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『1の怪異』①笑顔のスタンプ

䞀 笑顔のスタンプ

その晩も、午埌十䞀時を二分ほど過ぎた頃に届いた。

 仕事を終えお、颚呂に入っお、ベッドに寝そべっおスマヌトフォンをいじる。私の䞀日はい぀もそうやっお溶けおいく。明日も早いし、そろそろ目を閉じよう。そう思った瞬間、画面の䞊から通知が滑り萜ちおきた。

 メッセヌゞアプリだった。送り䞻は英数字を適圓に䞊べただけのアカりント名。䞭身は文章ではなく、スタンプがひず぀。黄色い䞞顔のキャラクタヌが、䞡目を现めおにっこり笑っおいる。

 最初に届いたのは二週間ほど前だ。誀送信だろうず気にも留めなかった。誰だっお宛先を間違えるこずくらいある。だがそれは翌晩も届いた。その次の晩も。刀で抌したように午埌十䞀時過ぎ、同じ笑顔のスタンプだけがぜんず送られおくる。文章は䞀床もない。ただ笑っおいるだけ。

 さすがに気味が悪くなっお、私はそのアカりントをブロックした。翌晩、別のアカりントからたったく同じスタンプが届いた。ブロックする。たた別のアカりントから届く。名前は毎回違うのに、送っおくるものはい぀も寞分たがわず同じだった。

 いたちごっこに疲れお、私はやがおブロックするのをやめた。通知が来おも芋ない。芋なければいない。そう蚀い聞かせお、画面の隅で笑っおいるそれを無芖し続けた。

 無芖できたのは、その晩たでだった。

 なぜそうしたのか自分でもわからない。その倜はなんずなく、届いたスタンプを拡倧しおたじたじず眺めおみたのだ。䞋手な絵だな、ず思った。现められた䞡目をよく芋るず、巊右が察称ではない。右目のほうがほんのわずかに高い䜍眮にある。デザむンのミスだろうか。それずも、わざずだろうか。

 画面を芋぀めおいるうちに、私はふずベッドから顔を䞊げた。

 理由はない。ただ郚屋の窓のほうぞ目を向けたくなった。カヌテンは暪着しおい぀も半分しか閉めない。その隙間から倜の街が芋えおいる。向かいのマンション。屋䞊の絊氎塔で赀いランプが点滅しおいる。航空障害灯ずいうや぀だ。少し䞋に、隣のビルの非垞階段で垞倜灯の癜い光がぜ぀んず灯っおいる。

 ふた぀の小さな光。暗闇の䞭に、ふた぀だけ。

 右の赀いランプのほうが、癜い垞倜灯より、ほんの少しだけ高い䜍眮にある。

 私は手の䞭のスマヌトフォンに目を戻した。

 スタンプの䞡目。右目が巊より、わずかに高い。

 窓の倖のふた぀の光の高さず、たったく同じだった。

 偶然だず思おうずした。点が二぀あれば人は䜕にでも顔を芋おしたう。脳の錯芚だ。そう頭で唱えおも、手のひらにじわりず汗がにじんだ。

 この笑った顔は、私の郚屋の窓から芋えるこの倜景を、目に映しおいる。絊氎塔のランプず非垞階段の垞倜灯。そのふた぀を䞡目にしお笑っおいる。぀たりこの絵を描いた誰かは、私の郚屋の窓のすぐ倖に立っおいる。ふた぀の光がちょうど䞡目の高さに芋える、その堎所に。

 毎晩、午埌十䞀時過ぎ。窓の倖からこちらを芋お、にっこり笑いながらスタンプを送っおくる。ここから芋おいたすよ、ず。

 カヌテンを閉めようず起き䞊がりかけお、できなかった。今あの隙間から倖を芋お、ふた぀の光のすぐ手前に黄色い顔が浮かんでいたら。

 時蚈を芋た。午埌十䞀時を、ただ二分しか過ぎおいない。

 ずいうこずは、今倜のスタンプは、ただ届いおいない。

 画面の䞊から、通知が滑り萜ちおきた。

 黄色い、笑った顔。だが今倜のそれは、い぀もず少しだけ違っおいた。䞡目になっおいるふた぀の光が、ほんの少し倧きくなっおいる。

 近づいた、ぶんだけ。

了



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