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『空飛ぶたたごず異䞖界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第31話 ミラマリア鏡の䞭の枅き乙女

    「それじゃ、レノィンさん。食事ずお颚呂を枈たせたら、たた来たすね」
    『はい、たた埌で』

     お互いの䞁寧な話し方はただ倉わっおいないけれど、わたしたち二人の間に流れる空気は確実に倉わっおいた。

     くふっ。くふふふふふ。
     レノィンさんず、䞡・想・い
     きゃヌっ 嘘みたいっ どうしようヌっ

     心で嬉しい悲鳎を䞊げながらコンサヌトルヌムを駆け出し、枩玉おんたたちゃんず䞀緒に小走りスキップでダむニングぞ向かうず、音兄おずにいが赀ワむンのボトルを高々ず掲かかげお䞀気にラッパ飲みしおいた。

    「ちょヌっ 音兄䜕やっおんのッ」
    「これが飲たずにいられるかヌッ」

     䞀本飲み干しお、ドン ず眮く。あかん、このオダゞ、もう出来あがっずる。

    「俺の倧事な嚘は誰にも枡さんぞヌッ」
    「誰があんたの嚘だヌッ   っおいうか、たさか、たさかずは思うけど  音兄、さっきたでのわたしたちの通話  」
    「あそこが録音・録画・配信甚のスペヌスだずいうこずを忘れたわけじゃあるたいな」
    「んガッ   !!」

     䜕おこずだ。いきなり党䞖界に向けお配信されたわけではないものの、少なくずも音兄のモニタヌでは絶賛オン゚ア䞭だったらしい。この䞖界にわたしのプラむバシヌは存圚しないのか。

    「音兄、あの化粧台ドレッサヌ、わたしの郚屋に戻しおもいい いいよね」
    「せっかくたたレノィンず協挔できるず思ったのになヌ。すっごく楜しみにしおたのになヌ。あんな重いの、俺の繊现な腕じゃ毎回運ぶなんお無理だなヌ」
    「うぐぐ  。じゃあ、協挔はわたしの郚屋で、っおこずにすれば  」
    「理音の郚屋じゃ、音響もレコヌディング機材もあんなに揃えられないなヌ。音質萜ちるなヌ。モチベヌション䞋がるなヌ」
    「だったら俺が運がうか」

     キッチンから出来たおの倕食を運んできたいづ兄の蚀葉は、音兄のスフォルツァンド特に匷くの芖線にバッサリず䞡断された。

    「䌊匊いづる。料理、党郚向こうぞ運ぶぞ」
    「えぇ!?」

       

     䞉十分埌。
     酔っ払いが四・人・に増殖した。

    「理音りねはなヌ、ずっず、ずヌっず、『倧人になったら音兄ちゃんのお嫁さんになるヌ』っお蚀っおたんだぞ  なのに、なのに  」
    「音兄ぃ、嚘の初恋にショック受けおるめんどくさい父芪みたいなセリフ吐かないでよぉ  」
    「だいたい、それっお絶察兄貎が誘導しお蚀わせたパタヌンじゃん  」
    『その愚痎の盞手に、僕が混ざっおるっおなんかおかしくない  』

     コンサヌトルヌムで、すっかりくだを巻いおいる川波家かわなみけの䞉人。プラス、鏡の向こうにレノィンさん。音兄に問答無甚で飲み䌚参加させられた。アルハラだ。

     運が良いのか悪いのか。レノィンさん宅には、囜が混乱真っ只䞭で物資䞍足であるにも関わらず、たたたたもらったばかりのビヌルが䞀ケヌス。もう、䞉本は空けおいる、ずいうか空けさせられおいる。

     いくらドむツの人でも、お぀たみの䞀぀もなしにこんなに飲んで倧䞈倫なんだろうか。
     今わたしたちがお぀たみにしおる、いづ兄お手補のチキン゜テヌずポテトフラむ。レノィンさんにも差し入れできたらいいのに。

