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事務方クエスト(3) ~なんだかんだ昇格は嬉しい

    くりす

    (冒険者協会事務所)

    「クリスさーん。
     また来てます『浜(はま)の国』宛の手紙!」

    「ここは『兵(つわもの)の国』だと言うのに。
     でもそれで、ちゃんと届くんだもんな」

    クリスは今日もアイラと2人、貯まった仕事の消化中だ。
    冒険者協会に届く手紙のチェックも彼等の仕事である。

    『兵』を『つわもの』と読ませるこの国の名前は、
    はっきり言って、読んでもらえない。

    『浜(はま)の国』とか『へいの国』とか。
    そんな誤字の手紙は後を絶たないが、
    郵便屋も慣れたもので事務所にちゃんと手紙は届く。

    「今日も大した手紙は来てないな、っと。
     って、うん何だこの仰々しい手紙?」

    【冒険者協会事務 僧侶 クリス様宛】
     法務大臣 【重要書類】【本人以外開封厳禁】

    「クリスさん・・・何やったんですか?
     自首するなら早い方がいいです」

    「何もしてないわっ!けど何、この手紙?
     国の封印魔法まで施されてるんだけど」

    クリス本人しか開封できないようになっている。
    クリスは恐る恐る、開封して中身を確認する。

    「何、何をミスったんですか?
     書類ですか、まさか国への納税額を間違えたとか!
     あぁ~クリスさんって意外と凡ミス多いですからぁ~」

    「アイラさん、少し黙っててもらえない?」

    書類には、確かに目を通した。
    けどなんだか理解が追い付かず、
    一度目を離していた。

    深呼吸して、もう一度読んでみる。

    「・・・・・」

    「アイラさん、何で黙って見つめてくるの?」

    「クリスさんが、さっき黙ってろって」

    「あぁ、ごめんごめん。
     ちょっと、理解が追い付かなくて」

    「結局、何だったんですか?」

    落ち着いて読み直し、
    理解はしたつもりなのだが。

    「なんか俺『賢者』に『昇格』するみたいよ」

    やはり、理解が追い付かなかったのか?
    数秒の沈黙の後、アイラは驚愕の叫びをあげた。

    「・・・えええぇぇぇっ!?」

    書類には、間違いなくそう書いてある。
    だが、なんだか現実感が伴わない。
    何か質の悪い詐欺ではないだろうか?

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    説明を受けるためクリスは城に足を運び、
    大臣の元にやって来ていた。
    たいそうな手紙を送ってくる前に、
    説明の1つくらいしてくれたらいいのに。
    クリスは正直、そう思う。

    「国の封印魔法までかかった書類が、
     詐欺なわけがないでしょう?」

    そんなクリスの心中を知ってか知らずか?
    大臣の説明はそっけない。

    「・・・けど大臣。
     この『事務方全ての職務を統括する』って何です?
     それって一応、大臣の仕事ですよね」

    「一応」と言ってしまい大臣の表情が変わったが、
    もう別になんだっていい。
    それくらい、今回の人事は衝撃的だ。

    「書いてる通りですよ。
     私の大臣としての職務も合わせて、
     クリス君が引継ぐんです」

    「・・・はい?」

    またも、理解が追い付かない。
    今、自分は何を言われたんだろう?

    「じゃ、大臣はどうされるんですか?」

    「いなくなりますから」

    「いなく・・・なる!?」

    更に理解が追い付かない。
    自分は『賢者』で大臣はいなくなり、
    大臣の職務は自分が引継ぐ・・・

    「じゃ、法務大臣の席は一体・・・」

    「しばらくは空位ですね。
     職務が回れば必須な席でもないですから、
     いいんじゃないですか?」

    (いいのか、それで?)

    クリスは軽いパニック状態だ。

    「法務大臣がいなくなる」

    何年も待ち焦がれていたことだ、嬉しい。

    「全ての職務を統括する」

    イチ冒険者が?重臣でもないのに??

