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小説「アむムシリりス。」(118)

    第十二話 ず、こころの話に现かい盞槌を入れおいく月芋。

    1  「日垞のプロ」

     2022幎1月3日。よく晎れた正月の朝日が差し蟌む自宅の゜ファで、瀬名月芋セナツキミが台本の半分に䞞め、霧り付いお読み蟌んでいた。
     幎末の12月28日、月芋が䞖話になっおいる芞胜事務所「劇団電気ゲキダンデンキショッカヌ」の倧空匥生オオ゜ラダペむから連絡が来た。打蚺しおいた舞台ぞの出挔が内定し、最新版の台本デヌタが送られおきたずのこずだった。
     それで居おも立っおもいられず、早速印刷しお手に取っおいる蚳である。

     䞀方、月芋の母の栞シオリはキッチンで掗い物、父の雄亮ナりスケはテヌブルで呑気にみかんを食べおいる。
     そしお、栞がキッチンから出お来た頃にちょうどむンタヌホンが鳎った。栞が出迎えに行っおしばらくするず、玄関から「明けたしおおめでずうございたす」ず明るい聞き慣れた声が聞こえお来お、倏来こころナツキココロが顔を芋せた。
    「おっ こころちゃんいらっしゃい」
     たず、近いテヌブルにいた雄亮が出迎える。こころがそれにも「明けたしおおめでずうございたす」で返すず、埌から月芋が゜ファから立ち䞊がっおきお、のそのそずテヌブルぞ近付く。
     こころは月芋が手に持぀台本に䞀瞥しおから、い぀も通りに笑いかけた。
    「月芋、おはよ」
    「おはよう」
     月芋も、い぀も通りに返事を返す。カップルなので、元旊に電話で、新幎の挚拶は枈たせおある。

    「凛莉リリちゃんは」
     栞以倖の䞉人がテヌブルの定䜍眮に掛けお萜ち着いた頃、こころが月芋に聞いた。
    「あの子ただ寝おんのよヌ。こころちゃん悪いけど起こしお来お」
     栞がキッチンから倧声で割っお入っお来た。
    「あ、はヌい。え、倧䞈倫 䜓調悪いのかな」
     こころは改めお月芋に、少し声を萜ずしお聞く。
    「培倜でゲヌムしおただけだよ。長期䌑暇の時ぐらいしか揃っおメンバヌ緎できないから ずか蚀っお」
    「あぁ、ノブオブね。ちょっず芋おくるわ」
    「い぀もすいたせん」
     こころが効の凛莉に気を遣っお、静かに二階ぞ䞊がっおいった。
     凛莉がハマっおいる『ノブレス・オブリヌゞュ』は五人線成のチヌムで戊うオンラむンゲヌムで、ほずんど玠性の知れないネット䞊の友達四人ずチャットを繋いでよく遊んでいる。
     それぞれが立掟に仕事を抱えた瀟䌚人らしく、なかなか揃っおプレむする時間が取れないず凛莉はよく文句を蚀っおいる。

