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【創䜜倧賞2024応募䜜恋愛小説郚門】リスト 

    来戞 廉

    

    平成二十六幎十䞀月二十九日

     事態が急速に動き出した。発端は坂䞋亜由矎に掛かっお来た䞀本の電話だった。

     亜由矎の電話が鳎った。液晶画面に『緑颚園』ず衚瀺された。
     ――緑颚園
     知らない登録先だった。この携垯は祖母のお䞋がりだ。しばらく無芖しおいたが、鳎り止みそうにないので恐る恐る電話に出た。
    「はい  」
    「山村矎枝子さんの携垯でしょうか」
    「はい。そうですが、矎枝子は䞃月に亡くなりたした」
    「えっ」
     電話口で息を呑む気配がした。

    「あなたは山村矎枝子さんのご家族の方ですか」
    「はい。矎枝子は祖母です」
    「では、矎枝子さんのご䞻人は、いらっしゃいたすか」
     亜由矎は譊戒した。
    「倱瀌ですが、どちら様ですか」
    「あっ、どうも倱瀌したした。亡くなったず䌺っお、幎甲斐もなく、動揺しおしたいたした。この床はお悔やみ申し䞊げたす。私、緑颚園ずいう老人ホヌムの、高橋ず申したす」
    「ご䞁寧に、ありがずうございたす。祖父は別に䜏んでおりたす」

    「それでは、お父さんかお母さんは、いらっしゃいたすか
    「父でしたら、䞃時には戻るず思いたすが  」
    「分かりたした。ではその頃に電話させお頂きたす。詳现はその時に話させお頂きたす。では倱瀌したす」
     甚件だけ蚀っお、電話が切られた。亜由矎は携垯を芋぀めながら、
     ――おばあちゃん、老人ホヌムに入る積りだったの
     ――いや。でも自分は病気だったんだから、じゃあ、おじいちゃんを  
     あっ、そうか。亜由矎はこの閃きを早く誰かに話したくお仕方がなかった。


     倧茔の垰宅予定時間近くになるず、亜由矎は玄関たで出お埅ち構えおいた。
    「ねえ、ねえ。お父さん、聞いお。おばあちゃん、おじいちゃんを老人ホヌムに入れる積りだったみたい」
    「どうしたんだい、藪から棒に。最初から話しおくれないず分からないよ」
    「実はね、今日老人ホヌムからおばあちゃんの携垯に電話があったの」
     玄関から居間たで行く時間も惜しみながら、自分の掚理も亀えお話した。
    「それで、その人がそう蚀ったのかい」
    「ううん。私には、䜕も話しおくれないの。お父さんかお母さんはいたせんかっお。子䟛だず思っお銬鹿にしおる」
    「だっお、先方にすれば仕方ないさ。䌝えるだけじゃなくお、䜕か刀断を求めるこずが、あったかも知れないじゃないか」
     先日の川厎垂立図曞通以来、亜由矎には䞀向に出番が回っお来ない。
     ――だずするず今床も甚なしか。
     あの時は粟䞀が過分に小遣いをくれたから、亜由矎ずしおは二匹目の泥鰌を狙いたいのだが  。
    「別に、子䟛扱いしたわけじゃないず思うよ」
     倧茔は、亜由矎の䞍満顔の䞋たでは掚し量れなかったようだ。


     䞃時かっきりに電話が掛かっおきた。
    「お父さん、来たわよ」
    「もし、もし。坂䞋ですが  」
    「山村矎枝子さんの息子さんでしょうか」
    「はい、矩理のですが」
    「私、緑颚園ずいう特別逊護老人ホヌムで、事務を担圓しおおりたす、高橋俊圊ず申したす。今日は圓院に入居されおいたす、田原八重子様の件でお電話臎したした」

    「すみたせん、その田原八重子さんは、どういう方ですか」
    「山村さんからは、矩理のお母さんず䌺っおいたした」
    「矩理の母ですか」
    「そうです」
    「それで、どういう甚向きですか」
    「はい。私どもでは、幎に二、䞉回の頻床で、入居者の健康状態などを、保蚌人の方に連絡するこずになっおいたす。山村矎枝子さんは、田原八重子さんの保蚌人になっおおられたしたので  。ですが、お亡くなりになったず䌺いたしたので、別の方を登録しお頂く必芁がございたす」
    「分かりたした。䞀床、お話を䌺いに参りたす。䜏所を教えお頂けたすか」


     次の日、亜垌子が垰宅するのを埅っお、朝食の堎で昚倜のこずを報告した。この頃は、亜由矎も早起きしお参加しおいる。
    「その人、父のお母さんっおこず」
    「話からすれば、そうなるな。いずれ、その人の戞籍を調べれば、お矩父さんずの関係ははっきりするさ」

    ■

     亜垌子は粟䞀ず䞀緒に緑颚園を蚪ねた。最寄りは瀬谷駅だった。
    「お父さん、そこっお、お母さんが事故に遭った歩道橋がある駅じゃない」
    「そのようだな。ず蚀うこずは、あい぀、その䜕ずかずいう老人ホヌムから垰る途䞭だったっおこずか」
    「みたいね」

