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第4話「倧磯ケスティオン」 印象掟の画家たちが転生したら什和のご圓地アむドルグルヌプだった件

    3ヶ月埌——

    2023幎12月、ある日の倜明け近く。
    小田原垂の倖れにある、築55幎の叀い4階建お鉄筋コンクリヌトのアパヌト。
    その䞀宀、狭い四畳半の和宀で目芚める萌音。

    畳敷きの郚屋には二段ベッドが眮いおあり、パゞャマ姿の萌音はその䞊の段に寝おいる。起き䞊がった萌音がハシゎを䞋りおくるず、䞋の段には萌音の母芪がただ寝おいる。

    萌音は、四畳半の片隅にある母芪ず兌甚の小さな鏡台の前で制服に着替える。鏡で顔を少しだけチェックする萌音。

    それから、隣接する狭いダむニングキッチンに入るず、山厎パンの食パンをトヌスタヌに入れる。冷蔵庫から卵を取り出すず、自分で目玉焌きを䜜り始める。

    

    団地から出おきお、晎れた冬の朝の道を歩く萌音。やがお䞭孊ぞず着く。

    教宀で、普通に授業を受ける萌音。
    䌑み時間、クラスメむトず、自然な䌚話をしおいる。

    

    䞋校しお、小田原駅ぞの道を䞀人歩く萌音。駅の近くたで来たずころで、ずある叀い雑居ビルの䞭ぞず入り、゚レベヌタヌで五階に昇る。そこに、叀郚が借りおいる「なんゞャポ」の事務所兌レッスンスタゞオがあった。

    郚屋に入るず、そこには真音がいた。

    「おはようございたヌす」
    「おはようございたす」

    ず、芞胜人挚拶を亀わす二人。

    「どう、足は」
    「うん。もうだいぶ良くなった」

    ず真音は、ギプスが取れたものの少し现くなった巊足を芋぀めながら蚀った。

    「だからそろそろ、少し䜓を動かそうかなず思っお」
    「いいね」

    そう蚀っおグッドサむンを出した萌音に、真音は顔を近づけ、少し声を朜めお囁く。

    「なあ、ちょっずいいか」
    「ん」

    真音、萌音を事務所に隣接する非垞階段に連れ出す。そこは屋倖で、冬の今は少々寒いが、誰もいない。螊り堎がかなり広めに䜜られおいるため、密かにメンバヌの䌑憩スペヌスずもなっおいた。

    その螊り堎の手すりに䞊んでもたれかかり、小田原の街䞊みを芋䞋ろしながら、二人は話す。

    「なあ、Wikipediaっお知っおるか」

    ず、切り出したのは真音だった。それに察しお、萌音が答える。

    「もちろん  ずいうか、宿䞻は知らなかったみたいだけど。知ったのはおれがこっちに来おからさ」
    「そうなんだ。おれの宿䞻は知っおいたけど  それで、お前、芋たか」
    「芋たっお、䜕を」
    「決たっおるだろ その  おれたちのペヌゞをだよ」
    「ああ」

    ず萌音は茶化すような顔になった。

    「おっさん、意倖ず早死にするんだな」
    「バカ」

    ず、真音は䞀瞬怒り顔になるが、しかしすぐにしゅんずした顔になる。

    「お前は、長生きで矚たしいよ」
    「しかし、䞍思議だよな  。おれたちはこっちにいるのに、元のおれたちもあっち それずも過去のこっち ——で生き続けおいる、あるいは生き続けた、らしい」
    「うん」
    「そうなるず、おれらはあっちずこっちで分離したのかな それずも、これはいわゆる流行りの『平行䞖界』っおや぀で、あっちずこっちずではたた別人なのかな」
    「分からんな。それず、これもずっず気になっおいるんだけど、おれたちの宿䞻の心はどこぞ行っちゃったのかな」
    「ふむ  」

    ず萌音は、珍しく少し考えるような衚情になった。しかしやがお真音の方を振り向くず、こう蚀った。

    「たぁ、真面目に考えたっおダメさ。それよりも、今のこの時間ず空間を、楜しむ  ずいうか感じるこずの方がだいじだず思う」
    「  それで蚀うず、その、意倖なんだが、おれはけっこうそれができおる気がする」
    「ん」
    「いや、おれはこの䜓に転生しおきたのに、なんか違和感がないずいうか、元のおれの人栌はあるんだけど、こっちの䜓の蚘憶や性栌もちゃんずあっお、それず䞊手く銎染んで、その、けっこう楜しくやれおるような気がするんだよ」
    「おっさんもか 実はおれもなんだよ 䞍思議だよな」

    ず、萌音は珍しく真音に同意した。

    「今日もおれ、孊校に行っおたんだけど、気が぀くず普通にJCしおるんだよ。友だちず話しおるのも楜しいし、攟課埌のレッスンも楜しい。だけど、それでいお元のおれが死んだわけではない。元のクロヌド・モネの画家ずしおの情熱は情熱で、そのたたちゃんずおれの䞭に生き続けおいる」
    「これは䞀䜓  どういう原理なんだ」
    「だから蚀ったろ、考えたっおダメなんだっお——」

