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事務方クエスト(12)【第一部最終話】~職場に巣食う、〇〇の魔王

    くりす

    「やっぱり誰もいませんです!
     タダで貸切り状態って最高ですねぇ~」

    町の喧騒から少し離れた、川辺の野営地。
    時刻は昼食時を少し過ぎた頃、
    今夜の『お好み焼きパーティー』に備え、
    クリス達、総務事務方3名は準備を進めていた。
    アイラさんが無邪気に喜んでいる通り、
    他に人影は見当たらない。

    「そうでもないですよ。
     ほら、あっちで子ども達が遊んでます」

    モリノに促された方に目をやると、
    確かに数人の子どもが遊んでいた。

    「わが名は勇者アキフミ!
     魔王め、ぼくの必殺剣をうけてみろー」

    「バカめぇ!そんな剣がきくものか」

    「あー、卑怯だぞアツシ君!
     魔王は勇者に倒されるって決まってるのに!」

    「誰がそんなこと決めたんだよ!
     今回の魔王は激強なんだ。
     だから今回はボクが勝つんだよっ!」

    『勇者ごっこ』か。
    決められた筋書き通りに勇者が必ず勝つのなら、
    勇者も魔王も、何のために存在するのだろうか?

    「賢者様、今日は『みんな』来ますかね?
     正直、私は半信半疑なんですけど」

    モリノが心配そうに声をかけてくる。
    確かに『みんな』が揃わなければ、
    今日はただの『お好み焼きパーティー』だ。

    「来ると思うよ。
     人間、どうなるか分からない中途半端な状態。
     これが一番つらいからね。
     結果、イバラの道が待ってるんだとしても、
     『答え』を知らずにはいられないんだ」

    (それは、ご自分の経験談ですか?)

    モリノは興味があったが、
    その疑問を口には出さなかった。

    「賢者様、モリノさん~
     練習で焼いたお好み焼き、食べて下さい~
     お昼ごはん、まだですよねぇ?」

    アイラは準備と言いつつ、
    今もお好み焼きの自主練の真っ最中だ。

    「・・・だそうですけど。
     どうします、賢者様?」

    「ただの『お好み焼きパーティー』になったら、
     夜も食べなきゃいけないんだよ?
     大体、練習はもう十分だろうに」

    「でも『腹が減っては戦はできぬ』
     そうも言いますよ?」

    少し空腹ぐらいの方が頭が回るんだけどなあ。
    そう思いながらも、クリスはアイラに手を振った。

    「じゃぁ、1枚いただくよ。
     焼きたてをお願いね!」

    決戦の『お好み焼きパーティー』開始まで、
    あと、5時間ほど。

    遊んでいた子ども達もいなくなり、
    日が沈んで辺りも暗くなってきた。
    そろそろ、パーティーの開始時刻である。

    「ハルミ先生!
     お好み焼きの腕、もうバリバリですぅ。
     新メニューも開発したので、
     楽しみにしといて下さいっ!」

    「え、えぇ・・・楽しみですね」

    最初に到着したのは、
    アイラの料理の先生だというハルミ。
    アイラ以外は初対面になるせいか、
    見るからに落ち着きがないように見える。

    「皆さんお疲れ様です~
     って、ソースの匂い凄いですね」

    次に、ハルカが到着した。
    身内だけのイベントだというのに、
    腰にはしっかりと『勇者の剣』が、
    装備されている。

    彼女が席に着こうとした、まさにその時だ。

    「クリスさん、遅くなりました。
     今日はご招待いただいて・・・
     って、ハルカさん!?」

    「リ、リカさん?
     って、ちょっとクリスさん!」

    ハルカとリカは戦士団事務方時代、
    机を並べて仕事をしてたこともある。
    旧知の仲ではあるのだが、
    勇者の身バレを警戒してるハルカさんに、
    不用意に会わせてよい相手ではない。

    「今日は『事務方の集まり』にしたくてね。
     新・旧問わず、声をかけてみたんだよ」

    「それならそれで、教えてくれたらいいのに。
     ・・・来るのは、これで全員ですか?」

    ハルカは、不満気な視線をクリスに向ける。

    「実はもう1人『旧・事務方』の人、
     招待してるんだけどね。
     来るかどうかは、俺も半信半疑でさ」

    クリスの言葉に、ハルカとリカは顔を見合わせた。

    2人の脳裏に同時に浮かんだのは、
    かつての事務方の主と言われた、
    ある魔女の顔だったりするのだが・・・

    クリスはぐるりと周囲を見渡した。
    『彼女』は果たして、この場に現れるだろうか?

