からだ物語:第3話 動き続ける心臓 ーー 血液という生命の川
ドクン、ドクン。眠っているときも、歩いているときも、心臓は止まりません。心臓が送り出した血液は、動脈から毛細血管へ、そして静脈を通って再び心臓へ戻ってきます。その血液は酸素や栄養を全身の細胞へ届け、二酸化炭素や代謝によって生じた物質を回収しています。今回は、心臓の四つの部屋、弁、心筋、そして心臓自身がつくり出す電気信号などを通して、生命を支える「循環」の仕組みを見ていきます。心臓は単なるポンプではありません。身体全体の要求に応じて働き方を変えながら、一生涯、生命の流れを支え続けているのです。
静かな夜。人間が眠っているあいだにも、身体の中では止まることのない仕事が続いています。その中心にあるのが、心臓です。胸の中央より少し左。
握りこぶしほどの大きさしかありません。

けれど、この小さな臓器は、生まれてから死ぬまで、ほとんど休むことなく動き続けます。ドクン。ドクン。一回の拍動ごとに、心臓は血液を全身へ送り出します。血液は、身体の隅々まで伸びた血管を通って旅をします。
その姿は、巨大な都市の道路網によく似ています。心臓がポンプなら、血管は道路。そして血液は、その道路を走る輸送車です。血液が運ぶものの中でも、とくに重要なのが酸素です。

肺で取り込まれた酸素は、赤血球の中にあるヘモグロビンによって運ばれます。心臓から送り出された血液は、動脈を通って次第に細い血管へ入っていきます。最後にたどり着くのが、毛細血管。

ここは、血液と細胞が物質を交換する場所です。酸素や栄養を細胞へ渡し、その代わりに二酸化炭素や代謝で生じた物質を受け取ります。そして血液は静脈を通って心臓へ戻ってきます。さらに肺へ向かい、二酸化炭素を放出し、再び酸素を受け取る。こうして血液は、全身を何度も何度も巡り続けます。

では、心臓自身はどうやって動いているのでしょうか。心臓は単なる袋ではありません。主に筋肉でできた「心筋」という特殊な組織でできています。
この心筋が縮んだり緩んだりすることで、血液を押し出します。
心臓の内部には、四つの部屋があります。
右心房。右心室。左心房。左心室。
右側は、全身から戻ってきた血液を肺へ送り出します。
そして肺で酸素を受け取った血液は、左側へ戻ってきます。
左心室から送り出された血液は、再び全身へ向かいます。

ここで大切なのが、心臓の弁です。血液が逆流しないように、必要なときだけ開き、閉じる。まるで、一方向にしか開かない扉のような働きです。
そして、もう一つ驚くべき仕組みがあります。心臓は、外から一回ずつ命令されなくても、自分で拍動のリズムをつくることができます。その中心となるのが、洞房結節です。

ここで生まれた電気的な興奮が心臓全体へ伝わり、心筋を順番に収縮させます。「ドクン」という一回の拍動の裏側では、電気信号と筋肉の精密な連携が起きているのです。しかも、身体の状態によって心拍数は変わります。走れば速くなる。眠れば遅くなる。驚けば一気に速くなる。その調節に関わっているのが、自律神経やホルモンです。
身体は、今どれだけ酸素やエネルギーを必要としているのかを常に感じ取り、心臓の働きを調整しています。運動中の筋肉には、より多くの酸素が必要です。そこで心臓は拍動を速め、より多くの血液を送り出します。
反対に眠っているときは、身体の必要量に合わせて心拍数が下がります。
つまり心臓は、ただ同じリズムで動いているだけではありません。
身体全体の状況を受け取り、その都度働き方を変えているのです。

そして、その心臓が送り出した血液は、脳へも向かいます。筋肉にも、骨にも、皮膚にも、内臓にも。あなたが考えることも、歩くことも、食べることも、その背景には血液の循環があります。生命とは、どこか一つの臓器だけで成り立っているものではありません。心臓が血液を送り、肺が酸素を取り込み、血液がそれを運び、細胞が利用する。そして細胞から生じた二酸化炭素や老廃物を、再び血液が運び出す。心臓は、その巨大な循環の中心にいるのです。
胸の中で鳴り続ける「ドクン、ドクン」。それは単なる音ではありません。
生命という大きな流れを、一秒ごとにつなぎ続ける音なのです。
では、その血液に酸素を与えているものは何なのでしょうか。
次回、私たちは心臓からさらに先へ進みます。一度の呼吸で肺に入った空気は、どのようにして血液へ酸素を渡しているのか。
次は――「息をする生命」その秘密を、肺の奥深くへ探しに行きましょう。
次回予告
第4話「息をする生命 ― 呼吸と酸素の旅」
私たちは、一日に何度も空気を吸っています。けれど、一回の呼吸で取り込んだ酸素は、いったいどこへ行くのでしょうか。鼻や口から入った空気は気管を通り、肺の奥にある無数の小さな肺胞へ。そこで酸素は血液へ渡され、二酸化炭素は逆方向へ移動します。しかも、その呼吸は「意識していなくても」続いています。次回は、肺の奥深くへ。人間が「息をする」という当たり前の行為に隠された、精密な生命システムを見ていきます。
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