
天才推理小説家の事件録 第11話「ツーリング中の怪奇現象」
第11話「ツーリング中の怪奇現象」
ツーリング集合場所(サービスエリア)
晴れた休日の朝。郊外のサービスエリア。
エンジン音が響く中、1台のバイクが滑らかに入ってくる。
黒の大型バイクが駐車スペースに止まる。
エンジンが停止する。
静寂。
遥香はゆっくりとスタンドを立て、バイクから降りる。
革のライダースジャケットに細身のパンツ。
長い黒髪はヘルメットの中に収められている。
神谷 遥香(小さく息を吐く)
「……いい天気ね」
カチッ
フルフェイスヘルメットのロックを外す。
ゆっくりとヘルメットを脱ぐと――さらりと黒髪が肩に落ちる。
遥香は軽く髪をかき上げる。
神谷 遥香
「……ちょっと早く着きすぎたかしら?」
周囲にはツーリング客がちらほら。
何人かのライダーが遥香をちらっと見る。
男ライダーA(小声)
「おい……あの人、めちゃくちゃ綺麗じゃないか?」
男ライダーB
「モデルかなんかか……?」
遥香は気づかないふりをしてスマホを取り出す。
画面には時刻。
神谷 遥香
「あと10分くらいね……」
ベンチに腰を下ろす。
ヘルメットを隣に置き、空を見上げる。
神谷 遥香(心の声)
(久しぶりね……こういう休日も。警視庁の忙しい日々が一瞬よぎる)
ふと、別の顔が浮かぶ。それは潤の顔。
神谷 遥香(心の声)
(……あいつ、今頃またほかの女にデレデレしてるんじゃないでしょうね……この前も綾の実家に連れられて嬉しそうに)
神谷 遥香(ため息)
「……まったく」
しかし少しだけ口元が緩む。
神谷 遥香(小さく)
「……まあ、今日は関係ないか」
遠くからバイクの音が近づいてくる。
ブォォォン……
遥香は顔を上げる。
神谷 遥香
「来たみたいね」
複数のバイクが現れる。
ブォォォン……
――3台のバイクがサービスエリアへ滑り込んでくる。
それぞれ個性的なマシン。
先頭のバイクが遥香の前で止まる。
山本 竜星(ヘルメット越しに)
「お~早いな神谷!」
川崎 幸音(手を振りながら)
「久しぶり~!!」
藤井 健太(少し照れくさそうに)
「相変わらず変わんねえな~神谷!」
3人がバイクを止め、エンジン音が止まる。
カチッ、カチッ
それぞれヘルメットを脱ぐ。
山本竜星(30)、消防士。
川崎幸音(30)、市役所職員。
藤井健太(30)、整備士。
この3人は全員遥香の大学時代の同級生。
竜星は爽やかな笑顔で髪をかき上げる。
幸音はぱっと明るい笑顔。
健太は少し無骨に頭を振る。
神谷 遥香(軽く手を上げる)
「久しぶり。全員揃ったわね」
山本 竜星(腕を組んで笑う)
「いや~相変わらずクールだな神谷は」
川崎 幸音(遥香に駆け寄る)
「ちょっとちょっと!久しぶりなのにそのテンション!?」
神谷 遥香
「普通でしょ」
川崎 幸音(じーっと顔を覗き込む)
「……でもほんと変わんないね。むしろ綺麗になってない?」
山本 竜星
