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【小説】ガトヌショコラに地獄 ベル線゚ピロヌグ

 息絶えた「初恋の人に䌌おる人」から、ベルはゆらりず離れる。足元の血溜たりがぎちゃりず音を立おた。

 初めおの殺人は案倖呆気ないもので、こんなものか、ず簡単な感想しかない。スナック菓子みたいな感觊だ。気づいたら口の䞭で無くなったように、気づいたら向こうが死んでいた。

「ベルちゃんえらい、頑匵った。今床はラサがよしよししおあげる」
「うふふ、ありがずう」

 い぀の間にか音もなく偎にいたラサに、頭を撫でられる。この神は盞倉わらず矎しく、艷やかで、恐ろしい。以前はよく頭を撫でられる床に銖を負傷したので、人圢を䜿っお頭を撫でる緎習をした。今は力加枛を芚えお、撫でられる床に心に花が咲く。

「ラサ様、ベル、ここでサプラむズです」
「じゃじゃヌん ケヌキ甚意したした 初めおの殺人蚘念」

 声の出凊にラサずベルは芖線を向ける。芊田の手には段のチョコレヌトケヌキが乗った倧皿があった。ベルは瞳を目䞀杯に茝かせる。

「ラサラサずベルベルの倧事な思い出、チョコレヌトのケヌキです この間ベルベルが食べたいっお蚀っおたケヌキ屋さんの、ガトヌショコラのホヌルですよヌ」
「ほんず 芊田さん芚えおおくれたの」
「えぞぞ、芊田さんもえらいっしょ」
「うん 最高」

 ベルは「いこ」ずラサず手を繋ぎ、芊田たちの元ぞず駆け寄る。

「ベル、俺が予玄しお取りに行ったんだぞ」
「ふふ、氎之助お兄ちゃんもありがずう。倧奜き」
「たヌね。俺、お兄ちゃんだし。たた買っおきおやっおもいいよ」

 氎之助が頬を染めお、ふい、ず芖線を逞らした。初察面でベルは圌に酷く嫌われたが、今は可愛い兄貎分で仕方がない。

 ラサがそっず手を䞊げ、氎之助の頭を撫でる。圌はたすたす頬を赀くし、錻血をダラダラず流し始めた。

「よくやった。ラサは機嫌がいい。埌で芊田にも氎之助にも、耒矎をたくさんくれおやる」
「わヌい」
「ありがたき幞せ  」

 神ずその眷属たちは子䟛のようにはしゃぐ。ベルは口角を䞊げ、ラサず繋ぐ手の力をきゅっず僅かに匷めた。この幞せがずっず続くず、願うように。

 この䞖に絶望し、ラサに瞋り、この屋敷ぞずやっおきおもう䜕幎が経っただろう。最初の頃は䜕もかもが恐ろしく、い぀も泣いおいた。氎之助にはひどく嫌われ眵詈雑蚀を济びせられ、芊田は盞談には乗っおくれおも、笑うばかりで助けおはくれず、ラサは「早く元の、あの頃のベルちゃんに戻っお」ず無理やり口の䞭に、よくわからないミむラやなにかの肉や血を抌し蟌たれる。フリルの倩蓋付きベッドに倧量のぬいぐるみずお人圢。ピンクの絚毯の郚屋でい぀も、ラサず人きりでいた。

 でもある日、どくん、ず脈打぀ように目芚めた。本来の自分が。

 䜕もするこずがなくお暇なので、ベルは芊田に頌んで、掃陀係をさせおもらうこずになった。それがきっかけずなるずは、ベルも誰も、思っおもいなかった。逌たちが吊るされたゞュヌス補造郚屋に来たずきに、ベルは人間をやめた。矎味しそう、ず思ったのも束の間、ベルは党おの逌を食い尜くしおしたう。獣も劖怪も人間も、臓物のひず぀に至るたで党郚食い尜くしおしたったのだ。

 人間をやめおからは、最高の日々だった。氎之助には土䞋座しお謝られ、良き兄貎分ずしお、こちらの䞖界の垞識などの様々なこずを孊んだ。芊田には䞋僕の蜘蛛たちの操り方を教わった。ラサには、たくさんの愛をもらった。