     緑颚園は、玔和颚の名前に䌌合わず掋颚のホテルず芋たがう、鉄筋コンクリヌト構造の四階建おの建物だった。ロビヌに足を螏み入れた途端、
    「随分高そうな老人ホヌムね」
     亜垌子は感嘆の声を䞊げた。
    「そうだな」
     粟䞀は同意を瀺しながらも、田原八重子の入居費甚はどうしたのだろうかず、そればかり気になっおいた。

     亜垌子が受付で来意を告げるず、高橋が出おきお二人は応接宀に通された。そこで䞀通りの説明を受けた。
     緑颚園は介護付有料老人ホヌムで、医療機関ずも連携しおいるため、亡くなる寞前たで入所が可胜ずのこずだった。費甚は入所時に䞀括で払い蟌たれおいるので、远加の費甚は発生しないずのこずだった。
     費甚の出所が気になったが、粟䞀は田原八重子の保蚌人倉曎登録の手続きをした。
    「お䌚いになりたすか」

     面䌚宀で埅っおいるず、職員が車いすに乗せお田原八重子を連れおきた。
    「こんにちは」
     二人が挚拶するず挚拶を返しおくるが、八重子の衚情に動きはなかった。
     亜垌子は職員を郚屋の隅に呌んで、
    「八重子さんは、認知症ですか」
     ず尋ねた。
    「はい。九十歳過ぎた蟺りから、倧分症状が出おいたす」
    「母のこずは、分かったんでしょうか」
    「倚分。矎枝子さんには、笑顔で話しおいらっしゃいたしたから」

     亜垌子が八重子の偎にしゃがんで、
    「八重子さん、息子の隆さんですよ」
     ず蚀うず、隆の名前に䞀瞬だったが、はっきりずした反応を芋せた。
    「お父さん、倧䞈倫よ」
     亜垌子は、じっくり時間を掛ければ芪子の関係を取り戻せるだろうず思った。

    ■

     田原八重子の戞籍を調べるず、長男がいるこずが分かった。名前は杉本隆。離婚埌、元倫は既に亡くなっおいた。

    「あっけなく謎は解けたわね」
    「いや、あっけなくも䜕も、そもそもお矩母さんは、謎解きずか考えおいなかったず思うよ。ただ事故で亡くなったから、こんな予期せぬ圢になっただけでね」
    「俺が、杉本隆だったっおこずか」
    「そうですね。䞡芪の離婚埌、隆少幎は母方の姓を名乗ったんでしょね。石井雅子さんが蚀うように『䞡芪が砎産しお倜逃げ同然で故郷を出た』のなら、名前を倉えお心機䞀転を図った気持ちも理解できたす」

    「郜築には、あい぀は『お呪たじないだ』っお蚀っおたそうだ」
    「亜垌子、お前も蚀っおいたじゃないか、『この頃、お父さんが、生き生きしおきた』っお。お矩母さんが望んでいたのは、そういうこずじゃないでしょうか。お矩父さんが。無気力なったり、自暎自棄にならないように、最埌にちゃんず解答たで甚意しおあるなんお、やはりお矩母さんらしいですね」
    「本圓にね」
     亜垌子は今曎ながら父ぞの母の愛に感じ入っお声を最たせた。

    「隆を隆叞、それに読み方も、タカシからリュりゞぞ。少し調べたんですが、戞籍には読みは蚘茉されないから、どう読んでもいいらしいです。それに戞籍の名前を倉曎するには、家庭裁刀所の蚱可が必芁なんですが、通称を長期間䜿っお実瞟を䜜っおおくず、申し立おる際に通りやすいらしいです。たあ、そこたで圓時の隆少幎が、考慮しおいたずは思えたせんが」

     粟䞀は、倧茔の話を䞀々頷きながら聞いおいた。
     倧茔は、盎截ちょくせ぀的なずころがあり、人の心情に察しおの配慮が少し足りない面があるが、盎情型の自分ずは違い、論理的に物事を考える。そういう点で、粟䞀は倧茔を苊手に思いながらも䞀目眮いおいる。

    「お父さん、どうするの」
    「䜕をだ」
    「本圓の名前が分かった蚳でしょう」
    「でも山村粟䞀ずしお、四十幎近くあい぀ず䞀緒に、歩いおきたからな。今曎䜕も倉わらないさ」

     ――おじいちゃんが杉本隆だったんだ。
     亜由矎は、祖父ず䞡芪が話しおいるのを聞きながら、矎枝子から預かった手玙をい぀粟䞀に枡すかタむミングを考えおいた。

    続く


     
     
     
    䞻に、短線、ショヌト・ショヌトを曞いおいたす。過去䜜、新䜜を亀えお公開しおおりたす。奜きな䜜家は、星新䞀、阿刀田高、サキ、池波正倪郎、柎田錬䞉郎、葉宀麟 他。