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第17章 奪還の道 第15節 橋を守る陣

国境大橋を正面に見ながら、僕たちは木々の陰へ身を沈めていた。

橋の向こうはグランバルト。

すぐにでも渡りたい。

けれど、ここまで来て焦るわけにはいかない。

クリス「行かないの?」

クレフ「行きたいよ。でも、今飛び出したらセリザに怒られる」

セリザ「怒ります」

間を置かず返ってきた。

クリスが小さく笑う。

クリス「急ぐことと、焦ることは分けるんでしょ?」

クレフ「……覚えてるよ」

だから今は見る。

この橋をどう越えるかではなく、どう取り戻すかを考えるために。

セリザ「北詰は十人前後ですね」

橋の入口には荷車と木材が並べられ、通路が狭められている。

盾兵の後ろに槍兵。その奥には弓兵もいた。

橋上には少数の兵が間隔を空けて立ち、対岸にはさらに多くの人影がある。

少し離れた場所を見ていたルナシウスが戻ってくる。

ルナシウス「南側は二十前後でしょう。見えていない者もいるかもしれません」

クリス「全部で三十人以上か」

クレフ「五人で正面からやる数じゃないな」

セリザ「ですが、全員が一度に来ることもできません」

石造りの大橋は長いが、それほど広くない。

兵を詰め込めば、かえって互いの動きを邪魔する。

セリザ「もう少し見ましょう」

しばらく観察していると、北詰の兵が二人ずつ交代することが分かった。

橋上の兵も同じだ。

一方、南詰には最も多くの兵が残り、必要な時だけ橋へ人を送っている。

一を知って十を知るセリザ。

彼女の目には、少しずつ守りの形が見えているようだった。

クレフ「守りの中心は向こう側?」

セリザ「はい。北詰を失っても、南側で止められる配置です」

その時、対岸の兵が道を空けた。

一人の男が橋の中ほどまで進み、兵と言葉を交わしてから戻っていく。

クレフ「指揮官かな」

セリザ「おそらく。ただ、エルガンかどうかまでは分かりません」

バランから南へ退いたエルガンがここにいても不思議ではない。

けれど、別の守将がいる可能性もある。

そして、気になる相手はもう一人いた。

クレフ「……ヴァルグは見える?」

クリスも対岸へ目を凝らす。

クリス「いない。少なくとも見える範囲には」

この橋を強行突破してフォーレストへ向かった時、僕とクリスはヴァルグと対峙した。

セリザも、それ以前に初めてフォーレストへ向かった途中で奴と相対している。

セリザ「姿がないからといって、警戒を外すべきではありません」

ルナシウス「そのヴァルグという魔人は、それほど危険なのですか?」

クレフ「ええ。普通の兵と同じように考えない方がいいです」

あの時感じた圧力は、今でも覚えている。

クリス「兵の数だけ見て安心できる相手じゃないわ」

ルナシウスは短く頷いた。

その隣で、リゼさんが口を開く。

リゼ「ヴァルグの名は、私も知っています」

クレフ「会ったことがあるんですか?」

リゼ「いいえ。直接会ったことはありません。ただ、アトス様の側でも知られている魔人です」

クレフ「じゃあ、今までの灰色もヴァルグが?」

リゼさんは首を横へ振った。

リゼ「それは分かりません。魔人に近い揺らぎがあったことと、ヴァルグが関わっていることは別です」

セリザ「可能性の一つとして警戒する。それで十分ですね」

リゼ「はい」

これで、兵だけを見て作戦を決めるわけにはいかなくなった。

僕はもう一つ確認する。

クレフ「リゼさん。この橋の近くに白の基点は?」

リゼ「記録にある主要な基点はありません。次は橋を越えたグランバルト側です」

クリス「場所は分かってる?」

リゼ「おおよそは。ただ、今も正常に残っているかは現地で確かめる必要があります」

さっき確認した基点も、記録された場所にありながら壊されていた。

次を調べるためにも、この橋は避けて通れない。

日が傾き始め、北詰では再び兵が交代した。

クリス「暗くなってから抜けるのは?」

ルナシウス「橋上には身を隠す場所がありません。見つかれば前後から挟まれます」

クレフ「前みたいに走って抜けるのも……違うな」

クリス「今回は向こうへ行ければ終わりじゃないものね」

クレフ「うん。この橋を押さえられたままじゃ、バランともフォーレストとも繋がれない」

セリザ「突破では足りません」

クレフ「取り戻そう。この橋ごと」

目的がはっきりした。

クリス「フォーレストの援軍を待つ手もあるけど」

セリザ「待てば、ゾマー側も増援を送る可能性があります」

ルナシウス「バランを失ったと知れば、なおさらでしょうな」

急げば危険。

待ちすぎても危険。

クリスが橋を見ながら、小さく息を吐いた。

クリス「じゃあ、いっそ五人で全部倒す?」

クレフ「三十人以上と、いるかもしれないヴァルグまで?」

クリス「冗談よ」

少しだけ笑った。

その横で、セリザはまだ橋を見ていた。

クレフ「何か分かった?」

セリザ「全員を倒す必要はありません」

杖先が北詰を示す。

セリザ「こちら側は十人前後。橋上は少数。大半は向こう側です」

クレフ「向こうから来るには、この橋を渡るしかない」

クリス「しかも、一度に来られる人数は限られる」

セリザ「はい」

ルナシウス「数ではなく、橋そのものを利用するわけですな」

セリザ「その通りです」

ただし、まだ作戦には足りない。

セリザ「北詰への接近路と退路。南側から増援が来る時間。それに、ヴァルグが現れた場合も考えておく必要があります」

クレフ「明日、もっと近くから調べよう」

ルナシウス「川沿いも確認しておきます」

リゼ「私も同行します。ヴァルグが関わっている可能性があるなら、確かめたいことがあります」

クレフ「五人で行こう」

まだ戦わない。

前のように、ただ走り抜けるつもりもない。

今度は、この橋を取り戻す。

グランバルトへ帰る道として。

第17章第16節へ続く。

第17章第15節を読んで頂きありがとうございます。

グランバルトへの入口、国境大橋には三十人を超えるゾマー兵が配置されていました。

さらに警戒すべきは、姿の見えない魔人ヴァルグ。

以前のように走り抜けるだけでは、今回は意味がありません。

必要なのは、故郷へ続く道として橋そのものを取り戻すこと。

セリザが見つけたのは、敵の数ではなく橋の構造を利用する可能性でした。

次回もよろしくお願いいたします。

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