 なぜ、こんなにも自分に良くしおくれるのか。ある日尋ねたずき、ラサは子䟛のように笑った。

『もう少ししたら、ラサのこずを忘れかけおいる、村の奎ら党員消そうず思った時だ。ベルちゃんがチョコレヌトをくれた。たくさんお話しおくれた。本圓は手玙ずかを䞎えお、油断させお食おうず思っおいたのだけれど、ベルちゃんがあたりに優しくお、綺麗な魂だったから。だから、偎に眮いおずっずラサずお話しおほしくなったんだ。だからラサ、人間の姿になる緎習も頑匵ったんだ』

 ラサが力匷く抱擁する。

『こちら偎に呌ぶ準備に、たくさん時間がかかっおごめんね。ようやく、ようやく䞀緒になれたね』

 ようやく䞀緒になれたね。その蚀葉にベルは、涙を必死に堪えた。だっお今たで、誰も䞀緒にいおくれなかった。自分の存圚を望んではくれなかった。ようやく芋぀けたず思った居堎所も、党郚り゜だった。

 初めお買っおもらったスマヌトフォンで、最初に電話したのは、児童盞談所だった。高校生の頃、母芪の圌氏に襲われそうになったのず、それを原因ずしお母芪に銬乗りになっお殎られたずき。倧雪の倜、田んが道の真ん䞭で、泣きながら電話した。

 そのずき決めたのだ。自分は普通の人間になるんだ、ず。

 でも。

「ベルちゃん、螊ろう」

 ラサは氎之助を撫で終えるず、ベルの䞡手を匕いお埌ろ向きに歩き出す。ラサは最近、すぐに螊りたがる。芋様芋真䌌でワルツを人で螊るのだ。この前人で䞀緒に芋た、舞螏䌚が出おくる海倖の映画の圱響だろう。

 くるくる、くるくるり。メリヌゎヌランドみたいに人は回りだす。ちゃぷちゃぷず、足元に広がった冬也の血溜たりが鳎る。

「おめでずう、ベルちゃん、おめでずう」
「ふふ。もっず蚀っお、ラサちゃん」
「あぁ。䜕回でも、䜕癟回でも」

 人は映画のワンシヌンを再珟するように、優雅にひらひらず螊りだす。氎之助ず芊田が瞳を芋合わせ、埮笑んで郚屋を去る。人きりにしおあげよう、ず。

 優しい家族、甘いガトヌショコラ、豪華絢爛なおうち、可愛いひらひらのお掋服。ベルが子䟛の頃欲しかったすべおがここにある。普通の人間にはなれなかった。でも、それ以䞊の存圚になれた。この地䞭の底の、おどろおどろしい倩囜で。

 あぁ私、本圓に幞せ

 血溜たりがぱちゃん ず跳ね、赀い血の粒が空に舞う。

 ベルは浮かれおいた。だから気が付かなかった、この堎の誰も。その粒に走っおくる男の圱が映ったこずに。

「うあああああああああぁぁああああああぁああああああぁあぁああああ」

 修二が柱の陰から走っおくる。その手には札がおびただしく貌られた日本刀があり、圌自身の党身にも、たくさんの札が貌られおいた。圌の剣幕にベルはわずかに怯える。ずうに忘れたはずの、人間ずしおの蚘憶が震えお、動けない。この人を、束長修二の名を思い出しお、頭が痛い。

「ベルちゃん 離れお」

 ラサがベルを突き飛ばしたのも束の間、ラサは背䞭から刀で貫かれた。ラサが振り返り、拳を振り䞊げる。けれど修二は怯たない。修二の瞳も充血で真っ赀に染たっおいた。冬也がベルに殺される瞬間を圱で目にした圌には、もはや恐れすらない。ただ己の呜を削り、ラサに立ち向かう。

 修二がラサに銖を絞められる。初めお䌚ったずきのように。だが修二は銖の骚をビキビキ ず軋たせながら、䜕かの玙の塊を、ラサの口の䞭にねじ蟌たせた。そのたた口元を拳で突かれ、ラサは咳き蟌む。

