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「引きこもり」「介護」「8050問題」に真っ向から向き合う、俳優座『猫、獅子になる』

    作:横山拓也(iaku)
    演出:眞鍋卓嗣
    2023年、第30回読売演劇大賞の優秀作品賞、優秀演出家賞、優秀スタッフ賞の3部門を受賞。演劇鑑賞会の中部北陸、長野、静岡の3ブロックが、全国で初めて合同例会として取り組んだ作品というので興味津々で拝見してきました。

    中学時代の演劇部の発表における諍いが原因で不登校となり、50歳になってなお実家の自室にひきこもる美夜子。世話をしてきた高齢の母の体調不良から、美夜子の妹家族が実家に引っ越してくる話が浮上。宮沢賢治の寓話「猫の事務所」とともに、家族と社会・現在と過去を紡ぎ描かれるヒューマンドラマ。

    8050問題に迫りながら、射抜く「現在」——。

    劇団俳優座HPより

    80代の親が引きこもりの50代になる子供の世話をしながらやがて生活が煮詰まるという、昨今話題になっている8050問題が軸になった物語。
    80代の母親の役を、今年2月読売演劇大賞・最優秀女優賞を受賞された岩崎加根子さんが演じています。
    母親が大腿骨を骨折して、引きこもりの長女の面倒をみられなくなったので、次女が呼ばれるところから物語は始まります。

    50過ぎた長女が引きこもる原因となったのは、中学時代の演劇部の活動で当時いじめられていた同級生を救おうとして、逆に演劇部の顧問に追い詰められたことがきっかけでした。
    次女は夫と娘の3人暮らし。コックの夫は失業してるし、娘は劇団で演劇活動しながらバイトしている様子。実家にあまり寄り付かず、用があるときは娘に言伝たりして、引きこもる姉にも長く会っていない。それでも家をもらえるなら親の介護付きでもいいかなとか言うんですね。でも引きこもる姉の面倒はみたくないから施設に預けようか・・・次女の言い分はリアルです。

    次女夫婦の娘の劇団は、学校公演を控えていて宮沢賢治の『猫の事務所』を上演しようとしていました。引きこもる長女が中学時代に文化祭で上演しようとしたのもこの作品。ここで、もう一つモチーフとなった「いじめ問題」とつながるんですね。
    ちなみに、『猫の事務所』はこういうお話。

    猫の歴史や地理に関する情報が蓄積された猫の事務所には、1匹の事務局長と4匹の書記がいます。書記は優秀な猫にしか就けない職で、猫たちみんなの憧れでした。4匹の書記のうち、かま猫が四番書記を務めています。かま猫とは、猫の種類ではなく、夜に竈に入って寝る癖があって、いつも煤で真っ黒に汚れている猫です。その見た目から他の書記たちに嫌われ、いじめられています。いつも事務局長が庇ってくれていましたが、あるとき、かま猫が風邪で1日仕事を休んだ際、いじわるな同僚たちが嘘の話をし、事務局長がそれを信じてしまいました。翌日、かま猫はみんなに無視され、仕事も与
    えてもらえず、ずっと下を向いて泣いていました。その様子を外の窓から見ていた獅子(権威の象徴)が、事務所の解散を命じる⋯というお話。

    パンフレットの、横山拓也さんの文章より


    脚本の横山拓哉さんらしく、ユーモアのある会話劇は笑いも多いのですが、シリアスな会話が続くと客席の空気が張り詰めてきて・・・中学生時代と現代とシーンが行き来し、50を過ぎて引きこもる長女がどうやって外に出るきっかけを掴むのか・・・ちょっとご都合主義な?ストーリー展開ではあるけども、家族みんなの未来がみえてくるラストはしみじみしました。
    姉を施設に入れようとしたりする狡猾そうに振る舞う次女が、実は、姉の引きこもりのために我慢してきたことがあったこともわかります。自分も演劇をやりたかったのにできなかった、早く家を出たかった、姉に母を独占された・・・という本音を言うところで、うるっと来ましたね。
    「私にも母さんを介護させてよ」 あぁ、そうやったのか~って。

    それにしても、50を過ぎて引きこもってる姉が、ずっと中学のジャージを着てるというのもリアルでしたね(苦笑)・・・そして、長女が引きこもる原因となった無責任な中学教師がめっちゃ嫌なやつで~~ ラスト近くに、いじめられてた同級生(いい人)を演じてはりましたけど~
    ほんとにあんな先生がいたら許せないですよ!
    そして、失業してるけど、妻や娘を理解して支える、ええ人すぎる夫(こんな夫はそこらへんにはいてないと思うけど~)癒しでした~

    脚本の横山さんの作品は、俳優座の『雉はじめて鳴く』も拝見しましたが、演出もしている、iaku『モモンバのくくり罠』(鶴屋南北戯曲賞を受賞)、『流れんな』(紀伊国屋演劇賞個人賞受賞)が印象的でした。地方色があって特異なシチュエーションなのに、引き込まれていく家族の対話劇でしたね。この夏の舞台も楽しみです。

    演出の俳優座・眞鍋卓嗣さんも、今年読売演劇大賞で優秀演出家賞を受賞された売れっ子の演出家。鑑賞会の例会で何作か拝見しています。
    今回の舞台セットもユニークで、長机と椅子を使い、そこが次女の家のリビングだったり、実家であったり、学校の演劇部であったり、劇団の稽古場になったり。姉の部屋につながるドアがちょっと上の方にあるのも特徴的でした。
    来年の例会作品『閻魔の王宮』も楽しみです。

    とはいえ、モチーフとなった宮沢賢治の童話『猫の事務所』が未読だったので、最初はちょっとわかりにくくて・・・、実は下書き原稿ではラストが異なるとか。そこも、この物語のキモにもなってるような・・・なので、事前に知っておくともっとすんなり理解できたかもですね。

    『猫、獅子になる』
    5月18日 いなざわ市民会館

     
     
    大阪生まれの琵琶湖県民。テレビで見染めたイケメン俳優が舞台に出演することを知り、2006年、大阪ドラマシティで初観劇。想像力を喚起させる演劇の世界に魅せられる。以来、お財布と相談しながらのささやかな観劇生活。泣いたり笑ったり、心豊かな日々に感謝。ひこね演劇鑑賞会会員。

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