
短編小説【秘宝】
突然、ゴン!!という強い衝撃が頭に刺さる。
頭を抑えて倒れ込みながら、慌てて後ろを振り返った。
抑えたところは熱く、ぬるっと嫌な感触がする。
見上げた先。そこには懐かしい、いつぞやの顔が恐ろしい、人とは思えないような、まさしく鬼の形相で立っていた。
え?と声を出すのも束の間、彼女は持っていたハンマーを振りかざす。
強い痛みと共に、俺の意識は遠のき、そこで途絶えた。
「あんたのせいで……!!」
最期に聞こえたのは怒りと悲しみと、
なのに悔いが残るような耳障りな声。
✱
次に目を覚ました時、さっきと格段、何も変わっていないように思えた。
ただ、倒れたはずの俺は、なぜか今彼女の背中を見ている。
彼女は俺に気づいていないようだ。
なんつーことしてくれたんだ、死ぬところだったじゃねーか!!と後ろから首根っこを掴もうとした時、
俺は目の前に、俺の体が倒れたままであることに気づく。
────あ、なるほど。結局俺死んだのか。
人はあまりに突飛なことが起こると、冷静になるらしい。
ということは今の俺はいわゆる、幽体離脱真っ只中ってところか。
通りで体が軽いわけである。
この状況をいとも簡単に飲み込んでしまった俺は、
肝心の犯人である彼女の様子を見て驚く。
俺の遺体の前にしゃがみ込み、なんと手を合わせている。
おいおい、それなら最初から殺すんじゃねーよ。
もっと他のやり方があっただろ。
約1分。黙祷を捧げた彼女は淡々と足元に置いてあったロープを俺の体に巻き付け始めた。
俺がいる場所は港。───つまりそう、海に投げ捨てて無かったことにする気だな?
確かに仕事は続かないし、パチンコもタバコも辞められないし、散々女を泣かせてきたけど、
そんなに俺は残虐な最期を迎えるほど、人でなしだった覚えはないぞ。
余ったロープの先には、コンクリートブロックを結びつける。ほらな?やっぱり海の底におさらばだ。
無かったことにするなら、俺への憎悪もろとも無かったことにしてくれよ。お前の人生棒にふるほど、俺に価値はねえだろうに。
あとは俺はドボンされて終わりか……。と、思った矢先、彼女はなぜかもう1本ロープを取り出した。
そして、なぜか今度は俺の右足へと縛り付け、
もう一方を自分の両足へとぐるぐる巻き付ける。
───は?
咄嗟に手が伸びる。
しかしその手は彼女の頭をすり抜けた。
「───じゃあね、お父さん」
……嗚呼、思い出したよ。
俺が"最初で最後に愛した女"の子供。
コイツと人生を歩んでいこう、と決めた矢先に
病に伏した弱っちい女。
残した置き土産はそいつに似て、弱いくせにどこか頑固でめんどくさかった。俺にはもったいないくらいの宝だった。
だから手放したのに、
「…………っ、
なんでこんなやつのところに戻ってくんだよ」
底へと落ちていく宝を、俺は見ていることしかできない。
─End─
anotherside?
不思議と前作とリンクする話となりました。
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