
「かつて竜だった君は、今は猫の私を抱っこする」-幕間- おとぎ話『竜の詩』
おとぎ話『竜の詩』
むかしむかし。
竜と人が、今より近くで生きていた時代。
竜は、人を愛していた。
その力ではなく。
その知恵でもなく。
喜ぶことも、迷うことも、泣くことも。
未完成のまま歩き続ける、その在り方そのものを、美しいと感じていた。
だから竜は、人を変えようとはしなかった。
争いを止めることも。
国を導くことも。
善悪を裁くことも。
ただ、人という存在を尊び、必要とされた時だけ、その隣に立った。
人もまた、竜へ何かを返そうとはしなかった。
ただ、「ありがとう」という想いだけが、竜へ還っていく。
それだけで十分だった。
竜は、それを何よりの宝としていた。
竜とは。
人が「こう在れたなら」と願う理想の一つ。
長い命を生き。
世界の広さを知り。
誇り高く。
節度を忘れず。
誰かの人生を奪うほど深く踏み込まない。
人と共に歩きながらも、人にはならない。
人もまた、竜にはならない。
だからこそ、互いを尊ぶことができた。
それが、竜種という生き物だった。
けれど。
一匹の幼い竜だけが、その理から外れてしまう。
親とはぐれ。
まだ何も知らぬまま、人里へ迷い込んだ。
幼い竜は知らなかった。
人の願いは、ときに人を救い、
そして、ときに誰かを傷つけるほど、大きな力になることを。
「勝ちたい。」
「守りたい。」
「失いたくない。」
「奪われたくない。」
幼い竜は、その願いを一つひとつ受け止めた。
悪意はなかった。
ただ、人の願いに応えたい。
その一心だった。
けれど、人の願いは、人の願いとぶつかり合う。
勝つ者がいれば。
敗れる者がいる。
願いが叶えば。
叶わなかった願いも生まれる。
敗れた者は、空を見上げて言った。
「あの竜が、あちらに力を貸したのだ。」
その言葉は、人から人へと伝わり。
やがて思いとなり。
思いは願いとなり。
願いは、竜を縛る鎖となった。
幼い竜は、何も知らなかった。
ただ静かに。
人の願いの行く末を見つめていただけだった。
それでも人は言った。
「あの竜は、禍を運ぶ。」
そうして小さな竜は、
いつしか『千の禍』と呼ばれるようになった。
こんにちは。
惰眠がしたい赤猫さんです。
『かつて竜だった君は、今は猫の私を抱っこする』の幕間『竜の詩(うた)』、いかがでしたか。
本編『かつて竜だった君は、今は猫の私を抱っこする』は、silkさんの『竜と恋の物語』を舞台とするリプレイ記事です。
本編は、こちらから。
silkさんの『竜と恋の物語』は、こちらから。