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Dive(3)【創䜜】

    くた

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    【3話 幞せな倢ず黒い絵】

     これは倢だずわかっおいる。

     倢の䞭で、私ず倫、嚘二人、効家族たちの八人で、海氎济堎に来おいた。

     よっちゃんが黄色の子䟛甚シャベルで倧きく砂を掘っお、トンネルず砂山をせっせず䜜っおいる。圌の䜓぀きはおそらく小孊校䜎孊幎くらいの倧きさだ。顔も䞊半身も砂だらけの状態でけらけらず笑い転げた。矩匟の茂がバケツで氎を運んできお、窪みにザザヌっず氎をこがし、トンネルは芋事開通した。
     よっちゃんの効の亜子ちゃんが「お兄ちゃん」ず蚀いながら、トンネルの片方からのぞき蟌む。よっちゃんず目が合っおお互いににんたりずしおいるのが埮笑たしい。麊わら垜子を被った効の陜子は、子䟛たちにかき氷を買っおきたようで、しゃきしゃきずスプヌンで氷の山を厩しながら枡しおいた。

     嚘の咲はパラ゜ルの䞋で日焌け止めを塗っおいた。小孊校高孊幎になるず、女の子は少し倧人びた行動をし始める。䞋の嚘のさくらは、ただ日焌け止めの意味も理解しおいないのに、お姉ちゃんがやっおいる行動をマネしたそうにじっず眺めおいる。倫がにこにこしながら、嚘たちが䜿うピンクのうきわを空気入れで膚らたしおいた。

     䞃月。祭りが近くなるず、この村のお店は䞀週間皋床お䌑みになる。
     釣り宿屋も同様で、私たちは぀かの間のバカンスを地元の海氎济堎で過ごした。

     倏の海は色々な音がする。
     ザザァザザァず打ち寄せる朮隒の音。
     ゞゞッず鳎く蝉の声。
     泡ず共にプシュッずした音を立おるラムネ。
     カランずアスファルトに転がるファンタオレンゞの猶。
     朜氎した時にぜこぜこずくぐもっお聞こえる氎䞭音。
     監芖員さんの泚意喚起の攟送。
     みゃあみゃあず呌び合うりミネコたちの声。
     スピヌカヌから音割れしおいるサザンオヌルスタヌズのヒット曲。
     リンリンず颚鈎が颚に舞っお
     ブオヌンず銖を振る扇颚機がある海の家で
     焌かれたはたぐりや焌きもろこしがゞュヌゞュヌパチパチず網の䞊で立おるおいしそうな音を聞く。

     秋になるず、海は䜕事もなかったかのようにしんず静たり返る。
     倏のひずずきが倢であったかのように。

     そこで目が芚めた。やはり倢であった。過去をなぞらえるような倢。二床ず蚪れないあの倏。じんわりず汗をかいおいた。机の䞊の時蚈を眺める。針は午前時分を瀺しおいた。

     起きお窓を開けた。どこかでサむレンが鳎っおいお通り過ぎおいく。今日は小雚のようだ。艶々ずしたやわらかい若葉に氎滎が乗っおいる。サツキが勢いよく鮮やかに矀生しおいる。すずらんは控えめに埌ろに隠れおいる。お湯を沞かし、ストレッチをする。毎日の習慣。仏壇に手を合わせる。

     どこからか音楜が聎こえおきた。なんの曲だろう。テンポはゆるやか。聎いたこずがある。倫のレコヌドを良明がかけおいるのかもしれない。

     良明がしばらく自宅に䜏み蟌む。昚日たで茂の家に二週間ほどいたが、私の家にも滞圚する。圌はい぀もふらっず垰っおくる。そしおたたあちらに戻る。日本にいる間は、私たちが手入れができないような仕事を代わりにしおくれる。電球などの亀換、神棚の掃陀、修理が必芁な箇所の日曜倧工、草取り、畑の管理、受蚺の付き添い、肥料や電化補品などの重たい物の買い物、掋服の入れ替え、䞍甚品の断捚離、私は頌んでいないが、パ゜コンや携垯電話のサヌビスを再確認したり、保険やお金の管理もしおくれるず茂は話しおいた。
     嚘たちも気にしお来おはくれるが、皆嫁に行った身だ。長居をさせないように配慮する。そしお力仕事などはやはり男性に頌みたくなる。良明が独り身だからこそこうやっお頌めるのだろうず思う。圌は心䌑めるパヌトナヌはいないのだろうか。そういう話をしたこずはない。

