第17章 奪還の道 第16節 橋の死角
夜が明けるより少し前、僕たちは国境大橋の東側へ回り込んでいた。
昨日の高台ではなく、今度は川沿いから北詰へ近づく。
先頭を進むルナシウスが手を上げた。
ルナシウス「ここから先は足音を抑えましょう」
川の音に紛れるとはいえ、橋まではもう遠くない。
五人で低い草地を進むと、やがて石造りの橋脚が木々の向こうに見えてきた。
クリス「こんな近くまで来られるんだ」
セリザ「街道側を警戒している分、こちらは死角になっています」
ただ、川沿いの地面はその先で石壁へ突き当たっている。
クレフ「行き止まり?」
ルナシウス「いえ」
草を払うと、石壁の脇から古い石段が現れた。
一人ずつしか通れない細さだが、橋の脇を斜めに上っている。
セリザ「橋の点検用でしょうか」
ルナシウスが一人で上り、しばらくして戻ってきた。
ルナシウス「北詰の少し東へ出ます。敵から見えるのは最後の数歩ほどです」
クレフ「正面から行くよりずっといい」
一つ、道が見つかった。
石段の途中から北詰を確認する。
昨日と同じく十人前後。
その中の一人が腰に角笛を下げていた。
セリザ「警報役ですね」
クリス「吹かれたら南側が動く」
クレフ「最初に止めないと」
クリス「任せて」
彼女なら離れた位置からでも狙える。
角笛を吹かせなければいい。命まで取る必要はない。
さらに観察を続ける。
やがて南詰から二人の兵が橋を渡り、北側へ向かってきた。
クレフ「やっぱり時間がかかる」
セリザ「はい。南側に兵が多くても、こちらへ来るには橋を渡らなければなりません」
ルナシウス「北詰を早く押さえれば、次が来るまでに形を作れますな」
北詰に置かれた荷車と木材を見る。
昨日までは障害物にしか見えなかった。
でも、今は違って見える。
クレフ「荷車、向きを変えられないかな」
セリザもすぐに意図を察した。
セリザ「南からの矢を防ぐ壁にするのですね」
クレフ「うん」
セリザ「使えます」
敵が用意した障害物を、こちらの防壁へ変える。
北詰を取った後も、橋上で戦うための時間を稼げる。
セリザ「最初に北詰を崩す。警報を止め、荷車を押さえる。その間に南側から来る兵を橋上で止めます」
ルナシウス「私が前へ出ましょう」
狭い橋なら、大人数を一度に相手にする必要はない。
月光剣を使うルナシウスには、むしろ動きやすい場所かもしれない。
クリス「私は弓兵と警報役を止める」
セリザ「お願いします」
クレフ「僕は北詰を取る」
リゼ「では、私は周囲を見ます」
クレフ「ヴァルグも?」
リゼ「それも含めてです」
リゼさんが対岸へ目を向けた。
リゼ「今のところ、ヴァルグがいると判断できるものはありません。ただ、姿がないことを安全の根拠にはできません」
セリザ「最初から力を使い切るわけにはいきませんね」
クレフ「もし出てきた時の分を残しておく」
リゼさんが頷く。
問題は退路だった。
クレフ「北詰を取れなかったら?」
ルナシウス「この石段まで戻れば退けます」
クレフ「取れた後は?」
今度は誰もすぐに答えなかった。
橋へ入れば、前後を挟まれる危険がある。
だから、中途半端には始められない。
クリス「始めたら、橋を取るところまで行くしかないね」
クレフ「うん」
セリザが北詰から南詰までを見渡す。
セリザ「勝負は最初です。角笛を使わせず、北側を短時間で崩せるかどうか」
ルナシウス「そうすれば、三十人を一度に相手にする必要はない」
クリス「五人で全部倒さなくてもいいってことね」
セリザ「はい。必要なのは、橋をこちらの形に変えることです」
それなら五人にも勝機はある。
ただ、南詰までどう崩すかはまだ決め切れない。
クレフ「北を取った後は、相手の動きを見て決めよう」
セリザ「私もそれがいいと思います。ヴァルグも含め、まだ読めないものがありますから」
最初から全てを決める必要はない。
まず、自分たちが戦える場所を作る。
その先は、敵の動きを見て変える。
クレフ「一度戻って準備しよう」
四人が頷いた。
僕はもう一度、橋の向こうを見る。
その先はグランバルト。
もう、眺めているだけの距離ではない。
クレフ「今日、行こう」
五人で三十人を倒すためじゃない。
国境大橋を、故郷へ続く道として取り戻すために。
第17章第17節へ続く。
第17章第16節を読んで頂きありがとうございます。
国境大橋をさらに近くから調べた五人は、北詰へ忍び寄るための死角を見つけました。
正面から三十人以上と戦う必要はありません。
警報を止め、北詰を奪い、敵自身の障害物を防壁へ変える。
橋という地形を利用した攻略の形が、少しずつ見えてきました。
次はいよいよ、国境大橋を取り戻す戦いへ。
次回もよろしくお願いいたします。
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