第18章 故郷に残る灯 最終節 白へ戻る光
地下へ続く石段の先で、ヴァルグは僕たちを待っていた。
その背後では、床を這う黒い線が何本も一点へ集まり、灰色の光を脈打たせている。
僕たちが追ってきた灰色の流れ。
その終着点が、ここだった。
ヴァルグ「ここまで辿り着いたか」
クレフ「その言い方だと、来ると思ってたみたいだな」
ヴァルグ「いずれは、な」
落ち着いた声だった。
国境大橋で対峙した時と同じだ。
こちらを敵として見ているのに、慌てている様子がない。
クリスが弓を構える。
ルナシウスは僕を庇うように半歩前へ出た。
セリザは少し後ろから灰色の中心を見つめ、リゼさんは床へ視線を落としている。
リゼ「黒い線、全部ここへ繋がっています」
セリザ「杭から伸びていたものと同じですね」
リゼ「はい。でも、向きが一つじゃありません。外から入ってくるものと、ここから外へ返っているものがあります」
つまり、ここを止めればいい。
そう思った瞬間、ヴァルグの姿が視界から消えた。
クレフ「っ!」
金属音が地下に響く。
反射的に構えた剣で、どうにか一撃を受け止める。
重い。
両腕に衝撃が走った。
ヴァルグ「目の前の敵から意識を外すな」
クレフ「分かってる!」
横から光が走った。
クリスの矢だ。
ヴァルグはわずかに身体をひねってかわす。
その隙にルナシウスが踏み込んだ。
ルナシウス「クレフ様、中心を! ここは私たちが押さえます!」
クレフ「でも!」
クリス「行って、クレフ! 壊すんじゃなくて、繋がりを切るんでしょ!」
セリザ「クレフ様、今はそちらをお願いします。中心そのものを壊せば、何が起きるか分かりません」
クレフ「分かった!」
僕はヴァルグから距離を取ると、灰色の中心へ駆け寄った。
背後で再び刃がぶつかる。
振り返りたくなる。
だけど今は、こっちだ。
近くで見ると、黒い線は床の石目に沿うように刻まれ、その上を灰色の光が流れていた。
中心には低い石台があり、その周囲から何本もの線が外へ伸びている。
リゼさんが僕の隣へ駆け寄った。
リゼ「クレフさん、線そのものを見てください。灰色じゃなくて、その下です」
目を凝らす。
確かに、光の下に細い黒い筋がある。
杭で見たものと同じだ。
クレフ「これを切ればいいんだな?」
リゼ「たぶんです。ただ、一つだけじゃ止まりません」
セリザ「外へ返している線を順番に断ちましょう。流れが変われば、リゼさんが確認できます」
クレフ「よし」
剣を振り下ろす。
火花のような灰色の光が弾けた。
黒い線が一本、途切れる。
その瞬間、石台を巡る光がわずかに乱れた。
リゼ「反応、落ちました。合っています」
二本目。
さらにもう一本。
切るたびに、灰色の脈動が弱くなっていく。
あと少し。
そう思った時、背後から強い気配が迫った。
ヴァルグ「そこまでだ」
クレフ「!」
振り向いた僕の前に、ヴァルグが迫っていた。
ルナシウスがその後を追う。
さらに後ろでは、クリスがすでに矢を番えていた。
間に合わない。
そう思った瞬間、一本の矢が僕の横を抜けた。
ヴァルグの足元へ突き刺さる。
彼の踏み込みが、ほんの一瞬だけ止まった。
クリス「クレフ!」
クレフ「ありがとう!」
僕はすぐに石台へ向き直った。
残された黒い線へ剣を叩き込む。
甲高い音が響く。
続いて、何かが息を吐き出すような低い響きが地下に広がった。
石台を巡っていた灰色の光が大きく揺れる。
そして、一気に細くなった。
床を這っていた灰色も、遠いところから順番に途切れていく。
リゼ「……灰色の流れ、止まっています」
誰もすぐには動かなかった。
また戻るかもしれない。
そう思って、僕たちは石台を見つめ続けた。
けれど、灰色は戻らない。
ヴァルグも攻撃を止めていた。
途切れた黒い線の向こうを見て、静かに目を細めている。
ヴァルグ「なるほど」
クレフ「何がだ」
ヴァルグ「中心を壊さず、流れだけを断った。悪くない判断だ」
クレフ「……褒めてるのか?」
ヴァルグ「好きに取れ」
ヴァルグは僕たちから一歩離れた。
クリス「逃げる気?」
ヴァルグ「ここに残る理由はなくなった」
ルナシウス「待て!」
ルナシウスが踏み出すより早く、ヴァルグは暗い通路の奥へ身を翻した。
追おうとした僕を、セリザの声が止める。
セリザ「クレフ様、今は追わない方がいいです。先にこちらを確認しましょう」
確かにそうだ。
ヴァルグを追って、止めたばかりの場所を無防備にするわけにはいかない。
僕たちはもう一度、石台へ視線を戻した。
しばらくして、リゼさんがゆっくりと周囲を見回した。
リゼ「……この周辺の白い反応、戻ってきています」
クレフ「本当か?」
リゼ「はい。さっきまでは灰色に隠れて、ほとんど拾えませんでした。でも今は、弱いですけど、いくつか確認できます」
セリザ「消されていたわけではなかったんですね」
リゼ「たぶん。見えなくされていただけです」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなった。
王城はまだ敵の手にある。
父上がどこにいるのかも分からない。
ゾマー軍がこの国から消えたわけでもない。
何一つ、終わってはいない。
それでも。
帰ってきた時、消えたと思った灯は残っていた。
人も。
白い反応も。
この国そのものも。
クリス「クレフ」
クレフ「うん」
僕は石段の上を見上げた。
この先に王城がある。
取り戻すべき場所がある。
もう、帰ってきただけじゃない。
ここから取り返すんだ。
第19章へ続く。
第18章第14節を読んで頂きありがとうございます。
今回は、王城東側の地下まで辿ってきた灰色の流れ、その中心をクレフたちが止める場面となりました。
灰色が止まったことで、再び確認できるようになった白い反応。
故郷へ戻ってから探し続けてきたものは、消えていたのではなく、今もこの国に残っていました。
これで第18章「故郷に残る灯」は一区切りとなります。
しかし王城はまだ敵の手にあり、国王の行方も分からないままです。
故郷へ帰ってきたクレフたちは、ここから「帰る」ためではなく、「取り戻す」ために進んでいきます。
次回もよろしくお願いいたします。
#小説 #ファンタジー小説 #グランバルト物語 #王道ファンタジー #創作 #連載小説 #note小説 #故郷に残る灯 #クレフ #クリス #セリザ #ルナシウス #リゼ #ヴァルグ #グランバルト #ゾマー軍 #白い反応 #灰色の流れ #第18章