    思いを巡らせていた、その瞬間。
    突然、周囲の空気がドッと重くなった。
    『その気配』に最初に気が付いたのは、
    ずっと周囲を警戒していたモリノだった。

    「・・・賢者様」

    こちらに目配せをするモリノの表情が固い。
    ハルカも無言で剣の柄に手をかけている。

    全員が向けた視線の先に立っていた、
    その女性は・・・


    「本日はぁ~ お招きいただいてぇ~
     ありがとうございますぅ~♪」

    薄闇の中からふらりと現れたのは、
    紫のローブにフードを被った女性。
    間延びした声と満面の笑顔を浮かべて、
    彼女は楽しそうにこちらを見ていた。

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    場の緊張を解いたのは、リカの一声だった。

    「あ、あなたっ、ポンコツ新人!?
     なんで、こんなとこに・・・」

    状況が把握できないのか、リカの表情は真っ青だ。

    ハルカも状況が全く飲み込めないでいた。

    (ポンコツ新人・・・?
     この子が『仕事ができない』って有名だった、
     退職した戦士団の新人の事務方!?)

    『新・旧問わず事務方を集めた』

    クリスはそう言った。
    先月辞めたこの子も『旧事務方』には違いない。
    だけど、単に『退職した新人』だと言うのなら、
    この場の空気の重さは、一体何?
    ハルカはまだ、剣の柄から手を離せない。

    「ヒドイと思いませんか、賢者さん?
     リカさんも、戦士団の人達も、
     私の名前、ぜ~んぜん覚えてくれないんですよ。
     ず~っと『ポンコツ』とか『新人』ですからぁ」

    クリスも緊張の色を隠せない。
    この場で『この事態』を想定してたのは、
    自分と、心中を打ち明けていたモリノだけだ。
    だが、こうも当たっているとは思わなかった。

    「ターラさん、それが本名でいいのかな?
     ここに来てくれたってことは、
     『そういうこと』だよね?」

    当たってた以上、この場を仕切る必要がある。

    クリスに『ターラ』と呼ばれた女性は、
    最初からの満面の笑顔を崩していない。

    「賢者さん、いつ気付かれましたぁ?
     おかしいですねぇ。
     あなたとは顔合わせたこと、
     なかったと思うんですけどぉ~?」

    そう言って、足元の石を軽く蹴とばした。
    「やれやれ、仕方ないなぁ」そんな表情だ。

    「あなたのご想像通り。
     私が現世に覚醒した『魔王』ですよぉ~♪
     よく気付かれましたぁ!」

    場の空気は、さらに重くなっていた。

    「こんな手紙もらっちゃったらぁ~
     来ないわけには、いかないですもんねぇ~」

    〇月〇日 川辺の野営地にて
    事務方を集めたパーティーを開催いたします。
    『勇者様』をご招待しておりますので、
    『魔王様』にも是非、ご参加のほどよろしくお願いします。

    冒険者協会事務方・賢者クリス

    「俺としても、半信半疑だったんだけど。
     まさか的中するとはね。
     『悪い予感』って、外れないよね」

    「あららぁ~確信もないくせに、
     勇者の名前をエサに使って、
     私を魔王呼ばわりしたんですかぁ?
     いい度胸してますねぇ~♪
     でも・・・」

    ターラは一度言葉を切ってから、
    楽しそうに続けてきた。

    「私のことを『怪しい』って思った、
     その種明かしはして欲しいですねぇ?」

    「・・・ふぅ」
    クリスは大きく息を吐いた。
    『魔王』だと確信した相手と対等に喋るのは、
    中々のプレッシャーだ。

    「戦士団の名簿を調べに行った時、ね。
     あの名簿、間違いだらけだったけど・・・」

    「2人だけ、他の人と『間違い方』が違ったんだ。
     リカさんと君、そうターラさんのとこだけね」

    クリスの『確認(チェック)』の魔法で、
    ほぼ真っ赤に光ったあの書類はミスだらけだった。
    HPとMPが逆になっていたり、
    名前の文字が違っていたり。
    『子どもがするようなミスばかり』
    そんな書類の中でリカの『MP』と、
    ターラの全ステータスだけは巧妙に偽装されていた。
    パッと見では、ミスとは分からないほどに。

