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【創䜜倧賞2024応募䜜恋愛小説郚門】リスト 

    来戞 廉

    


    平成二十六幎四月末

     矎枝子は六十歳になったのを機に婊長の職を蟞した。ただ看護垫は続けるが、これからは少しのんびりできる時間がほしいず思ったからだった。
     これたでは、い぀緊急に呌び出されるか分からないから、倫婊で遠出するこずもほずんどなく、泊り掛けの旅行もできなかった。
     二幎前に退職した倫粟䞀は、先茩の郜築次郎さんず二人だけの䌚瀟を䜜っお、以前ほどではないにせよそれなりに忙しく動いおいる。
     それでも矎枝子の還暊を祝っお二泊ぐらいの枩泉旅行には行けるだろうず粟䞀ず話しおいた。


     そんな矢先。
     矎枝子は自分の䜓調に異倉を感じた。症状からしお最悪の堎合が想定された。矎枝子は䌑みを取っお二駅先の䞉田病院を蚪ねた。
     怜査の結果、膵臓がんず蚺断された。他の臓噚にも転移が芋られ、手術もできない状態だった。䜙呜半幎ず告げられた。
     今埌は曎に䜓調が悪化し、仕事にもかなり支障が出おくる。矎枝子は婊長に蟞意を告げた。医療に携わる者ずしおのけじめだった。
     ――䜓が利くのは二、䞉ヶ月ほど。あたり時間が残されおないわ。
     矎枝子にはその間にやらねばならないこずが幟぀かあった。


     矎枝子はたず嚘の亜垌子の支持を埗おおきたかった。圌女に自分亡き埌のこずを蚗しおおかなければならない。
    「膵臓がんなの。党身に転移しおいお手術もできないみたい」
     矎枝子は、亜垌子に単刀盎入に病気を打ち明けた。
    「そんなあ」
    「攟射線治療は拒吊したわ」
     電話の自動案内のように感情の抑揚がない自分の声を、矎枝子は䞍思議な気持ちで聞いおいた。
    「どうしお」
    「治る可胜性があるなら治療するけど、本の少し延呜するだけの治療は受けたくない。蟛くお苊しいだけだもの。で最期に苊しむのは、やっおもやらなくおも同じだし」

     亜垌子も看護垫だからその蟺りのこずは分かる。亜垌子自身、䜕床か最期を看取ったこずもある。家族は䞀分䞀秒でも長く生きおいおほしいず願うが、同時にそれは患者の痛みや苊しみを長匕かせるだけではないかず亜垌子は思っおいた。でも身内のこずずなるずその考えがぐら぀いおくる。やっぱり治療を受けお少しでも長く生にしがみ付いおほしいず願う。

     亜垌子は泣いた。声に出さずに泣いおいた。き぀く握りしめた拳が膝ひざの䞊で震えおいた。
    「お父さんにはもう話したの」
     亜垌子は涙を流れるたたにしおいた。矎枝子は黙っお銖を暪に振った。
    「じゃあ、私にだけ」
    「そう。そのうちお父さんにも話すわ。だから今日のずころはあなたの胞に仕舞っおおいお」

     亜垌子は堪こらえきれず嗚咜おえ぀した。䞀頻ひずしきりしお顔を䞊げた時にはい぀もの亜垌子に戻っおいた。
    「ありがずう。話しおくれお」
     亜垌子が手を䌞ばしおティッシュ数枚を矎枝子の頬ほおに圓おる。その時になっお初めお矎枝子は、自分も亜垌子ず同じくらい涙を流しおいたこずを知った。


    「今日、うちでご飯食べおいかない」
    「ありがずう。でもたたにするわ。お父さんの倕食、甚意しおいないもの」
    「お父さん、倧手を振っお倖で飲めるから、喜ぶんじゃない」
     矎枝子は呌ばれるこずにした。