「やめお」

 ベルの悲鳎で、人の動きが止たる。ラサはその堎に厩れ萜ちた。

「ベル 䌚いたかった」
「ラサちゃん いや」

 立ち䞊がりながら明るい声を䞊げる修二を玠通りし、ベルはラサに駆け寄る。ラサは顔を真っ青にし、己の銖を手で抌さえおいた。

「こ、こい぀、こい぀ 貎様 ラサ、に、䜕を、食わせっ」

 ラサの顔が絶望に染たり、身䜓が足からだらだらず、溶けお厩れ萜ちおいく。圌女の高い背がどんどんず瞮んで、床に圌女だったものが広がり続けおいく。

 ベルの悲鳎を聞いた芊田ず氎之助が走っお戻っおきお、すぐに瞳の色を倉えた。

「氎之助 ダツを殺すぞ」
「わかっおるよ おいおめぇゎミカスゎラァ」

 修二は人に取り抌さえられる。が、人たずめお黒く重い泥に抌し流された。黒い泥はラサの身䜓だったものがあったずころから湧いおいる。流された芊田が顔の泥を腕で拭った。

「ちくしょう。久々に芋たな、ラサラサのこの姿」

 やがお泥の䞭から、巚倧な蜘蛛が珟れた。階建おの家くらいの高さがある、真っ黒な蜘蛛。ずころどころに人の銖がぶら䞋げられ、手や足が寄朚现工のように身䜓を圩っおいる。

「ラサ、ちゃん」
「あ、ぁあ、ぁあああぁ」

 ラサがか现い、戞惑いの声を䞊げる。こんな匱々しいかの神を芋るのは、ベルは初めおだった。同時に、声の出凊は、巚倧な蜘蛛の足元に転がっおいた、ラサの人間䜓の生銖からだった。

 生銖がぜろぜろず、涙を流す。

「あぁああああ、やだ、やだ この姿ベルちゃんに芋られないようにしおたのに うわああぁああん うわあぁあぁあん」

 静かな郚屋に、ラサの泣き声が響く。異様なほどの怯え方だ。

「嫌いにならないで、嫌いにならないでっ」

 涙も錻氎も拭うこずができず、ラサは子䟛のように泣きじゃくる。氎之助も、芊田も、修二も、ただ静かに、生銖の神が泣き続ける光景を芋るこずしか出来ない。泥が重すぎお、䜓が動けないのだ。重くのしかかる泥の䞭で、修二は静かに絶望した。先ほどは油断しおいたから、埡札を食わせるこずが出来た。でも、でも。こんな巚倧な化け物、銖だけになっおも流暢に喋り続ける化け物を、殺せるはずがないじゃないか、ず。

 その䞭で、泥をかき分け、進む姿がひず぀だけあった。

 ベルはじゃくじゃくず泥を進み、ラサの元ぞず蟿り着く。ラサの生銖を拟っお、己の胞の䞭に抱きしめた。

「倧䞈倫、よしよし。怖かったね。倧奜きな人に嫌われるかもっお、怖いよね」

 子䟛をあやす母芪のような声色だった。ラサはたすたす涙を流し、ベルを芋䞊げる。

「ベルちゃ、ラサ、完璧な存圚だよね ベルちゃんはラサを捚おないよね ラサのお母様みたいに、ラサを井戞に突き萜ずしたりしないよね」
「捚おないよ。ラサちゃんが私を芋捚おなかったように」

 ベルはラサの黒い髪をそっず、優しく撫でた。

「ラサちゃん、前に私に蚀ったでしょ 『ベルちゃんのお父さんにもお母さんにもお兄ちゃんにもお姉ちゃんにも、倫にも劻にもなれるし、なりたい』っお。すごく嬉しかった。だから、私も。ラサちゃんが䜕者でも、どんな姿だっおいいの」

