
それでも話したかった7人の物語|#創作大賞2026 #ドラマ原作部門 #ドラマ脚本
あらすじ
これは英語学習書ではない。
それなのに。
なぜか英語が話せる気になってしまう物語だ。
このドラマに、
頻出英単語は、ほとんど出てこない。
ネイティブがよく使うフレーズも、
発音テクニックも出てこない。
この物語を読んだからといって、
TOEICの点数は
上がらないかもしれない。
英語がすぐにペラペラになるわけでもない。
でも、
もしあなたの中に
「英語を話せたらいいのになぁ」
という最初のときめきが
まだ残っているのなら
少しだけ、
話してみたくなるかもしれない。
近未来。
日本政府はある事実を発表する。
「日本人の英語学習時間は世界トップクラス。」
「それにもかかわらず、
英語で会話する人口は増えていない。」
そこで発足した国家プロジェクト。
――ええ会話実証実験。
被験者は6名。
全員、
英語を話したかった人たち。
そして全員、
話せなかった人たち。
半年後。
彼らは、
本当に話せるようになるのか。
登場人物

プロローグ 実証被験者は誰だ?
【空港】
海外出張帰り。
ロビー。
外国人女性観光客。
スーツケースの持ち手に
バッグを掛けたまま
少し離れる。
その瞬間。
若い男が近づく。
バッグを持つ。
歩き去る。
「あ・・・」
盗った?
職員が近くにいる。
言わなきゃ。
でも。
スリって英語なんだっけ。
Pickpocket?
いや。
あれはスリ本人?
スリ行為?
盗難?
Theft?
Robbery?
いや。
違う。
言わなきゃ。
その間。
男はどんどん離れる。
言わなきゃ。
言わなきゃ。
男は人混みに消える。
沈黙。
【海外ドラマ】
男性。
ノートパソコン。
海外ドラマが流れている。
英語音声。
日本語字幕。
男性。
同じセリフを何度も戻す。
また聞く。
また戻す。
止める。
「……。」
【日本のホテル】
廊下。
煙。
アジア系外国人観光客が慌てている。
男。
何か言おうとする。
口が止まる。
【日本の街角】
外国人観光客
"Excuse me?"
男性。
まずスマホ。
翻訳アプリ。
AI。
地図アプリ。
言葉より先にスマホ。
【とある自宅】
押し入れ。
黄ばんだ単語帳。
古い教材。
留学パンフレット。
そこに書かれている。
《いつか海外で働きたい》
女性。
じっと見つめる。
そっと閉じる。
【レストラン】
営業終了後。
若い女性。
エプロンを外す。
時計を見る。
20:42
「あ。」
少し焦る。
帰り道を走る。
スマホ。
英語学習アプリ。
《本日の学習 85%完了》
走りながらタップ。
「よし。」
オンライン英会話開始まで
あと18分。
暗転。
ニュース速報。
《英語学習時間 世界トップクラス》
《会話人口 増加せず》
《政府、実証実験へ》
《被験者六名を選出》
スマホ。
ピコン。
No.1
通知を見る。
「は?」
No.2
「なんで?」
No.3
「やっぱり俺か?」
No.4
「おっ!」
すぐにAIへ送る。
《参加した方がいい?》
No.6
通知を見る。
少し笑う。
送信。
No.5
通知を見る。
《あなたは実証実験対象者に選ばれました》
《集合日時》
《集合場所》
No.5
……
通知メール削除。
終わり。
……
夜。
押し入れ。
留学パンフレット。
《いつか海外で働きたい》
スマホ。
削除済みボックスを開く。
通知は残っている。
指が止まる。
震える。
沈黙。
《確認しました》
送信。
【施設】
集合会場。
初対面。
空気が重い。
No.1
「そもそも。」
「なんで私たちなんですか?」
「私より知識ない人、いっぱいいると思うんですけど。」
突然。
背後の巨大スクリーンが起動する。
《AI分析結果》
No.1
英語学習時間
4238時間
英文メール送信前
見直し回数
平均14.8回
送信後
読み返し回数
平均4.3回
No.1
「・・・」
No.2
発音動画視聴時間
1876時間
ネイティブ表現保存数
12431件
海外ドラマ視聴時間
2634時間
会話実施回数
月2回
No.2
「・・・」
No.3
取得英語資格数
8
模擬試験受験回数
214回
推定語彙数
上位3%
言い換え成功率
8%
No.3
「言い換え成功率って何ですか?」
No.4
翻訳アプリ起動回数
年間12842回
AI相談回数
年間4306回
検索開始までの平均時間
2.1秒
No.4
「優秀じゃん。」
No.5
英語学習関連検索
直近3ヶ月 47回
押し入れ内教材保有数
18冊
『英語 やり直し』
検索回数
23回
No.5
「・・・」
No.6
教材購入数
31冊
英会話レッスン出席率
96%
学習継続日数
412日
教室外会話成功率
12%
No.6
「12%?」
「低っ。」
No.5
「ちょっと待って。」
「なんで私たちのこと知ってるんですか?」
「なんなんですか、この実験。」
No.4
「俺もそれ思った。」
「今どき翻訳アプリあるじゃん。」
「AIもあるし。」
「英語なんてもう勉強しなくてよくない?」
スクリーン
《総合判定》
《英語力不足ではない》
ざわつく。
《問題は別に存在する》
ガチャ。
後ろの扉が開く。
教子、登場。
教子
「安心せえ。」
「お前らは英語できへんから呼ばれたんちゃう。」
No.1
「は?」
教子
「むしろ逆や。」
沈黙。
教子
「お前らは英語できるから呼ばれたんや。」
全員
「???」
No.3
「いやいやいや。」
No.2
「意味分からないんですけど。」
No.4
「ってか、そこにAIあんだろ。」
「だったら英語教育なんてもういらなくない?」
教子
六人を見回す。
「英語できるくせに。」
沈黙。
「話せへんやろ。」
沈黙。
No.1
言い返せない。
No.2
目を逸らす。
No.3
黙る。
No.5
拳を握る。
No.4
「だから何なんだよ。」
「AIあるじゃん。」
「翻訳あるじゃん。」
「別に話せなくても生きていけるじゃん。」
教子
うなずく。
「せやな。」
「私もそう思う。」
全員
「?」
No.6
おそるおそる手を挙げる。
「ひとついいですか。」
全員が見る。
No.6
少し迷う。
「これ・・・」
少し間。
「半年後には」
「話せるようになるんですか。」
教子
No.6を見る。
少しだけ笑う。
「それを確かめるために。」
少し間。
「ここに来たんやろ。」
沈黙。
そして。
「ほな。」
No.1を見る。
教子
「試してみるか。」
《VRシミュレーション起動》
暗転。
第1訓練 間違えてはいけない
さっきまで教室にいたはずなのに
目の前には空港のロビーが広がっている。
【空港】
空港。
ロビー。
外国人女性観光客。
若い男。
No.1
嫌な予感。
女性観光客。
スーツケースの持ち手に
バッグを掛けたまま少し離れる。
若い男が近づく。
バッグを持つ。
歩き去る。
No.1
「あ・・・」
教子の声
《ミッション開始》
《制限時間 5分》
《窃盗を目撃しました。係員に伝えてください》
No.1
「え?」
近くに職員。
男は歩いていく。
No.1
「待って・・・」
Pickpocket?
これって人のことだっけ。
泥棒?
Robbery?
窃盗?
Theft?
He stole?
盗んだ?
過去形?
現在進行形かな。
He is stealing?
ってかメガネをかけた男って……
The man with sunglasses?
分詞だっけ?
関係代名詞使って修飾??
The man wearing sunglasses?
The man who wear sunglasses?
