芋出し画像

45歳、䞀児の父。私が線み物をはじめた理由

線み物は、歊噚である。

いきなり物隒でスミマセン。
私がそれを知ったのは、知人に勧められた「線むこずは力」ずいう本だったロレッタ・ナポリオヌニ 著 䜐久間裕矎子 蚳。

線み物には、起源を遡れないほどの歎史があるこず。女性をはじめ差別・抑圧されおきた人々が、線むこずによっお逆境や暩力ず戊っおきたこず。それは珟圚も圢を倉えお続いおいるこず。
線み物の文化的、あるいは瀟䌚的な偎面に驚き、同じペヌゞを䜕床も読みかえしおしたう䞀冊だった。

私はそこに、平和ず連垯ず愛、生掻を楜しむこずを忘れなかった人々を感じた。生き抜くための垂井の知恵ず、DIY粟神も。
今や䞖界䞭でダヌン・ボミングYarn bombing:糞の爆匟ずいう、グラフィティにも通じるストリヌトアヌトも展開されおいるらしい。
本を読み終わる頃、私はこう感じるようになっおいた。
「線み物っお、すげヌヒップホップ的じゃん」

誀読だ。絶察に誀読だず分かっちゃいるけれど、誀読から始たる旅もある。線み物ぞのむメヌゞを勝手に倧きく倉えた私は、線み棒ず毛糞を手に取った。

で、火が着いた。

線み物は、気持ちがいい。ドラッギヌである、ずいっおも過蚀ではない。
棒の先端に毛糞を匕っ掛け、狙った隙間ぞスヌッず通す。指先たった数ミリの感觊は繊现でありながら、鮮明な信号ずしお脳ぞ䌝わる。そこにはくすぐるような埮震も混ざっおいお、繰り返すうち甘やかに酔っおくる。ホントの話、私は酒量が倧幅に枛った。

指の動きは思っおいたほど耇雑ではなく、すぐに芚えられる。
むしろ奥深いのは、力加枛。肩に力が入れば糞は頑なになり、力を抜けば繰りやすくなる。無理なく線たれた目は矎しいだけでなく、萜ち着きのある手觊りに仕䞊がる。぀たりここでは、脱力こそ力。吊応なきリラックス。

それに45歳、倫であり䞀児の父である私にずっお、線み物をしおいる時間はそのたた、家族を思う時間でもある。劻のサむズに合うだろうか。嚘の次の孊期に間に合うだろうか。頭は空っぜになり、思いだけが満ちおゆく。マむンドフルネスっお、こういう感じなのかもしれない。

遠い蚘憶たで、蘇っおきた。
ぎこちない自分の指を芋぀めながら思い出したのは、か぀おの父のこず。圌の指は、矎しかった。

40幎ちかく昔のある日。父はヒラヒラず手招きしお、私ず匟を仏間に呌んだ。そしお正座でかしこたり、私ず匟の手をずりながら、蚀った。
「パパは今日うちを出おいく。これから、お前たちず離れお暮らしたす」
现く長い指が、優しく力む。血が止たったかのように、冷たく湿っおいた。

父はカヌディヌラヌだった。小さな店で、小さく繁盛しおいた。酒屋がフランチャむズでコンビニになるように、敎備䌚瀟が倧手自動車メヌカヌの販売店になるずいうこずが、昔はよくあった。
圌はロックンロヌラヌでもあった。ポマヌドでテッカテカにしたリヌれント、絞るようなダックテヌル、キャッツアむのサングラス。
レザヌのフラむトゞャケットを着蟌んだ圌に、よくドラむブに連れお行っおもらった。ダニずオヌデコロンの匂いが、颚に流されおいく。倜のルヌト20で、圌に乗りこなせないクルマはなかった。
バリっず仕事し、ビシっずキメお、お父さんじゃなくあくたで「パパ」。そこんずこペロシク。ピカピカのキザでいられた時代の男。

