いです。倒れているのを見つけた招待客が叫びました」

    宝条 潤
    「つまり、桐生さんは倒れる瞬間を見られていない。“倒れた後”に発見された」

    全員が黙り込む。

    潤は、床に倒れた桐生の向きと、
    バンケットから続く廊下の導線を見比べる。

    さらに、桐生の手元・口元・顔色へ視線を落とす。

    宝条 潤(心の声)
    (……死体は“破綻”していない。絞殺でも刺殺でもない)

    潤がゆっくり立ち上がる。
    そして静かに断言する。

    宝条 潤
    「これは――“その場で殺された”事件ではありません」

    刑事たちが息を呑む。

    相模 直人
    「えっ……?」

    宝条 潤
    「犯人は、犯行時刻にここにいる必要がない」

    潤の目が鋭く細まる。

    宝条 潤
    「――“毒殺”です」

    今井 もえ
    「毒…?」

    斎藤 恵一
    「……なるほど」

    小野寺 恒一郎
    「毒殺……なら、アリバイが成立する」

    綾が潤を見つめる。

    宇垣 綾
    「宝条先生。毒殺だと断言できる根拠は?」

    潤は淡々と答える。

    宝条 潤
    「証言、現場、遺体――三つが同じ方向を指しています」

    宝条 潤(冷静に)
    「争いがない。凶器がない。遺体の倒れ方が“急死”のそれ。そして、誰も倒れる瞬間を見ていない」

    潤は廊下を見渡す。

    宝条 潤
    「ここは“舞台”です。殺害が行われたのは、もっと前――別の場所でしょう」

    綾が小さく息を吐く。

    宇垣 綾
    「……面白い」

    宝条 潤(心の声)
    (さて……“毒を仕込める人物”は誰だ?)

