メインコンテンツへスキップ
見出し画像

銀河漂流記 ーー遥かなる再会の空(5話)

    前回の話
    最初から読む
    目次
    登場人物
    自己紹介

    神になったアダムとイブ

    タクさんが用を足しに密林へ消えてから、数分後のことだった。
    「ギャーッ!!」
    静寂を切り裂くような悲鳴が深い森にとどろいた。

    驚いて顔を向けると、タクさんがズボンのチャックを下ろしたままの無様な格好で、こちらへ猛ダッシュしてくる。

    「な、何事だ!」
    サブリーダーが叫ぶ。

    「い、いました! 出ましたぁ!」
    タクさんは真っ青な形相で走りながら、必死に背後を指さした。

    「何がいたんだ、はっきり言え!」

    「う、宇宙人です!」
    タクさんは両手で口を覆って叫んだが、そのせいでズリ落ちたズボンに足を取られ、前のめりに派手に転倒した。

    画像

    その報告に、ボクは心臓が止まるかと思った。
    逃げなければ。そう思うのに、足がすくんで一歩も動けない。

    「お、おわぁあーっ!」
    一足先に逃げ出したサブリーダーが、さらなる絶叫を上げて引き返してきた。
    「わぁ! こっちにも、こっちにもいるぞ!」

    サブリーダーの視線の先、二十メートルほど離れた高い木々の陰から、次々と「彼ら」が現れた。

    画像

    あっという間にボクらは包囲される。
    彼らの風貌は、母星の教科書で見た古代人のようだった。肌の色こそ違えど、顔立ちは人間に酷似している。
    全員が筋骨逞たくましい男性で、鋭く研がれた木の槍をこちらへ向けていた。

    それに対し、ボクらは丸腰。人数も圧倒的に不利。
    宇宙船の故障、不時着、食糧難……数々のピンチを奇跡的に乗り越えてきたが、今度こそ、本当の年貢ねんぐの納め時か。

    「ひぃっ……」
    ボクらは身を寄せ合い、ひとかたまりになった。
    誰かの震えがボクに伝わり、ボクの震えが誰かに伝わる。
    天敵に追い詰められた小動物のように、みんながひどく怯えているのがわかると、ますます勝てる気がしなくなって、恐怖が倍増した。

    画像

    ボクらがお手上げ状態なのに、敵は気を緩めない。
    槍の先をボクらの急所である頭に向けたまま、じりじりと包囲網を縮めてくる。
    そして十メートルほどの距離で彼らは足を止めた。そこでひそひそと話し合った後、中央にいる一人の最も屈強な男が進み出た。

    「お、おい、リョウ! お前、なんとかしろよ!」
    その男と正面で見合う形になったサブリーダーは、情けない声を出しながらリョウさんを前に押し出し、自分はその後ろに隠れた。

    「そうよ。頼りになるのはあなただけなのだから、なんとかしなさい」
    後ろから、リーダーの指示も飛んでくる。威厳を保とうとしていたが、声の力は女性のか弱さを隠せなかった。

    しかし、矢面に立たされたリョウさんは、怯ひるむ様子はなかった。
    彼は胸の内ポケットから、小さな銀色のデバイス——最新型の空中投影プロジェクターを取り出した。 それはスクリーンなしで360度全方位に映像を展開できる電化製品だ。
    我々は、これを使って好きな動画を見て、変化のない暗黒の風景が続く宇宙航海の退屈しのぎをしてきたのである。
    それを使って、何をしようとするのか…。

    「最大出力。映画『天罰』、クライマックスシーン、再生」
    リョウさんは、近くにいるボクすら聞き取れないほどの小声でデバイスに語りかけると、力強く、プロジェクターを聖火のように天へ掲げた。

    瞬時に、森の空気が一変した。
    腹に響くような大音響とともに、ボクの身長を遥かに超える巨大な「神」とボク——つまり原住民たちと同じくらいの背丈をした大勢の「悪党」が目の前に出現したのだ。
    その高精細なホログラムは、実体と見紛うほどの質感を放っていた。
    映像の中の神は、反乱を起こしている悪党たちを光線で次々と塵に変えていく。

    画像

    五分間にわたる光と音の暴力。圧倒的な神の勝利。
    戦いを終えた神が吠えたところで、リョウさんは静かにスイッチを切った。

    静寂が戻ったとき、そこには野蛮な戦士たちの姿はなかった。
    あるのは、腰を抜かして地面にひれ伏し、ガタガタと震えている無力な男たちの群れだった。

    「ははは! 見たか、ざまぁみろ!」

    途端に強気になったサブリーダーが、リョウさんの前に躍り出た。そして、映画に出てくる神の決めポーズを、滑稽なほど大げさに真似てみせる。

    画像

    サブリーダーの手から光線でも出ると思ったのだろうか。宇宙人たちは一斉に頭を地面にこすりつけ、許しを請うように祈り始めた。

    「よくやったわ。これで従順な部下を確保できたわね」
    リーダーはリョウさんをうっとりとした目で見つめ、その労をねぎらった。


    次回の話


     
     
    「どうすれば、この星の全員が幸福になれるのか?」この答えを見つけるため、認知症の父の介護をしながら持続可能な新システムの開発を進めています。答えは既存の延長線上にはありません。未来は予測するものではなく、自分たちで創るもの。私と一緒に、新しい世界の扉を開いてみませんか。

    あなたへのおすすめ