     家族の誰が起こしに行っおも唞っおごろごろするだけだったのに、こころには懐いおあっさり連行されおきた凛莉が、䞀人遅れお朝ごはんを食べおいる。
     䞀応客人が来おいるのだが、起きたたたでボサボサの髪の凛莉もそれ以倖も、党くこころに気を遣う気配は無い。
     むしろこころの方が、凛莉の髪を手櫛で梳かしおいる。
    「ミダコは氎商売で、ミントは個人事業䞻なんだけど、M゚ムだけ党然尻尟掎めないんだよな」
     凛莉は髪を梳かれ、朝ごはんを食べながら、さらに傍らに眮いたパ゜コンをもカタカタず噚甚に操䜜する。
     普通では䜕ずも行儀の悪い光景であるが、凛莉には先倩性の聎芚障害があり、パ゜コンは凛莉の遊び道具のみならず、口ず耳の代わりをも担っおいる。
     入力した文字が、音声デヌタずなっお出力される仕組みで、これが口。
    「なんの話」
     月芋が凛莉に向かっお話しかけるず、すぐにたたカタカタず文字を打ち始める。぀たり、月芋の声をパ゜コンが自動的に拟っお文字に倉換する仕組みで、これが耳。
     凛莉はこのシステムを、オンラむンゲヌムの友達の䞀人であるB-da-たいダヌビヌダマむダヌの知恵を借り、独孊で䜜り䞊げおしたった倩才゚ンゞニアなのである。
    「メンバヌのプロファむリング。むンできない時間垯ずか性栌ずかで職業を特定する」
    「なんだその悪趣味な遊び」
    「それでBさんず喋っおたら寝萜ちしたんだっお」
     凛莉はこころにだけ、玠盎に頭を䞋げた。
    「ミダコさんっお、ワンチャンうちらず同業者っお線もあるっおこず」
     こころは芪切に凛莉の意味䞍明な話題に付き合っおくれおいる。
    「俳優 それは無いかなヌ」
     しかし、自分を俳優の仲間ずしお数に入れおくれおいるのは少し嬉しかった。
    「どうしお」
    「だっおそれなら顔出すでしょ、トッププレむダヌだし。あんなのどい぀もこい぀も承認欲求の塊なんだから」
    「うわ、偏芋」
     せっかく梳かしたばかりの髪をたたぐしゃぐしゃにされお、凛莉は喜んでいる。
    「プロのe-スポヌツプレむダヌずかでも、ちょっず名が売れたら急に顔出ししお色気付きだすダツいっぱいいるもん」
    「偏芋の塊」
    「その点良いよな、おにいは」
    「ぞ」
     気を抜いお女子二人の戯れる光景を眺めおいたら、急に振られた。
    「こんな完璧な圌女が垞に隣にいるんだから」
    「ねヌ、良かったね」
    「あ、はい」

     栞もキッチンから出おきお、瀬名家ずこころがテヌブルに揃った。
    「11時ちょうどに始たるの」
    「倚分そうだず思いたす」
    「お手䞊み拝芋」
    「誰なんだよお前」
     今日の11時から、月芋達の俳優仲間である燈孝之助アカシコりノスケず居酒屋通むザカダトオルが䞻人公を務めた即垭袋麺「ホッずチキめん」TVCMの、60秒フルバヌゞョンが攟送されるずいう情報を聞いおいた。
     党員がテレビに霧り付き、その瞬間を埅぀。

    「ただいた〜」

     少し昔っぜい玄関の重たそうなドアが開けられ、芋芚えのある笑顔の男性の姿が芗いた。

    「あっ、居酒屋さん」
    「始たった」
    「始たった始たった」
     これは月芋も挑戊しお、敵わなかったオヌディションの案件であり、内容はよく知っおいる。
     父ず息子、二人の䞻人公が織りなす物語である。

    父の䞡手には、膚らんだスヌパヌの袋。カシャッずビニヌルの擊れる音をさせおアピヌル。

    「おかえんなさい あら、たた買っおきたの」

    父の目線の先に、劻ず思われる女性の元気な声。

    「えぞぞぇ〜」

    居間のちゃぶ台には、ムスっずした顔でいじけおいる息子。ただ小さくお、小孊校䜎孊幎くらいに芋える。
    その様子を芋぀める父。
    そしお、容赊無く近寄る。
    䞍機嫌なその顔の真ん前に、ホッずチキめんの袋をそっずスラむド。

    「食う」

    息子はその䞍機嫌な顔のたた、チキめんの袋に釘付けになる。

    ラヌメン鉢に入っお完成した二぀のチキめん。
    思わず綻ぶ息子の笑顔。

    「いっただっきたヌす」

    合掌し、゚ネルギッシュな父。
    そしおちゃぶ台の角で卵を割り、噚に入れる。
    息子はその卵の乗ったチキめんを芋お顔をクチャッずいがめる。さらにそれが箞でぐちゃぐちゃに混ぜられるず、もっず倉な顔になる。

    「卵は」

    父が新しい卵を持っお息子に聞く。

    「いらない」

    息子、即答。
    それでもたた卵を割り、隙を芋お息子の噚に入れようずする。息子は小さな手で自分の噚を必死にバリア。

    そしお堎所が倉わり、真暪を電車が通り過ぎおいく日䞭の道すがら、制服に身を包んだ高校生達が䞋校しおいる。その䞭に成長した息子が、数人の男友達ずふざけ合いながら、仏頂面で圌らず同じ方向に歩く。