「それな。学生の頃より迫力増してるわ」
藤井 健太(頷く)
「なんか近寄りがたいオーラ出てる」
神谷 遥香(少し呆れ気味)
「失礼ね。それ褒めてるの?」
川崎 幸音(笑いながら)
「褒めてる褒めてる!ねえねえ、今何してるの?」
神谷 遥香(淡々と)
「警視庁」
3人が一瞬固まる。
山本 竜星
「……え?」
川崎 幸音
「……え?」
藤井 健太
「……え?」
神谷 遥香
「捜査一課の管理官」
山本 竜星
「……マジかよ」
川崎 幸音(目をキラキラさせて)
「えっヤバ!超エリートじゃん!!」
藤井 健太
「お前、そんなとこまで行ってたのかよ……」
神谷 遥香(肩をすくめる)
「普通よ」
山本 竜星(苦笑)
「いや普通じゃねえって……」
空気が少し柔らぐ。
川崎 幸音(ニヤニヤしながら)
「で?で?で?彼氏は?」
神谷 遥香
「いないわ」
川崎 幸音
「絶対嘘」
山本 竜星
「いやこれはいる顔だな」
藤井 健太
「いるだろこれ」
神谷 遥香(即答)
「いないって言ってるでしょ」
3人は顔を見合わせてニヤリとする。
川崎 幸音(小声で)
「……怪しい」
神谷 遥香(ため息)
「いいから行くわよ。ツーリングでしょ」
山本 竜星
「おう、そうだったな!」
藤井 健太
「今日はいいルート考えてきたからよ」
川崎 幸音
「楽しみ~!」
4人がそれぞれバイクに戻る。
遥香はヘルメットを持ち、ふと一瞬だけ考える。
神谷 遥香(心の声)
(……彼氏、ね)
潤の顔が浮かぶ。
神谷 遥香(小さく)
「……違うわよ」
ヘルメットをかぶる。
ブォォォン……
4台のバイクが一斉に走り出す。
山道
緑に囲まれた山道。
木漏れ日が差し込むワインディングロード。
ブォォォン……!
4台のバイクが軽快にカーブを抜けていく。
先頭:竜星
その後ろに遥香
続いて幸音、健太
神谷 遥香(心の声)
(……いいわね、この感覚)
風を切る音、エンジンの振動。
神谷 遥香(心の声)
(こういう時間、久しぶりかも)
カーブを抜ける。
その瞬間――
カン……ッ
何かが“軽く弾くような音。
神谷 遥香
「っ――!」
一瞬体が強張る。
ハンドルを握る手に力が入る。
神谷 遥香(心の声)
(今の音……?)
後方から幸音の声。
川崎 幸音
「ねえ今なんか音しなかった!?」
山本 竜星(前方から)
「石でも踏んだか?気をつけろよ!」
藤井 健太(少し間を置いて)
「……いや」
ほんのわずかな沈黙。
藤井 健太
「この辺、そういうの……あるらしいぞ」
川崎 幸音
「え、何それ?怖いこと言わないでよ!?」
遥香は無言のまま走り続ける。
神谷 遥香(心の声)
(……違う……石でも、枝でもない……もっと“近いところ”から聞こえた)
風が強く吹き、木々がざわめく。
ザァァァ……
遥香は前方を見据えながら、ほんの少しだけ眉をひそめる。
神谷 遥香(小さく)
「……気のせい、よね」
しかしその表情は完全には納得していない。
ブォォォン……!
