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懐かしさと本棚、そして音楽

    ナル

    胸がぎゅっとすることが増えた。

    こう書き出すと「循環器内科に行け」とでも言われそうだが、疾患の話がしたいわけではない。何かしらの風景や音楽に触れたときに、切なさや懐かしさに似たものを感じるときが増えたという話だ。
    僕もそれなりに歳を重ねた。不完全で脆いままだとしても、年月は等しく過ぎていく。時々どうしようもないほど虚しくなるが、約束と優しさが今も僕を生かしている。
    だから、懐かしさを感じるのも、そこまで嫌いではない。


    先日、本棚を整理した。
    本を手放したというわけではなく、本の上に薄く乗っていた埃を払い、綺麗に並び替えただけだ。それなりに冊数があるので、思っていたよりも重労働だった。
    その際に関節技を図解した本に1000円札が挟まっているのを見つけたという話もあるのだが、それはまあいい。栞貯金と呼ぶことにした。

    「ああ、懐かしいなぁ」

    手に取ったのは、葉室麟さんの『風花帖』。ぱらぱらとページを捲る。いつ読んだんだっけ? ずっと記録している読書感想ノートを引っ張り出して探す。あった。2017年。

    その頃は、どんな人生だったかな。

    本棚をごちゃごちゃにしたまま、2017年によく聴かれていた曲をネットで探し始める。
    欅坂46の『二人セゾン』、『不協和音』…あの頃はそんなに坂道にハマっていたわけじゃなかったな。でも『二人セゾン』を聴いて泣いたっけな。訳もわからず、ぼろぼろ泣いたんだよな。MVの光の使い方が、本当に美しいと思った。

    ※『二人セゾン』は発売自体は2016年。
     ただ、統計にもよるが2017年年間ベストにもランクインしている。

    乃木坂46の『逃げ水』は、最近になって友達に教えてもらった。ほんとこの頃は坂道に疎かったんだな。もっと早く知っておけば。
    いや、「大事な友達が教えてくれた」っていう思い出ができたんだからきっと、そっちの方がいいな。今からでも、思い出の曲になる。

    Mr.Childrenの『himawari』。
    映画なんて観に行く元気もなくて、『君の膵臓をたべたい』は観ないまま、たくさん、たくさん泣いた。

    SEKAI NO OWARIの『Rain』。
    これも一緒だ。『メアリと魔女の花』を観たかったのに。

    美しい曲はなぜか、悲しい思い出ばかり連れて来る。

    ふと我に返る。
    本棚はごちゃごちゃのまま、30分近く時間が過ぎていた。誰しもが経験のある種類の、タイムトリップ。

    『二人セゾン』を聴きながら、本棚の整理を再開する。

    この頃はまだ、あの人に出会っていなかった。今にして思えば、あの人の存在を知らない期間があったことの方が不思議なくらいだ。

    当時服用していた薬だけはなんとなく覚えている。副作用がひどく、すぐに服用を中止したっけな。

    多分この頃は、自分を傷つけることも多かったはずだ。
    どうしようもない、本当にどうしようもなかった。
    だけど。だからこそ。

    ぎゅっと締め付けられた胸はきっと、「あの頃を認めて」と僕に言っている。

    懐かしさを感じることばかり増えた。だからこそ、当時の悔しさも悲しさも認めて、僕は今日を生きるしかない。明日を生きるしかない。
    「あの頃はよかった」ではない懐かしさを、決して正しくはなかったあの日々を肯定するための、今日だ。
    そう思いながら、僕は本棚の整理を終えた。綺麗に並んだ本たちの一冊一冊に、その頃の記憶も重ねて。

    部屋に差し込む陽光が少しだけ優しくて、大好きな『二人セゾン』のMVみたいだった。
    さあ、次はどんな本を読もう。どんな曲を聴こう。
    どんな景色を見て、どんな町を歩こうか。
    いつかそれを、懐かしく思う日を夢見て。

     
     
     

    ナル

     
     
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