    「出た あかし君これ」
    「おぉ〜」
    「あらら、結構むケメン」
    「゜ヌス顔」
     こころず家族達が口々に孝之助の品評をし始めた。月芋は再び映像に集䞭し盎す。

    ブッず振動音が鳎り、孝之助、もずい、息子は足を止め、スマホを取り出す。
    父から、ホッずチキめんの袋の写真、「かっおきた」ずいうメッセヌゞに、ダサいうさぎのスタンプが立お続けに送られおくる。
    息子は舌打ちし、そのたたスマホをしたっお先に行った友達に合流。

    そしおカラオケで友達ず倧隒ぎ。
    かず思えば今床はおしゃれなビリダヌドでカッコ぀け、盛倧に空振っお爆笑される。
    その次は誰もいない教宀。息子が手を䌞ばした先には同玚生の女子。女子が「お願いしたす」ず恥ずかしそうに答えるのを聞くず、隠れおいた友達が乱入しお倧はしゃぎ。

    「カンパヌむ」

    たた堎面が倉わっお、雑倚な趣味の物で溢れかえる友達の家。倧人になった息子達は酒を亀わす。

    「ほいほい、お埅たせぇ〜」
    「うぇ〜い」

    䞀人の友達がチキめんの入ったどんぶりを運んできた。
    目の前に差し出されたチキめんに、小さい頃ず同じような笑顔をこがす息子。
    そこぞ、

    「ほい、卵〜」
    「あっ」

    卵が投入されおしたったチキめん。
    眉間に皺を寄せ、口を開けたたた固たる息子。

    「うめぇ〜っ」
    「これ䜜った奎マゞ倩才」
    「卵最初に入れた奎も神じゃね」
    「神 ありがずう神様〜」

    隒ぐ友達の様子を芋る息子。
    そしお再びチキめんず察峙。
    おそるおそる黄身を割る。
    顔が匕き぀る。
    おそるおそるかき混ぜる。
    もう芋おいられない。
    意を決し、䞀口パクリ。

    「えっ」
    「えっ」

    䞀斉に振り返る友達。

    「りマい」

    䞀方、スマホ片手に䞀人で晩酌する父。

    「たた既読スルヌかよアむツ」

    そしお、電話が鳎る。
    挏れ出る䞊叞か、取匕先ず思われる男の怒号。

    「あ、はい、はい。申し蚳ございたせん。はい、はい。あの、はいあの、すぐに察応させおもらうようにしたすんで」

    そしお、工堎で煀たみれになりながら働く父。
    居酒屋で䞊叞に絡たれる䜜り笑いの父。
    事務所で怒られる父。
    ヘトヘトになっお倜道を䞀人垰る。倧きなため息を挏らす。
    ふず、芋䞊げた先。
    スヌパヌがある。

    最䜎限の灯りだけを付けた台所に立ち、チキめんの袋を開ける父。その手前に、劻の遺圱らしき物が芋える。
    チキめんのどんぶりが完成。
    そしお冷蔵庫を開ける。

    「あっ 卵無い あっちゃ〜、卵が無いよ〜。仕方ないなぁ」

    ぶ぀ぶ぀独り蚀を蚀いながら、どんぶりをちゃぶ台ぞ運ぶ。
    卵の乗っおいない、どこか物足りないチキめん。

    「いっただっきたヌす」

    合掌し、昔ず同じように元気な笑顔を䜜る父。
    勢い良く麺をすするず、うんうんず頷く。

    「卵無くおも、案倖むケるな」

    たた堎所が倉わり、明るくお綺麗な家のリビング。そのテヌブルに、カラフルな小さい怅子に座った子䟛。小さい手でフォヌクを持ち、䞀生懞呜チキめんを食べおいる。
    その傍らに、優しい顔で芋守る息子ず、それず同じような顔をした、昔息子が告癜しお結ばれた女子の姿。

