
【短編小説】酒と仕事と女のつもり
「いいよ。呑んで。」
男はいつもの様に、いつものスナックで、いつものキャストに酒を勧める。
男に趣味はない。
妻とは何年も前に離婚し、独り身だ。
職場では孤立し、心を許せる友も居ない。
唯一の楽しみが酒だった。
「今度蛍を見に行かないか? 家の近くに穴場があるんだ。」
男は女好きで、酔うといつも女を口説くが、成功事例はない。
女たちはいつも楽しそうにしているから、脈はあると信じている。が、一番の好みは未だツレない。
家に帰り、安酒を呑みながら、男は呟く。
「何もかも上手く行かない…」
そうして、風呂も入らず、歯磨きもせず、そのまま床に倒れるように眠る。
翌日、酒が抜けず、会社に業務連絡だけして有給を使った。
酒が残っての頭痛では判断力が鈍ると、仕事を思ってのことだ。
男はまた呟く。
「こんなに会社に貢献してるのに、何故認められないんだろう?」
男は、買い置きしてある安いウィスキーを濃いめのハイボールにして呑みだした。
そうしてまた、眠った。
そんな生活を続けた結果、元々低かった社内評価が、更に下がった。
男は、昔、仕事で特許を取ったこともあり、仕事では評価されると信じていた。
会社のためを思って、休日出勤すら厭わなかったのだ。
「昔はあんなに評価されたのに、何で今は評価されないんだ!」
男は怒り狂い、その勢いで退職した。
それでも、会社も社会も風景も、何も変わらない。
結局男は、今日も酒を呑んだ。