4台のバイクはそのまま山道を駆け抜けていく。
山道の休憩所
山の中腹にある小さな休憩所。
木製のベンチに自販機、少し古びた屋根。
ブォォォン………
4台のバイクが順に止まる。
エンジン音が消え、辺りは静寂に包まれる。
山本 竜星
「ふぅ~、いいコースだな」
川崎 幸音(伸びをしながら)
「気持ちいい~!」
遥香はヘルメットを脱ぐ。
少しだけ表情が硬い。
神谷 遥香(心の声)
(……さっきの音)
健太は無言で自販機に向かい、缶コーヒーを取り出す。
プシュッ
静かな音がやけに響く。
藤井 健太(ぽつりと)
「……この辺な」
3人が視線を向ける。
藤井 健太
「“お化けが出る”って有名なんだよ」
川崎 幸音
「ちょっとやめてよ急に!!」
山本 竜星(苦笑)
「おいおい、昼間から怪談かよ」
健太はベンチに座り、ゆっくり話し出す。
藤井 健太
「俺……この先のトンネルで見たんだ」
空気が一気に重くなる。
神谷 遥香
「なななな何を……!?」
遥香、珍しく明らかに動揺。
川崎 幸音(小声で)
「遥香が噛んだ……!?」
山本 竜星(ヒソヒソ)
「初めて見たぞあんなの」
藤井 健太(淡々と)
「白い影だよ」
風が吹く。
ザァァァ……
藤井 健太
「トンネルの真ん中に立っててさ……」
遥香は無意識に腕をさする。
藤井 健太
「近づいても動かねえ……」
川崎 幸音
「やめてやめてやめてやめて!!」
藤井 健太
「で、すぐ目の前まで来たら――消えた」
沈黙
神谷 遥香
「……っ」
遥香の肩がわずかに震える。
藤井 健太
「その直後だ……エンジンが止まった」
山本 竜星
「は?」
藤井 健太
「何やってもかからねえ。セルも回らない」
神谷 遥香(震えながら)
「そ、それで……?」
藤井 健太
「……寒くなったんだよ、急に」
空気が冷えたような演出。
川崎 幸音(半泣き)
「帰ろう!?ねえ帰ろう!?」
山本 竜星(苦笑しつつも少し真顔)
「……偶然だろ」
藤井 健太
「そう思うだろ?」
健太はゆっくり顔を上げる。
藤井 健太
「でもな……同じ話、何人もしてる」
沈黙
遥香は黙って地面を見つめる。
神谷 遥香(心の声)
(……理屈が通らない。でも――さっきの音といい……)
神谷 遥香(小さく)
「……本当に、あるのかしら」
風がまた強く吹く。
ザァァァ……
トンネル
山道――やがて視界に現れる古びたトンネル。
山本 竜星(インカム)
「……あれが例のトンネルか?」
川崎 幸音
「ちょっと待って無理無理無理!!」
藤井 健太
「ここだよ」
トンネルは古く、照明もまばら。昼なのに中は薄暗い。
神谷 遥香(心の声)
(……ただのトンネルよ……ただの、トンネル……警察官が何ビビってるのよ……お化けなんているわけないじゃない)
山本 竜星
「行くぞ!」
ブォォォン……!
4台のバイクがそのままトンネルへ突入する。
中はひんやりとした空気。エンジン音が反響する。
ブォォォォン…………
神谷 遥香(心の声)
(……暗い……やけに、静か)
その瞬間――
ブスッ……
遥香のバイクのエンジン音が途切れる。
神谷 遥香
「えっ!?」
スゥゥゥ……
完全に無音。
神谷 遥香
(え!?ちょ……ちょっとやめてよ!!)
ハンドルを握る手が震える。
神谷 遥香
(なんで!?さっきまで普通に――!!)
前を走る竜星のバイクも速度が落ちる。
山本 竜星
「おい!?なんだこれ!?」
川崎 幸音(半泣き)
「止まった止まった止まったぁぁ!!」
藤井 健太(低く)
「……来たな」
神谷 遥香
(やめてやめてやめてやめて!!)
トンネルの中、異様な静けさ。
遥香は必死にアクセルを回す。
神谷 遥香
(動いて……お願い……!!)
出口の光が見える。
その瞬間――
ブォォォン!!!
エンジンが突然復活する。
神谷 遥香
「――っ!?」
バイクが勢いよく加速し、そのままトンネルを抜ける。外の光がまぶしい。
ブォォォン………
全員、トンネルの外で減速する。
川崎 幸音
「何今の!?何があったの!?」
山本 竜星
「……全員、止まったな」
健太は無言でトンネルを振り返る。
遥香はその場でバイクを止める。
神谷 遥香(心の声)
(ままままままさかそそそそそんなわけないわよね!?ただの……機械トラブルよ……そうよ、ただの……)
しかし視線が無意識にトンネルへ向く。
神谷 遥香(心の声)
(……本当に?)