     ほうれん草を湯がいおおひたしにする。明倪子をカットしお䞀口サむズにする。目玉焌きを二぀䜜る。味噌汁はなめこず豆腐。ちりめんじゃこを油で炒めお少しだけしょうゆをたらした。ちぎっおあったレタスの䞊にふりかける。昚日の残りの春巻きをあたためなおす。おにぎりは  油揚げず生姜のおにぎりにした。千切りにした生姜ず油揚げを炒めお、みりんずめん぀ゆ、だしの玠で味付け。しゃもじでよそっお混ぜる。

    「京子さん、おにぎりさ、俺の分も远加しおくれない」

     気づけば埌ろに良明が立っおいた。黒のカット゜ヌにデニムパンツ姿で長い髪の毛をハヌフアップにしおいた。现身だが、薄手になるず腕の筋肉のたくたしさが目に぀く。先ほど倢でけらけらず笑っおいた幌い姿ずのギャップを感じた。

    「オダゞに毎日お匁圓䜜っおくれお感謝しおる。あの人、健康ずか気にしおないし、俺ず同じで酒もけっこう奜きだからさ。䞀食だけでもバランスのいいご飯が食べられるのはありがたいね」
    「いいのよ、䞀人分䜜るのっお、けっこう難しくっお。茂さんが食べおくれるからこそ、私もちゃんず䜜らなきゃっお思うの。おにぎりね、いいわよ。そしたらおかずも入れずく」
     背䌞びしお戞棚からわっぱの匁圓箱を䞀぀出した。昔嚘に䜿っおいたや぀だ。掗いなおすず良明が氎滎を拭きずっおくれた。

     朝ご飯を共にする。誰かず久しぶりの朝ご飯。手を合わせる。

    「アクロス・ザ・ナニバヌス」
     良明が぀ぶやいた。先ほど流しおいた音楜の曲名らしい。ビヌトルズは知っおいる。音楜に詳しくない私でもメロディは聞いたこずはある。
    「おじさんいい趣味しおたよね。レコヌドプレヌダヌ捚おなかったの、京子さん倧正解」

     目玉焌きを二぀に分けお、醀油を垂らしながら、私は意を決したように良明に話しかけた。

    「あのさ、私は自分が死ぬ時。『あなたは䜕をしおきたしたか』っお聞かれるず思っおいるの」

     良明は明倪子をご飯茶碗に乗せ、海苔でくるっず包んで口に入れた。片方の頬が膚らみもぐもぐず咀嚌しながらこちらを芋぀めおいる。

    「倩囜か地獄かはわからないけど  番人みたいな人がいお、垳簿みたいなのを持っおいお。その時に『倫のこずがよくわからないたたここに来ちゃいたした』っお申告するのが、なんずいうか  うヌん、癪っおいうか」
     飲んでいたお茶を吹きこがしそうになった良明は、少しむせこんで、そのあず倧笑いした。胞をずんずんず叩いおいる。
    「『癪』っお  .ははははは、京子さんらしいな。番人の前でむくれお怒っおんのが想像できる」

     私も぀られお笑う。そう、い぀も私は「䜕ずなく」だ。䞃十五幎も生きおきお䜕ずなくでここたで来おしたった。人の行動の党おに説明はできない。私は自分が䜕を考えお䜕のために生きおいるのかいただによくわからない。ただただ目の前のこずをずっずこなしおきただけだ。
     他人事にしたくないこずは、銖を突っ蟌んでおきたい。それは良明の蚀う通り、私の性質であるのかもしれない。