    「しかも名簿を管理してたのは、
     以前はリカさんで、最近は君だった。
     当然、2人が怪しいって思うよね?」

    クリスが言い切ると、
    ターラは「パン、パン」と軽い拍手を鳴らした。

    「・・・よくできましたぁ。
     それだけで私が『魔王』ってとこまで、
     よくたどり着きましたねぇ?」

    ターラは笑顔を崩さない。
    いやむしろ、現れた時より楽しそうにすら見える。

    「それだけってわけじゃないよ。
     怪しいと思ったから、その後色々調べたんだ。
     君の履歴書とか、以前の職場とか。
     君は知ってるのかな?
     君がいた職場、今どこも壊滅状態だよ」

    モリノに調べてもらった、彼女の以前の職場。
    それらはどこも立ち行かなくなっていた。
    特に「彼女に直接関わった事務員」は、
    みな社会復帰不可能なほど、
    深いノイローゼ状態だった。

    「君が魔王かどうかはともかくとして、
     職場を食いつぶす寄生虫なのは間違いない。
     魔王の悪事にしてはちっぽけだから、
     確信はもてなかったんだけど、ね」

    「フ、フフッ、ハハハッッ!
     賢者さんって、やっぱ面白いですねぇ」

    ターラは本気で楽しそうだ。

    「魔王にしては『ちっぽけ』ですかぁ。
     ま、私の目的は『適当にダラダラ生きる』
     これだけですからねぇ」

    そう言って、クリスを改めて見返す。

    「こちらの戦士団に寄生して、
     『いい感じ』で働いてたのにぃ~
     賢者さんのこと見かけてからね、
     ちょっとマズイかなって思ったの」

    「あなた、自分でも気づいてないみたいですけど。
     『負の魔力』の感知能力が頭抜けてますよぉ。
     賢者になってから、何か覚えがないですかぁ?」

    『負の魔力』の感知?
    ひょっとして、昇格後よくあった悪寒のことか?
    単に年齢からくる体調不良だと思ってたヤツ。

    「聞けば『事務方全てを統括する賢者』
     っていうじゃないですかぁ~
     こんなのがいたら私の正体バレるかもって、
     そう思ったからぁ~」

    そこで、今度はリカに目を向けた。

    「リカさんを~
     私の身代わりに仕立てたんですぅ」

    リカの表情が固まった。

    「私の魔力の一部を付与させてぇ~
     『魔王に覚醒した、私は強いっ!』
     そう思いこませたわけですぅ~
     ・・・まぁ、MPが増えてるだけで、
     本当に強くなってる訳じゃあ、
     ないんですけどねぇ~リカさん♪」

    ターラの言葉に、リカは打ちのめされていた。
    『その気になれば、みんな消し去れる』
    その衝動を、ずっと抑えてるつもりだったのに。
    すべて妄想だっただなんて・・・

    「理想としてはねぇ~
     勘違い魔王のリカさんにぃ~
     ブチ切れてもらった上でぇ~
     『魔王』として討伐されてからぁ~
     私はその穴埋めで戦士団に復職しようってぇ~
     思ってたんですけどぉ・・・」

    「リカさんが思ったよりガマン強くてぇ~
     失敗しちゃいましたねぇ~♪
     まぁ、私が付与した魔力程度じゃぁ~
     騙せるのは、半人前の魔族くらいですよねぇ♪」

