
一家離散への道 | (第8話)命名「柚(ゆず)」
これまでの一進一退が嘘のように、ずるるるぅぅん、と一気に出てきた。
「ぁあゎゎゎっ、、すごぃ」
瞬間、どわわゎゎぁぁぁと大量の涙が溢れ出た。
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その前日の夜。
蜜柑(みかん)が陣痛を訴え、2人で病院に急いで向かった。
「ついにその時が来た」
緊迫した空気の中、診察を受けると、
「もうちょっとですね、念のため今日は泊まってってください」
「ご主人は、一旦、ご帰宅ください、産まれそうになったらご連絡します」
「痛い痛い」と訴える蜜柑を置いて、ひとり帰宅する。
さて、と。
蜜柑のことは気に懸かるものの、自分が今できることはなにもない。
この際、普段まとまった時間で遊ぶことができない「プレイステーション2」のゲームを、クリアすることにする。
罪悪感に苛まれつつ、「今日を逃しては、おそらく当分できまい」との危機感もあり、深夜までかけて一気にクリアした。
このことは、絶対に、蜜柑には知られてはいけない。
一生。
その翌日。
病院から「そろそろ産まれるぞ」との連絡を勤務先で受けて病院に駆け付ける。
「あのぅ、夫ですぅ、、、夫、来ましたぁ、、、」
おずおずと分娩室に入ると、自分以外、目が三角形。
うーむ、阿鼻叫喚。修羅場とはこのことか。
泣き叫ぶ蜜柑と、宥める看護師。
初めて出産に立ち会うので「普通」が分からないが、蜜柑がよっぽど騒がしかったのか、「でぇぇぃ、母親なんだから、ちったぁ我慢しろっ!」的な怒号すら飛んでいる。
「おめぇはいいから、手でも握って妻を気遣ってろ」
といった主旨の指示を受け、ただただ従う。
自分だけが蚊帳の外の、凄まじい居心地の悪さだ。
蜜柑の苦しむ様子をただ見ているだけなのも、滅法ツラい。
たのむ、早く終わってくれ。
、、、からの、冒頭シーン。
途轍もない非現実感。
SF映画のワンシーンのようだった。
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出生直後の赤子が極小カプセルベッドに並ぶ中、我が子はこの世のものとは思えぬほど断トツにキュートだった。
めちゃめちゃちっこいのに、ちゃんとヒトのかたちをしている。
「かわいいね、カワイイねぇ」と繰り返す自分に、駆け付けた両親・姉は「あんたが、そんなこと言うなんてねぇ」と笑った。
退院後しばらくして、寝たきりの祖母に我が子を会わせに行くと、祖母は手を合わせて「神様のごたぁある」と泣いた。
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女の子を想定して、あらかじめ蜜柑と話し合って名前は「柚(ゆず)」と決めていたが、ところがどっこい男の子。
「どうしようかね」
「柚太(ゆずた)」
「柚助(ゆずすけ)」
「柚雄(ゆずお)」
「柚太」と競ったが、ふたりの中ではずっと「柚」だったので、結局そのままに。
命名「柚(ゆず)」
3人の、この世の春が訪れた。
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マガジン:一家離散への道~12年の別居生活