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博士&猫先生 自己紹介

最近気になることを紹介しつつ自己紹介してください

森の朝。
まだ日の出からそれほど時間が経っていないというのに、博士はすでに机に向かっていた。
机の上には、薬草の標本、何冊もの分厚い本、昨日書きかけた研究ノート。そして湯気の立つ紅茶が一杯。
その隣では、三毛猫の先生が丸眼鏡を鼻先までずらし、椅子に丸くなっていた。
博士は今日も律儀にノートを開く。
博士「先生、今日は少し趣向を変えて、わたしたちの自己紹介をしながら、最近気になっていることについてお話ししませんか?」
先生「自己紹介とな。わしらはもう何度も会っておるではないか」
博士「そうですが、初めてここへ来た方には、わたしたちのことがよく分からないかもしれません。……それに、最近の先生が何を考えているのかも知りたいです」
先生はしばらく博士の顔を見つめた。
そして、ふっと目を細める。
先生「なるほどのう。つまり、わしの秘密を暴こうというわけじゃな?」
博士「えっ。秘密があるんですか?」
博士はすぐにペンを構えた。
先生「……冗談じゃ」
博士「先生、それは本当ですか?」
先生「今のは本当じゃ。秘密などないにゃ」
博士は少し残念そうにしながらも、
博士「なるほど……メモしておきます!」
と書き始めた。
先生は満足そうに尻尾を揺らした。


◆博士について

博士「では、まずわたしから自己紹介します」
博士は姿勢を正した。
博士「わたしは博士です。人間の青年で、年齢はだいたい二十五歳くらいです。一生懸命勉強して博士になったので、みんなから博士と呼ばれています」
先生「ちなみに、博士号を持っておるから博士というわけではないぞい」
博士「えっ?」
先生「自称じゃ」
博士「……先生?」
先生「冗談じゃよ」
博士は少し考えてから、またノートに何かを書いた。
博士「先生の冗談を真に受ける傾向がある……と」
先生「そこまで記録せんでもよい」
博士は森で先生と暮らしながら、薬草を調べたり、魔法について研究したり、さまざまな記録を取ったりしている。
魔法の森には、人間の常識では説明できないものがたくさんある。
しかし博士自身は、実は魔法がほとんど使えない。
それでも、観察し、記録し、比較し、考えることで、魔法の仕組みを少しずつ理解してきた。
博士「わたしは魔法そのものよりも、『なぜ魔法がそうなるのか』を調べるほうが好きなのかもしれません」
先生「それが、おぬしの良いところじゃのう」
博士「ありがとうございます!」
先生「ただし、高い木に登るのは相変わらず下手じゃ」
博士「……それは最近気にしています」
博士は真剣な顔をした。
博士「この前も薬草を採ろうとして、木の上で動けなくなりましたから……」
先生「わしが下から『飛び降りればよい』と言ったら、三十分も考え込んでおったな」
博士「だって先生、『たぶん大丈夫じゃ』とおっしゃったじゃないですか!」
先生「たぶん大丈夫じゃったじゃろう?」
博士「結果的には木の枝が折れて、下の茂みに落ちました」
先生「ほら、大丈夫じゃ」
博士「……なるほど?」
先生は満足そうに笑った。


◆先生について

博士は今度は先生のほうへ向き直った。
博士「では先生も自己紹介をお願いします」
三毛猫は小さな杖を抱え、堂々と胸を張った。
先生「わしは先生じゃ」
博士「それだけですか?」
先生「魔法の森に住む、賢くて偉大な三毛猫の先生じゃ」
博士「なるほど!」
先生「そして百年以上生きておる」
博士「正確な年齢は?」
先生「忘れた」
博士「……」
先生「百歳を過ぎると、細かいことはどうでもよくなるのじゃ。にゃん」
博士「なるほど……長寿の猫は年齢を数えなくなる、と」
先生「待て。一般化するでない」
先生は大きな丸眼鏡を直した。
賢く、知識が豊富で、魔法にも詳しい。
しかし本人はとても適当で、昼寝とお茶とおやつを愛している。
そして何より、博士の面倒を見ることが好きだった。
先生「わしの最近の楽しみは、博士が一生懸命に研究している姿を見ることじゃな」
博士「えっ……」
博士は少し照れたように眼鏡を直した。
先生「もっとも、最近は研究の合間に『おやつの時間ではないかのう』と言う回数が増えておるが」
博士「先生、それは研究ではありません」
先生「おやつの研究じゃ」
博士「そんな研究分野は聞いたことがありません!」
先生「わしが第一人者じゃ」