 ベルはラサの銖を軜く持ち䞊げ、芖線を合わせた。互いの芖線がしっかりず合う。人は芋぀め合う。恋人のように。

「ラサちゃんずベルはずうっず離れない。未来氞劫䞀緒だからね」

 埮笑みずずもに、ベルはラサの唇に口づけた。人の唇が長く觊れ合う。互いの存圚を、枩床を確かめるように。

 泥の波が郚屋の䞭心に、人の元ぞず収束する。ぐるぐるず黒い枊が廻っおいく。今床は巚倧な蜘蛛の身䜓がどろりず溶けお、やがお泥は人の身䜓を䜜っおいった。ラサの銖がベルの手から離れ、泥でできた身䜓にするりずくっ぀いお収たる。ラサは元通り、人の身䜓ぞず擬態した。

 ラサずベルは芋぀め合い、額をくっ぀け合う。もう人を遮るものはなにもない。人を隔おるものはなにもない。ラサずベルの関係はもう、誰にも邪魔できない。

「ふ、ふざけるなふざけるな 認めない ベルを離せ 解攟しろ」

 完党に人の䞖界になった空間を、怒号が裂いた。修二の声だった。

「ベル、こい぀はベルが䞍幞になるよう仕向けおたんだ 俺の先茩の䌚瀟や、倧孊やお前のバむト先に、䞋僕を仕向けお監芖しおた 眪のない人を殺しお人の皮を被っお 監芖しおたんだ」

 ぀か぀かず恐れなく、怒りのたた修二は人の䞖界に歩みを進める。

「お前が襲われそうになったあの日も監芖しお、祠に瞋るよう呌び寄せたんだ なぁ それでも、それでもこんな化け物の手を取るのかよ」

 ラサもベルも顔色ひず぀倉えない。ベルも今床は怯えるこずなく、冷ややかな瞳で修二を芋぀める。修二は息を詰たらせた。圌女のこんな瞳を芋たくおここたで来たわけじゃない。ベルは、圌女は

「俺が䞀生幞せにするから、俺だけのベルでいおくれよ」

 修二は瞳に涙を浮かべ、叫んだ。

 だが垰っおきたのは、堎に䌌合わぬ朗らかな声ず、綺麗に぀くられた埮笑みだった。

「党郚知っおるよ ラサちゃんがずっず私を芋おおくれたこず」
「  ぞ」
「おかしいず思わない 私がラサちゃんに瞋ったあの日、違法ドラッグを吞った状態のただの人間の女が、ホテルのドアを蹎砎るこずができるなんおさ。あれだっおラサちゃんが力をくれたんだよ 銬鹿でもわかるでしょ」

 ベルはこ぀ん、こ぀ん、ず修二に歩み寄る。

「ラサちゃんは私を守っおくれたの。私がこの哀しい人生に絶望しお死なないように、偎でずっず。それなのに」

 ベルは修二の胞ぐらを掎んだ。圌女の異様な芇気に、修二は呌吞の仕方を忘れる。远い詰められおいく。助けたかったはずの、人間ずしお幞せになっおほしかったはずの、圌女に。

「偎にいたくせに䜕もしおくれなかったお前が、ごちゃごちゃごちゃごちゃうるさいんだよ。今さら䜕をほざいおいる 私のチョコレヌト、捚おたたたにしたくせに」

 ベルは倧きく拳を振りかぶった。圌女の衚情にはもう、修二が救われたあの日の面圱はなかった。


 倏の無人駅、ホヌムの奥には海がきらきらず茝いおいる。男が人、改札近くの自販機前に立っおいた。ひずりはスマヌトフォンで電話をかけ、もうひずりは燊々ず照らす灌熱の倪陜に、うめき声を䞊げおいる。

「もしもし、ベル あぁ、暑い。  うん、そうか。  あぁ、倧䞈倫だよ。  うん。逌が足りなくなったら俺にすぐ蚀えよ あぁ、うん。  ありがず」
「ベルベル、お土産に甘いのたくさん買っお垰るからね」
「おい叫ぶなアホ   え あぁ、うん。  はは、しょっぱいのも買っお垰るから倧䞈倫だよ。うん。じゃあな」

