第17章 奪還の道 第19節 橋上の魔人
ヴァルグが橋へ足を踏み入れた。
南詰の兵たちが左右へ分かれ、その中央を黒い気配をまとった魔人が進んでくる。
ヴァルグ「また、この橋で会うとはな」
クレフ「こっちは会いたくなかったですけどね」
クリス「同感」
ヴァルグの視線が僕からクリスへ移り、やがてリゼさんで止まった。
ヴァルグ「……アトスの側の魔人か」
リゼ「あなたがヴァルグですね」
ヴァルグ「俺を知っているか」
リゼ「名前は。直接会うのは初めてです」
ヴァルグ「それが人間と共に橋を奪うとはな」
リゼ「私は、私の意思でここにいます」
背後では、ゾマー兵たちが再び動き始めている。
セリザ「クレフ様、橋上の兵はこちらで抑えます!」
クレフ「お願いします! ルナシウスも!」
ルナシウス「承知しました、クレフ様!」
ルナシウスが兵たちの前へ出る。
セリザも後方から敵の動きを読み始めた。
二人が相手にするのは人間兵。
ヴァルグはこちらで止める。
僕は剣へ意識を集中させた。
刃を包むように光が立ち上がる。
メンタルウェポン。
魔人へ刃を届かせるための力。
隣では、クリスも弓へ精神を集中させていた。
光を帯びた矢が形を成す。
けれど、僕の方はすぐに頭の奥が重くなった。
長くは保てない。
リゼ「クレフさん。無理に維持しないでください」
クレフ「分かっています」
一度、光を消す。
ずっと出し続ける必要はない。
ヴァルグへ刃を届かせる、その瞬間だけでいい。
ヴァルグが片手を上げた。
黒い魔力が集まる。
クリス「来る!」
黒い衝撃が橋上を走った。
僕とクリスが左右へ退く。
リゼさんだけが一歩前へ出た。
二本の刃が黒い力を受け流す。
ヴァルグ「ほう」
リゼ「クレフさん、今です」
もう一度、剣へ意識を集中させる。
光が刃を包んだ。
踏み込む。
ヴァルグが黒い刃を生み出し、僕の剣を受け止める。
重い。
けれど、今度は弾かれない。
クレフ「っ……!」
一合だけ打ち合い、すぐに後ろへ跳ぶ。
同時にメンタルウェポンを解いた。
頭の奥に鈍い痛みが残る。
クリス「クレフ、大丈夫?」
クレフ「まだいける」
ヴァルグ「その力、まだ長くは保たんか」
見抜かれている。
クレフ「だから何です?」
ヴァルグ「いや。人間にしては上出来だ」
腹が立つ。
でも挑発に乗って出し続ければ、先に僕が潰れる。
リゼさんがヴァルグへ斬り込んだ。
二本の刃が左右から迫る。
ヴァルグも黒い刃で応じる。
魔人同士の攻防が橋上で激しくぶつかった。
クリス「リゼさん、少し開けて!」
リゼさんが横へ飛ぶ。
その瞬間、クリスの光の矢がヴァルグへ走った。
黒い力が矢を逸らす。
けれど完全には外れず、肩を掠めて光が弾けた。
ヴァルグの表情が僅かに歪む。
クリス「今度は効いた」
ヴァルグがクリスを見る。
その隙にリゼさんが再び間合いへ入る。
僕は呼吸を整える。
まだだ。
焦って光を出すな。
一度。
次に届く一度だけ。
ヴァルグの刃とリゼさんの双刃がぶつかる。
一瞬、ヴァルグの体がこちらへ開いた。
今だ。
精神を剣へ集中させる。
光が走る。
踏み込み、横薙ぎに振るった。
ヴァルグが身を捻る。
刃は浅く腕を掠め、光が弾けた。
クレフ「届いた……!」
すぐに力を解く。
呼吸が乱れる。
二度目。
これ以上は簡単じゃない。
リゼさんが僕の前へ入った。
リゼ「下がってください」
クレフ「でも」
リゼ「次に必要になるまで休んでください」