The man who wears sunglasses?か……
違う。
違う。
違う。
タイマー。
04:00
03:00
男は遠ざかる。
No.3
「だから thief だって。」
No.2
「いや、その発音じゃ通じないと思います。」
「th はちゃんとベロ噛まないと。」
No.4
「翻訳アプリ使えって。」
「それで終わるじゃん。」
No.5
何も言わない。
No.1
「分かってます!」
「でも、ちゃんと言わないと・・・」
02:00
01:00
職員は目の前。
でも。
口は動かない。
男は人混みに消える。
サイレン。
《MISSION FAILED》
画面が赤く染まる。
《窃盗阻止失敗》
《対象者被害発生》
バッグを失った外国人観光客
"No! My bag!"
No.1
立ち尽くす。
拳が震えている。
No.3
「だから thief って言えばよかったんだよ。」
No.2
「発音も悪かったと思います。」
No.4
「普通にAI使えばよかったのに。」
No.1
「・・・」
少し間。
「だって。」
「間違ってたら。」
「恥ずかしいじゃないですか。」
教室が静まる。
No.1
「ちゃんと勉強してきたのに。」
少し間。
「こんな簡単なことも言えないって思われたら。」
「みっともないじゃないですか。」
教子
「せやな。」
「ほな聞くで。」
全員、黙る。
教子
No.1を見る。
「何が足りんかった?」
No.1
「・・・単語です。」
No.3
「そうそう。」
教子
「ちゃう。」
No.1
「発音・・・?」
No.2
小さくうなずく。
教子
「ちゃう。」
No.4
「AI。」
教子
「今その話ちゃう。」
No.6
「・・・」
教子
「お前。」
No.1を見る。
「何見とった?」
No.1
「え?」
教子
「何が起きとった?」
No.1
「男が・・・」
教子
「うん。」
No.1
「バッグを持って・・・」
教子
「うん。」
No.1
「逃げて・・・」
教子
「ほら。」
No.1
「え?」
教子
「もう言えてるやん。」
沈黙。
No.1
「でも、それじゃ、ちゃんとした英語になってないです。」
教子
「誰が決めたん?」
No.1
「・・・」
教子
「男。」
「バッグ。」
「逃げる。」
「それで十分や。」
No.1
「でも・・・」
教子
「まだ足すんか。」
No.1
止まる。
教子
「単語。」
「文法。」
「発音。」
「自然な表現。」
「ネイティブっぽさ。」
「全部持っとる。」
少し間。
「まだ足すんか。」
No.2が目を逸らす。
No.3も黙る。
No.4は少し気まずそうにする。
教子
「船でもな。」
「荷物積みすぎたら沈む。」
少し間。
「人間も一緒や。」
No.1
何も言えない。
教子
「一回下ろせ。」
「今使うもんだけ持て。」
「まずは、何が起きとるか。」
「それを出せ。」
「完璧な一文はいらん。」
No.1
「・・・」
教子
「もう一回や。」
《VRシミュレーション再開》
【空港】
同じ男。
同じバッグ。
同じ職員。
No.1
息を吸う。
男を見る。
バッグを見る。
職員を見る。
No.1
"Man!"
職員
"What?"
No.1
男を指差す。
"Bag!"
"He took it!"
"Stop!"
職員の顔色が変わる。
"Oh!"
職員が走り出す。
男を追う。
数秒後。
犯人確保。
バッグが戻る。
女性観光客
"Thank you!"
《MISSION CLEAR》
No.1
呆然。
教子
「助かったな。」
No.1
「・・・はい。」
教子
「完璧な英語やったか?」
No.1
首を振る。
教子
「でも助かった。」
No.1
何も言えない。
その時。
No.3が腕を組んだまま口を開く。
No.3
「でも、thiefって言った方が早くないですか。」
「その方が効率いいですよね。」
教子
「ほう。」
No.2
「いや。」
全員がNo.2を見る。
No.2
「発音ですよ。」
「ManとかBagとか言っても
発音が悪かったら通じませんし。」
No.3
「発音じゃなくて単語でしょ。」
No.2
「いや、発音です。」
No.4
「いやいや。」
「そこじゃなくない?」
全員が見る。
No.4
「今どき検索したら一発じゃん。」
「なんでみんな覚える前提なの?」
No.3
「またそれか。」
No.4
「だって効率悪いじゃん。」
No.6
「でも・・・」
止まる。
「いや。」
「なんでもないです。」
No.1だけが、まだスクリーンを見ていた。
バッグを抱えて安心する外国人観光客。
その顔から、目を離せなかった。
教子
No.2を見る。
「そんなに発音に自信あるなら。」
少し笑う。
「次、見せてもらおか。」
No.2
ニヤッ。
「いいですよ。」
「余裕です。」
No.3
「お。」
No.6
少し笑う。
「これは得意そうですね。」
No.4
「まぁ頑張ってね〜。」
教子
ニヤッと笑う。
《VRシミュレーション起動》
暗転。
第2訓練 発音至上主義
次の瞬間。
カフェ。
木製のカウンター。
外国人店員。
メニュー。
教子の声
《ミッション開始》
《制限時間 5分》
《飲みたいものを注文してください》
No.2
少し笑う。
「まぁ、これは海外ドラマとかでもよくあるんで、大丈夫です。」
No.4
「ほら。」
「ネトフリで鍛えた成果見せてよ。」
No.2
カウンターへ向かう。
"Royal milk tea, please."
店員
"Huh?"
No.2
硬直。
一瞬で顔色が変わる。
「あれ・・・」
No.1
「文法は合ってると思いますけど・・・」
No.2
「Rの発音がまずかったかな・・・」
深呼吸。
"Well..."
"Rrrrrroyal milk tea, please."
店員
"Sorry?"
No.3
「単語は合ってるはず。」
No.4
「翻訳アプリの音声機能使えば?」
No.2
「今は黙っててください。」
さらに深呼吸。
「Lの発音か・・・」
「舌を歯の裏につけて・・・」
"Royal milk tea."
"Milk tea."
"Royal..."
店員
"I'm sorry."
"What do you mean?"
No.2
固まる。
「RとLじゃないのか・・・」
「イントネーション?」
「ロイヤルじゃなくてロォイヤル?」
「ミルクティーじゃなくてミウクティー?」
「pleaseを強めに・・・?」
タイマー。
02:00
01:00
No.2
どんどん声が小さくなる。
"Royal milk tea..."
サイレン。
《MISSION FAILED》
《注文失敗》
No.2
「・・・」
No.4
「だから翻訳アプリ使えって。」
「今なら音声機能もあるじゃん。」
No.3
「いや。」
「そもそも単語じゃないの?」
No.1
「文法は間違ってないと思うんですけど・・・」
教子
「お前ら。」
「全員ズレとる。」
全員
「・・・」
教子
No.2を見る。
「お前。」
「何が悪かったと思っとる?」
No.2
「発音です。」
教子
「ちゃう。」
No.2
「イントネーションですか?」
教子
「ちゃう。」
No.2
「RとL・・・」
教子
「そこちゃうわ!」
沈黙。
教子
「何回聞き返された?」
No.2
「三回。」
教子
「何回言った?」
No.2
「三回。」
教子
「ほな。」
「全部、作戦一緒やったんやな。」
No.2
黙る。
教子
「発音が悪かった。」
「イントネーションが悪かった。」
「RとLが悪かった。」
少し間。
「ほんまにそうか?」
No.2
「・・・」
教子
「お前。」
「何飲みたいんや。」
No.2
「ロイヤルミルクティーです。」
教子
「ちゃう。」
No.2
「え?」
教子
「何飲みたいんや。」
No.2
止まる。
教子
「紅茶か?」
No.2
「はい。」
教子
「ミルク入っとるんか?」
No.2
「はい。」
教子
「温かいんか?」
No.2
「はい。」
教子
「甘いんか?」
No.2
「はい。」
教子
「tea」
「milk」
「hot」
「sweet」
「それでええ。」
No.2
「それ、ダサくないですか。」
教子
「せやな。」
「気持ちは分かる。」
「でも、伝わらん方がダサくないか。」
教室が静かになる。
No.1
「それは確かに。」
No.2
何も言えない。
教子
「もう一回や。」
《VRシミュレーション再開》
【カフェ】
No.2
少し緊張している。
"Tea."
