
海の王者オルカ 第8話「嵐の海での決断」
第8話「嵐の海での決断」
午後の海
空の色がおかしい。雲が急速に厚くなり、海面がざわめき始めている。
オルカとルナが広い海域を泳いでいる。ドルンも近くにいる。
ルナ
「なんか、海の感じが変だね」
オルカ(空を見て)
「雲の動きが速い。嵐が来るかもしれない」
ドルン(不安そうに)
「そういえば、朝から魚の動きが変だったね。みんな深いところへ潜っていて……」
そのとき、遠くから声が聞こえる。
小魚の群れが浅瀬の岩場に追い込まれている。波に翻弄され、逃げられない状態だ。
ルナ(見つけて)
「あっ!あそこ、魚たちが取り残されてる!」
オルカ(状況を見て)
「岩場に囲まれてる。波が高くなったら潰される」
ドルン
「早く助けないと……!」
しかし風がさらに強くなり、波が高さを増していく。
オルカ(即座に)
「行こう」
オルカが岩場に突入しようとする。波と風が激しい。
力任せに魚の群れに向かって突き進もうとするが、強い波に押し戻される。
オルカ(歯を食いしばって)
「くっ……!」
もう一度突き進む。しかし今度は横波に体を弾かれ、岩に背中をぶつける。
ルナ(心配して)
「オルカ!」
オルカ(痛みをこらえながら)
「大丈夫。もう1回——」
ドルン
「待って!このまま力でいっても無理だ!波のタイミングを読まないと!」
オルカは止まる。荒れた海の中で、必死に息を整える。ドルンの言葉を聞き、いつかのシリウスの言葉を思い出す。
回想
シリウス
「海流を読め。今この海域では、どちらに流れが走っているか」
オルカはきょろきょろしている。
オルカ
「……わかんない」
シリウス
「正直でいい。ではこれを見ろ」
シリウスが小さな海藻の欠片を口からそっと放つ。
シリウス
「海流は今、北東に流れている。泳ぐときにこれを味方につければ速く進める。逆らえば体力を無駄に使う」
現在
オルカは目を閉じる。波の音を聞く。リズムを探す。
嵐の中、オルカが静止している。波に揺られながら、必死に水の動きを感じ取ろうとしている。
ルナ(心配そうに)
「オルカ、何してるの?」
オルカ(目を閉じたまま)
「静かに……海流を読んでる」
しばらくの沈黙。
波が打ち寄せる音だけが響く。
オルカ(目を開けて)
「わかった。波は一定じゃない。7回に1回、少し間が空く。その瞬間に入る」
ドルン
「7回に1回……?そんなの数えられるか?」
オルカ
「感じればわかる。ドルン、俺が中に入ったら、魚たちをこっちへ誘導して」
ドルン
「ああ!」
オルカ
「ルナ、出口を塞いでいる流れを横から崩してくれ。出口を開けてほしい」
ルナ(真剣な顔で)
「任せて」
3頭がそれぞれの位置につく。
波が打ち寄せる。1、2、3……オルカが波のリズムを体で数えている。
オルカ(小さく)
「……今だ」
オルカが岩場へ一気に突入する。
岩場の中。波が激しく打ち付ける。
オルカが小魚の群れのそばに辿り着く。魚たちはパニックになっている。
オルカ(魚たちに向かって、落ち着いた声で)
「大丈夫。出口を作る。俺の後についてこい」
ルナが外側から流れを横切り、出口付近の波を崩しにかかる。強い流れに何度も弾かれながら、諦めずに体を当て続ける。
ルナ(奮闘しながら)
「……っ、もうちょっと……!」
ドルンが岩場の外から魚たちを呼ぶ。
ドルン
「みんなこっちに来て!」
ルナの奮闘で出口の流れがわずかに弱まる。その瞬間をオルカが逃さない。
オルカ
「今だ!行け!」
小魚の群れが一斉に出口へ向かう。ドルンが誘導して沖へと逃がす。
最後の1匹が出たところで、オルカも岩場を脱出する。その直後、大波が岩場を飲み込む。
3頭が沖合で合流する。みな息を切らしている。
ルナ(荒い息で)
「……全員、出た?」
ドルン(確認して)
「全員無事!」
オルカは岩場を見る。今や波に完全に飲まれている。間に合った。
オルカ(静かに、しかし確かな安堵で)
「……よかった」
嵐が過ぎ去った後。海が静まり返っている。夕暮れの光が戻ってきた。
3頭がぐったりしながら並んで浮かんでいる。
ドルン(疲れ果てて)
「……終わった」
ルナ
「疲れた……でも、助けられたね」
オルカ(静かに)
「ルナ、ありがとう。あの流れを崩してくれなかったら無理だった」
ルナ(照れて)
「私は言われた通りにやっただけだよ。すごいのはオルカじゃない?波のリズム読んで」
オルカ
「あれはシリウス様に教わったことを、やっと使えただけ」
ドルンがオルカをじっと見る。
ドルン
「オルカ」
オルカ
「何?」
ドルン
「今日のオルカ、最初は力任せにいって失敗したよね?」
オルカ(苦笑して)
「……うん」
ドルン
「でも途中で止まって、考えて、俺たちに役割を振った。『1人でやろうとしない』ことはシャーオン様が得意だったことだ。」
オルカはドルンの言葉を聞いて、黙って海を見る。
オルカ
「……俺、まだ全然できてないけどね」
ドルン(優しく)
「でも今日はできた。それで十分じゃないか」
ルナがふと空を見上げる。
ルナ
「ねえ。嵐の後ってきれいだよね」
空に、きれいな虹が出ている。
荒れた海が嘘のように、穏やかな光に包まれている。
オルカ(空を見て、静かに)
「……うん」
3頭が並んで虹を見ている。
オルカの胸の中に、今日初めて感じた何かが、静かに根を張り始めている。
──守ることの意味を、体で知った日。