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Photo byfairview_square

声

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     食事や仕事が手に぀かない。明らかに芇気のない恵矎子を芋かけお、䌊豆は責めるこずもなくただ肩を叩いた。
    「あんたはよくやったよ。お母さたの心ずあなたの心のスピヌド感がたたたた合わなかっただけでしょ。そういうこずはよくある話だよ」
     怎朚は恵矎子に有䌑を取るように蚀った。こういう時こそ䌑みが倧事だからゆっくりしおほしい、ずの心配り。深く考えるこずにもただ疲れおいたので、恵矎子は甘えるこずにした。


     よるべなさず溶け合いたくお。
     䞀人、倜の道を無心で走った。どれくらい走ったのか。おそらく海が近い。深い挆黒の向こう偎の地平線にうっすらず街明かりが芋える。気づけば蟺りは知らない颚景だった。ガ゜リンが少ないので、道沿いのさびれたセルフスタンドに寄る。絊油口のキャップを倖しお、ノズルを握り蟌む。ふず、フロントガラスに汚れが぀いおいる事に気づく。

     ドラむブスルヌ匏の掗車機に向かう。

     電光掲瀺板が「停止」を告げた。門のような掗車機は前方から埌方ぞ移動した。勢いよく氎しぶきが車䜓にかけられおいく。ガラスをがんやりず芋぀めた。
     氎は生き物のように螊りながらこちらぞ向かっおくる。䞍芏則に打ち付ける氎流を芋お、恵矎子は掗い流しおほしいず願った。母の悲しみ、私の悲しみ。䞖界のどこかの誰かが抱く悲しみ。倧事なものはなぜ奪われるのだろう。幞せはなぜ続かないのだろう。人はなぜすれ違っおしたうのだろう。こびり぀いた悲しみや苊しみ党おを掗い流しおほしい、ず祈る。
     青ず灰色のブラシがくるくるず回転しながら県前に迫る。ドドドドず振動ず音にたみれお車䜓を包む。

     そこで、携垯電話がなった。
     こんな深倜に誰だろう。
     あわおお助手垭のスマホをタップする。
     母から、だ。
     どうしよう、どうしよう。

     あわおお出たが、違和感があった。
     これは「メッセヌゞ」じゃない
     通話だ。母は話せないので通話でかけおくるこずはないはずだ。
     目を疑った。
    「あの、あの、ちょっず埅っお  今聞こえないの」
     ブラシが終わっお、センサヌ匏の现い鉄の棒から也燥の颚が吹き぀けられる。スマホの音が聞こえない。恵矎子は心臓がはねた。こちらの声は聞こえおいるのかもわからない。絶えず話しかける。
     掗車がやっず終わった。無音になっお、はっきりず聞こえた。

    「恵矎子、ありがずう」

     母の声。母の人工音声が、電話越しにはっきりず聎こえた。
     恵矎子はその声に胞があふれそうになっお、ハンドルを握っお泣き厩れた。
     車䜓の氎気を雑巟で拭きずりながら、恵矎子はハンカチで涙をぬぐった。スマホの画面にはこう蚘されおいた。


     “恵矎子も奈接も怎朚さんも、それから関わっおくれた人たち。この前のこずは申し蚳なく思っおいたす。
     ラゞオのこず。生きおいるうちに話す぀もりはありたせんでした。話すこずが私は奜きで、忙しい䞭でも䜕か自分の奜きなこずにチャレンゞしたい。そう思っおラゞオのパヌ゜ナリティに応募したした。あなたたちのお父さんは党お知っおいたす。最初はお父さんに向けお、私は話しおいた。造船の工堎でお父さんは懞呜に働いた。工堎で流れるラゞオを、お父さんはい぀も聞いおくれおいた。䞀人に届けるこずから始たったラゞオは、思った以䞊に広がっおずおも楜しかった。番組は事故埌、降板させおもらいたした。こうたろうさんだけ残っお他の新メンバヌを迎える案も出おいたしたが、こうたろうさんは「僕はノンノさんだからよかったんです。だから僕も蟞めたす」ず蚀っお番組は終了したした。
     私、本圓にショックだった。自分の声が出ないこず。自分の䞀郚を倱ったようだった。自分の匱い郚分を、家族が心配するから芋せられなかった。い぀たでもそこに執着しおも仕方ない。ラゞオのこずは忘れたかった。
     でもね、お父さんに蚀われたの。
    「䞀人になるな」っお。「お前はすぐ䞀人で抱え蟌む」っお。それで思い盎したした。
     私はみんなずいたい。
     みんなず䞀緒に生きおいたい。
     すでにありのたたの私でこんなに思っおくれおいる人たちがいる。もうそれだけで私は幞せじゃないかっお。”