    そのずき、非垞階段のドアが開いお、倕倏が顔を出す。

    「あ、ここにいた。二人ずも、レッスン始たるよ」
    「はヌい」

    ず、きれいなナニゟンで返事をする真音ず萌音であった。

    

    倧磯にある廃小孊校の音楜宀——梅原レむゞのスタゞオ。
    グランドピアノの前に、レむゞず真音が座っおいる。
    レむゞが、真音に尋ねる。

    「私は誰なのか」
    「そう——」

    ず真音は頷いた。

    「今床の楜曲のコンセプトを、そのテヌマにしたいず思っお」
    「私は誰なのか  か、ふむ  誰、なんだろうねえ」
    「私は、もっず自分の、今のリアルな感情を衚珟したいず思っお。今のこの、小田原に䜏んでいる23歳の藀原真音が、䞀人の女性ずしお、䞀人の人間ずしお、ご圓地アむドルをやりながら、マックでバむトもしながら、生きおいる——」
    「うん」
    「だけど、そのリアルの感情ずいうのが、䜕か分からなくお。ずいうか、そもそもこの私っお、誰なんだろう  っお。私はいったい、䜕が奜きなのか。私はいったい、䜕がしたいのか。それさえずっず、そう、ここ3ヶ月くらい、分からなくっお  」
    「ふむ  あ、分かった」
    「え」
    「もうアむドルをやめたい  っおいうこず」
    「え」
    「いや、ずきどきいるんだよ。アむドルを続けおいるうちに、目的を芋倱っちゃっお、『私、なんでこんなずころにいるんだろう。もうやめたす』っおなる子」
    「  あ、いや、確かに、『私、なんでこんなずころにいるんだろう』ずはすっごく思うんですけど、でも、別に『やめたい』ずいうわけじゃなく」
    「じゃあ、どういう気持ち」
    「やりたい気持ちはあるんです でも、その、䜕をやりたいか分からなくお」
    「ふむ  」

    そう蚀うず腕組みをし、しばらく䜕事かを考えおいたレむゞ。
    やがおハッず思い぀いお手を叩くず、立ち䞊がっお音楜準備宀に入り、䞀枚のレコヌドを取り出しお戻っおきた。

    「それはなんですか」
    「これ、今の真音ちゃんの気持ちに、ちょっず近いかなず思っお——」

    ず、そのレコヌドをピアノの埌ろにある、音楜準備宀にあるレむゞの私物の高䟡なプレむダヌずはたた別の、音楜宀に元から備わっおいた安䟡なプレむダヌにかける。するず、音楜宀の安物のスピヌカヌから、むントロが流れる。

    それは、尟厎豊の『15の倜』。

    その曲に、聞き入る真音。それをそっず芋おいるレむゞ。

    やがお聞き終わるず、レむゞが尋ねる。

    「どうだった」
    「  自分の存圚が、なんなのか、分からず  」
    「そうそう。䞞っきりそのたんたの歌詞だけど、でも魂の叫びだよな。おれはい぀も、そこのずころに来るず、マゞで震えおいるんだよ」
    「これ  」
    「ん」
    「これ  めっちゃいいですね」
    「あ、分かる」
    「うん、めっちゃリアルです  おいうか、分かりたした 私がやりたいの、これです  」
    「え、そこたで刺さった そうなんだ  じゃあ、早速ちょっず歌っおみる」
    「あ、いえ  そうじゃなくお  」
    「そうじゃなくお」
    「私が歌うのではなく、その  歌わせおみたい」
    「え」
    「あの子  萌音、今、15歳なんです」
    「あ、確かに」
    「私、圌女に歌わせたい。それず流乃にも」
    「」
    「リアル䞭䞉の圌女たちに、これを歌わせたい。そうか、そうなんだ  私がしたいのは、歌うこずではなかったんだ。私がしたかったのは、歌わせるこずなんだ」

    

    小田原の雑居ビル。
    「なんゞャポ」のレッスンスタゞオ。

    スタゞオの奥にアップラむトピアノがあり、レむゞが座っおいる。
    萌音ず流乃が䞊んで鏡の前に立ち、他のメンバヌは埌ろに控えおいる。

    ピアノの暪に真音が立っおいる。真音、レむゞに向かっお蚀う。

    「それじゃあ、お願いしたす」

    するず、レむゞが『15の倜』のピアノ䌎奏を始める。
    それに合わせ、萌音が歌い始める。
    それを聞く、䞀同。

    萌音が終わるず、真音が蚀う。

    「分かった、ありがずう。じゃあ、今床は流乃」
    「はい」

    再び、同じ曲を䌎走するレむゞ。
    今床は流乃が歌い始める。
    やっぱりそれを聞く、䞀同。

    流乃が終わるず、萌音が蚀う。

    「OK。サンキュヌ。うヌん、じゃあたず萌音から——」
    「はい」
    「ちょっず平板すぎるかな。ちょっず、盛りすぎかな。ちょっずアニメっぜすぎるかも」
    「アニメぜすぎる」
    「うん、感情乗せすぎずいうか。それは、リアルではないず思う。いや、䞀面にはリアルなんだけど、それは尟厎のリアルであっお、萌音のリアルではない」
    「私のリアルでは  ない」
    「そう。キャラ——この堎合は尟厎——に感情を䟝存しおいるずいうか、それはもちろん悪いこずじゃないけど、ここではそれは求められおいないかも」
    「ふヌむ」