店員
"Tea?"
No.2
"With milk."
店員
"Oh."
No.2
"Hot."
"Sweet."
店員の顔が明るくなる。
"OK!"
"Hot milk tea with sugar?"
No.2
"Yes."
店員
"One for here or to go?"
No.2
"To go, please."
店員
"Sure."
《MISSION CLEAR》
No.2
呆然。
No.6
「通った。」
No.1
「通りましたね・・・」
No.2
「なんで・・・」
教子
口を開きかける。
その瞬間。
No.3
「あ。」
全員が振り返る。
No.3
「分かったかも。」
No.2
「は?」
No.3
少しニヤつく。
「Royal milk teaって
そもそも英語じゃない。」
No.2
「は?」
No.3
「イギリスには無かったはず。」
No.6
少し驚く。
「えっ。」
「知らなかったです。」
No.3
「前に和製英語の本かなんかで見た。」
No.4
スマホを操作する。
「あー。」
「出た。」
「日本独自らしい。」
No.2
「マジか・・・」
No.3
勝ち誇る。
「発音以前の問題。」
「店員が知らない単語だった。」
No.2
「・・・」
教子
「せや。」
全員が見る。
教子
「相手が知らん言葉を。」
「どんだけ綺麗に言っても。」
少し間。
「知らんもんは知らん。」
沈黙。
No.2
黙る。
No.3
ニヤッ。
「だから。」
「知ってるか知らないかだよ。」
「英語なんて結局知識ゲー。」
No.6
「めっちゃ嬉しそう。」
No.1
苦笑い。
No.4
「いや。」
「だから検索すれば早いって。」
No.3
「お前は黙ってろ。」
教子
ニヤッ。
「ほう。」
「そうか。」
少し間。
「ほな。」
No.3を見る。
「次、お前や。」
No.3
「余裕です。」
No.2
悔しそうに笑う。
「その余裕、いつまで続くかな。」
No.4
「ご愁傷さま。」
No.6
「なんか嫌な予感します。」
No.5
小さくつぶやく。
「・・・私も。」
教子
ニヤッと笑う。
《VRシミュレーション起動》
暗転。
第3訓練 正解・不正解の世界
【日本のホテル】
廊下。
煙。
非常ベル。
アジア系外国人観光客が慌てている。
壁には赤い消火器。
教子の声
《ミッション開始》
《制限時間 5分》
《火災発生。火災を阻止してください》
No.3
余裕。
「Fire extinguisher。」
「答え出てるじゃん。」
外国人を見る。
煙を見る。
指をさす。
"Fire extinguisher!"
外国人
"What?"
No.3
笑う。
聞こえなかっただけ。
"Fire extinguisher!"
外国人
"What is that?"
No.3
止まる。
No.2
「発音じゃないですか?」
No.3
「違う。」
「単語は合ってる。」
「英語で答えられてるし。」
No.4
「スマホ見せた方が早くない?」
No.3
「黙れ。」
外国人へ向かう。
自信満々。
"Fire extinguisher!"
"Use a fire extinguisher!"
外国人
"What is that?"
No.3
少し大きな声。
"Fire extinguisher!"
外国人
"What is that?"
"I don't know."
No.3
眉をひそめる。
No.4
「だから翻訳アプリ使えって。」
No.3
「黙れ。」
煙が広がる。
タイマー。
03:00
02:00
No.1
「別の言い方を・・・」
No.3
「いや、合ってるから。」
No.2
「やっぱり発音じゃない?」
「Fは唇ちゃんと噛んでます?」
No.3
「発音じゃない。」
No.4
「画像検索しろよ。」
No.3
「だから正しい単語なんだって!」
サイレン。
《MISSION FAILED》
《初期消火失敗》
No.3
「・・・」
No.2
「知識ゲーだったようで。」
No.4
「ご愁傷さま。」
No.3
「いや、待ってください。」
「単語は合ってましたよね?」
教子
「合ってたで。」
「Fire extinguisherや。」
No.3
「じゃあ俺。」
「何を間違えたんですか。」
教子
「ほな聞く。」
「消火器って何や。」
No.3
「は?」
教子
「日本語で説明してみ。」
No.3
止まる。
教子
「消火器知らん人に」
「どう説明する。」
No.3
「・・・」
教子
「消火器言わずに説明してみ。」
No.3
沈黙。
No.1
小さく言う。
「火を消すやつ・・・?」
教子
「せや。」
No.3
「・・・」
教子
「他は?」
No.6
「赤いボンベ。」
No.2
「壁に置いてある。」
No.1
「スプレーみたいなやつ。」
No.4
スマホを見る。
AI検索。
「ほら。」
「赤い筒。」
「火消すやつ。」
「レバー握って水が出てくる。」
「AIなら0.3秒。」
No.3
睨む。
教子
うなずく。
「ほら。」
「もう説明できとる。」
No.3
黙る。
教子
「お前な。」
「ずっと正解探しとる。」
No.3
黙る。
教子
「資格。」
「合格。」
「不合格。」
少し間。
「ずっと◯✕の世界や。」
No.3
何も言えない。
教子
「Fire extinguisherは正解や。」
少し間。
「辞書ではな。」
「お前は知っとる。」
「でも。」
「相手も知っとるとは限らん。」
No.3
「・・・」
教子
「英語圏の人とも限らん。」
「英語勉強中かもしれん。」
「子どもかもしれん。」
No.3を見る。
「お前。」
「2歳の子に火事知らせる時」
「火災発生です。」
「避難してください。」
「って言うんか?」
No.3
「・・・言わないです。」
教子
「せやろ。」
「ほな何て言う。」
No.3
「火事だよ。」
教子
「他は?」
No.3
「火が出てる。」
教子
「他は?」
No.3
「危ない。」
教子
「せや。」
少し間。
「通じるまで言い換えるやろ。」
No.3
「・・・」
教子
「なんでや。」
No.3
黙る。
教子
「伝えたいからや。」
煙を指さす。
「英語も一緒や。」
少し間。
「Fire extinguisherが正しいかどうか。」
「そんなん後回しや。」
「相手が動けるかどうかや。」
沈黙。
教子
「今欲しいんは。」
「◯✕の正解ちゃう。」
煙を指さす。
「消火や。」
少し間。
「命を助ける行為や。」
教室が静まる。
No.1
窃盗の時を思い出す。
No.3
スクリーンを見る。
教子
「ほな。」
「もう一回や。」
《VRシミュレーション再開》
【日本のホテル】
煙。
外国人。
壁の赤い消火器。
No.3
深呼吸。
"Red!"
外国人
「?」
No.3
指をさす。
"Red!"
"There!"
"On the wall!"
"Use it!"
"Fire!"
外国人
振り返る。
"Oh!"
