
無人島に1つ持っていくことができるとしたら何を持っていく?
「無人島に1つ持っていくことができるとしたら何を持っていく?」
こんな非現実的で,想定したとて現実の生活は変わらない,そんな何らの生産性も見受けられないような質問に,少なからず辟易したことがあるだろう。
やれやれまったく,これだから素人は…。
ひと口に「無人島」と言っても,それは必ずしも気候が穏やかで牧歌的な南国の島に限らない。気温,湿度,天候その他の気象条件の他,利用可能な資源の種類・量,野生動物の存否,土壌(農業の適否),通信の可否など,数えきれない諸条件を考慮しないわけにはいかない。

生きるか死ぬか。それがたった1人,己の両肩にかかっているのだ。
実際に日本本土から遠く離れた無人島で何ヶ月も1人で食料を確保したり嵐を切り抜けたりとサバイバルをした経験を一切持たない私から見れば,決断は造作もないことだ。無理。そんな状況になったらもう無理やでホンマに。
いや…だってサバイバル経験が一切無いって言うたやんか。
この質問には卑怯なところがある
「無人島に何を持っていくか」,この質問にはひとつ,大事な視点が欠落している。
この問いでは一体何をゴールに定めているのだろうか。
いや,この問いは目的について何ら設定していない。到達すべき目標を定めない中で「とりあえず」と見切り発車している,そういうわけだ。
だがよく考えて欲しい。仮に「うーん,都会の喧騒を離れて山に登ろう」と考えた場合に,目的地,すなわち登るべき山を設定することなくして「とりあえず」家を出発するヤツがいるのか。
これでは食料も装備も不足していて,すぐに遭難してしまう。
この質問では,当事者が置かれた状況がわからない。ひょっとしたら都市部から船で10分とかいうエセ無人島かもしれないし,太平洋上の孤島かもしれない。置かれた立場によって,ゴールは全く異なるだろう。
しかしこの質問では,ゴールは何ら与えられていない。
だから例えば,出題者は長期生存をゴールに設定しているのに,回答者は大喜利をゴールに設定しているように,出題者と回答者との間でゴールがズレてしまうケースが頻出する。出題者は状況に即した賢い回答を求めているのに,回答者はしたり顔で「あきらめない心…かな?😀」とか答えてしまう。
滑っている。周りの雰囲気や空気感そっちのけで,なんて一人よがりな回答だ! 滑っているんだ。その結果,双方の間でなんとも言えない非常に気まずい雰囲気が出来てしまう。大丈夫,無人島に一人で投げ出されたら,そんな地獄みたいな空気なんて存在しないから。なぜなら自分一人だからねェ!!!!
質問者も回答者もズレている
この質問はきっと,学校や広く社会で共有されているものと思う。
しかし質問する側も,回答する側も,ともにどこかズレているような,そんな奇妙な感覚に陥る。
なぜ,無人島に到着する前しか想定していないのか。
「うーん,何を持っていこうかなー」と首をかしげて考えている人を見たことがあるだろう。この時点で,頭の中は無人島に行く前のシチュエーションだ。まだ安全なところにいる。
違うだろう!
無人島は,行ってからが本番だ!
「えー,釣り竿とかそんなん現地で調達できるんちゃうーん」とか甘っちょろい。無人島をナメすぎだろう。そんな想定では二日と生存できないじゃないか!!!!1
やはり場面設定,そしてゴールを明確に定めなければ,「無人島に何持っていくぅ~???」というこの悪魔的な質問には答えられない。
場所を設定しよう。ブーベ島だ。
南大西洋に位置する,ノルウェー領(ノルウェー!?)の火山島。最も近い陸地は南極大陸で,その距離,なんと1,700km。もちろん無人島だ。地球上にこれ以上の無人島はない,知らんけど。

島の大部分は氷河らしい。

「いつ見慣れた自宅に戻ることができるか分からない状況の中,生存すら危ぶまれる無人島で期間の定めなく長期にわたって生存し続ける」。
シチュエーションも,そしてゴールも設定できた。こうして舞台は整ったのだ。
これでようやく,私を長年悩ませ続けてきた質問に答えることができる。
「無人島に1つ持っていくことができるとしたら何を持っていく?」
ブーベ島。とにかく人のいる世界から最も離れた無人島の1つであり,環境も過酷を極める。そんな中でひたすら長期にわたって生存してゆくために,たった1つしか持っていけないというのか。うーん,何がいいかな……こ,こんなの絶対に無理や…..
しかし質問者よ,ブーベ島にいる時のように少し頭を冷やして考えてみたまえ。この問題に回答したからといって,それが一体何になるというのだ? 世界は少しでも良い方向に向かうかね。止まらない民族紛争,防ぎようがない気候変動,ますます増大する貧富の格差……。今もなお刻々と時計の針は進み,助けを求める人で溢れかえっているのだ。時は争う。1日,1時間,1分,1秒。進む時間は止められない。こんなくだらない質問で時間を浪費するなんてなんたる怠慢だ。自己満足で終わるものほど傲慢なものはないぞ。よくよく考えたまえよ。
結論としては,まァ「あきらめない心…かな?😀」。