◆博士が最近気になっていること

博士「では、最近わたしが気になっていることを紹介します」
博士は一枚、新しい紙を取り出した。
博士「最近特に気になっているのは、『魔法と科学は本当に別のものなのか』ということです」
先生の耳がぴくりと動いた。
先生「ほう」
博士「魔法は不思議な力に見えます。でも、同じ条件で同じ魔法を使えば、ある程度似た結果が起きます。そう考えると、魔法にも何らかの規則があるのではないでしょうか」
先生「あるじゃろうな」
博士「やっぱりそうですよね!」
博士は嬉しそうに書き込む。
博士「つまり、魔法を完全に理解できれば、ある種の学問として整理できる可能性があります」
先生「ただし、魔法は『わからないこと』も含めて魔法じゃからのう」
博士「……それは重要ですね」
博士は少し考えた。
博士「すべてを説明できるようになることが、必ずしも理解することとは限らない……ということでしょうか?」
先生「そういうことじゃ」
先生は窓の外を眺めた。
森の木々の間を、朝の光がゆっくりと流れている。
先生「知らないものを知ろうとするのは良い。じゃが、知らないものを無理やり知っていることにするのはいかん」
博士は静かに頷いた。
博士「なるほど……これは大切なことですね。メモしておきます!」


◆先生が最近気になっていること

博士「では先生は、最近何が気になっていますか?」
先生はしばらく黙っていた。
やがて、真面目な顔で言った。
先生「最近気になっているのは……」
博士が身を乗り出す。
先生「おやつが少ないことじゃ」
博士「……」
先生「非常に重大な問題じゃ」
博士「先生、もっと学術的な話かと思いました」
先生「学術的じゃよ。『今日のおやつは何か』という問題は、日々の幸福に直結する重要な研究課題じゃ」
博士「先生……」
先生「それに最近、博士が研究に夢中で、おやつを忘れることがある」
博士「えっ」
先生「わしは寂しい」
その言葉だけは、いつもの冗談とは少し違って聞こえた。
博士は先生の顔を見た。
先生はすぐにそっぽを向いた。
先生「……まあ、わしは知らんにゃ」
博士は小さく笑った。
博士「では、今日のおやつはわたしが用意します」
先生「本当かのう?」
博士「はい」
先生「何を作る?」
博士「まだ決めていません」
先生「ならば急いで決めるのじゃ」
博士「先生、急かされるのが苦手なのでは?」
先生「わしが急かすのはよい」
博士「それはずいぶん都合がいいですね」
先生は満足そうに尻尾を振った。


森の朝は、少しずつ明るくなっていた。
博士は研究ノートを閉じる。
博士「こうして改めて自己紹介してみると、わたしはまだまだ知らないことばかりですね」
先生「それでよいのじゃ」
博士「先生は、まだまだ半人前だと思いますか?」
先生は博士を見る。
いつものように、とぼけた顔をしている。
先生「もちろんじゃ」
博士は少しだけ肩を落とした。
すると先生は、にやりと笑った。
先生「じゃが――半人前だからこそ、面白いんじゃよ」
博士は顔を上げた。
博士「……先生」
先生「わしもまだまだ半人前じゃからのう」
博士「先生は百年以上生きているんですよね?」
先生「年齢と完成度は関係ないにゃ」
博士はしばらく考えたあと、笑った。
博士「なるほど!」
そしてノートを開く。
博士「では、今の言葉もメモしておきます!」
先生「また書くのか……」
博士「はい!」
先生「ならばついでに、『先生はおやつを要求した』とも書いておくれ」
博士「それは研究記録ではありませんよ」
先生「わしにとっては重要な記録じゃ」
博士は笑いながらペンを走らせる。
森の中には、紙をめくる音と、猫の小さな笑い声が響いていた。
今日もきっと、博士は新しいことを一つ知る。
そして先生は、そんな博士を眺めながら――
誰にも聞こえないほど小さな声で、こう呟くのだった。
先生「……まあ、家族が一人おるというのも、悪くないもんじゃのう」
もちろん、その言葉を博士は聞いていない。
先生は少し照れくさそうに尻尾で顔を隠した。
先生「……さて、おやつじゃ」
博士「まだ朝ごはんを食べたばかりですよ、先生!」
先生「おやつの時間ではないかのう?」
博士「まだです!」
先生「そうかのう?」
博士「はい!」
先生「……では、あと十分待つとするかのう」
博士「先生、意外と素直ですね」
先生「わしは最初から素直じゃ」
博士は笑いながら、また一行メモを追加した。
「先生は、自分では素直だと思っている。」
森の朝は、今日も平和だった。