走る。
赤い消火器を見つける。
初期消火成功。
《MISSION CLEAR》
No.3
呆然。
教子
「Fire extinguisher使えたか?」
No.3
首を振る。
教子
「でも通じた。」
沈黙。
教子
「辞書の正解と。」
「会話の正解は。」
少し間。
「同じとは限らん。」
No.3
うつむく。
教子
「言葉ってな。」
「知識の披露大会ちゃう。」
少し間。
「意味渡すためにあるんや。」
沈黙。
その時。
No.4
手を挙げる。
「でもさ。」
全員が見る。
No.4
「結局、AIなら一発だったよな?」
教室が静まる。
No.4
「画像検索して写真撮れば終わり。」
「今なら音声翻訳アプリもある。」
「AIに聞けば説明も出る。」
「だったら。」
「英語教育そのもの要らなくね?」
No.2
「あー・・・」
No.3
少し悔しそう。
でも反論できない。
No.4
調子に乗る。
「発音もいらない。」
「単語もいらない。」
「言い換えもいらない。」
「全部AIでよくね?」
No.1
少し考える。
No.5
黙っている。
教子
しばらく黙る。
No.4
「ほら。」
「誰も反論できない。」
教子
ニヤッ。
「せやな。」
全員
「え?」
No.4
勝ち誇る。
「だろ?」
教子
うなずく。
「便利や。」
「私も使う。」
No.4
ニヤニヤ。
教子
少し間。
「ほな。」
No.4を見る。
「試してみるか。」
No.4「余裕。」
《VRシミュレーション起動》
暗転。
第4訓練 AI万能論
次の瞬間。
海外のレストラン。
夕方。
テラス席。
客は数人。
店員は一人。
配膳ロボットが静かに動いている。
No.4
周囲を見る。
「なんだここ。」
教子の声
《ミッション開始》
《制限時間 5分》
《対象者を救助してください》
No.4
笑う。
「AIあるから大丈夫っしょ。」
その時。
隣の席。
大柄な外国人男性が肉を食べている。
突然。
ゴホッ。
ゴホッ。
男が喉を押さえる。
立ち上がる。
顔色が変わる。
No.1
「あ。」
No.5
「苦しそう・・・」
No.4
即スマホ。
「はいはい。」
「AI先生。」
検索
《喉に食べ物を詰まらせた時の対処法》
AI
《気道閉塞の可能性》
《ハイムリック法を実施してください》
No.4
「ハイムリック?」
検索
《ハイムリック法 やり方》
AI
《対象者の背後から腕を回し、みぞおちの上を素早く圧迫してください》
No.4
「なるほど。」
男の後ろへ回る。
やる。
やる。
やる。
動かない。
No.4
「重っ!」
No.3
「何キロあるんだよ。」
No.2
「あなたじゃ無理でしょうね。」
No.4
すぐ検索
《ハイムリック法 効かない》
AI
《大柄な対象者には困難な場合があります》
《背部叩打法を試してください》
No.4
「なるほど。」
止まる。
「背部叩打法ってどこ叩くんだ?」
検索
《背部叩打法》
AI
《肩甲骨の間を叩いてください》
No.4
「肩甲骨どこ?」
No.1
「背中の真ん中だよね?」
No.3
「だいたい背中だろ!」
No.4
「だいたいじゃダメなんだよ!」
検索
《肩甲骨の位置》
その間にも。
外国人男性は膝をつく。
苦しそうに喉を押さえる。
顔色が悪くなる。
No.5
「救急車・・・」
No.4
「待って。」
検索
《異物除去できない場合》
AI
《救急要請してください》
No.4
「この国の救急の番号ってなんだったっけ。」
検索
「あ、112か。」
さらに検索
《救急要請 方法》
AI
《患者の容態を見ている人は目を離さず、周りの人に救急車を呼んでもらってください》
No.4
「よし。」
「俺はこいつを見てればいいんだな。」
「あとは周りに救急車を呼んでもらえばいい。」
少し安心する。
そして止まる。
「待てよ。」
「救急車って英語なんだっけ。」
No.1
「は?」
No.3
「嘘だろ。」
No.4
検索
《救急車 英語》
AI
《ambulance》
No.4
「よし。」
さらに検索
《ambulance 音声》
No.2
「お前、それ今か!?」
音声再生。
"Ambulance."
テラス席。
数人の客。
No.4
スマホを掲げる。
音声再生。
"Call an ambulance."
誰も動かない。
No.4
「え?」
No.3
「聞こえてねぇ。」
No.2
「届いてない!」
「もっと大きく!」
No.4
もう一度再生。
"Call an ambulance."
一人の客。
首をかしげる。
No.3
「だから!」
「Ambulance知らん人もいるだろ!」
No.4
「そんなわけないだろ・・・」
画面の端。
赤いバッテリー表示。
1%
0%
ブラックアウト。
沈黙。
外国人男性。
崩れ落ちる。
サイレン。
《MISSION FAILED》
《対象者救助失敗》
No.4
「でも・・・」
「全部正しかったっしょ。」
「AIの言う通りにやった。」
教室が静まる。
教子
うなずく。
「せやな。」
「全部正しかった。」
No.4
少し顔を上げる。
教子
「ハイムリック法。」
「背部叩打法。」
「救急要請。」
「全部正しい。」
No.4
「・・・うん。」
教子
少し間。
「でも。」
「誰も助からんかった。」
沈黙。
No.4
「・・・」
教子
倒れた外国人男性を見る。
「なんでやと思う。」
No.4
「・・・」
教子
「お前。」
「ずっと画面見とったな。」
No.4
「・・・」
教子
外国人男性を指さす。
「この人見とったか。」
沈黙。
No.4
何も言えない。
教子
「AIは賢い。」
「便利や。」
「私も使う。」
少し間。
「でも。」
外国人男性を指さす。
「今この人がどうなっとるかは。」
「AIより。」
「お前の方が見えとった。」
No.4
「・・・」
教子
「周りに人おったな。」
No.4
「・・・はい。」
教子
「何人おった。」
No.4
答えられない。
教子
「誰が助けてくれそうやった。」
No.4
「・・・」
教子
「AIはそこまで教えてくれたか。」
沈黙。
教子
「AIは情報をくれる。」
少し間。
「でも。」
「今何を優先するかは。」
「現場見てる自分で決めるんや。」
No.4
「・・・」
教子
「もう一回や。」
《VRシミュレーション再開》
【海外のレストラン】
同じテラス席。
同じ外国人男性。
ゴホッ。
ゴホッ。
喉を押さえる。
No.4
スマホを見る。
少し迷う。
画面を消す。
外国人男性を見る。
苦しそう。
テラス席を見る。
客が数人。
No.4
深呼吸。
立ち上がる。
"HELP!"
全員が振り向く。
No.4
"HELP!"
外国人男性を指さす。
"He..."
止まる。
「『息ができない』って何て言うんだろう・・・」
検索すれば・・・
少し間。
「いや。」
首を振る。
"Help!"
"He need help!"
"Please!"
テラス席。
数人の客が立ち上がる。
No.4
"You!"
近くの客を指さす。
"Call 112!"
客
スマホを取り出す。
No.4
"Please!"
"Help him!"