風が吹く。
ザァァァ……
トンネルの奥は何もない。
――はずなのに。
宝条邸 応接間
翌日、遥香は宝条邸を訪れ、潤にこのことを話す。
神谷 遥香(やや前のめりで)
「っていうことがあったのよ!本当に!」
宝条 潤(ソファにゆったり座りながら)
「それでそんな怖がってんのね?」
遥香はじとーっとした目で潤を睨む。
神谷 遥香
「……何その言い方?」
宝条 潤(肩をすくめて笑う)
「だって遥香は昔からお化け苦手だからさ~。いっつもお姉さんぶってたくせに」
神谷 遥香
「は!?そんなこと――」
言いかけて止まる。
宝条 潤(ニヤニヤ)
「小学生の頃、肝試しで俺の後ろに隠れてたの誰だっけ?」
神谷 遥香
「……っ!!」
遥香が顔を赤くする。
神谷 遥香
「そ、それは子供の頃の話でしょ!!」
宝条 潤
「警察官になった今も変わってないじゃん」
神谷 遥香(机を軽く叩く)
「変わってるわよ!!」
少し間
神谷 遥香(少し落ち着いて)
「……とにかく聞いて」
宝条 潤(真面目な表情に切り替える)
「はいはい、どうぞ警視殿」
遥香は深呼吸してから話し始める。
神谷 遥香
「場所は山道の途中にある古いトンネル。昼間なのに中はかなり暗くて、湿気も多かった」
宝条 潤(軽く頷く)
「ふむ」
神谷 遥香
「入った直後に、エンジン音が不自然に反響してた。それで――」
遥香の声が少し小さくなる。
神谷 遥香
「急に……止まったの」
宝条 潤
「全車両?」
神谷 遥香
「ええ、私だけじゃない。友人たちも」
宝条 潤
「ほう。全員のバイクが」
神谷 遥香
「セルも反応が鈍くて、アクセルも効かない。完全に“死んだ”感じ」
宝条 潤
「時間は?」
神谷 遥香
「体感で……5秒くらい」
宝条 潤
「で、出口で復活?」
神谷 遥香
「そう。トンネルを抜けた瞬間、急に」
宝条 潤(顎に手を当てる)
「なるほどね」
神谷 遥香
「あと、その前に変な音がしたのよ」
宝条 潤
「音?」
神谷 遥香
「金属を軽く弾いたような……“カン”って音」
潤が目を細める。
宝条 潤
「ふーん……金属を弾くような音か……」
神谷 遥香
「それと」
遥香が少し言いづらそうに言う。
神谷 遥香
「……白い影を見たって話もある」
宝条 潤(即答)
「錯覚」
神谷 遥香
「早いわね!!」
宝条 潤(軽く笑う)
「だって条件が揃いすぎてる」
神谷 遥香
「条件?」
潤は立ち上がり、窓の外を見ながら話し始める。
宝条 潤
「湿気の多いトンネル、急激な温度差、暗所、光源、それにエンジン停止。見事に全部の条件が揃ってる」
神谷 遥香
「……本当に?」
潤は振り返る。
宝条 潤(自信ありげに)
「当たり前だろ。幽霊なんてこの世に存在しない」
神谷 遥香(少しムッと)
「言い切るわね」
潤がニヤッとする。
宝条 潤
「言い切れるよ。科学で説明できるから」
遥香はしばらく黙る。
神谷 遥香(小さく)
「……じゃあ、証明してみなさいよ」
宝条 潤
「いいよ。現地に行くか」
神谷 遥香
「……は?」
宝条 潤
「再現するのが一番早い」
神谷 遥香
「ちょっと待って!?またあそこ行くの!?」
宝条 潤
「怖いの?」
神谷 遥香
「こ、怖くないわよ!!」
宝条 潤(ニヤニヤ)
「顔に書いてあるけど?」
神谷 遥香
「書いてない!!」
宝条 潤
「じゃあ決まりだな」
潤はコートを手に取る。