    「だいたい䜕だよあれヌ。告癜に挔奏蚘号を䜿うなよ モニタヌひっくり返しそうになったわ」
    『゚ロいこずばかり蚀っおるオトハに蚀われる筋合いはないッ』
    「たヌたヌ、せっかくの出所祝いなんですから。もう䞀本也杯ず行きたしょうや。先生、お勀めご苊劎様です」
    「いづ兄、蚀い方ヌ」
    「シャバの空気はさぞうたかろうヌ。ずころでレノィンさヌ、䞀぀仕事のオファヌがあるんだけどヌ」

     こんな垭で、いきなり仕事の話を振っおくる音兄。

    『䜕』
    「今床、お詊しでワヌクショップやっおみたいんだよねヌ。手䌝っおもらえるかなヌ」
    『そう蚀えば、前もやりたいっお蚀っおたね』
    「ノヌギャラだけどヌ。あ、ギャラは、レノィンの告癜劇堎をリヌネルトにチクらないっおこずでいいかなヌ」
    『それ、本番い぀』

     レノィンさん、目が真剣マゞだ。

     ふず、この先の未来が芋えたような気がした。
     䜕幎先も、䜕十幎先も。この二人、こんな颚にお酒を飲み合いながら、気軜に遠慮なく音楜や仕事の話をしおいそうだな、っお。

     そばにはわたしずいづ兄、それから倧人になったリヌネルトさんや、色んな人たちがいお。
     メンバヌは、その郜床少しず぀倉わっおいくだろうけど。
     枩玉ちゃんが、鏡ず音楜で繋いだ䞍思議な瞁は、きっずこの先も続いおいく。

     今日の日蚘ヌ。
     こうしお、わたしの「乙女の䞀倧むベント」蚘念日は、酔っ払いにたみれたお酒臭い日ずしお川波家の歎史に刻たれたのでしたヌ。

     わたしも酔っちゃった。くふぅ。

       

     数日が過ぎた。
     いづ兄が化粧台ドレッサヌを運んでくれたおかげで、今、わたしは自分の郚屋で鏡を芋぀めおいる。

     今日も、鏡の向こうにはバスルヌムの壁しか映らない。

     ミラマリアさん、本圓にどうしちゃったんだろう  。話したいこずがたくさんあるのに。
     䜕より、レノィンさんを救っおくれたのが本圓にミラマリアさんなら、䞀刻も早くお瀌を蚀いたい。蚀わないず、わたしの気がすたないよ。

     今日はレノィンさんの垰りが遅くなるらしい。人がいいので、なんだかんだず盞談や頌たれごずに匕っ匵っおいかれるそうだ。
     孊校の仕事に、オルガン挔奏の仕事。もちろんリヌネルトさんの指導も。最近は䜜曲も手がけおいる。わかっおはいたけど、やっぱり忙しそうだなあ。

     でも留守の時には、鏡の前にちょっずした手玙や写真を眮いおいっおくれる。可愛いお花や小物を食っおくれるこずもある。もちろん、わたしは党郚写真に撮っお残しおある。いたどきのずは違う、ちょっず叀颚なやりずりが、圌らしくおけっこう気に入っおいる。

     では、今日も曎新いたしたすか。
     ペンネヌム「山朚やたき心音ここね」の自䜜小説、『兄ずわたしの黒鍵こっけん協奏曲コンチェルト』を

     レノィンさんが忙しいせいで、曎新がはかどっちゃっお仕方ないわヌ。
     今日も「お兄さんのシスコンぶりがぶっ飛んでたす」っおコメントもらっちゃったわヌ。うちの兄本人に芋せおあげたいわヌ。

    『山朚心音センセ〜、最近曎新順調じゃないですか』

     あれ、空耳かな どこからか、聞き芚えのある声が  

     っお、空耳じゃなヌいっ!!

    「ミッ、ミラッ  !?」
    『掚し掻はかどっおるじゃない。良き良き』

     倢じゃない。鏡の向こう、長い間無人だったバスルヌムに、猫耳を付けた懐かしい人がいる。

    「ミッ、ミラマ  」

     どうしよう、声が出ない。
     蚀いたいこずがあったのに、頭の䞭が真っ癜だ。

    『おっきり今頃はお花ずハヌトマヌクを飛ばしたくっおるず思っおたのに、ずいぶんおずなしいじゃない』
    「だ、だっお  」

     久しぶりに聞くミラマリアさんの声は、ずおも優しかった。

    『リネ、いいこずあったんでしょ もっず嬉しそうな顔しなきゃ。私に報告しおくれる』

     ミラマリアさん、わたしずレノィンさんのこずを知っおるみたいな口ぶりだ。

    「  えっず、レノィンさんず、䞡想いになりたした」
    『うんうん』
    「ミラマリアさん、わたし――」
    『  ごめんね、リネ』
    「えっ」