    潤の視線が、容疑者リストへ向かう。
    「毒殺」という言葉が落ちた瞬間、現場の空気が一段重くなる。

    相模 直人
    「ど、毒って……ホテルで…?」

    今井 もえ
    「え、じゃあ…桐生さん、何か飲んだ…?」

    斎藤 恵一
    「……落ち着け。まだ決まったわけじゃない」

    潤は落ち着いた声で言う。

    宝条 潤
    「可能性が高い、というだけです。ただ――この現場は“殺害現場”じゃありません」

    小野寺 恒一郎
    「つまり…倒れた場所と、毒を盛られた場所が違う?」

    宝条 潤
    「ええ。もっと正確に言えば――」

    潤は廊下の先を指す。

    宝条 潤
    「“倒れた場所”と“死んだ場所”すら一致しない可能性があります」

    綾が一歩前に出る。

    宇垣 綾
    「先生。毒を盛るとしたら、いつ?どこで?」

    潤は迷いなく答える。

    宝条 潤
    「桐生さんの行動を時系列で整理しましょう」

    斎藤が手帳を開き、簡潔に報告する。

    斎藤 恵一
    「被害者、桐生丈さんはパーティー会場に来る前、最上階スイートに滞在。その後会場へ。食事、会話。途中で廊下に出て倒れました」

    潤は頷く。

    宝条 潤
    「毒を仕込むタイミングは、パーティーの最中とは限りません」

    潤の視線が現場から、ホテルの上階を“見上げるように”動く。

    宝条 潤
    「むしろ――桐生さんは事件の前、最上階スイートにいた」

    今井 もえ
    「……つまり、スイートで何か盛られた?」

    潤は静かに肯定する。

    宝条 潤
    「ええ。スイートなら、飲み物も薬も置かれている。“日常に紛れた毒”が成立します」

    宇垣 綾
    「……日常に紛れた毒」

    潤は続ける。

    宝条 潤
    「たとえば、薬。サプリメント。あるいはグラスの酒――氷やミネラルウォーターでもいい」

    斎藤、はっとする

    斎藤 恵一
    「……毒物検査を急がせます」

    宇垣 綾
    「今すぐ。支配人に伝えて」

    今井 もえ
    「私、行きます!」

    今井が即座に走り出す。

    小野寺 恒一郎
    「しかし先生。毒を仕込むとしても――容疑者は三人です」

    潤が頷く。

    宝条 潤
    「だからこそ、次は“仕込める人物”を考えましょう」

    潤は淡々と確認する。

    宝条 潤
    「三浦真也さんは元ビジネスパートナー。彼は桐生さんのスイートに入れますか?」

    斎藤 恵一
    「……いいえ。VIPスイートは出入り制限が厳しく、被害者本人の許可がないと入れません」

    潤は次。

    宝条 潤
    「桐生美和さんは被害者の妻。彼女は入れますね」

    斎藤 恵一
    「ええ」

    潤は最後。

    宝条 潤
    「佐久間亮さんはコンシェルジュ。出入り管理担当」

    刑事たちの空気が少し変わる。

    相模 直人
    「……コンシェルジュって、客の部屋に入れるんすか?」

    小野寺が即答。

    小野寺 恒一郎
    「“入れる”。鍵の手配、スタッフ動線、記録の管理――権限を持つ者がいる」

    潤は静かに言い切る。

    宝条 潤
    「つまり“毒を盛れる可能性が高い”のは……」

    潤の視線が、綾へ向く。

    宝条 潤
    「被害者の妻――美和さん。そして、コンシェルジュ――佐久間さんです」

    宇垣 綾
    「……的確ね」

    小野寺が食い下がる。

    小野寺 恒一郎
    「ですが美和さんは“外出中”です。毒殺ならアリバイが成立しますが…動機が弱い」

    潤は冷静。

    宝条 潤
    「ええ。彼女が桐生さんを殺すとしたら“利益”はなんです?」

    斎藤が答える。

    斎藤 恵一
    「……遺産」

    潤は首を振る。

    宝条 潤
    「でも桐生さんは表の顔と裏の顔があります。裏の敵が多い。――美和さんが一番困るのは、彼が死ぬことじゃありません」

    相模 直人
    「え?」

    宝条 潤
    「“裏が暴かれること”です」

    綾の目が鋭くなる。

    宇垣 綾
    「……確かに。妻なら、芋づる式に疑われる」

    潤が頷く。

    宝条 潤
    「だから美和さんは、犯行に最も近く見えて“実行犯”としては薄い」

    潤の視線が廊下の先――
    フロント方向へ向く。

    宝条 潤
    「一方で佐久間さんは――」

    潤は淡々と続ける。

    宝条 潤
    「桐生さんと親密。出入り管理者。そして、アリバイが完璧すぎる」

    相模 直人
    「完璧すぎる…?」

    潤は言う。

    宝条 潤
    「こういう事件で“完璧”は危険です。作られた完璧である可能性が高い」

    綾が斎藤を見て指示を出す。

    宇垣 綾
    「斎藤警部。佐久間さんを呼んでください。任意で事情聴取を再開します」

    斎藤 恵一
    「了解です」

    小野寺 恒一郎
    「客室の出入りログと、カードキーの履歴。すべて照合します」

    潤は一連を見ながら内心で思う。

    宝条 潤(心の声)
    (……速い。“現場指揮”が遥香と同じ匂いがする)

    潤は小さく息を吐く。
    綾がふっと微笑む。

    宇垣 綾
    「先生。あなた、噂通りの推理力ね」

    潤は少しだけ苦笑。

    宝条 潤
    「……褒め言葉として受け取っておきます」

    ラウンジの一角に簡易の机と椅子。
    周辺はカーテンで仕切られている。

    佐久間亮が座っている。
    スーツ姿で背筋は伸び、顔色も落ち着いている。
    むしろ“慣れている”空気。

    向かい側に綾、斎藤、小野寺。
    潤は少し後ろで静かに観察。

    聴取開始

    斎藤 恵一
    「佐久間亮さん。事件当夜の動きについて、もう一度確認します」

    佐久間 亮
    「はい。私はフロント業務でした。監視カメラにも映っているはずです」

    相模が潤の方を見てひそひそ。

    相模 直人(小声)
    「ほら、やっぱ完璧ですよ…」

    潤は何も言わず、目だけで佐久間を見る。
    綾が机に資料を置く。

    宇垣 綾
    「佐久間さん。桐生丈さんの“最上階スイート”の管理を担当していたわね」

    佐久間 亮
    「はい。VIPのお客様ですので」

    綾は淡々と続ける。

    宇垣 綾
    「桐生さんの部屋に“最後に入ったスタッフ”は誰?」

    佐久間はすぐに答える。

    佐久間 亮
    「清掃スタッフです。ただし、私が最終チェックとして確認しました」

    小野寺が鋭く挟む。

    小野寺 恒一郎
    「最終チェックで、あなたは室内に入りましたね?」

    佐久間 亮
    「はい。ですが、サービスの一環です」

    斎藤 恵一
    「桐生さんは、薬を常用していた。あなたはそれを知っていましたか?」

    佐久間の表情が一瞬だけ止まる。
    だがすぐに笑う。

    佐久間 亮
    「ええ。体調管理のためだと思います。VIPのお客様は、よくあることですから」

    潤が一歩だけ前へ。

    宝条 潤
    「佐久間さん」

    佐久間が潤を見る。

    佐久間 亮
    「宝条先生…ですよね。まさか事件に関わられるとは」

    潤は愛想笑いもせず、淡々と聞く。

    宝条 潤
    「桐生さん、今夜のパーティー前にスイートの部屋で“何を飲んでいましたか”」

    佐久間が一瞬だけ視線を逸らす。

    佐久間 亮
    「……私はそこまで」

    潤の目が細くなる。

    宝条 潤
    「あなたは“そこまで”知っている立場です」

    佐久間 亮
    「……失礼ですが、先生。私は客のプライベートまで覗く趣味はありません」

    宝条 潤(心の声)
    (……言葉は丁寧。だが、反射が不自然だ)