何度も叫ぶ。
大柄な客。
駆け寄る。
ハイムリック法。
一回。
二回。
三回。
肉片が飛び出す。
外国人男性
大きく息を吸う。
周囲。
安堵。
《MISSION CLEAR》
No.4
立ち尽くす。
No.3
「Ambulance言わなくても通じた。」
No.2
「He needs helpが本来なんでしょうけど・・・」
No.1
「でも・・・」
「助かりましたね。」
No.4
「・・・」
教子
静かにうなずく。
「112。」
「覚えとったな。」
No.4
うなずく。
教子
「AIで調べたの。」
「無駄やなかったやろ。」
No.4
「はい。」
教子
「AIは便利や。」
「何でも教えてくれる。」
少し間。
「せやけど。」
「助けたんは。」
「お前の判断や。」
教子
「AIも使った。」
「112も使った。」
「知っとる単語を選んだ。」
「人も使った。」
少し間。
「助かるなら。」
「何でも使え。」
沈黙。
No.1
少し笑う。
No.2
頭をかく。
No.3
腕を組んだまま。
小さくうなずく。
教室の空気が少し柔らかくなる。
静寂。
全員が少しずつ納得する。
ただ一人。
No.5だけが。
うつむいたまま。
握った拳が震えている。
教子
気づく。
「どうした。」
No.5
「でも・・・」
全員が振り返る。
No.5
目を合わせない。
「助けようと思える人はいいですよ。」
教室が静まる。
「まだ。」
「どうにかなるって思ってるんでしょ。」
笑おうとする。
でも。
笑えない。
「私は。」
少し間。
「もう無理だと思ってるので。」
完全な沈黙。
No.1
言葉を失う。
No.2
目を伏せる。
No.3
何も言えない。
No.4
握っていたスマホの力が
少し抜ける。
教子
黙ってNo.5を見る。
《VRシミュレーション起動》
暗転。
第5訓練 始めるのには遅すぎる
No.5
周囲を見る。
海外。
夜。
雨。
ホテルフロント。
教子の声
《ミッション開始》
《制限時間 5分》
《ホテルにチェックインしてください》
No.5
名前を伝える。
係員
PCを見る。
"There is no reservation."
No.5
スマホを見る。
予約確認メール。
確かにある。
No.5
「・・・」
No.1
「メール見せれば。」
No.2
「予約してるって言えば。」
No.3
「Reservation confirmationとか。」
No.6
「翻訳アプリ使えよ。」
No.5
何も言わない。
係員
"I'm sorry."
"No reservation."
他の列に並んでいる客へ。
"Next, please."
終了。
No.5
外へ出る。
夜。
雨。
知らない街。
ホテルは満室。
《MISSION FAILED》
No.5
「ほら。」
「無理だった。」
教子
静かに聞く。
「何が。」
No.5
「英語です。」
教子
「ちゃう。」
No.5
「・・・」
教子
「お前。」
「話してへん。」
沈黙。
No.5
「だって。」
「話せないし。」
教子
「話そうとしてへん。」
No.5
少しイラつく。
「だから!」
「話せないんです!」
教室が静まる。
No.5
涙目。
「昔は頑張ったんです。」
「教材も買った。」
「留学もした。」
少し間。
「でも。」
「ダメだった。」
沈黙。
No.5
「話せる人っているんですよ。」
「最初から英語出てくる人。」
「外国人と楽しそうに話してる人。」
少し間。
「留学中もいました。」
【回想】
語学学校。
同じクラスの日本人留学生。
先生に質問して、教室が笑いに包まれる。
場面変わる。
シェアハウス。
帰国子女。
外国人と笑いながら話している。
場面変わる。
ワーホリ経験者。
「次はカナダ行くんだ。」
楽しそうに話している。
場面変わる。
卒業パーティー。
笑い声。
英語。
英語。
英語。
No.5
輪に入れない。
場面変わる。
No.5
部屋へ戻る。
ノート。
英会話教材。
開く。
少し考える。
閉じる。
【回想終了】
No.5
小さく笑う。
「みんな。」
「楽しそうだった。」
沈黙。
「私だけ。」
「何も言えなかった。」
少し間。
「その時。」
「思ったんです。」
長い沈黙。
「向いてる人っているんだなって。」
「私は違うんだなって。」
沈黙。
「CAになりたかったのに。」
少し間。
「英語を話したかったのに。」
【回想】
留学パンフレット。
若い頃のNo.5。
『CAになりたい』
目が輝いている。
場面変わる。
留学中。
レストラン。
注文したものと違う料理が運ばれてくる。
本当は違う。
でも。
"No problem."
場面変わる。
飛行機。
窓側を予約していた。
でも。
通路側になっていた。
本当は窓側がよかった。
でも。
でも。
"No problem."
場面変わる。
日本に戻ってきてからの街角。
外国人
"Excuse me."
"Do you speak English?"
No.5
反射的に。
"Sorry."
"I can't speak English very well."
立ち去る。
【回想終了】
No.5
苦笑い。
「英語話せないのに。」
少し間。
"I can't speak English very well."
「だけは。」
「流暢になったんです。」
No.5
「だから。」
「先生の言ってた。」
『今回の実験は英語できる人を集めた』
「って間違いですよ。」
「私。」
「場違いなんです。」
少し間。
「向いてなかったんです。」
「才能なかったんです。」
教室が静まる。
教子
「ほう。」
少し間。
「才能なかったから諦めたんか。」
No.5
「・・・はい。」
教子
うなずく。
「才能な。」
「便利な言葉や。」
No.5
「・・・」
教子
「話せへんかった。」
「それは事実や。」
No.5
うつむく。
教子
「聞き取れんかった。」
「言葉も出んかった。」
「周りは楽しそうやった。」
「自分だけ置いていかれた気がした。」
No.5
涙目。
教子
「悔しかったな。」
長い沈黙。
No.5
涙がこぼれる。
教子
「せやろな。」
「頑張ったもんな。」
No.5
泣く。
教子
少し間。
「才能のせいにしたら。」
「楽やもんな。」
No.5
止まる。
教子
「向いてへん。」
「才能ない。」
「もう歳や。」
「そういうことにしたら。」
「終われるもんな。」
長い沈黙。
教子
小さく。
「でもな。」
No.5
顔を上げる。
教子
「向いてへんかった人間が。」
「そんな顔するか。」
No.5
止まる。
教子
「終わった話やったら。」
「そんな悔しそうな顔せんやろ。」
「ほんまに諦めた人間は。」
「実証実験に応募せん。」
「ここにも来ん。」
長い沈黙。
No.5
止まる。
教子
「……まだ。」
「捨てられへんもん。」
「あるやろ。」
長い沈黙。
教子
「留学パンフレット。」
「まだ持っとるな。」
No.5
顔が上がる。
教子
「捨ててへんやろ。」
沈黙。
No.5
小さく。
「・・・捨てられないんです。」
教子
うなずく。
「せやろな。」
No.5
「もう行かないのに。」
「もう歳なのに。」
「英語も話せないのに。」
「なんでか。」
「捨てられないんです。」
沈黙。
教子
「ほんまに終わった思っとるなら。」
「そんなもんとっくに捨てとる。」
No.5
何も言えない。
少し間。
教子
「未練あるんやろ。」
No.5
黙る。
教子
「違うか。」
No.5
答えられない。
沈黙。
教子
「お前な。」
「英語諦めたんちゃう。」
沈黙。
「傷つくん諦めただけや。」
No.5
涙が止まらない。
教子
「あの時。」
「もうちょっと頑張っとったら。」
「違ったんかなって。」
少し間。
「若かったら。」
「帰国子女やったら。」
「もっと時間あったら。」
「もっとお金あったら。」
「そうやって。」
「ずっと考えとるんやろ。」
No.5
小さくうなずく。
教子
「そう思っとるうちは。」
「終わっとらん。」
沈黙。
教子
「やった後悔はな。」
少し間。
「いつか笑い話になる。」
No.5
黙る。
教子
「でも。」
「やらん後悔は。」
少し間。
「ずっと残る。」
沈黙。
教子
「・・・せやから。」
少し間。
「もう一回や。」
《VRシミュレーション再開》
同じホテル。
同じフロント。
"There is no reservation."
No.5
反射的に口を開く。
"I'm sorry."
少し間。
"I can't speak English very well."
No.1
「やっぱりダメか・・・」
No.2
「その英語だけ発音うめーな・・・」
No.3
「単語一発でもいいから続けろ!」
No.6
「今なら間に合う!」
No.5
顔を上げる。
少し震える。
"But..."
諦めかけていた全員の視線が、No.5に集まる。
No.5
予約メールを見せる。
"I have this."
