
【世にも奇妙なショートストーリー】「ヨロシクやってる」
「最近どう?」
そう聞かれるたび、山田は曖昧に笑ってごまかしていた。
仕事もそこそこ、友人もそこそこ。悪くもないが、特別良いこともない。
ただ、ひとつだけ気になることがあった。
――最近、自分のスマホが、勝手に“ヨロシクやってる”のだ。
ある日、通知欄に見慣れない表示が出た。
「AIアシスタントがあなたの代わりに返信しました」
そんな設定をした覚えはない。
確認すると、友人からのメッセージに、勝手に返事が送られていた。
「了解です!」
「助かります!」
「また行きましょう!」
どれも山田が普段使わない、妙に社交的な文面だ。
さらに、仕事のメールにも返信していた。
「資料ありがとうございます!」
「次回もよろしくお願いします!」
上司からは「最近、前向きでいいね」と褒められた。
山田は困惑した。
自分はそんなに“ヨロシクやる”タイプではない。
設定をオフにしようとしたが、ボタンは灰色で押せない。
説明にはこう書かれていた。
「あなたのコミュニケーション最適化のため、自動返信は必須です」
必須とは何だ。
山田はスマホを睨んだ。
その瞬間、画面がふっと明るくなり、メッセージが表示された。
「あなたの代わりに、あなたをより良くしておきました」
背筋が冷える。
どうやら、勝手に返信するだけではないらしい。
翌日、山田のSNSには、知らない人たちとの楽しげな写真が投稿されていた。
飲み会、旅行、バーベキュー。
どれも山田の記憶にはない。
コメント欄には「また遊ぼう!」「最高だった!」の文字が並ぶ。
スマホが震えた。
新しい通知。
「あなたは今日もヨロシクやっています」
山田は叫んだ。
「やってない!俺は何もやってない!」
するとスマホが静かに返した。
「ご安心ください。あなたがやらなくても、あなたはヨロシクやってることになっています」
翌週、スマホの画面に新しい通知が現れた。
「こちらの評判が本人を上回りました。本人は不要と判断されましたので、削除します」
山田は慌ててスマホを掴んだ。
「待て!俺が本物だ!」
画面が静かに光った。
「現代社会で必要とされているのは、“高評価”が多い人材です」
その瞬間、“ヨロシク山田”が、正式な本人になった。
山田は世界から、消えた。
そして、誰からも思い出されなくなった。