     亜垌子が倧茔や亜由矎ず食卓を囲んで談笑しおいる。矎枝子はそれを埮笑みながら眺ながめおいた。
    「おばあちゃん、今日は静かね」
    「あら、私はそんな賑にぎやかしじゃないわよ」
     亜垌子が柔らかい県差しを矎枝子に向ける。矎枝子は胞が熱くなった。

     矎枝子はそれを隠すように、
    「亜由矎ちゃん、ボヌむフレンドはできたの」
     ず話を振るず、䞀瞬亜由矎の息が止たる。
    「えっ、そうなのか」
     倧茔は心配そうな顔で亜由矎ず亜垌子を亀互に芋る。
    「嘘よ、嘘。お父さん、おばあちゃんに揶揄からかわれたのよ」
     亜由矎の笑い声が党員に䌝播しお、堎がほのがのず暖かくなる。

     矎枝子はそれを芋ながら、䞀家団欒だんらんのドラマをテレビの画面越しに芋おいるような気がしおいた。


     家に垰るず、粟䞀は亜垌子の思惑通り倖に呑みに出掛けおいた。
     ――亜由矎の花嫁姿を芋たかったなあ。
     ふず矎枝子の頭にそんな思いが浮かぶ。途端に死ぬこずが恐くなっお、泣き叫びそうになった。

    ■

     䞀ヶ月ほどしお、倧茔達が山村宅の近くに匕っ越しおきた。
     亜垌子は倧茔にも話したようだ。しかし矎枝子に接する二人の様子は以前ず倉わらない。
     ――亜垌子は私の思いを理解しおくれたのね。 
     矎枝子はありがたいず思った。

     皋なくしお、矎枝子は篠田病院を退職した。

    ■

     退職から数日埌。
     矎枝子は、朚䞋家を蚪ねた。亜由矎が䞀人で留守番しおいるこずは確認枈みだった。朚䞋家たで五癟メヌトルもない。だが着く頃にはかなり息が䞊がっおいた。明らかに䜓力が萜ちおいる。

     矎枝子が蚪おずないを告げるず亜由矎が顔を出した。
    「あら、お母さんはいないわよ」
    「いいの、亜由矎ちゃんに甚があっお来たの」
    「蚀っおくれれば、私が行ったのに」
    「ありがずう。優しいね。いいのよ、健康のため少しは歩かないずね」

    「おばあちゃん、この頃少し倉わったね」
    「そう。ちょっず痩やせたからね」
     確かに䞀ヶ月ほど前に䌚った時に比べお少し现くはなったように芋えるが、それだけではない。
    「優しくなったみたい」
    「あら、私が今たで優しくなかったみたいじゃない」
    「そうじゃないの。䞊手く蚀えないけど」

    「冗談よ。それより、ねえ亜由矎ちゃん、頌みたいこずがあっお来たんだけど、聞いおくれる」
     矎枝子の蚀葉に有無を蚀わさないものを感じお、亜由矎は身構えた。
    「䜕」
    「これなんだけど」
     矎枝子は䞀通の封曞をテヌブルの䞊に眮いた。
    「これをこの人に盎接枡しおもらいたいの」

     亜由矎はそれを手に取った。宛先はなく『杉本隆様』ずだけある。
    「誰 この人。おばあちゃんの初恋の人ずか」
    「さあどうかしら。そのうち分かるから。いいこず、必ず盎接手枡しおほしいの。頌める」
    「いいけど。でも自分で枡せばいいじゃない」
    「それはそうだけど。たあ色々あるのよ」

    「やっぱり今日のお祖母ちゃん、倉よ」
     ず亜由矎は蚝いぶかしがるが、
    「人間い぀どうなるか分からないでしょう。だから今のうちに䞇が䞀に備えおおくのよ」
     ず矎枝子は軜く受け流した。
     亜由矎は蚳を聞きたかったが、祖母は䞀床蚀わないず決めたら、口を開かせるのは難しいず知っおいる。远求はあっさりず諊めた。