係員
メールを見る。
No.5
続ける。
"I booked a room."
係員
顔色が変わる。
"Let me check."
数秒後。
"Oh."
"I'm sorry."
"We found your reservation."
《MISSION CLEAR》
No.5
呆然。
No.1
「言えたじゃん。」
No.5
「・・・」
No.2
「通じたし。」
No.3
「部屋取れたし。」
No.6
「ちゃんと伝わったじゃないですか。」
No.5
少し笑う。
「・・・」
「これが。」
少し間。
「話せるってことなんかな。」
教室が静まる。
教子
うなずく。
「せや。」
少し間。
「通じたな。」
No.5
「・・・はい。」
教子
「部屋取れたな。」
No.5
「・・・はい。」
教子
少し笑う。
「ほな。」
「誰が才能ない言うた。」
沈黙。
No.5
涙を拭く。
少し笑う。
「初めてかも。」
No.1
「何が?」
No.5
少し考える。
"I can't speak English very well."
少し間。
「…の続き言ったの。」
教子
うなずく。
教室に、少しだけ温かい空気が流れる。
No.1
小さく笑う。
No.2
目を逸らしながらも、少し口元が緩む。
No.3
腕を組んだまま、何も言わない。
No.6
黙っている。
そして。
No.6
「でもさ。」
全員がNo.6を見る。
No.6
「その続きって。」
少し間。
「どうやって出すんですか。」
教室が静まる。
No.5
顔を上げる。
No.6
「今のは、たまたまメールがあったからでしょ。」
「I have this.」
「I booked a room.」
「たまたま言えたから、通じただけで。」
少し間。
「じゃあ。」
「何も準備してない時は?」
No.1
「・・・」
No.6
「習ってない話になったら?」
No.2
目を伏せる。
No.6
「相手が予想外のこと言ってきたら?」
No.3
黙る。
No.6
「スクールでは話せるんです。」
「オンライン英会話もやりました。」
「シャドーイングも、瞬間英作文も、アプリも。」
「教材も買いました。」
「コーチングも受けました。」
少し間。
「でも。」
「本番になると。」
「出てこないんです。」
教室が静まる。
No.6
「だから聞きたいんです。」
少し間。
「結局。」
「どうしたら話せるようになるんですか。」
沈黙。
教子
No.6を見る。
少しだけ表情が変わる。
教子
「やっと来たな。」
No.6
「え?」
教子
「お前が一番厄介や。」
No.6
「・・・」
教子
「サボってへん。」
「諦めてもへん。」
「知識もある。」
「努力もしてきた。」
少し間。
「せやのに。」
「話せん。」
教室が静まる。
教子
「ほな。」
「見るか。」
《VRシミュレーション起動》
暗転。
第6訓練 こんなに努力してきたのに
地震。
停電。
寮待機。
教子の声
《ミッション開始》
《制限時間 5分》
《あなたと同じ寮に住んでいる留学生が部屋を訪ねてきました。
要望に応えてあげてください》
隣の留学生
"Do you have anything to eat?"
少しふらついている。
お腹を押さえる。
No.5
「顔色悪くない?」
No.4
「腹減ってるだけじゃね?」
No.6
「OK.」
すぐに冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の中を見る。
にんじん。
じゃがいも。
玉ねぎ。
牛乳。
コトコト煮込むシチューが思い浮かぶ。
「せっかくだから。」
「美味しいもの作ろう。」
鍋を火にかける。
鍋がコトコト煮える。
夢中でかき混ぜる。
時間が過ぎる。
やがて。
No.6
シチューを持ってリビングへ。
留学生
ソファにもたれかかっている。
"No food..."
"I was hungry..."
崩れ落ちる。
《MISSION FAILED》
No.6
「・・・え?」
沈黙。
「私。」
「何がダメだったんですか。」
教室が静まる。
No.6
「ちゃんと作った。」
「時間もかけた。」
「喜んでもらおうと思った。」
少し間。
「私なりに。」
「ちゃんとやったんです。」
長い沈黙。
「手抜きしたわけじゃない。」
「サボったわけでもない。」
少し間。
「なのに。」
「・・・なんでですか。」
教子
「せやな。」
「頑張った。」
No.6
「・・・」
教子
「無駄ちゃう。」
「美味しそうなシチュー作れた。」
No.6
「・・・」
教子
「せやけど。」
No.6
「・・・」
教子
「何が食べたいか聞いたか。」
No.6
止まる。
教子
「今すぐ欲しかったんか。」
No.6
答えられない。
教子
「どれくらい腹減っとったか。」
No.6
答えられない。
少し間。
教子
「お前な。」
「腹減った言うとる相手に。」
「まずレシピ探し始めた。」
No.6
黙る。
少し間。
教子
「何のために料理するんや。」
No.6
「・・・え?」
教子
「今この状況でや。」
沈黙。
「レシピ再現するためか。」
「食べた人に褒められるためか。」
「料理本に載るためか。」
No.6
答えられない。
教子
スクリーンを指す。
"Do you have anything to eat?"
少し間。
「ちゃうやろ。」
「腹減っとるからやろ。」
教室が静まる。
教子
「食わすために。」
「腹満たすために。」
「料理するんやろ。」
No.6
「・・・」
教子
「努力不足ちゃう。」
No.1
ハッとする。
教子
「発音不足でもない。」
No.2
ハッとする。
教子
「正解不足でもない。」
No.3
ハッとする。
教子
「才能不足でもない。」
No.5
目を見開く。
教子
「聞き取れとる。」
「考えとる。」
「動いとる。」
少し間。
「その時に必要なんはな。」
沈黙。
「ただ。」
「腹減った時に。」
「今あるもんで。」
「どう満たすか。」
少し間。
「そこや。」
No.6
「・・・」
教子
「お前はそこを。」
「習ってへんかっただけや。」
その瞬間。
【回想】
No.1
空港。
"Man!"
"Bag!"
"Stop!"
外国人観光客
"Thank you!"
場面変わる。
No.2
カフェ。
"Tea."
"With milk."
"Hot."
"Sweet."
店員。
"OK."
場面変わる。
No.3
ホテル。
"Red!"
"There!"
"On the wall!"
"Fire!"
外国人
"Oh!"
消火器へ走る。
場面変わる。
No.4
レストラン。
"Help!"
"Call 112!"
倒れていた外国人男性
大きく息を吸う。
場面変わる。
No.5
ホテル。
"I can't speak English very well."
……
"But..."
"I have this."
係員。
"We found your reservation."