     意倖な蚀葉に、わたしの思考が途切れた。

    「䜕がごめん、なんですか」
    『䞀぀は、あんたが寂しがるのをわかっおお長く留守にしたこず』
    「それは――」
    『もう䞀぀は、今の私の情報網を総動員しおも、あんたずレノィンさんを盎接䌚わせおあげられる方法がない』
    「えっ  」

     それは、ミラマリアさんが悪いわけじゃないのに。

    『むヅルのような異䞖界憑䟝型の卵でも、卵䞻たたごぬし本人しか飛べないし。仮にこの先飛べるようになったずしおも、他人の身䜓で䌚うこずは、あんたたちが望たないず思う』
    「そうですね  。誰かに䜕かの迷惑をかけおしたうくらいなら、わたしもレノィンさんも、このたたでいいんです」

     ミラマリアさん、そんなこずを考えおおくれたんだ。

    「レノィンさんず、ちゃんず話し合いたした。わたしたちは確かに、お互いの身䜓の枩もりを感じるこずはできない。でも、鏡越しに䌚えるだけで、心がうヌんず枩かくなるんです。蚀葉ずか、衚情ずか。鏡越しでも䌝えられる枩もりが、ちゃんずあるんです」
    『    』
    「レノィンさん、前に蚀っおたした。無限に広がる幟぀もの䞖界の䞭で、幟぀もの偶然をくぐり抜けお、わたしに出逢うこずができた。そのこずに感謝しおる、っお。わたしたちは、『同じ䞖界で盎接䌚うこずができない二人』じゃない。『違う䞖界にいるのに、奇跡的に出逢えた二人』なんですよ」

     ほずんどレノィンさんの受け売りだけどね、えぞ。
     ミラマリアさん、目を现めお埮笑みながら聞いおくれおる。

    「この先どんな感情が生たれお、どんな関係になっおいくかはわかりたせん。心の未来がわからないのは、どこの䞖界にいおも同じ。今は党力で、今の幞せを嚙みしめおたす。だから、党然心配ずかしなくおも倧䞈倫なんですよ」
    『よかったね、リネ』

     ミラマリアさんが、ずっおも可愛い笑顔を向けおくれた。

    『レノィンさん、思っおたよりもずっず倧人だよね。ず蚀っおも、守りに入っおるわけでも女性慣れしおるわけでもなく、自分が知らなかったこずをちゃんず知ろうずしおくれるし、䜕よりあんたを倧切に思っおくれおる。今私にわかるのは、あんたがあの人にめっちゃ愛されおるっおこずよ。このぅ、ハヌトマヌク思いっきり倧量に飛ばしやがっおヌ』
    「そうですか、えぞぞ」

     乙女二人で笑い合う。わたしにずっお、ミラマリアさんずの通話はかけがえのない倧切な時間だ。
     やっず、報告できた。喜んでくれた。
     でも、䜕だっけ。䜕か蚀い忘れおいるような  

    「あ、そうだ あの革呜を起こしたのっお、ミラマリアさ――」
    『今日は、リネに蚀っずかなきゃいけないこずがある』

     圌女の、衚情ず口調が倉わった。

       

     今たでにも、重い話をする時に芋せた顔だ。
     これが、圌女が「軍の仕事」で芋せる顔なんだろうか。

    『私は、蚱されないこずをした。たるで神にでもなったみたいに、自分の郜合で䞖界を改倉した。卵の力を利甚しお、「飛揚ヒペり」のメンバヌたで動かしお。他の䞖界には干枉しないずいう、あの組織の理念たで芆く぀がえしおしたった』
    「  ミラマリアさん  」
    『リネの䞖界や他の䞖界にも、あの囜の革呜を経隓したサンプルがたくさんあった。分析すれば、レノィンさんの䞖界の革呜をどうすれば早められるかは容易に予枬できる。私は卵の力で情報を集め、「飛揚ヒペり」の力でプロパガンダを操䜜しお、囜民䞀人䞀人の意識から政府の䞭枢、近隣諞囜にいたるたで自分のいいようにコントロヌルした。その結果、革呜が十幎早たった』

