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【お題】この絵を小説にしてみて

試行錯誤中のLaLaLaです。
Kindle出版に向けてこの奇妙が画像をイメージに所小説を書き始めました。
プロットは朝完成してやっと序章が完成しました。

序章 匣を開けた者

何世紀ものあいだ、その場所は忘れられていた。

森の底には、名前がなかった。地図にも載らず、人の口の端にものぼらず、ただ在った。陽の光は幾重にも重なった梢に吸われ、地面まで届くころには、光ですらない、湿った灰色の気配に変わっていた。空気は水を含んで重く、吸い込むと肺の底に苔の匂いが沈んだ。

古木の根が、地面をのたうっていた。それは木の一部というより、土の下でゆっくりと蠢く、巨大な生き物の腸のようだった。根と根の隙間から黒い水が滲み、時おり、ぷつりと泡が浮いては消えた。何かが常に、そこで息をしていた。

その中心に、女がひとり座していた。

名をエルザといった。いつからそこにいるのか、彼女自身も覚えていない。膝を抱え、背を丸め、まるで土から生えた瘤のように、動かなかった。髪は夜よりも暗く、腰まで垂れていた。そしてその一房ごとに、房の隅々に至るまで、無数の眼が宿っていた。

眼は、閉じることを知らなかった。あるものは虚空を見つめ、あるものは互いを見つめ合い、あるものは、髪の奥で静かに濡れていた。いつからこの眼があるのか。なぜあるのか。問うことを、彼女はとうに忘れていた。眼は彼女のものでありながら、彼女のものではなかった。眼は、ただ見た。

エルザの目の前に、木箱があった。

硬い土に半ば埋もれ、長い歳月に黒ずんでいた。表面には金属の象嵌で、文字が刻まれている。指で苔を払うと、その一文字ずつが、鈍く光を返した。

『SECRETA MYSTERIA』——秘められたる神秘。

それは警告だった。同時に、誘惑だった。閉じられているという事実そのものが、開けることを求めていた。何百年も、この森は、この一行を読める者を待っていたのかもしれない。そして、待たれていたのは彼女だった。

エルザは、節くれ立った指を蓋にかけた。

指先が、乾いた木の感触を捉えた。何百年も外気に触れず、閉じ込められていた木肌。その乾きが、彼女の指の腹から、腕へ、肩へと這い上がってくる気がした。開けてはならない。どこかで、髪の眼のひとつがそう囁いた。だが別の眼が、開けろ、と言った。開けろ。見せろ。すべてを。

彼女は、蓋を押し上げた。

音は、なかった。

ただ、何かが弾ける確かな感覚だけが、森を貫いた。糸が切れるような、あるいは、長く止めていた息が漏れるような。その一点を境に、世界の均衡が傾いた。

箱の底から、虹色の霧に似た何かが溢れた。それは霧のようでいて、確かな質量を持っていた。渦を巻き、盛り上がり、みるみる育っていく。エルザの目の前で、それはもう霧ではなくなっていた。

一本の、樹だった。

中央に、巨大な一つ眼を核として持つ。そこから幹が伸び、枝が分かれ、枝の一本一本に、無数の小さな眼が果実のように茂っていた。それらが、いっせいに開いた。数千の、数万の眼が、エルザを見つめた。

いや、彼女を見つめているだけではなかった。

匣から解き放たれた視線は、彼女を素通りし、森全体へと瞬時に伝播していった。古木の幹に、泥の斜面に、剥き出しの岩肌に、宙に浮いたままの木の葉に。触れるそばから、眼が芽吹いた。開いた。潤んだ。森じゅうの表面という表面から、眼が生まれ、そのすべてが、匣の中心の一つ眼へと繋がっていった。

森が、ひとつの巨大な視覚器官になった。

天が、裂けた。

重く垂れこめた梢の、そのさらに上。雲の隙間から、地上を見下ろす巨大な眼が現れた。天の眼。それは瞬きひとつせず、開かれたばかりの森を、静かに睥睨した。

光の奔流が、降り注いだ。

それは地上の眼を焼き、貫き、そして融合させていった。エルザは、自分の身体が、その光の中で分解されていくのを感じた。指の先から、髪の一房ごとの眼から、皮膚が、肉が、意識が、ほどけていく。痛みは、なかった。あったのは、ただ果てのない解放感だった。隠すものが、もう何ひとつ残っていない。見られない不安も、見せる恥じらいも、境界そのものが溶けていく。

髪の眼と、森の眼と、木の眼と、天の眼と、そして彼女自身の意識が、ひとつの巨大な「視」へと統合されていった。

彼女はもう、エルザという個ではなかった。

見つめる者であり、見つめられる対象だった。暴く者であり、暴かれる真実だった。彼女は、世界そのものになった。かつて秘密だったもの。かつて神秘だったもの。それらは今、すべて、開かれた。箱の表面の刻印は、もう読めなくなっていた。読む者と読まれる文字の、区別が消えたからだった。

光が去ると、森に、元の闇が戻った。

だが、以前とは決定的に違っていた。風の音がしなかった。虫の羽音もしなかった。湿った土が崩れる、あのかすかな音すら、もうしなかった。完全な、絶対の静寂が、そこを支配していた。

エルザの姿は、どこにもなかった。

彼女が座していた場所には、身にまとっていた黒い布切れが、燃え尽きた灰のように散らばっているだけだった。その中央で、役割を終えた木箱が、ぽっかりと口を開けていた。

森に宿った数千数万の眼は、光が消えても、消えなかった。もう瞬きもせず、蠢きもしない。ただ、エルザの消えた空間と、開かれたままの匣を、じっと見つめ続けていた。

天を見上げれば、雲の隙間に、あの巨大な天の眼の輪郭が、うっすらと暗闇に溶け残っていた。

地上と、天上。すべての視線が、交わされたまま凍りついていた。

この森を訪れる者は、もう二度と現れないはずだった。匣を閉じる者は、もう二度と現れないはずだった。

——はずだった。





AI(Gemini)で生成したオリジナル画像を使用しています。




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