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事務方クエスト(番外編)~魔女の痕跡

    くりす

    短い帰郷のつもりだった。
    なのになぜだろう?
    この国から離れられない。

    勇者の力を持て余し、1年ぶりに帰郷した兵の国。
    クリスやアイラ、会いたい人達には会えたし、
    【勇者】の素性を隠すなら、知人の多いこの国に、
    長居しない方がよいのだが。

    (時系列は、第5話直後・・・)

    ハルカは今日も宿屋のベッドに横になり、
    「ココから離れられない理由」に思いをはせる。
    だけど、何も思い浮かばない。

    「そうだ!今日は色々忘れて買い物でも楽しもう!」

    ドラゴン討伐の件でお金はあるし、
    「隠れ勇者」は「無職」なわけで、時間はある。
    加えて、平日なら顔見知りと会う可能性も低い。

    「最近、旅用や戦闘用の服ばっか着てたし、
     オシャレな普段着でも探すかな~♪」

    この国は田舎ではあるけれど、
    長年暮らしてた、勝手知ったる国である。

    「よーし、品揃えの豊富な〇✖△商店に行こう!」

    あらゆる職業の高レベルな装備から、
    普通に流行りの服までそろえる人気商店。
    行けばテンションが上がるお店だ。
    いいぞ、少し楽しくなってきた。

    意気揚々と外出準備を始めるハルカだが、
    この時既に判断を誤っていたことを、
    彼女はまだ気づいていない・・・

    「このお店久しぶりなのよねー
     今日はめいっぱい買い込むぞっ!」

    お目当ての服を前にテンションが上がりかけていた、
    ・・・その時だった。

    (な、何っ、誰かに見られてる?
     懐かしいけど、凄く不快なこの気配・・・)

    ひょっとして、魔王の手先?
    しまった、武器は宿屋に置いてきた。

    あせって後ろを振り向くと、
    気配の主とは、あっさり目が合った。

    「・・・・・・」

    「・・・・・・」

    「ひょっとしたらと思って見てたけど、
     やっぱりハルカさんじゃないー
     ずいぶん久しぶりねぇー♪」

    「ユ、ユミーバ・・・さん」

    誰と出くわしても、おかしくない町だ。
    そういう場所だからこそ、
    あえて平日を選んだというのに。
    よりによって「この人」と出くわすのか。
    事務方時代、仕事を引き継いだ先輩。
    今は職を退いて隠居してるはずである。

    はっきり言って「苦手な人」だ。
    そうか、現役を引退した人も平日はフリーよね。
    ハルカは自分の運のなさに、そっと天をあおいだ。

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    「聞いたわよぉー 事務方辞めたんだって?
     やっぱり大臣と合わなかったのぉ?」

    (あなたよりはうまくやってましたけど)

    「あなたがいないと、クリス君大変じゃない?
     きっと病んでるわよぉ。
     ・・・あっ、それでかぁー
     クリス君、私の通信魔法に返事がないの!」

    (それ、単に無視されてるだけ)

    「ねぇねぇ、ちなみに他の人ってどーなった?
     何か知ってたら教えてくれないー♪
     よかったらそこの酒場で、少しどう?」

    もう、買い物への意欲は消えていた。

    (早く、一刻も早くここから立ち去りたい!)

    ドラゴンすら、一撃で倒せる私の力。
    だが【苦手な先輩】に対しては全くの無力だ。

    (ユミーバさんが実は【魔王】とかないかしら?
     そしたら、遠慮なく退治できるのに・・)

    ユミーバの話は終わりそうもない。
    全ての音をかき消す【沈黙】の魔法。
    アレが使えたら良かったんだけど・・・

        ・
        ・
        ・

    「賢者様~ 棚の奥から、
     すっごい古い【箱】が出てきましたぁ。
     燃やしていいですか?」

    何でもかんでも燃やすんじゃない。
    そう思いながらも視線を移すと、
    アイラが持ってるその【箱】は・・・

    「ああ、それ「あの人」のだね」

    クリスは少しゲンナリした。
    いまだに「あの人」の物が出てくるのか。

    クリスにとっても、この職場での最初の師匠。
    クセ者ぞろいのこの事務所で、
    上司に詰められても、魔法でふきとばされても、
    辺境の片隅で、肉体労働を強いられようと。
    最後まで辞めることなく在籍した、
    元・事務方女性の主的存在「魔女・ユミーバ」

    「ユミーバさんが退職して、5年くらいかな。
     絶対いらないから燃やせばいいよ」

    「その人、逸話は色々聞くんですけど。
     どんな人だったんですかぁー?」

    (・・・どんな人、ねぇ)