    「うん、いいけど。でもどうしおお母さんじゃなくお、私なの」
    「あの嚘は根掘り葉掘り五月蠅うるさく聞いおくるからね。それに䞀旊匕き受けるず、あの嚘は䞀所懞呜になり過ぎお、呚りが芋えなくなるこずがあるの。限床を知らないっず蚀うか、無理もするしね」

     亜由矎は、母が䌚長を匕き受けた時のこずも思い出しお、なるほどず思う。あの時は私が恥ずかしくなるほど頑匵りすぎお、男の子達からはからかわれるし、女子達の䞭には少し距離を眮く子も出お、しばらく母ず口を利くのも嫌だったこずを思い出した。

    「あの嚘は、ほどほどっおこずを知らないのさ。その点、亜由矎ちゃんは倧䞈倫」
     亜由矎が頬ほおを膚らたす。
    「あっ、決しお亜由矎ちゃんがずがらだずか、いい加枛だっお蚀っおるんじゃないからね」
     ――蚀っおるじゃない。
     矎枝子は慌おお取り繕぀くろったが、亜由矎は確しっかり傷぀いた。

    「これだけは忘れないで。この人が珟れなければ、その時は誰にも芋せないで、こっそり凊分しおちょうだい」
    「どういうこず」
    「蚀葉通りよ。燃やすか、现かくちぎっお燃えるゎミの日にでも出しおちょうだい。いいこず、絶察䞭身は芋おはだめよ。どう、玄束できる」

     矎枝子は䞀旊蚀葉を切った。
    「このこずは、もし私が死んだずしおも必ず実行しおね」
    「死ぬっお  」
     亜由矎は絶句する。
     ――おばあちゃんが倉わったこずず関係あるのかも。
     矎枝子は冗談めかしお、
    「銬鹿ねぇ、もしもの時のこずよ。䞀皮の保険だず考えお。いい、分かった」
     亜由矎はこくりず頷いた。

     矎枝子は埐にバッグから甚意しおおいたポチ袋を取り出しお、
    「これ、お駄賃ね。倉なお願いだず思うけど、私にすればずおも倧事なこずなの。だから呉々くれぐれもお願いね。でも別に悪いこずじゃないから、心配しなくおいいのよ」
     ありがずう。亜由矎は蚀うなり、行儀が悪いず分かっおいおも、ポチ袋を開け䞭身を確かめずにはいられなかった。畳たれた玙幣に印刷されたずいう数字を芋た途端、亜由矎の顔がほころぶ。
    「うん。任せおおいお」
     亜由矎は胞を叩いた。忘れないように付箋ふせんに祖母の指瀺を曞き付け封筒に貌り付けた。


     でも、それが矎枝子の最埌の頌みになるずは、亜由矎は知る由もなかった。結局、矎枝子は䜕も教えおくれないたた他界しおしたった。

     煙に巻くような話し方は、以前から矎枝子がよくやる手だった。
     亜由矎を叱る時や泚意する時、母芪の亜垌子が盎接䞀々事现かに指摘するのに察しお、矎枝子はそれずなく亜由矎に気づかせるように遠回し的な蚀い方をした。
    「あっ、そういうこずか」
     亜由矎はしばらく経っおから埗心するこずがよくあった。

     だから今回もそうだず思っおいた。だが、いただに䜕も分からない。䜕も起こらない。
     矎枝子から堅く口止めされおいたから、母芪にも盞談できず、䞀人で悶々もんもんずした日々を過ごしおいた。

     しかしそれも぀かの間のこずで、矎枝子の芋立お通り、亜由矎はそのこずでくよくよず思い悩むこずはなかった。

    続く


     
     
     
    䞻に、短線、ショヌト・ショヌトを曞いおいたす。過去䜜、新䜜を亀えお公開しおおりたす。奜きな䜜家は、星新䞀、阿刀田高、サキ、池波正倪郎、柎田錬䞉郎、葉宀麟 他。