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Photo bystonechat777

【詩・作品集】海に向かう


    #創作大賞2026
    #オールカテゴリ部門

    八戸

    見上げた曇天から、雨ひとつ
    死に損なった魂へ 一滴の献盃
    忌まわしきは過去 断ち切るは輪廻
    わたしは只、わたしでありたい

    無人駅 鳴らす靴音 明滅
    売り切れたままの缶コーヒー
    三番線 八戸行き 少し震える指と
    あなたがかつて生きたことの証明

    忌まわしきは過去 いとおしい過去

    あの日のような空 幻想と錯覚
    都合のいいパラノイア 明滅する蛍光灯
    曇天からまた雨ひとつ きっとすぐ土砂降り
    あなたのいない日々に


    若葉

    若葉に落ちる雫
    春の短さと 君の不在
    海風 カタクリが揺れる
    君のいない春 落ちる雫


    鱗

    弾けるように顔を出した本音を
    継接ぎだらけの鱗で隠してしまえば
    こころにもないことを言って、笑って
    傷付かないわたしの出来上がり

    海風にさえ震えるほど
    日に焼けて傷付いた本心は
    もう見せない 誰にも見せない
    銀の鱗に、弱音一滴


    雷鳴

    降るを願う勝手 止むを願う勝手
    雨模様 曇天は気儘

    ※雷鳴が猫のように唸りまして、わたしはただぼんやりとニライカナイを夢見ていました。

    降るを願う勝手 止むを願う勝手
    雨ですね ええ、今日はただの雨ですね
    (夢の名残 明滅する思い出)
    雨、雨、雨 左様なら青天

    ※雷鳴です。きみは覚えていますか。あれはそう、虹の綺麗な春のことでした。

    勝手 ええ、それが何だと言うのでせう
    きみもわたしも、我儘な人間のまま
    愛し合い、汚し合うだけの塵芥
    ああ、また 雷鳴


    煙

    恋の死に行く香りは 煙草に似ていて
    愛の枯れ行く香りは 海風に似ていて

    あの人の吸う ほろ苦い煙になりたかった
    あの人の見る 凪いだ海になりたかった
    さよならは純粋で 突然で

    あの人の指先が そっと頬に触れた
    わたしはただ、呆れるほどに恋をしていた
    鼻先を擽る煙 ピリオドの香り


    きみを待つ

    待てど暮らせど、日々は過ぎていくもので
    きみからの便りの代わりに 蝉時雨

    雨の季節が過ぎたなら
    夜空に花が咲く頃には
    そんなまぼろしを描きながら、きみを待つ

    あの日頬を撫でた夜風が
    きみのもとへ届いた頃だろうか
    向日葵が微笑みながら揺れる

    きみを待つ
    季節の木陰で、微睡みながら


    海に向かう

    この風と共に 僕はあの海へ
    きらめいたのは陽光と高揚
    ようやくの季節が来た
    僕はきみに会える

    立葵の花弁を撫でた指先で
    真っ直ぐに太陽を捉えて
    松葉牡丹 ハミング 空へ舞う

    風に飛び乗れ たとえ死に行くとして
    僕はきみを愛していました
    向日葵は揺れる 音もなく影が揺れる
    夏はさようならの季節

    過ぎた年月のその先で
    僕はようやく きみに会える


     
     

    ナル

     
     
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