    今度はハルミが唇を噛んでうつ向いた。
    私が見つけ出したと信じてた『魔王様』
    それがただ踊らされていただけの、
    ピエロだっただなんて。

    「・・・それ以上、私の元同僚を、
     バカにしないでもらえますか?」

    重い空気を切り裂くように、
    ハルカがターラの前に立ちはだかった。
    その手にはすでに、剣が抜き放たれている。

    「あなたが『魔王』だっていうのなら、
     私が倒してしまって良いわけですよね?」

    しかし、ターラに動じる気配はない。
    それどころか、
    ハルカを値踏みするように見つめると、
    小鳥でも愛でるように、こう告げた。

    「やってみたらいいんじゃないですかぁ~♪
     『できるもんなら』ですけどぉ~」

    その声が、開戦の合図になった。
    ハルカは構えた剣に全力の魔力を込める。
    刀身が青白い雷をまとい、
    空気が焦げるような匂いが立ち込めた。

    「魔法剣【雷】フルパワー!
     奥義・雷鳴剣っっっ!!」

    雷を帯びたハルカの剣が、
    ターラに向かって振り下ろされる。
    だが、ターラは笑顔を崩すこともなく、
    ふわりと右手をかざしただけだった。

    「全無効(フルキャン)~♪」

    ハルカ渾身の『雷鳴剣』は、
    眼前に現れた謎の障壁に触れた瞬間、
    霧散して全ての力を失った。

    「な・・・にっ!?」

    剣を握る手の力までが抜けていく。
    障壁の向こうに見えるターラの顔は、
    変わらず笑顔のままだ。

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    その底知れぬ笑顔に恐怖を覚え、
    ハルカは大きく後ろに退いた。
    剣は構えたままだが、
    刀身からは完全に力が失われている。

    「そんなに怖がらなくていいですよぉ~
     こっちからもぉ~攻撃はできませんからぁ~♪」

    そう言って、楽しそうに近づいてくる。
    ハルカは無意識に、さらに後ろに退いた。

    「自己紹介がまだでしたねぇ~
     私は『怠惰の魔王』ターラ。
     かつて滅んだ魔王から分裂して生まれた、
     『負の感情』の魔王の1人なの~♪」

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    「私はねぇ~
     必死になって誰かを攻撃したりしない。
     ていうか、できないのぉ~♪
     その代わり、誰も私を攻撃不可能!」

    「あ、隙をついて攻撃とかムダですよぉ~
     さっきの攻撃は『勇者様』の顔を立ててぇ、
     防御したフリしましたけどぉ~
     私の『フルキャン』はね、
     私が寝てたって発動しますから~♪」

    まさに『その隙』を伺おうとしていたモリノが、
    その言葉を聞いて大きく後ろに退いた。

    そして、様子を見ていたクリスは、
    大きなショックを受けている。

    (・・・まいったな。ホントに魔王だったら、
     ハルカさんが倒してくれるって思ってたのに)

    勇者の全力の魔法剣。
    それをあっさり無効化する『怠惰の魔王』
    こんなヤツ、どうやって倒せというのか?

    「・・・あのぉ、ちょっといいですか?」

    その時、今まで何も言わずオロオロしていた、
    アイラが突然、話に割り込んできた。

    「一切攻撃してこないしぃ、
     こっちから攻撃もできないんですよねぇ?
     だったら、戦う必要なくないですか?」

    (・・・う、うんっ!?)

    アイラ以外の全員が、
    肩透かしをくらったように彼女を見つめる。

    「だったら戦いなんかスグ辞めて、
     私の『お好み焼き』を食べて下さいっ。
     焼きたてが一番おいしいんですよっ!」

    ターラが現れてから、
    張り詰め続けていた空気が霧散した。

    「い、いや仮にも魔王と楽しく食事会なんて」

    「でもでもっ!
     その人、大したことしてないですよねっ?
     職場に巣食う寄生虫なんて、
     別に『魔王』じゃなくても、
     アイラいっぱい知ってます!」

    アイラの放ったその言葉で、
    初めてターラの笑顔がひきつり始めた。

    「わ、私は自分を一切削らないでぇ、
     職場に巣食って生きる『魔王』なのよぉ!
     今だって、戦士団に復職してぇ~
     あなたの同僚達を苦しめようって、
     思ってるんですけどぉ!」

    おかしい、あんな小娘の言葉で私が動揺している?
    私は『怠惰の魔王』
    誰にも干渉されず、自分のやりたいことだけやって、
    ダラダラ生きる、人間社会の害悪なのだ。

    「そんな私と楽しく
     『お好み焼きを食べましょう』ですってぇ?
     私は戦士団に巣食う寄生虫なんですよぉ!
     それともな~に、おたくの『賢者様』が、
     私を雇ってくれるのかしらぁ?」

    (魔王を、雇う・・・?)