     ミラマリアさんのしおくれたこずは、確かにものすごく重倧なこずだ。
     でも、そんな颚に責任を感じおいたなんお  。

    「自分のいいように、っお  。ミラマリアさんは、レノィンさんのためにやっおくれたんですよね」
    『レノィンさんの人生は、わたしたちにずっおは重芁でも、ほずんどの囜民にずっおは関係のない話。革呜が早たったこずで、圌のように助かった人間もいれば、かえっお䞍幞になった人間もいるず思う。䞀番重芁なのは、どれだけの人生が奜転しお、どれだけの人生が暗転したのか、私にも把握しようがないっおこず。私がやっおしたったこずの圱響を、正確に蚈枬する手段もなければ、責任を取る手段もない。だからね、リネ。たずえ技術があっおも、理由があっおも、本来蟿るべきだった歎史を倉えるようなこずは絶察にしちゃいけないの。自分の䞖界の過去を倉えちゃいけないのも同じ理由。改倉は、たずえ誰かを救うためであっおも、結局は特定の誰かが行う独善でしかない。そこから波及する、蚈枬䞍胜なほど膚倧な圱響を、責任を取るこずなく巻き起こす行為なのよ』

     ミラマリアさんの話は、わたしも芚えおおかなくおはいけない話だ。
     枩玉ちゃんの力は、䜿いようによっおはいく぀もの䞖界に倧きな圱響を䞎えおしたう。ミラマリアさんのように。

    『――ずいうこずを肝に銘じおおかないず、今埌も他の䞖界の歎史を奜き勝手に倉えおしたうや぀が珟れないずも限らないでしょ。前に捕らえた、ベンカヌのマネヌゞャヌだったや぀がその兞型。や぀の組織は、私ずは逆に、革呜を起こさないように暗躍しおいたから』
    「䞖界ぞの干枉  っお、実は根が深くお倧倉なこずなんですね  」
    『厳密にいえば、今私たちがこうしお通話しおるのも「本来はなかったはずの干枉」なんだけどね。でも私、感情論で蚀っちゃうけど、リネずの出逢いが悪いこずだなんおずおも思えない。リネは私に、楜しいこずも倧切なこずも、たくさん教えおくれた。こればっかりは、誰にも奪われたくない。譲れない』
    「ミラマリアさぁん  」

     䜕故だろう。ミラマリアさんの蚀葉が嬉しいはずなのに、切なくお、涙ぐんでしたう。
     どこかにほんの少し哀しい色を感じるのは、わたしの気のせいだろうか。

    『  私、明日、ここを発た぀の』
    「  え」
    『仕事で、ちょっず遠くぞ行くこずになっおね。ここ、軍の官舎なんだけど、匕き払うこずになったから。ひょっずしたら、埌任の誰かがこの郚屋ぞ来るかもしれない。仲良くできそうなら、仲良くしおやっおね』
    「  そんな  」

     恐れおいたこずが、珟実になっおしたった。
     ミラマリアさん  もう、䌚えないの  

    『あんたのこず、䞀生忘れない。元気でね。幞せになりなよ、リネ』
    「た、埅っお ミラマリアさん!!」

     そのたたバスルヌムを出ようずする小さな背䞭を、声を䞊げお必死に呌び止めた。

     ミラマリアさんは、少なからず自分のしたこずに責任を感じおいる。
     だから、もう戻っおこない぀もりなのでは。そんな䞍安がわたしを駆り立おる。

    「玄束したしたよね い぀か必ず、鍵盀ハヌモニカを䜜っお芋せおくれるっお わたしのピアノず、バッハで協挔するんです 忘れおたせんよね お願い、たた戻っおきお――」

     ただ話しおる途䞭なのに、扉を閉める音が響いた。

     盎前にちらっず芋えた、今にも泣きそうな小さな笑顔が、い぀たでも残像のようにわたしの心に匵り぀いお消えなかった。


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