    カーテンが開き、今井が駆け込む。

    今井 もえ
    「管理官!毒物検査の速報です!」

    宇垣 綾
    「どうだった?」

    今井 もえ
    「被害者の胃内容物から、通常では考えにくい量の睡眠導入剤の成分が出ました!」

    一瞬、空気が凍る。

    斎藤 恵一
    「……やはり毒殺だ」

    佐久間の指先がピクリと動く。
    ほんの小さな反応。潤はそれを見逃さない。
    潤が佐久間をまっすぐ見て言う。

    宝条 潤
    「やはり…“部屋で”飲まされた」

    佐久間は笑ってみせる。

    佐久間 亮
    「……それは、美和様かもしれませんね。桐生様の奥様ですし、薬も把握しているでしょう」

    宇垣 綾
    「美和さんは外出中よ」

    佐久間 亮
    「毒殺なら関係ありません」

    小野寺が資料を提示する。

    小野寺 恒一郎
    「あなたは“ログが完璧”だと主張しています。被害者の部屋には誰も入っていないと」

    佐久間は頷く。

    佐久間 亮
    「はい。当然です」

    潤が静かに言う。

    宝条 潤
    「ログが完璧なのは、“誰かが完璧にしたから”です」

    佐久間が目を細める。

    佐久間 亮
    「……一体何のお話でしょう?」

    宝条 潤
    「UGAKI HOTELのVIPスイートは、通常ログが残る。ただし――」

    潤は一拍置く。

    宝条 潤
    「“VIP非表示処理”をかけると、出入り記録が一般端末には表示されない」

    刑事たちの空気が変わる。

    相模 直人
    「えっ、そんなのあるんすか…?」

    綾が冷静に頷く。

    宇垣 綾
    「……ある。顧客情報保護のための機能よ」

    潤は続ける。

    宝条 潤
    「その処理を扱えるのは――」

    潤の視線が佐久間に固定される。

    宝条 潤
    「コンシェルジュ管理端末の権限保持者」

    小野寺が資料を出す。

    小野寺 恒一郎
    「端末ログを“完全削除”したつもりでしょうが、バックアップに断片が残っていました」

    佐久間の顔色が変わる。

    小野寺 恒一郎
    「VIP非表示処理が行われた時刻――あなたの勤務中です」

    佐久間は笑ってごまかそうとするが、目が泳ぐ。

    佐久間 亮
    「……そんな、権限があったとしても私がやった証拠には…」

    宇垣 綾
    「十分よ」

    綾が立ち上がって机の上の資料を指先でトン、と叩く。

    宇垣 綾
    「あなたは“入室していないように見せた”。だからログは完璧だった」

    佐久間が唇を噛む。
    潤が淡々と告げる。

    宝条 潤
    「佐久間さん。あなたのアリバイは完璧です」

    佐久間の目が揺れる。

    宝条 潤
    「だからこそ――あなたしかいない」

    数秒の静寂。
    佐久間の肩が震え始める。

    斎藤 恵一
    「佐久間亮。署まで同行を求める……いいな」

    佐久間は俯いたまま、かすれた声で。

    佐久間 亮
    「……っ」

    宝条 潤(心の声)
    (……終わった。けれど――)

    潤の目が冷たくなる。

    宝条 潤(心の声)
    (動機がまだ見えない)