    ターラのその言葉を聞いて、
    クリスの中に一つの考えが形を成していた。

    「それ、いいかもね」

    クリスのその一言で、
    今度はクリスに全員の視線が集まった。

    「クリスさんっ!?」
    「賢者様っ!?」

    皆がそれぞれに驚きと非難の視線を向けてくる。
    視線は痛いが、この『考え』はきっと悪くない。

    「ターラさん、俺は君を技術者として雇うよ。
     『みんなが楽できる魔道システムの構築』
     コレだけをやって欲しいっ!」

    コイツは何を言っている?
    全員がそんな表情だが、クリスは構わずに続ける。

    「出退勤時間は自由!
     毎日出てくる必要もなし!
     日々の通常業務も一切要求しないっ!
     ただひたすら『楽できるシステム作り』
     これだけに挑戦して欲しいんだ!!」

    ターラに、最初の笑顔はない。
    呆然とクリスを見つめている。

    「欲しかったんだよ!
     このシステム作りに割ける人材がっ!
     必要を感じながらも、日々の仕事に追われて、
     いつまでたっても取り組めなくてさ。
     だけど、君なら・・・」

    そう言って、クリスはターラの手をとった。

    「君の絶対的な魔力に加えて、
     何より『楽すること』への情熱!
     まさに適任だよっ。
     給料は少なくなるけど、ウチに入って下さい!
     こちらからお願いしますっ!」

    場の空気は、最初とは別の意味で張り詰めた。
    その空気を破ったのは、ターラの高笑いだ。

    「ハハッ、ハハハハ!
     この怠惰の魔王から『やりがい搾取』するつもり?
     おもしろ過ぎでしょ~賢者さん?」

    「需要と供給は、整ってると思うけど?」

    クリスは今、本当に彼女を戦力として欲しい。
    言葉に嘘がないから、説得力もついてくる。

    「・・・履歴書もって、
     事務所に行けばいいのかしらぁ?」

    その言葉に、クリスは満足そうに微笑んだ。

    「戦士団の履歴書があるからいらないよ。
     元気な身体だけで来てくれる?」

    ターラもその返答に満足していた。

    「・・・事務方統括の賢者クリスは、
     机仕事しかできないポンコツだって、
     戦士団じゃ言われてましたけどぉ~
     間違いだったみたいですねぇ?」

    「別に間違ってないよ。
     君を怪しいと思った『名簿の不備』も、
     君を雇おうと思った『採用活動』も、
     立派な『机仕事』だからね」

    ターラは、今度は心の中で笑っていた。
    この賢者、ホントに面白い。

    「よろしくお願いします、賢者さん。
     言っときますけどぉ、
     必死に働いたりはしませんよぉ?」

    こうしてターラは総務部事務方、
    『4人目のメンバー』として現地採用された。

    「解決したのなら、
     今度こそお好み焼きパーティー開始ですぅ!
     ターラさんの復職祝いも兼ねましょー!」

    アイラの無邪気な声で、
    ぎこちなかった空気が緩み、
    アイラ念願の『お好み焼きパーティー』は、
    ようやく開始された。

    (でも、問題は山積みよねぇ~賢者さん)

    渋々と剣を鞘に納めるハルカの表情、
    今回一番割を食って呆然としているリカ。
    ターラは、横目でそれを観察していた。
    解決してない火種は、いくらでもあるのだ。

    (それに人の『負の感情』の数だけ、
     私達『魔王』は存在する・・・
     その『感情の強さ』次第でその能力は、
     勇者だって軽く凌駕するんですよぉ。
     分かってますぅ、賢者さん?
     勇者の最大奥義は私に触れることすら、
     叶わなかったんですよぉ?)

    別の魔王がどれだけ覚醒するかは分からない。
    だか、この地に自分や勇者がいる以上、
    『それ』はこの地で起こる可能性が高い。

    「そうなったら、どうするんですかねぇ?
     机仕事しかできない賢者さん・・・」

    (それを近くで見てるのも面白いか。
     ホントに生意気な賢者さんですねぇ。
     私に仕事だけじゃなく、
     楽しみまで提供しようだなんてぇ♪)

    「ターラさん、あなたも早く食べて下さい!
     お好み焼きは山ほどあるのですぅ~」

    アイラが無邪気な声で呼びかけてくる。
    遠慮なく、たらふく頂くことにしよう。
    明日からは『賢者様事務方』の一員だけど、
    出勤時間は自由って言ってたもんねぇ♪

    ターラは初日の出勤時間を、
    『午後から出勤』にすると決めて、
    アイラのお好み焼きに食らい付いていた。

    事務方クエスト 第一部
    ~怠惰の魔王編・完

     
     
     
    子供の頃は小説家になるのが夢だったおじさん。 日常をエッセイにしたり、小説にしてみたり。 面白おかしく書いてけたらと思います。 社歴25年の事務員なので、事務職にまつわることも。

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