宝条 潤
「幽霊退治、行こうか」
神谷 遥香
「退治じゃないでしょ!!」
しかし遥香は内心では安心していた。
神谷 遥香(心の声)
(……でも、潤がいれば)
神谷 遥香(小さく)
「……まあ、いいわ」
現地
山道にある例のトンネル前。
時間帯は昼間だが、入口は暗く湿気を帯びている。
2人は車で現地に向かう。
潤と遥香が車から降り、周囲を見回す。
宝条 潤
「……ここがその問題の場所か」
神谷 遥香(腕を組みながら)
「そうよ。昨日ここで――」
少しだけ言葉を飲み込む。
宝条 潤(ニヤッと)
「“白い影”が出て、エンジンが止まって、おまけで遥香がおびえたんだっけ?」
神谷 遥香
「……言い方」
宝条 潤
「で、どの辺で止まった?」
遥香はトンネルの中を指差す。
神谷 遥香
「真ん中あたり。あそこ」
宝条 潤
「了解」
潤はゆっくりとトンネルの中へ歩き出す。
神谷 遥香
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
宝条 潤
「何?」
神谷 遥香
「……先に行かないで」
宝条 潤(振り返ってニヤニヤ)
「怖いの?」
神谷 遥香
「違うわよ!!単独行動は危険だから止めてるの!」
宝条 潤
「はいはい」
2人並んでトンネル内へ行く。
中はひんやりとした空気。
足音が反響する。
コツ……コツ……
神谷 遥香(心の声)
(……昨日と同じ空気)
潤は壁や天井、路面を観察する。
宝条 潤
「……湿度がやけに高いな」
潤は壁に手を触れる。
宝条 潤
「結露してる」
神谷 遥香
「本当ね。でもそれが今回の件とどう関係するの?」
宝条 潤
「電気系統に影響が出る条件だ」
潤はさらに進む。
宝条 潤
「で、エンジンが止まったのはこの辺?」
神谷 遥香
「ええ」
潤はその場で立ち止まり、上を見上げる。
宝条 潤
「……なるほどね」
神谷 遥香
「何かわかったの?」
潤はポケットからスマホを取り出し、ライトを点ける。
宝条 潤
「ちょっと後ろに下がって」
神谷 遥香
「?」
潤がライトの角度を変えながら照らす。
すると――ぼんやりと“白い人影のような形”が壁に浮かび上がる。
神谷 遥香
「……っ!!」
思わず一歩下がる。
神谷 遥香
「な、何これ……!」
宝条 潤(冷静に)
「これが“正体”の一つ。霧や湿気に光が当たると、乱反射して人影っぽく見える。しかもトンネルは直線じゃない。微妙に歪んでる。だから形が“人”に見える」
神谷 遥香(少し震えながら)
「……じゃあ、あの白い影は」
宝条 潤
「ただの光の錯覚だよ」
神谷 遥香
「……そ、そう」
遥香は少し安心するが、まだ不安が残る。
神谷 遥香
「でも、エンジンは?」
宝条 潤
「それも今から説明する」
潤はトンネルの中央に立つ。
宝条 潤
「ここ、空気の流れが滞留してる。外との温度差で、湿気が一気に凝縮するポイントだ。その状態でバイクが入ると――一時的に点火系が不安定になる。結果、エンジン停止」
神谷 遥香
「……そんなことあるの?」
宝条 潤
「ある。で、出口に近づくと湿度が下がる。だから復活するんだ」
遥香はしばらく黙る。
神谷 遥香(心の声)
(全部……説明がつく。つまり――)
神谷 遥香
「……幽霊じゃないのね」
宝条 潤
「最初から言ってるだろ。この世に“理解できない現象”はあっても、“説明できない現象”はほとんどない」