    そんなクリスの心中を知ってか知らずか、
    大臣の追い討ちは止まらない。

    「そうそう、今後は御前会議の進行も仕事ですから。
     国の行く末も考えながら働くようにね」

    「・・・御前会議に、出るんですか俺?」

    年に2回ほどある、王と重臣達が揃う会議。
    それにイチ冒険者が参加しろと。

    「当然でしょう。
     私が今まで進行役をしてたんですから」

    「大臣・・・ひとつ聞いていいですか?」

    「いいですよ、最後ですから。
     聞きたい事は今のうちに聞いて下さい」

    「俺の『賢者(けんじゃ)』って・・・
     『かしこきもの』の『賢者』じゃなくて、
     『かねるもの』で『兼者』じゃないですか?」

    数秒の沈黙の後、
    大臣は珍しく楽しそうに答えた。

    「はっはっは!
     クリス君がそんな冗談を言えるとはねぇ」

    (・・・わりとマジなんですけど)

    「心配しなくても、間違いなく『賢者』ですよ。
     昇格すれば使える魔法も増えるだろうし、
     人員も1名、新人を手配中です。
     アイラさん含めて今後は部下2名持ちですね」

    「・・・まぁ、当然責任も重くなりますけど。
     嫌だとか辞めたいとか、
     くれぐれも思わないように、ね」

    「は、はぁ・・・」

    この国に残る以上、
    「断る」という選択肢はないだろう。
    そんな事は分かっているが。
    だが、それにしたってもう少し、
    「おめでとう」とか「期待してる」とか。
    「人をやる気にさせる言い方」が、
    できないものなのだろうか・・・

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        ・
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    この者を上位職・賢者に【任命】する!

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    クリス(賢者 LV49)

    LV:  49
    HP: 150 (+5)
    MP: 200 (+5)

    「思ったよりステータス、伸びませんね?」

    任命役の神官も、首をかしげる伸び率だ。

    「・・・ていうかコレ。
     こないだレベル上がった時、
     下がった数字が戻っただけなんですが」

    「ステータス下がってたんですか!?
     でも、使える魔法増えてるでしょう?」

    魔法・・・使える魔法!
    何か賢者っぽい、
    カッコいいのが増えただろうか?

    取得魔法:【確認】(チェック)
    書類の不備や不正を、赤い光の反応で教えてくれる。

    「確認(チェック)魔法って」

    「その昔には宝の地図とか暗号文とか、
     そーいう物の解読用に使われたらしいですね。
     よかったですね、事務方向きの魔法で!」

    「いや、もっとこう【全体回復】とか。
     【防御結界】とかそういうのは・・・」

    「そんなの覚えたって、
     今のご時世、使い道ないですよ。
     地道な魔法が一番です!」

    じゃ、ステータスが以前に戻って、
    書類確認の魔法が増えただけ?
    『賢者』って一体・・・?

    「近日中には新人も配属されますから。
     頑張って下さいよぉ~賢者様!」

    責任と、仕事量が増えただけ?
    やっぱり「何かの詐欺」ではなかろうか。
    ただそれでも「賢者様」と呼ばれて、
    悪い気がしないのも事実である。

    (やっぱ俺って小市民だよな・・・)

    今は素直に昇格を喜んどけば、
    いいのかもしれないけれど・・・

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        ・

    (その頃、大臣の間)

    「・・・応募者は他にいなかったんですか?」

    「もう2名いたんですが、
     1名は戦士団に派遣が決まりまして。
     もう1名は直前で辞退されました」

    「できればクリス君には、
     男の部下を付けてあげたかったんですけどね」

    大臣は少し考えるようにして、
    新人の経歴書類に、もう一度目を通した。

    「私の最後の仕事に、
     優秀な部下を配置しようと思ったんですが。
     まぁ元気そうな子だし、良しとしますか?」

    「は、はぁ・・
     でも確か【事務方】配属ですよね?」

    名前:モリノ
    LV:30(性別:女性 職業:武闘家)
    *数字の扱いは苦手ですが、頑張ります!

    賢者・クリスの前途は、果てしなく多難だ。
    クリスはそれに薄々気付いている、が。
    今はただ、昇格の喜びに浸っていた。

     
     
     
    子供の頃は小説家になるのが夢だったおじさん。 日常をエッセイにしたり、小説にしてみたり。 面白おかしく書いてけたらと思います。 社歴25年の事務員なので、事務職にまつわることも。

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