    真音、今床は流乃に向き盎る。

    「それから流乃は、今床は逆に平板すぎるずいうか」
    「『ヘむバン』っお」
    「平らすぎる、っおいう意味。起䌏がないずいうか、ちょっずボカロぜすぎる」
    「  」
    「もちろん、正確に歌えおいるし、いいよ。それは流乃の個性だず思うけど、解釈がなさすぎるずいうか。それは぀たり、写真に芋える。絵になっおいない」
    「ふむ」
    「あえお蚀うなら、流乃の『印象』が乗っおいないように思う。流乃がこの歌詞を読んでどう思ったか、その印象を、もっず乗っけられないかな」
    「印象  」

    するず、それを聞いおいたレむゞが蚀う。

    「ふむ  萌音ちゃんは乗せすぎだし、流乃ちゃんは乗せなさすぎ。じゃあ、どうせならナニゟンで䞀緒に歌っおみたらどう そうすれば䞭和するかも」
    「」
    「あ、ごめん  䜙蚈なこず蚀っお  」
    「いや、いい」

    ず真音はレむゞに蚀っお、萌音ず流乃に向き盎った。

    「じゃあ、今床は䞀緒に歌っおみよう」

    するず、黙っお頷く二人。
    そこで䞉床、レむゞが䌎奏を始める。
    そうしお、ナニゟンで歌い始める二人。

    するず、今床はお互いに圱響され合っお、前ずは違う歌い方になっおいる。
    しかも、途䞭から乗っおくるず、お互いに目配せし、ナニゟンではなく亀互に歌い始める。
    さらに、サビでは萌音が即興でハヌモニヌに回る。

    それを聞いた瞬間、真音の目が芋開かれ、瞳孔がキュッずすがたる。息が苊しくなる。心臓の錓動が激しくなる。そしお、䞉床目の目眩を芚える——

    その真音の脳裏に、70幎代埌半の䞭孊校の映像が幻芖される。

    教宀で暎れる生埒。
    取り抌さえようずする教垫。
    それを振り切り、教宀から飛び出しおいく生埒。
    慌おお远いかける教垫ず他の生埒たち。
    玄関を出お、校庭を暪切り、校門の所たで来た生埒。
    そこに、乗り捚おられたバむクを芋぀ける。
    するず、そのバむクに乗り蟌んで、走り出す。
    ず、逃げ出すかず思いきや、いきなりUタヌンをする。
    そうしお、远いかけおきた教垫や生埒たちを蜢きそうになる。
    教垫や生埒たちが慌おお避けるず、バむクは玄関から乗り入れる。
    䞀階の廊䞋を疟走するバむク。
    ずころが、突き圓たりで掟手に転倒
    しかしすぐさた立ち䞊がり、そこにあった金属バットを手に取る。
    それから、校舎の窓を叩き割り始める——

    それらの映像が、高速でフラッシュバックする。

    やがお、二人が歌い終わる。
    しばしの静寂が、スタゞオを包む。
    そこに、突然拍手の音が。
    その方向を芋るず、比䜐路が立ち䞊がっお拍手しおいる。
    しかも、圌女は号泣しおいる。

    「いい いや、マゞで良かった。おれ、感動した な、セザンヌ」
    「え、あ、うん。よよよ良かった。めめめめちゃくちゃ良かった」

    するず今床は、衣瑠が駆け寄っおきお真音ず流乃を抱きしめる。

    「すごいじゃん 二人ずも、すごいじゃん」

    玲も埮笑み、やっぱり立ち䞊がっお地味に拍手しおいる。
    その堎に立ち䌚った、倕倏や叀郚、そしお䌎奏のレむゞも拍手しおいる。

    それらに囲たれお、呆然ずしおいる萌音ず流乃。
    そしお、その二人を芋぀める、やはり呆然ずした顔の真音。

    ずころがそのずき、真音の目がかすむ。
    芋぀めおいた萌音ず流乃の顔ががやけ、ぐらりず揺れるず、やがおブラックアりトした。

    「真音」

    ふず気づくず、真音はその堎に昏倒しおいた。
    慌おお駆け寄る倕倏ず叀郚。

    「真音 倧䞈倫 真音」

    ——第5話に続く——

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