遥香はふっと力が抜ける。
神谷 遥香
「……なんだ」
少し笑う。
神谷 遥香
「バカみたいに怖がってたじゃない」
宝条 潤
「知ってる」
神谷 遥香
「言わなくていい!!」
遥香が潤の頬を引っ張る。
宝条 潤
「いででででで!!ほらやっぱ怖がってたじゃん!!」
神谷 遥香
「うるさい!!」
しかし表情は少し晴れている。
後日・カフェ
街中のカフェ・テラス席。
休日の穏やかな空気。
遥香は例の同級生3人と一緒にカフェでお茶をしている。
山本 竜星
「で?結局どうだったんだよ?あのトンネル」
川崎 幸音(身を乗り出して)
「気になってたんだけど!!」
藤井 健太(腕を組んで)
「……やっぱり“出る”のか?」
遥香はコーヒーを一口飲んで、落ち着いた様子で話し始める。
神谷 遥香
「結論から言うわ……全部、自然現象」
3人が固まる。
山本 竜星
「……は?」
川崎 幸音
「え、うそでしょ!?」
藤井 健太
「……どういうことだよ?」
神谷 遥香
「まず“白い影”は、トンネル内の湿気と光の反射で人影に見えてただけ」
川崎 幸音
「えぇ……」
神谷 遥香
「それとエンジン停止は、湿度と温度差で一時的に点火系が不安定になっただけ」
山本 竜星
「……マジかよ」
藤井 健太(少し悔しそうに)
「じゃあ俺が見たのも……」
神谷 遥香
「錯覚よ」
藤井 健太
「……即答すんなよ」
川崎 幸音(肩の力が抜けて)
「なんだぁ~怖がって損したぁ~」
山本 竜星(笑いながら)
「川崎はあの時半泣きだったもんな~!神谷もだけど!」
神谷 遥香・川崎 幸音
「うるさい!!」
場の空気が一気に明るくなる。
藤井 健太
「でもよくそこまで分かったな」
山本 竜星
「確かに。普通そこまで考えねえだろ」
3人の視線が遥香に向く。
神谷 遥香(少し間を置いて)
「……私だけの力じゃないわ。知り合いに見てもらったのよ」
川崎 幸音(ニヤッ)
「知り合い~?」
山本 竜星
「怪しいな」
藤井 健太
「男か?」
神谷 遥香
「……ただの推理好きよ」
3人は顔を見合わせてニヤリとする。
川崎 幸音
「絶対それ彼氏でしょ」
神谷 遥香
「違うわよ」
山本 竜星
「いやいやその流れはいるやつだって」
藤井 健太
「名前は?」
神谷 遥香
「……言う必要ないでしょ」
川崎 幸音(ニヤニヤしながら)
「はい出た~図星のやつ~」
神谷 遥香
「違うって言ってるでしょ!!」
遥香が軽くテーブルを叩く。
山本 竜星(笑いながら)
「まあでもよかったな、幽霊じゃなくて」
藤井 健太
「……ちょっと安心したわ」
幸音がじーっと遥香を見る。
川崎 幸音
「でもさ~その人に会ってみたいかも」
神谷 遥香
「絶対会わせない」
川崎 幸音
「なんでよ!!」
神谷 遥香
「面倒くさくなるから」
遥香はふと視線を外す。
神谷 遥香(心の声)
(……あいつに任せれば、どんな事件や現象でもちゃんと“答え”が出る)
遥香が小さく笑う。
神谷 遥香(小さく)
「……ほんと、調子いいんだから」
山本 竜星
「ん?何か言ったか?」
神谷 遥香
「何でもない」
遥香がカップを持ち上げる。
神谷 遥香
「ほら、次のツーリング決めるわよ」
川崎 幸音
「やったー!!」
藤井 健太
「今度は変な場所選ぶなよ……」
山本 竜星
「じゃあ次は海だな!」
4人とも笑う。
第11話 完