【回想終了】
No.6
目を見開く。
教子
「みんな。」
「同じことしとった。」
少し間。
「せやから。」
「まずは腹満たせ。」
全員誰も反論しない。
沈黙。
教室。
静かな空気が流れる。
少し間。
教子
「飯の話してたら腹減ったな。」
「ほな、みんなで飯でも作るか。」
全員
「・・・は?」
少し間。
No.6
冷蔵庫を開ける。
にんじん。
じゃがいも。
玉ねぎ。
こま切れ肉。
No.1
「カレーでいいんじゃない?」
全員
「いいね。」
No.1
少し考える。
「でも」
「せっかく作るなら。」
「ちゃんと美味しいの作りたくない?」
No.4
「美味しいレシピAIで検索すれば」
「間違いなくうまい味でしょ。」
No.3
「カレーのおいしさといえば肉でしょ。」
「肉の部位にはこだわりたいな。」
No.2
「盛り付けも」
「レストランみたいにしたいよね。」
No.5
「でも」
「最初からうまく作れる気がしない。」
少し間。
「……みんなに任せてもいい?」
No.6
「有名シェフのレシピなら知ってる。」
「その通りにやれば。」
教室がざわつく。
教子
腕を組む。
「お前ら。」
「また始まったな。」
全員
止まる。
教子
「今」
「腹減っとるとする。」
少し間。
「三日後に美味しいカレー食べられます。」
「それまで待ってください。」
「言われたらどうする?」
沈黙。
No.6
苦笑い。
「・・・あ。」
No.1
「あ。」
No.3
「あー・・・」
No.4
「またやってる。」
No.5
「美味しい方ばっか見てる。」
No.6
うなずく。
「先に」
「腹満たさないと。」
空気が変わる。
No.1
「これだけあれば」
「十分作れるか。」
No.3
「肉ならなんでもいいか。」
No.2
「盛り付けとかは後で考えればいいか。」
No.4
「検索は参考程度でいいな。」
No.5
「美味しくなくても食べられればいいのよね。」
No.6
笑う。
「なんか」
「久しぶりに楽しい。」
みんな笑う。
カレーを作り始める。
包丁の音。
鍋の音。
香り。
No.6
包丁を動かしながら。
「そういえばさ。」
少し間。
「No.5さんって」
「CAになりたかったんだよね。」
No.5
少し照れながら笑う。
「そう。」
飛行機。
英語で乗客を助ける客室乗務員。
幼いNo.5
目を輝かせる。
「かっこよかったの。」
「私もなりたかった。」
No.6
うなずく。
「だよね。」
少し間。
「じゃあさ。」
全員を見る。
「みんなは?」
「なんで英語始めたの?」
沈黙。
それぞれ思い出す。
No.1
玉ねぎを切る手が止まる。
「会社の先輩。」
外国人と楽しそうに話す先輩。
「かっこよかったんだよね。」
No.2
笑う。
「俺も似たようなもん。」
「海外ドラマ。」
「なんか日本と全然違くて」
「こんな世界もあるんだって。」
「ただ。」
「かっこよかった。」
No.3
「そういや。」
「俺も。」
「道案内。」
外国人に道を聞かれる。
単語だけ並べる。
最後に。
"Thank you!"
「めっちゃ嬉しかった。」
No.4
「バックパッカー。」
「英語全然できなくて。」
「出たてのAI使ったら通じてさー。」
「うわ。」
「通じるって。」
「なんか嬉しいーなって。」
No.6
小さく笑う。
「なんだ。」
「みんな一緒じゃん。」
No.1
「何が。」
No.6
包丁を置く。
「話したかっただけじゃん。」
No.5
小さく笑う。
「私。」
「ずっと。」
「ペラペラにならなきゃって思ってた。」
少し間。
「そこに行けないから。」
「諦めようとした。」
沈黙。
「でも」
「本当は。」
少し笑う。
「一言でも通じたら。」
「それで良かったのかも。」
少し間。
「そこから始まるだけだったのね。」
沈黙。
No.2
「・・・だな。」
No.3
「だな。」
共通。
ここで教子が喋らない。
ただ黙る。
全員が
「そうだった」
って思い出してる。
その様子を見て。
教子
ふっと昔を思い出す。
若い頃。
留学。
話せなかった。
悔しかった。
だから。
勉強した。
誰よりも勉強した。
先生になれるくらい。
英語を身につけた。
そして。
教える側になった。
文法。
発音。
資格対策。
勉強法。
全部教えた。
生徒は喜んだ。
資格も取った。
点数も上がった。
でも。
教室の外で
英語を話す人は
増えなかった。
悔しかった。
ある日
気付く。
教子
「私。」
「間違えないことばっかり」
「教えて。」
「英語話せない人」
「量産してない?」
長い沈黙。
教室。
休職届。
スーツケース。
一人旅。
インド。
市場を歩く。
その時。
「おねえさん、マッサージどう?
疲れ取れる、きもちーねー、いってらっしゃらい。きてらっしゃらい。」
めちゃくちゃな日本語。
でも。
通じる。
伝わる。
笑ってる。
つられて笑う。
教子
「・・・」
「これや。」
「私が教えたかったんは。」
「これや。」
場面が戻る。
No.6
「ただ」
「会話をしたかった。」
「それなのに」
「なんか苦しんでた。」
No.1
笑う。
「私。」
「全部完璧に備えてからじゃないと」
「話せないって思ってた。」
No.3
「あー・・・」
「俺も。」
「資格取ったら」
「単語いっぱい覚えたら」
「英語できる奴になれると思ってた。」
No.2
「俺。」
「かっこいい英語ばっかり」
「参考にしてた。」
「だから。」
「自分の日本語発音じゃ」
「ダメだと思ってた。」
みんな笑う。
No.4
「AIあれば全部解決すると思ってた。」
No.5
「私は。」
「始める前に負けてた。」
沈黙。
そこで初めて。
教子
小さく笑う。
「せや。」
「みんな。」
「三つ星シェフになろうとしてた。」
教子
「レシピ研究。」
「ええやん。」
「肉の研究。」
「それもええ。」
「発音。」
「文法。」
「単語。」
「全部大事や。」
「好きなだけやれ。」
少し間。
「でもな。」
「何のために英語やっとるか。」
沈黙。
「それだけは。」
「忘れんな。」
カレー作りに戻る。
No.1
「材料足りないと思ってたけど」
「意外となんとかなるもんだね。」
No.2
「温かいうちに食べようぜ。」
「盛り付けは後。」
No.3
味見する。
「安い肉でもうまいな。」
少し間。
「今度。」
「肉なしの豆カレーなんかもいいかもな。」
No.4
「あ、チョコあった。」
「入れてみる?」
No.1
「大丈夫?」
No.4
「知らん。」
「でもやってみようぜ。」
No.5
「焦げなきゃ合格。」
No.6
笑う。
「基準低っ。」
みんな笑う。
鍋が煮える。
香りが広がる。
全員
いただきます。
No.3
一口。
「・・・うま。」
No.2
「盛り付け微妙だけど。」
食べる。
「うまいな。」
No.1
「材料足りないと思ってたけど。」
「なんとかなるんだ。」
No.5
少し笑う。
「ちょっと」
「チョコの甘味」
「強くない?」
少し間。
「でも。」
「意外と美味しい。」
No.6
カレーを見る。
少し笑う。
「先に出せばよかったんだ。」
沈黙。
「お腹空いてる人に。」
少し間。
「まずは食べてもらって」
「そこから美味くしたらよかったんだ。」
教子
笑う。
「せや。」
さらに少し間。
「食えてから。」
「美味くしたらええ。」
静かな時間。
みんな笑う。
《MISSION CLEAR》
暗転。
エピローグ MISSION COMPLETED
実証実験報告記者会見
記者
「実験は成功だったんですか?」
教子
「知らん。」
記者
「それで。」
「皆さんペラペラになったんですか?」
教子
「知らん。」
記者
「は?」
教子
「そんなもん。」
「測れん。」
少し間。
「でも。」
「前より楽しそうや。」
暗転。
それから数年後。
ニュースキャスター
「実証実験開始以来」
「英語を話すことを楽しむ人が」
「増え続けています。」
カメラが窓の外へ抜ける。
英語。
日本語。
笑い声。
英語が飛び交う街。
職場。
No.1
海外取引先とのオンライン会議。
資料が一部映らない。
少し焦る。
先輩なら流暢に説明する。
でも。
No.1
"Sorry."
"This page."
"Not working."
"I'll explain."
相手
"Okay."
会議は続く。
No.1
安堵する。
場面が変わる。
外国人観光客
"Do you speak English?"
No.5
少し笑う。
"Not very well."
少し間。
"But how can I help you?"
