
百均の店 (後編)
「次はこちら、売れ筋という意味では二番目の商品でございまして、未来を観ることの出来る双眼鏡でございます」
もう、相槌すらも打てずにいたが、気を持ち直すべく、聞いてみた。
「使用方法を教えて下さい」
「はい。上に数字を書いたダイヤルが付いておりまして、5、10、15、20、25、30、これが未来の年数ですね、目盛りを合わせまして、対象を双眼鏡で見ますとその対象の未来を観ることが出来ます、但し、十秒間で、使用回数は三回までとなっております」
「対象は何でも可能なんですか?人でも?」
「はい、自分を見ることは出来ませんが」
「なるほど。しかし、さきほどからどの商品も使用可能回数が決まってるのですね、しかも少ない」
「さようでございますね、その点はきちんと説明いたします。
この店の商品は一つを除いて、全てある研究所で研究、開発、製作されております。所長は八十五歳でございますが、現役で研究所をまとめております。その所長の、『これらの物は、決して何回も使うもんじゃない、何回も使えば、必ず使った人の何かを駄目にしてしまう。三回も使えれば十分なはずだ』との強いポリシーのもと、製作されているのでございます。」
「なるほど」
ここで何かがチカッと私の中で閃いた気がしたのだが、それを遮るかのように、女将が次の商品の前へ進んでいった。
「こちらは、再会機。会いたい人に再び会える装置でございます、使用回数は一度となっております」
もう驚かなかった。
小型のプロジェクターのような装置を見つめた時、先ほどチカッと閃いたものが言葉になった。けれど、口にはせずにいた。
なんだか疲れてきてもいたのだ。
黙っている私の様子が伝わったのだろう、
「次が最後の商品になります。こちらは作られたものではございません」と
女将は更に涼やかでやわらかい声で私を商品の前に連れていった。
石?
サイコロのような一センチ程の立方体のものが、ピラミッド状に積んであった。「石?ですか?」意外なものに、少し声が出た。
「はい。月の石をサイコロ状に切ったものでございます」
「月の石?」
「左様でございます、こちらは作られたものではなく、先ほどお話しした所長が月旅行から持ち帰ったものでございますので、数量限定販売となっております」
数量限定販売、という言葉が可笑しくて、私は吹いてしまった。それを見た
女将がニッコリ笑った。それを見て少し楽になった私であった。
「さて、これで全ての商品の紹介は終わりでございます、あらためまして、何かご質問等ございますか?」
「売れ筋の二番目は双眼鏡とおっしゃっいましたが、一番は何ですか?」
「再会機でございます」
なるほど、過去や未来か。
「他に質問等が無いようでございましたら、別室にお茶の用意がしてございますので、そちらで購入商品を決めて頂くお時間が取れます、もちろん何も購入されないというお返事でも結構でございます」
「いや、もう決めました、この月の石を頂いていきます」
「承知致しました」
女将は軽くお辞儀をするとそれだけ言って店の奥へ入っていった。
女将が戻ってくる間に、私はもう一度それぞれの商品を見ながら店内を回った。
戻ってきた女将は小さな箱を手にしていた。石を入れる為だろう。しかし私は積んである中から一つ選ぶと
「包装は結構です。このままポケットに入れていきます」
女将に告げた。
「承知致しました。ではお支払いをお願い致します」
女将の持つ皿に、私は百万円を置いた。
慣れた手つきで数え終えた女将は、姿勢を正し、
「ありがとうございます」と美しくお辞儀をした。
店を出ると夕暮れだった。
夢の中にいたようだった。
いや、夢の中にいたんだな、人が叶えたい夢が揃っている中に。
夢、というか、欲、か。
私は右ポケットの中の石を指で転がしながら、帰途についた。
(了)