    


     数ヶ月埌。
     パルス瀟のガラスの壁の向こう偎で、本日もラゞオの収録が行われおいた。


     雲の隙間から、差し蟌む月の光
     光は波間に反射しお
     きらきらず
     宝石のように散りばめられた
     どこかで汜笛の音が
     がおヌっず響いお 空気をふるわした
     ここはどこなのだろう
     これからどこにゆくのだろう
     誰も䜕も答えない
     海䞭の぀や぀やずした貝殻も
     ぜかりず浮かぶ海月も
     ちいさなちいさな魚たちも
     しぶきをあげた波のひずひらも
     い぀か地平線にあがっおくる
     あの倧きなきらめく倪陜も
     忘れ去ったあの日の想いも
     むルカだけが鳎いおいる
     祈るように ささやくように
     誰にも聞こえぬ呚波数で
     ひそやかな歌ずなっお
     青の濃淡の䞖界に広がっお
     小さな矜を埗お
     どこかのひずりがっちの誰かに
     きっず届くず信じお

     すぅっず息を吐いた。
     恵矎子は朗読を終えお、䞀呌吞したのちに
    「では、パルス瀟の今日のニュヌスをお䌝えしたす」
     ず声を切り替えおはきはきず話し始めた。



    「やっぱりラゞオのパヌ゜ナリティをやっおみおもいいですか」

     恵矎子からの突然の申し出に怎朚は飛び䞊がるくらい驚いたが、すぐに萜ち着いお喜んで圌女を受け入れた。最初はなかなか慣れずに、声が小さい堎面も倚かった。䜕テむクも録り盎したが、今ではミスもなく、堂々ず音声を収録できるようになった。特に評刀なのは「詩の朗読コヌナヌ」で、恵矎子が考えた詩や、リスナヌから寄せられた詩などを、恵矎子が情感たっぷりに読み䞊げるず、たちたち堎の空気が倉わった。


    「パルス瀟はただの合成音声を提䟛する堎ではありたせん。あなたずあなたの堎になりたいのです。私ずあなたを繋ぐのは『声』。声なき声がただたくさん存圚しおいたす。あなたの声を聞かせおください。誰かの声を聞いおください。それでは、本日の担圓は乙顔でした」

     怎朚はガラスの向こうの乙顔にオッケヌサむンを掲げた。
     恵矎子もはにかんでピヌスで返す。

     恵矎子は母の声や気持ちを取り戻すず同時に自身の声も取り戻した。圌女は声を発するこずに察しお、以前のようにフラッシュバックするこずもなく、い぀のたにか次第に盞手ず安心しお話せるようになった。

     圌女はたたに携垯をいじり、自分を励たしたい時にこの歌を聎く。

    〝これくらいの おべんずばこに おにぎり おにぎり ちょっず぀めお〝

     そっか  今日はたたあのコロッケ定食でも食べに行こうかな、ず、ふず恵矎子は思い出す。

     あのじゃがいもず
     ひき肉ず
     玉ねぎだけの
     シンプルなコロッケず
     母の歌声

     恵矎子はずっずこの先も忘れるこずはない。

     声なき声は
     圢をあらわし
     今日も 恵矎子の心の䞭で響き぀づけおいた。


    おわり


     
     

    くた

     
     
    奜きなものや奜きなこず、気になったこずを気たたに曞いおいたす。2人の子どもがいたす。基本的には暪に寝そべっおいたいタむプです。音楜や映画にた぀わる事は気になっおしたいたす。 高田玔次同盟の䌚長。 「すたいるスパむス」のパヌ゜ナリティをやっおいたした(2025幎限定で卒業)

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