観光客
質問し始める。
場面が変わる。
No.4
自宅スタジオ。
ライブ配信中。
登録者10万人。
コメントが流れている。
No.4
カメラの前。
AI検索
「息をする 英語」
画面
"breathe"
No.4
「AIだと。」
「一発ですね。」
少し間。
「でも。」
「もし目の前に人が倒れてて
『この人、息してません!』って
周りに伝えたかったらどうします?」
少し間。
「breatheなんて単語」
「思い出してる暇ないです。」
コメント欄
「終わった。」
「詰んだ。」
「無理。」
No.4
笑う。
「いやいや。」
「ここからがスタート。」
「シンプルに伝える方法はこちら。」
画面
"He can't get air."
"He needs air."
"No air."
コメント欄
「雑。」
「中学生英語。」
No.4
笑う。
「でも。」
「伝わる。」
少し間。
「助ける方が先。」
コメント欄
「焦って "He need air." って言いそう」
「これでも通じる?」
No.4
「学校ならバツ。」
「でも。」
「会話なら花丸。」
「助ける方が先。」
「通じりゃ。」
「オールオッケー。」
少し間。
No.4
カメラに向かって少し笑う。
「ぶっちゃけ。」
「こういう場面は。」
「AIより、人間の方が早いです。」
ライブ配信終了。
少し間。
アーカイブ設定。
サムネイル作成。
タイトル入力。
【本日のレッスン:AIよりも早い!通じりゃそれで「ええ会話」】
場面が変わる。
No.3
商店街。
ピンクの服を着た女の子が横目に入る。
数分後。
泣きそうな外国人
"My daughter is missing."
No.3
"How old?"
外国人
指で身長を示す。
No.3
"Pink clothes?"
外国人
"Yes!"
No.3
"Okay."
"Stay here."
"I'll help."
数分後。
少女を見つける。
外国人
"Thank you!"
"You are my lifesaver!"
No.3
照れ笑い。
"No problem."
場面が変わる。
夜。
No.2の家。
Royal Milk Tea。
ソファ。
2歳の娘と
テレビで海外ドラマ。
テレビ
カフェのシーン。
客
"Cappuccino, please."
店員
"Sure."
娘
「パパ。」
「カプチャーノって何?」
No.2
笑う。
「カプチーノな。」
少し間。
「でも。」
「カプチャーノって言っても」
「たぶん店員さん分かるよ。」
娘
「だから。」
「カプチャーノって何?」
No.2
笑う。
「コーヒーに」
「あわあわの牛乳が入ったやつ。」
娘
「へー。」
No.2
「今度。」
「あわあわコーヒー牛乳」
「飲んでみるか。」
娘
「飲むー!」
ドラマ終了。
奥から声。
奥さん
「お風呂入るわよー。」
娘
「はーい!」
バタバタ走っていく。
No.2
少し笑う。
Royal Milk Teaを一口飲む。
テレビが切り替わる。
ニュースキャスター
「続いての話題です――」
場面が変わる。
小さなカレー屋。
現場レポーター
「今話題のカレー店に来ています。」
少し間。
「実はここ。」
「カレーを食べながら」
「日本語を教えたり」
「英語を教えてもらったりする」
「ランゲージ・エクスチェンジの店なんです。」
外国人客
"This curry is amazing."
No.6
"Thank you."
外国人客
"What's your secret recipe?"
No.6
"Secret recipe?"
少し考える。
少し間。
"My secret is..."
ニヤッと笑う。
"If I tell you..."
"I lose my job."
店内。
爆笑。
外国人客。
"Your English is very good."
No.6
大笑い。
少し間。
"Good enough."
笑い声。
ドアが開く。
教子。
後ろ姿。
No.6
「いらっしゃいませー。」
教子
「いつもの。」
No.6
笑う。
「はーい。」
スパイスの香りが漂う店内。
英語。
日本語。
笑い声。
誰かが話し。
誰かが聞き返し。
また誰かが笑う。
ドアが閉まる。
カメラがゆっくり看板へ。
【Good Enough Curry & English】
三つ星じゃなくても営業中
美味しいカレーと
どこか味のある会話を。
完
カーテンコール
~実験終了後のカレー事情~
No.1 足し算女
実験前
高級肉。
高級野菜。
スパイス10種類。
全部揃わないと作らない。
材料は十分あるのに
「まだ足りない。」
そう言い続けていた。
実験後
足りない材料より
今ある材料を見るようになった。
冷蔵庫を開ける。
じゃがいも。
にんじん。
玉ねぎ。
「カレーできる。」
でも、カレー粉がない。
少し考える。
「まあいっか。」
「今日はポトフにするか。」
そう考えられるようになった。
思い描いていたものと
違うものになってもいい。
完璧じゃない。
でも美味しい。
今では
「とりあえず作ってみる。」
ができるようになった。
No.2 ネイティブ男
実験前
本場インドカレー研究。
盛り付け研究。
スパイス研究。
SNS映え研究。
見た目は完璧。
でも
冷めている。
実験後
盛り付けも好き。
本場研究も好き。
本場インドへ行って。
本物を見ることもする。
今でも
カレー屋に行くと写真を撮る。
日本にはないスパイスの話をするのも好き。
でも
写真を撮る前に
まず食べさせる。
温かいうちに出す。
少しくらい盛り付けが雑でもいい。
冷める前に
食べてもらう方が大事。
今では
そう思っている。
No.3 資格男
実験前
肉の研究ばかりしていた。
和牛ランク。
部位。
熟成。
脂の融点。
肉検定1級。
肉ソムリエ。
肉を極めれば
カレーも極められると思っていた。
気づけば
カレーを作ることより
肉博士になることが目的になっていた。
実験後
肉の研究は今も続けている。
むしろ前より詳しい。
でも
今は違う。
肉博士になるために
カレーを作るんじゃない。
美味しいカレーを作るために
肉を学んでいる。
最高の肉の旨味が出るカレーを
毎週作っている。
No.4 AI依存男
実験前
レシピ1000件保存。
ランキング閲覧。
レビュー確認。
AI相談。
比較検討。
結局作らない。
実験後
今もAIは使う。
今も検索する。
おすすめは参考。
新しいレシピを見つけるたび
試してみる。
チョコを入れたり
コーヒーを入れたり。
おすすめにないことも試す。
失敗することもある。
でも。
それも結構楽しい。
前みたいに
比較だけして終わることはない。
決定は自分。
最後は自分で決める。
今では
AIに相談しながら
自分が食べたいカレーを作っている。
No.5 諦め女
実験前
一度焦がした。
だから
「料理向いてない。」
と言い続けた。
本当は好きだったのに。
実験後
最初に作ったカレーは
また少し焦げた。
でも
捨てなかった。
焦げた部分を少し削る。
味見する。
「・・・食べられるじゃん。」
少し笑う。
「やっぱり向いてない。」
とは言わなかった。
今では
週末にカレーを作る。
レシピ通りじゃない。
でも
楽しそうに作る。
No.6 夢追い女
実験前
レシピ本。
料理動画。
料理学校。
勉強する。
練習する。
一流の人から学ぶ。
もっと上手くなろうとする。
でも
美味しいカレーの作り方ばかり考えて
目の前のお腹を空かせた人を
忘れていた。
実験後
今も勉強中。
時短レシピ。
子ども向けアレンジ。
作り置きメニュー。
アレルギー対応。
気になる記事は
つい読んでしまう。
料理動画も見る。
気になる店があれば
休みの日に食べに行く。
一流シェフからも学ぶ。
今も失敗する。
でも。
前とは少し違う。
目の前の人に
「美味しかった。」
と言われる料理を作るために
学んでいる。
まずは
お腹を空かせた人に
ご飯を出す。
それだけは。
忘れない。
No.7 黒船教子
英会話講師だった頃
No.1〜No.6の「実験前」全部入りミックスカレー。
全部教えようとしていた。
今
少し笑う。
「食えるようになってから。」
少し間。
「好きにしたらええ。」