言い返せなかった。
僕がここで倒れれば意味がない。
その時、ヴァルグの足元から黒い力が広がった。
リゼ「離れて!」
三人で距離を取る。
黒い波が石畳を削りながら走った。
クレフ「これが……灰色?」
リゼ「違います」
はっきりした答えだった。
リゼ「これはヴァルグ自身の力です。今まで見てきた灰色とは別です」
ヴァルグの視線がリゼさんへ向く。
その反応を見て、胸の奥で何かが引っかかった。
クレフ「ヴァルグ。灰色を知ってるんですね」
ヴァルグ「白を追ってここまで来たか」
答えにはなっていない。
でも、白を知らない者の言葉でもない。
リゼ「白を壊しているのは、あなたですか?」
ヴァルグ「知りたければ先へ来い」
クリス「随分と回りくどいのね」
ヴァルグ「来られるならな」
その背後から怒号が上がった。
ゾマー兵「押し切れません!」
橋上の兵たちが後退している。
ルナシウスは前へ出すぎることなく隊列を押し返し、セリザが空いた場所へ誘導していた。
セリザ「クレフ様! 南側の隊列が崩れています!」
クレフ「そのまま中央を押さえてください!」
セリザ「はい!」
ヴァルグも後方を見る。
兵の数は向こうが多い。
それでも橋の狭さが、その差を殺している。
ヴァルグ「……十分だ」
黒い刃が消えた。
クリス「何?」
ヴァルグは南詰へ片手を上げる。
ヴァルグ「退け」
ゾマー兵たちが一瞬戸惑う。
だが、すぐに橋から南へ下がり始めた。
クレフ「逃がすか――」
一歩出たところで、頭の奥が再び痛んだ。
セリザ「クレフ様、追わないでください!」
足を止める。
そうだ。
ヴァルグを倒すことが目的じゃない。
ここで追えば、せっかく奪った橋上の形を自分から捨てることになる。
クレフ「……追わない。橋を取る」
ルナシウス「承知しました、クレフ様」
ヴァルグは退く兵たちの最後尾へ向かう。
途中で一度だけ振り返った。
ヴァルグ「帰って来たつもりか、グランバルトの王子」
クレフ「そのつもりです」
ヴァルグ「なら、その先を見てみろ」
それだけを残し、ヴァルグも南へ退いていく。
意味はまだ分からない。
けれど、今は追わない。
南詰へ続く橋の上から、ゾマー兵の姿が少しずつ消えていく。
クリス「……あと少しだね」
クレフ「うん」
剣を握る手には、まだメンタルウェポンを使った感覚が残っている。
二度。
それだけでも、思った以上に精神を削られた。
まだ僕は、この力を自在には扱えない。
それでも届いた。
一人ではなく、みんなが作ってくれた一瞬なら。
故郷へ続く道は、もう目の前まで開いていた。
第17章第20節へ続く。
第17章第19節を読んで頂きありがとうございます。
国境大橋で再び対峙した魔人ヴァルグ。
クレフもメンタルウェポンで刃を届かせますが、まだ長時間維持できるほど使いこなせてはいません。
リゼが正面を支え、クリスが隙を作り、クレフが必要な一瞬だけ力を発現する。
一人の力ではなく、三人の連携によってヴァルグを押し返しました。
そして崩れ始めるゾマー軍の橋守備。
故郷へ続く道は、あと少しです。
次回もよろしくお願いいたします。
#小説 #ファンタジー小説 #グランバルト物語 #王道ファンタジー #創作 #連載小説 #奪還の道 #クレフ #クリス #セリザ #ルナシウス #リゼ #ヴァルグ #メンタルウェポン #国境大橋 #グランバルト #ゾマー #第17章
