第17章 奪還の道 第18節 橋上の半月
橋上から五人のゾマー兵が迫ってくる。
狭い橋では横へ広がれない。
先頭の二人が槍を構え、その後ろに剣兵が続いていた。
クレフ「ルナシウス、中央を抑えて!」
ルナシウス「承知しました、クレフ様」
ルナシウスが一歩前へ出る。
最初の槍を剣で受け流し、続く一本も外へ逸らした。
そこから刃が大きな弧を描く。
ルナシウス「半月剣」
鋭い半円の斬撃が、前へ出ていた兵たちの武器をまとめて弾いた。
三人が足を止める。
後ろの兵も前へ出られない。
セリザ「今です、クレフ様!」
クレフ「行く!」
防壁から飛び出す。
体勢を崩した一人の剣を払い、肩から押し返す。
横へ回ろうとした兵の足元へ、クリスの矢が突き立った。
クリス「そこから先は行かせない!」
一瞬の迷い。
その隙を逃さず、ルナシウスがさらに間合いを詰める。
クレフ「ルナシウス、出すぎないで!」
ルナシウス「承知しました!」
押すだけでは駄目だ。
橋の中央をこちらの戦いやすい場所に変える。
それが目的だった。
セリザ「南側も動きます!」
対岸から新たな兵が橋へ出てくる。
その後ろでは、数人の術兵が杖を掲げていた。
リゼ「魔力が集まっています」
クレフ「荷車へ!」
五人が防壁の後ろへ下がった直後、複数の光弾が飛来した。
激しい音とともに木片が散る。
クリス「長くは持たないね」
セリザ「次を撃たせないでください!」
クリス「任せて!」
弓を引く。
放たれた矢が対岸へ走り、一人の術兵の杖を弾いた。
続けて二射目。
もう一人が体勢を崩す。
だが、最後の一人は詠唱を止めない。
リゼ「私が」
クレフ「無理はしないでください!」
リゼ「承知しています」
防壁から一歩出たリゼさんが、手にした刃の一本を投げる。
刃は術兵の足元へ突き立ち、詠唱が途切れた。
すぐに防壁の陰へ戻ってくる。
クレフ「助かりました」
リゼ「まだ来ます」
橋上へ視線を戻す。
兵たちは再び隊列を作ろうとしている。
クレフ「ルナシウス、もう一度前を抑えて!」
ルナシウス「はい、クレフ様!」
僕もその横へ出る。
ルナシウスが武器を外し、僕が生まれた隙へ踏み込む。
クリスの矢が後方を抑え、セリザの声が敵の動きを先に知らせる。
かつて僕を鍛えた剣が、今は僕の指示に応じて隣で道を開いている。
不思議な感覚だった。
けれど、今はそれを考えている暇はない。
セリザ「中央まで押せています!」
橋の半ばが近い。
南詰の兵たちにも焦りが見え始めていた。
クレフ「このまま――」
リゼ「待ってください」
声色が変わった。
リゼさんが対岸を見つめる。
クレフ「どうしました?」
リゼ「さっきまでの術とは違います」
空気が重くなる。
リゼ「魔人の力です」
その言葉と同時に、南詰の兵たちが左右へ分かれた。
その間から、一人の男がゆっくり歩いてくる。
クリス「……来た」
忘れるはずがない。
クレフ「ヴァルグ」
この橋を強行突破した時に対峙した魔人。
冷たい視線も、まとっている圧力も覚えている。
セリザ「やはり、いましたか」
セリザも奴を知っている。
一方、ルナシウスは初めてその姿を見る。
ルナシウス「……あれが」
リゼさんも静かに目を細めた。
リゼ「ヴァルグ……」
クレフ「はい」
名前だけを知っていた魔人を、リゼさんも初めて目にする。
ヴァルグは橋の中央まで進んだ僕たちと、奪われた北詰を順に見渡した。
そして、わずかに口元を歪める。
ヴァルグ「また、この橋で会うとはな」
剣を握り直す。
国境大橋を取り戻す戦い。
その最後に立ちはだかる相手が、ようやく姿を現した。
第17章第19節へ続く。
第17章第18節を読んで頂きありがとうございます。
橋の狭さを利用し、五人は少しずつ中央へ前進します。
ルナシウスの半月剣を軸に、数の差を封じる作戦は機能し始めました。
しかし、南詰に姿を現したのは魔人ヴァルグ。
クレフたちにとっては再会、リゼとルナシウスにとっては初めての対面となります。
国境大橋を巡る戦いはいよいよ山場へ。
次回もよろしくお願いいたします。
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