メインコンテンツへスキップ
見出し画像

死んだ友だちにLINEしたら返信が来た⑭

    久瀬 夏生

    少女の告白を聞きながら、男の胸にも複雑な感情が渦巻いていた。

    少女が去ってから、男の病室は静寂に包まれていた。点滴の音だけが規則正しく響いている。

    男は自分でも驚くほど動揺していた。少女の純粋な告白に心を打たれたのはもちろんだが、それ以上に、自分の中に眠っていた感情が呼び覚まされたからだった。

    実は男は、彼女のことが好きだった。

    大学時代から、ずっと。

    彼女が妊娠を機に結婚すると聞いた時、男の心は深く傷ついた。祝福の言葉を口にしながらも、胸の奥では激しい後悔に苛まれていた。

    離婚の知らせを聞いた時も、結局男は行動を起こすことができなかった。

    彼女ががんを患い、そして逝ってしまった。もう二度と、想いを伝える機会は来ないのだと思った。

    ところが、LINEのやり取りが再開した。男の心に、封印していた感情が蘇った。こんな形でしか繋がれないことが切なかったが、それでも彼女と話せることが嬉しかった。

    しかし、その相手は娘だった。

    20年以上想い続けた相手とは結ばれることなく、その娘から想いを寄せられる。こんな複雑な状況になってしまうなんて。

    42歳の自分と20歳の娘。年齢差は22歳。何より、娘は亡くなった親友の大切な子供だ。

    娘は母親とは別の人格だ。独立した一人の女性だ。なのに、母親の代わりのように思ってしまいそうな自分が嫌だった。

    考えていると、LINEが来た。

    「お礼を言えていませんでした。最後にお礼だけ言わせてください。ありがとうございました」

    男の電話番号を知っていたからか、娘のスマホから初めて、そして最後になるだろうLINEが届いた。

    男は返信をした。
    「僕は君のお母さんを愛していた。
    だから君に優しくできたのかもしれない。
    でも、それは君を傷つけることでもある。
    君には、君を君として見てくれる人が必要だ」

    メッセージはすぐに既読になった。
    返信はなかった。
    でも男には、それが最良の別れ方だと分かっていた。

    #創作大賞2025 #ミステリー小説部門

     
     
     
    東京大学卒 昼は “AIで遊ぶ”会社員、 夜は”AIで現実逃避する”小説家です。 ▼投稿内容 ・小説 ・ビジネスハック(主にAI) #AI活用 #業務効率化 #小説

    あなたへのおすすめ