
「 染まる色、選ぶ色 」 【 #創作大賞2026 】
◇◆◇ はじめに ◆◇◆
これは「僕の理性は彼女で出来ている」の
派生系としての短編小説です。
その時の心情を彼と彼女の視点別で
物語っています。
[~彼Saide]
あの日以来。
エフォートレスな外見とは裏腹に
僕に対する彼女の感情はあからさまだ。
僕は再起動を失敗した。
メトロノームみたいに時を刻む彼女の呼吸に
気付いたら重ね合わせてしまっている。
自分の選んだマグカップに彼女が唇を
寄せるたび喉を鳴らす音が、やけにリアルで。
引き戻されるみたいに、上がりかけた熱に
気付いて、慌てて視線を逸らしてしまった。
先に手に取ったピンクのマグカップは
彼女を連想させる物だった。
「……。」
瞬時に警告音が鳴り響きそうで、
鼓動が速くなるのがわかった。
無駄だと知りながらブルーを選んだのは
僅かな抵抗だったのかもしれない。
焦るように入れ直したPCの電源で、
僕の理性は辛うじて保たれた。
懐柔するのが上手い彼女と
懐柔されてしまった僕。
甘く侵略されたその心地よさは、
悪い気がしなかった。
僕は薄紅色に染まった彼女の頬と
窓から見える風に揺れながら咲き誇る桜を
ローテーションに眺めながら、こう思っていた。
彼女は僕の理性そのものだ。
きっとこれからも、彼女の仕草一つで
気持ちが揺らぐんだろう、と。
Fin.
[~彼女Saide]
彼の理性を揺るがすのに物理的なノイズ
(置いてきたピアス)は、かなり有効だった。
直前まで皺1つ許されていなかった
彼のベッドは互いの熱で上書きされ
無機質な彼の部屋に彩りを与えていた。
彼のPCはスクリーンセーバーさえ
起動していない。
無感情を装うように、自ら電源を
落としたのだろう。
そんな彼を想像して、口元が緩んだ。
彼のキャンバスは初期状態(ピュア)。
彼は関わる物一つで何色にも染まる。
そのままでいて欲しいと思う反面、
それを最初に彩付け出来るのが
自分だと確信して嬉しくなった。
そこには、嬉しさが隠しきれない自分と
冷静に俯瞰している自分がいた。
それを見ている自分が更にリアルだった。
「これ…買ってくれたの?」
ピンクじゃなくて薄いブルーを
選ぶあたりが、いかにも彼らしい。
彼が選んだ寒色系のマグカップ。
自分が色を選んでしまっている事に
気付いてるだろうか。
「必要でしょ」
そう言いながら、彼は恥ずかしそうに
視線を反らして抵抗するかのように
再びPCの電源を入れた。
この浅瀬(シャロー)に身を委ねる心地よさを、
最後まで手放せずにいたのは自分自身だった。
Fin.
◇◆◇ あとがき ◆◇◆
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
本編とこの作品が私の手元を離れた今、
これで2人の物語りは終わったんだと思います。
タイミングがあれば、なぜこの物語を書いたのか?を、書きたいと思います。
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