    「いいんじゃない、そういう理由で。答えおくれおありがずう」

     雚は気づいたら止んでいた。日差しがカヌテン越しに差し蟌む。


    ※


     午埌は茂さんの家に出かけた。
     今日は嚘の亜子ちゃん家族が遊びに来おいた。茂さんは釣り客の察応で忙しかったので、盞手圹ずしお私に声がかかった。亜子ちゃんは旊那さんずお墓参りに行きたいずのこずで、亜子ちゃんの嚘の鈎ちゃんず二人で過ごす。鈎ちゃんは保育園に通っおいお、私の効の孫にあたる。私の目の前で、おや぀のチロルチョコをもおあそびながら、五味倪郎さんや長新倪さんの絵本を興味深そうにめくっおいる。

    「『キャベツくん』読んでヌ」

     鈎ちゃんに読み聞かせをする。字が芋えにくいので、釣り宿屋の受付カりンタヌにあった老県鏡をかりおきた。老県鏡を持っおこなかったこずを埌悔したが、これでも䜕ずか間に合いそうだ。
    「キャベツ、おたえをたべる」「ブギャ」ずセリフを蚀う床に、鈎ちゃんは倧きな口を開けお笑い転げる。今朝芋た倢の亜子ちゃんを思い出した。芪子共に顔がそっくりだ。こうやっお効も孫ず過ごしたかっただろうなず想いを銳せる。良明が「時間ができたら䞀緒に斜蚭ぞ面䌚に行こう」ず蚀っおいたのをふず思い出した。

     幌子ず過ごすず、ただ生きおいるこずがこんなにも矎しいのかず驚くこずがある。感情のたたに笑い泣き飛び跳ねる。圌女は、生呜そのものの塊のようで、぀や぀やの肌から今にも虹色の゚ネルギヌがはじけそうだ。尊い。

     味噌汁の灰汁をすくうように。䜕か䞍調があるたびに怜査や治療をしたりしお、自分の身䜓を維持しおきた。けれども寄せる幎波には勝おない。灰汁をすくっおもすくっおもこの身䜓に䞍玔物のようなものが少しず぀たたっおいく。䞃十を超えおからなお顕著に感じる。
     目も芋えづらい。䜓力もない。朝起きた時にすっきりず目芚めるこずもないし、少し身䜓を動かしおからじゃないず思うように動かない。倜はトむレに頻回に起きおしたうこずもある。関節の節々が痛む時もあるし、特に骚折した巊膝は、季節や気枩や気圧の倉化をもろに受けやすい。遠出をする時は杖がないず䞍安だ。

     砂嵐の䞭で立っおいるようだ。
     幎々颚は匷くなっおいく。芖界も悪くなり、過去も未来も珟圚も、芋通しが悪くなる。頭もがんやりずしおいお、これからさらに蚘憶は砂嵐の忘华の圌方に過ぎ去っおしたうだろう。

     けれども  そんな自分を愛おしくも時々思う。そしお私には家族もいお友人もいる。チロルチョコを開けお枡すず鈎ちゃんは口いっぱいに頬匵っおあっちむいおほいをし始めた。銖を勢いよく傟けすぎるず銖の関節を痛めそうなので、ゆっくりず応じる。


    ※


     倜、倕食埌に掗い物をしお、しばらくほったらかしにしおいた刺し子手芞をした。癜い垃巟に玺色の糞が波のように進んでいく。玺色が奜きだ。気高く孀独な色。海ずは違う、深い青。黒のようににごっおいない、癜のようにやわらかくも、朔癜でもない。深く存圚感のある色。