    正直、あまりいい思い出はない。
    クリスとしては「ラスボス」とすら、
    思ってた頃もあったくらいだ。

    「そうですね、事務方のスキルはありました。
     字もキレイだったと思います。」

    「・・・賢者様、セリフが棒読みです」

    「いや、えっと・・・
     スキルはあるし、正論も言うんだけど。
     「自分はやらない」のよ。
     俺の「あの人」の評価はそれに尽きるかな」

    アイラとモリノに説明していると、
    ユミーバとの日々が思いおこされる。

    「人に散々手伝わせといて、
     それで自分の仕事が終わったら、
     『あとはクリス君待ち』とか平気で言うしさ!
     事務方はチェックと段取りが命!って、
     俺には言ってくるクセに、自分は無理って言うし!
     他にも2階まで行く便はないか?とかさぁ、
     2階に行く便? 何だよそれ歩けよ!
     2階なんて10秒で行けるわっ!!
     あーそう言えば他にも・・・・」


    (・・・1時間後)


    「・・・そんな人だったかなぁ。
     って、どうした2人共?」

    アイラはもちろん、
    モリノまでが疲れ果てた顔をしている。
    しまった、熱くなり過ぎたか?

    「その人、ホントに人類ですか?
     アイラ、同じ時代じゃなくて良かったです」

    アイラと同じくゲンナリはしていたが、
    モリノの反応は少し違った。

    「・・・けど、賢者様。
     その人とは単に仲が悪かっただけですか?」

    「えっ、なんで?」

    「こんなに多弁な賢者様、私は初めて見ましたよ。
     ただ嫌いなら、こんなに話せないと思います。
     途中から、ちょっと楽しそうでしたし」

    「楽し・・・そう?」

    あの人のことは、間違いなく嫌いだ。
    楽しいなんてとんでもない・・・が。

    「まぁ、アレも1つの時代だったからね。
     ほら『いつか笑える日が来るさ』って言うじゃん。
     アレだよ、アレ」

    そう、ユミーバとバチバチやってたのも、
    今となっては、1つの時代。
    後半は、クリスも随分きつい事を言っていた。

    『ユミさん、もう十分稼いだろ。
     とっとと隠居した方がいいんじゃない?』

    『今度その仕事やってなかったら、
     アンタの家をエリアごと消してやるっ!』

    「・・・とか言ってたなぁ。
     ぜ~んぜん、こたえてなかったけど」

    「そんな口の悪い賢者様も見たことないです。
     その方、まだ元気にしてるんですか?」

    「知らない。辞めてからは会ってないし。
     通信魔法もフル無視してるからw
     まぁでも、間違いなく元気だと思うね。
     あの人は、多分俺が死んでも生きてるよ」

    クリスはホントにそう思う。
    かつての【事務方】面子が全滅しても、
    あの魔女は、きっと生きて笑っている。
    そして、こう言うのだ。

    「はぁ~ みんな死んじゃったわねぇ」って・・・

    「賢者様、やっぱり懐かしそうですね。
     出てきた箱、置いときましょうか?」

    「いや燃やして!
     即座にこの世から抹消してくれる?」

    賢者様、この人に対してはやっぱり言葉が汚いな。
    そう思うアイラとモリノであった・・・

        ・
        ・
        ・

    「・・・それで今は時々バイトしながら、
     わりと楽しくやってるのよー
     いやぁーお金はすぐ無くなるから、
     あなたも気を付けた方がいいわよぉ」

    出会って1時間近く経過したが、
    ユミーバの話は終わらない。
    ハルカはもう、機械的に相槌をうってるだけだ。

    「そうそう!私事務方の事務所に、
     お気に入りのマグカップを忘れてきたんだぁ。
     だーいじに箱に入れてしまってたんだけどぉ。
     ハルカさん、クリス君と交流あるなら、
     今度聞いといてくれない?」

    (大事な物なら自分で取りに行けっ)

    話を終わらせたいので、もう何も言わない。

    「また『ユミーバを囲む会』やりましょ!
     他のみんなにも言っといてぇ~
     お店はどこでもいいから!
     じゃぁ、また今度ね」

    「はい、また・・・」

    そう言って見送りながら、
    やっとこの場が終わった事に安堵する。
    と同時に、激しく苛立ちがつのる。

    この1件も、ハルカが魔王探しに本気になる、
    きっかけの1つにはなった。

        ・
        ・
        ・

    「賢者様!箱燃やしてたら、
     中からマグカップ出てきましたぁ。
     燃えないですぅ~」

    「壊せっ、叩き壊すんだ。
     ここにヤツが存在した痕跡を残すんじゃない!」

    「・・・私がハンマーで粉砕しておきます」

    のぞいてしまった棚の奥からは、
    他にもユミーバの私物らしきものが続々と発見され、
    クリス達は処分におわれるのであった。

    魔女の痕跡は、中々消え去りそうもない。

     
     
     
    子供の頃は小説家になるのが夢だったおじさん。 日常をエッセイにしたり、小説にしてみたり。 面白おかしく書いてけたらと思います。 社歴25年の事務員なので、事務職にまつわることも。

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