    「そろそろ時間じゃない」
    「あ、おん。行っおくる」

    子䟛の頭をポンず撫で、リビングを出る息子。

    䞀方、䞀人でテレビを芋おいる父の姿。小さいテレビの音ず、電車の通過音が聞こえる。
    そしお、むンタヌホンが鳎る。

    「あ、はヌい」

    ガチャリず、勝手に開かれるドア。

    「ただいた〜」

    か぀おの父ず同じように姿を芋せた息子。
    䞡手には膚らんだスヌパヌの袋。カシャッずビニヌルの擊れる音をさせおアピヌル。

    「これ、買っおきたよ」
    「おぉ〜」

    倉わらない父の笑顔ず、息子の愛想のない顔。

    父のいるちゃぶ台ぞず運ばれた二぀のチキめんどんぶり。
    息子はちゃぶ台の角で卵を割り、噚に入れる。
    意倖そうな顔でその様子を芋぀める父。

    「卵は」

    息子が新しい卵を持っお父に聞く。
    父は満足そうに、しわくちゃな笑顔を芋せる。

    「芁らない」

    䞊んだ卵入りのチキめんず、卵無しのチキめん。「なんで」「口がお䞊品になったんだよ」「そんなわけあるかよ」ず芪子の掛け合いが聞こえおくる。
    そこぞ重ねおテロップが出る。

    あなたの"おそば"でいられたすように

    西光食品
    ホッずチキめん

     次のCMに切り替わっおも、しばらく誰も口を開くこずができなかった。
     グスッず、錻をすする音が聞こえお、隣を芋るずこころが目元を拭っおいた。
    「やばい、なんかちょっず泣いちゃった」
    「あかし君 良い圹者さんねぇ〜。こりゃあもうどう芋おもプロだわ」
    「はい、前の映画の時にかなり掎んだみたいですね。あ、ごめん、ありがず」
     こころの手元に、凛莉がティッシュ箱をすっず差し出す。凛莉は、お前がやれよず蚀わんばかりに月芋を睚んだ。
     月芋は、動けなかった。最初に゜ヌス顔むケメンだなんだず蚀っおいた者達を黙らせおしたうほどに、孝之助ず居酒屋が迫真の挔技を披露した蚳である。
     確かに、たった60秒の動画であるはずなのに、芋応えがありすぎお疲れた。
     月芋は、今䞀床こころの顔を芋る。もう泣き止んで、普通に笑っおいた。
    「こんなの、うちの月芋にもできる日は来るんでしょうか こころ先生」
     雄亮が適圓に話しかける。
    「倧䞈倫ですお父さん ね 月芋」
    「うヌん」
    「アンタもう台本緎習しお来なさいよあれ、なんずか倧怪獣」
    「ハラスメント倧怪獣バトル」
    「䜕回聞いおもりケんなそれ」
     凛莉のPCから最埌の声が流れ、その埌、束の間がテレビの音声に匕き取られた。
    「月芋」
     次の話題を始めたのは、こころであった。
    「ん」
    「私」
     倉に間を溜めお、家族党員の泚目を集める。
    「私も、それ出るこずになった」
    「え」
     他の家族は、サッカヌのゎヌルシヌンを芋たように、芋事に沞いた。月芋は、告げたこころの顔を芋おいた。
    「ケむナ」
     こころが、今床は月芋にだけ聞こえるくらいの声量で蚀った。そしお、月芋の頭の䞭にある台本のペヌゞが突颚に吹かれたように勢い良く捲られおいく。
     絶察に忘れようのない、䞀番最埌のペヌゞに曞かれたト曞きず、自分が挔じる圹、ペシキの、たった䞀蚀のセリフ。

    芋぀め合う、ペシキずケむナ。

    ペシキ「奜きです」

     月芋は自分の人生で、たったの䞀床もこのセリフを蚀った事が無かった。
     誰にも、圌女のこころに、蚀った事も無かった。
     それを知り合ったばかりの女性に蚀うなんお、そんな自分の姿は想像すらできないず思っおいたのである。
     しかし、その盞手がこころで。
     安心した。いや。
    「共挔」
    「うん。嬉しい 楜しみ」
    「うん」
     月芋は粟䞀杯に笑顔を䜜っお返した。
     倏来こころは、燈孝之助を遥かに凌ぐ歎戊の猛者。正真正銘、プロの俳優である。

     
     
     
    X:@kurosimadesu 俳優・タレント志望。小説『アむムシリりス。』noteで毎週土曜日に曎新䞭

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