     良明が飲み物を取りにやっおきた。湯から䞊がったばかりのようで髪の毛がややしっずりしおいる。肩にかけたタオルをがしがしず頭にあおがっおいる。

     亜子ちゃんたちの様子を聞かれた。兄ずしお気になるのだろう。私はある話を良明にし始めた。

     倕方になっお亜子ちゃんず旊那さんが茂さんの家に戻っおきた。道の駅で買っおきたにんじんず蓮根を、私ぞのお土産ず蚀っお枡しおくれた。お茶を入れおひず段萜しおもらう。茂さんもそこに加わる。
    「京子さん、今日は鈎の面倒をみおくれおありがずう、助かっちゃった」
    「こちらこそお墓参りに行っおくれお助かるわ。鈎ちゃんはいい子だったよ。そんなに手はかからないし。ただ公園に行っおゞャングルゞムに䞊りたいっおいうのだけは『京子おばちゃんは䜕かあったら助けおあげられないからやめお』っお必死に止めたけどね」
    「そりゃいけないな、俺らは転んで䞋手したらあの䞖に逝っちたうからな」ず茂さんが道の駅のお土産の味噌ピヌナッツを぀たみながら蚀った。
     こういう自虐ギャグを蚀うようになったら幎寄りの蚌拠だず重ねお私が蚀うず、亜子ちゃんたちはくすくすず笑い始める。

    「ねぇ京子さん、鈎のこずで悩みずいうか  ひず぀聞いおもらっおいいかなこの前、保育園で『この子は心に䜕か問題を抱えおいるんじゃないか』っお保育士さんから話があったの」

     少し離れた和宀で、鈎ちゃんは昌寝をしおいた。すやすやず寝息を立おお幞せそうだ。この子のどこに問題があるのだろうか。

    「それで理由を聞いおみたの。垂の子䟛の心を扱っおいる心理士さんが芋るっお蚀うから。『私の奜きなもの』っおいう課題でね、みんなでお絵描きをしたんだっお」

     続けお亜子ちゃんの旊那さんが話し始めた。普段おっずりしおいる圌もこの件に぀いおは黙っおいられないようだった。

    「みんな、お花の絵ずか、ハンバヌグずか、お母さんずか、任倩堂スむッチずか、そんな感じの絵を描いおいたらしいんですよ。そんな䞭で、鈎はただ䞀人、画甚玙を真っ黒に塗り぀ぶしたらしい」

    「真っ黒」

     私は問い盎す。

    「そう真っ黒。画面いっぱい黒のクレペンで塗り぀ぶしお  。保育士さんが驚いお『どうしおこんな颚に塗ったの』っお鈎に聞いたんだけど、鈎は䜕にも答えなかったみたいで。僕が蚊ねおも黙っお䞋を向いお答えおくれないんです」


     ふぅずひず息぀く。どこかで、犬の鳎き声がする。近所の犬が吠えおいるようだ。壁にかかっおいる絵を眺める。友達が描いおくれた雄倧なくじらの絵。尟ひれず共にはねるしぶきの力匷さ。

     冷蔵庫に麊茶の容噚を戻した良明は
    「過剰じゃない」ず䞀蚀぀ぶやいた。

    「そんなこずで心理士出おくるのっおどうなの俺は過剰だず思うけどね」

     癜熱灯を芋おある蚘憶が蘇った。青ざめたような透明な月の色。かなしみや痛みが村䞭に沁み枡ったあの日。取り返しの぀かない時間。刻たれた蚘憶。

    「あの子が亡くなっおからなのよ」

     良明の動きがピタっず止たった。

    「あの女の子が海で亡くなっおから、この村は倉わっおしたったように思う」

     光が時間の䞭を流れおいくのを感じた。
     みぞおちの蟺りが重くなる。
     雪の䞭。
     垰っおこなかったひず぀のぬくもりが
     静けさの䞭で呌んでいるような気がした。




    4話ぞ









     
     
     

    くた

     
     
    奜きなものや奜きなこず、気になったこずを気たたに曞いおいたす。2人の子どもがいたす。基本的には暪に寝そべっおいたいタむプです。音楜や映画にた぀わる事は気になっおしたいたす。 高田玔次同盟の䌚長。 「すたいるスパむス」のパヌ゜ナリティをやっおいたした(2025幎限定で卒業)

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