    翌日 神奈川県警 取調室

    机を挟んで佐久間が座っている。
    顔は青白く、目の焦点が定まらない。
    向かいに斎藤、小野寺。綾は少し離れて立っている。

    斎藤 恵一
    「佐久間亮。もう一度聞く。桐生丈さんを殺したのはお前か」

    佐久間は震える声で答える。

    佐久間 亮
    「……はい」

    空気が重く沈む。

    小野寺 恒一郎
    「方法は?」

    佐久間 亮
    「……薬です。睡眠薬を……量を変えて……」

    斎藤 恵一
    「なぜそんなことをした?」

    佐久間は目を閉じ、絞り出すように言う。

    佐久間 亮
    「……桐生さんは、俺の人生を握ってました」

    斎藤 恵一
    「握っていた?」

    佐久間は嗚咽混じりに続ける。

    佐久間 亮
    「顧客情報……VIPの動き……全部、桐生さんに流せって……」

    小野寺の眉が動く。

    小野寺 恒一郎
    「……恐喝か」

    佐久間 亮
    「断ったら終わりでした。俺だけじゃない、家族まで……」

    佐久間の目から涙。

    佐久間 亮
    「……逃げたかったんです……もう……」

    綾が静かに言う。

    宇垣 綾
    「あなたは、私の家のホテルを犯行場所に使った」

    佐久間が顔を上げる。

    宇垣 綾
    「あなたの“逃げ道”にした」

    佐久間は頭を下げ、かすれ声で。

    佐久間 亮
    「……すみません……!」

    綾は一度目を閉じる。そして淡々と告げる。

    宇垣 綾
    「……謝る相手が違うわ」

    数日後・宝条家 本邸 玄関

    潤は自室で原稿を見ていたところを呼ばれる。

    黒田
    「坊ちゃま、お客様でございます」

    宝条 潤
    「お客様?誰だろう」

    潤、玄関へ。
    そこに立っていたのは――黒のスーツ姿の宇垣綾。完璧な所作で一礼する。

    宇垣 綾
    「お久しぶりです、宝条先生」

    宝条 潤
    「……宇垣管理官?」

    宇垣 綾
    「改めて、事件解決のお礼を言いに来ました。あなたがいなければ、もっと時間がかかっていた」

    宝条 潤
    「とんでもないです……!僕は、少し口を出しただけで」

    宇垣 綾
    「謙虚ね。そこも素敵」

    潤が固まる。
    綾が少しだけ視線を逸らす。
    珍しく頬がうっすら赤い。

    宇垣 綾
    「……あの」

    潤が首をかしげる。

    宝条 潤
    「はい?」

    綾は照れを隠すように咳払いし、はっきり言う。

    宇垣 綾
    「よければ今度――お食事にでも、ご一緒しませんか」

    宝条 潤
    「……えっ!?!?しょ、食事……?」

    綾は柔らかく笑う。

    宇垣 綾
    「私、自分以上の推理力の人に初めて会ったの」

    綾は言いながら潤の手を取る。
    さらっと握る。

    潤の心臓が跳ね上がる。

    宝条 潤(心の声)
    (うわ……手、柔らか……!って何考えてるんだ俺は!!)

    宝条 潤
    「ぼ、僕は、その、えっと……!」

    突然、玄関の外から冷たい声。

    神谷 遥香
    「……何をしているの?」

    潤がビクッ!!!と跳ねる。

    宝条 潤
    「は、遥香!?!?」

    神谷 遥香
    「いきなり訪問して悪いわね。でも――」

    遥香の目が潤の手元へ。

    神谷 遥香
    「説明してくれる?」

    宇垣 綾
    「……チッ……邪魔が入った」

    遥香が一歩踏み出す。

    神谷 遥香
    「宇垣綾。潤に何をしていたの?」

    綾は微笑む。だが目が笑っていない。

    宇垣 綾
    「何って……ただの挨拶よ」

    綾は、潤の腕に絡むように組む。

    宇垣 綾
    「彼のことが気に入ってしまっただけ」

    宝条 潤(心の声)
    (……え、腕組んだ!?なんで!?今このタイミングで!?)

    神谷 遥香
    「……離れなさい」

    宇垣 綾
    「嫌よ」

    神谷 遥香
    「離れなさい」

    宇垣 綾
    「嫌」

    二人の視線が激突する。
    玄関が寒くなる。

    黒田(心の声)
    (……春の嵐だ)

    宝条 潤(心の声)
    (やばい……この二人、顔は笑顔なのに怖い……!)

    潤が引きつった笑顔で一歩後退する。

    宝条 潤
    「あ、あのっ……!!」

    二人が同時に潤を見る。

    宝条 潤
    「新作の編集を……!そう、新作の編集をしないと……!!」

    神谷 遥香・宇垣 綾
    「……は?」

    宝条 潤
    「で、ではっ!!」

    潤はその場から逃げるように踵を返し、廊下へ消える。

    玄関には取り残された二人。遥香と綾が、静かににらみ合う。

    宇垣 綾
    「……相変わらずね、遥香」

    神谷 遥香
    「それはこっちの台詞」

    第3話 完

     
     
     
    ▶趣味でAIをポチポチいじりながら、日々創作活動中🤖 ▶一番の情熱は「小説の投稿」!現在は4作を同時進行で執筆中✍️ ▶ジャンルに縛られず、小説以外の作品も幅広く発信しています✨ ▶「創作大賞2026」応募。応援よろしくお願いします!

    あなたへのおすすめ