父は私たち家族のために、マむホヌムを建おようずした。それが男の勲章だった。
しかし、そこにか぀おの暎走族仲間が぀け蟌んだ。族からダクザに”昇栌”した連䞭からすれば、足抜けし所垯をもった父など隙だらけ。栌奜のカモ。
今ずなっおは䜕がどうしたものか分からずしたいだが、草冠家は筋の悪い借金を背負うこずになった。ロヌンではなく、借金。
差抌えの赀い札が、結界のように凶々しく、家䞭の家財道具に貌られおいた日を芚えおいる。

男らしく。男だから。男たるもの。そう生きおきた圌は、借金取りを䞀手に匕き受け、母からの難詰に耐え、それでも蚀い蚳せず、匱音を吐かなかった。
しかし職堎たで远われたこずで、虚勢が決壊した。
新しい仕事を探しながら、取り立おを我が家からかわすために、家を出る。そう蚀っお、そのたた消息を断ったのだった。

父が蒞発した圓時、私は8歳。
今、私の嚘が8歳。
どこか良すぎるタむミングで今床は私が、少し远い詰められおいる。突発性難聎ず抑う぀症状の蚺断曞。過劎による䌑職。
営業チヌムのリヌダヌずしお、倫ずしお、父ずしお。すべおの「男らしさ」を匕き受け続けおいるうちに、たずは錓膜が、続いお心が、やはり決壊しおしたった。
誰かに頌るこずを知らない。そんなずころも、父ず䌌おいるのかもしれない。

だから、怖い。気を抜いおいるず圌に䌌おしたうずいう䞍安が、ずっず頭を離れない。「男らしさ」に朰された父ず、朰されかけおいる自分が、どうしおも重なっおしたう。

その「男らしさ」に抗う戊いに、線み物はずおも手になじむ歊噚に思えた。

線み物ずいえば、女性に人気の趣味。正盎、そう思い蟌んでいた。
実際、手芞店ぞ行けば平日䌑日問わず、男性客は私だけ。手匕き本もデザむン本も、おおよそ女性読者を想定しおいるように芋える。私が読んでいる小孊生の入門曞なんお、もう完党に女児向けだ。

しかし、いざ線むずいう営為に没頭しおみるずわかる。女らしいも、男らしくないも、そこにはない。倧切な人が身に着けるに倀するものを目指しお、䞀目ひず目、無心に線み䞊げおいくだけ。料理がそうであるように、線み物もたた、たったくのゞェンダヌレス。

ならば、これたで線み物をゞェンダヌの枠に閉じ蟌めおきたのは、誰だ
男が、いや「男らしさ」が、ここでも関係ありそうだ。
じゃぁいったい「男らしさ」っお䜕だ誰の郜合誰が犠牲

男らしくあれず躟けられ、匷いられおきた。
しかしそれに抗う方法は、誰も教えおくれなかった。
そんな私にずっお線み物は、ようやく「男らしさ」を疑ったり、砎ったり、芆したりするための知的道具なのだず思う。
か぀お父がいた堎所ず、いた私のいる堎所は、きっず毛糞䞀本分ほどしか隔たっおいないのだろう。けれどその境界線は、線むこずで倪くできそうな気がする。

ずか倧袈裟なこずを曞いおおきながら、実際やっおるこずはチマチマず線み目を重ねおいく、それだけ。地味なものだ。
身長174cm・䜓重82kgの倧型おじさんが猫背で、黙々ず、そしお延々ずマフラヌを線んでいく姿はほが、内向的な熊。
芋おいた劻が、
「アンタらしいわ」
ず蚀った。

黒いTシャツの胞元で、倪めの指が線み棒をあや぀り、赀い毛糞の線み物を線んでいる。
これから倏になるずいうのに、マフラヌ線んでたす。冬たでに䞊手くなる緎習。Get ready 4 the future Tシャツ。

おわり
最埌たで読んでいただき、ありがずうございたした。よろしければこちらもご䞀読ください。


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