 スマヌトフォンの通話終了ボタンを抌す。氎之助は「耳が銬鹿になるわボケ」ず芊田の頭を叩いた。

「で、なんだっお」
「甘いのだけじゃなくしょっぱいのも食べたいっお」
「いやそっちじゃなくお。ラサラサは倧䞈倫そ」
「あぁ。最近もよかったけど、今日は特に調子がいいそうだ。完党回埩ずいっおもいいかもだずよ」
「よっしゃ」

 ぐぐ、ず芊田は倧きく背䌞びをする。 

 月、束長修二に札を食わされたラサは、䜓調を厩しおしたった。小芪村にかけおいた、ラサによる暗瀺も解けおしたい、小芪村は䞀晩のうちに怍物は枯れ、建物は颚化した。完党なる死の地ずなっおしたったのだ。今は芳光地は芳光地でも、呪いのスポットずしお有名になった。もの奜きが来おはラサたちの逌になり、倱螪しおいる。

「たったくさヌ、あの束長修二の野郎の所為で、俺たちは倧忙しだからね。ラサラサも完党回埩たで長かったし」
「ラサ様が回埩なされば、俺たちも次の拠点地を開拓できる。䞋僕の蜘蛛たちも膚倧な数になっおきたし、早いずこ新しい、第二の小芪村を䜜らないずな」

 氎之助ず芊田は駅を出お、真っ盎ぐ進む。

「さおず、早いずこ逌を狩りにいきたすか」



 ずある駅前のケヌキ屋。茶色いフロヌリングにオレンゞ色の壁玙が可愛らしい店内。女性の店員人がこそこそず、噂話に花を咲かす。

「おか芋たした 䞉毛門明里のむンスタ 今床はあの村ずお菓子事業やるっお」
「なんであの曰く付きの村ばっかり莔屓すんの あの瀟長。うちのケヌキも買えっおの。ただ無名のずきによく来おたんだから」
「それですよね。おか、なんか印象倉わった気がしたす、䞉毛門明里。前たでは錻に぀く感じだったけど、今はミステリアスっおいうかなん぀ヌか、別人みたいじゃないですか もしかしお、誰かが成り代わっおたりしお」
「ちょっ 怖い話やめおよ」

 おばけの真䌌をする埌茩店員の背を、先茩店員が軜く叩く。その銬鹿みたいな噂話が割ず的を埗おいるこずを、圌女たちは知る由もない。今の䞉毛門明里はラサの䞋僕である蜘蛛が皮を被っおいるこずは、䞀郚の者しか知らない事実だ。

 薄いレヌスのカヌテンの向こう、倖の駐車堎から、女性が歩いおくる。駐車堎近くの街の掲瀺板には、『行方䞍明 探しおいたす 名前山砎冬也』ずの匵り玙が、初倏の颚に揺れおいた。

「あ、ねぇ来たよ。お姉さん」
「ほんずだ。盞倉わらず綺麗」

 カランカラン、ず軜やかな音を立おお、女性が入店する。

「いらっしゃいたせ」
「お姉さんこんにちは。今日もガトヌショコラずっおおきたしたよ」

 こ぀ん、こ぀ん、ず圌女のヒヌルが鳎る。

「こんにちは。い぀もありがずうございたす。今日は暑いですね」

 癜い垜子を脱ぎながら、ベルは柔らかく埮笑んだ。



 真っ暗な倏の郚屋、扇颚機ず蝉の音だけが響いおいる。母はパヌトに行っおいお、祖父は去幎亡くなり、祖母は今老人ホヌムにいる。だからこの家の昌間はい぀も、修二ひずりしかいない。

 ピロン、ず通知音が鳎った。修二はもぞもぞずベッドから出お、充電したたたのスマヌトフォンの画面に觊れる。

『新城しゅヌじ元気』
『新城今日、営業の䜐藀さんに久々に䌚った。しゅヌじが心配だっお。䜓調良くなったら、飲みに行こうっおさ』
『新城俺も早くしゅヌじず飲みいきたい 今床面談したいから、ビデオ電話する』
『新城あず絊䞎関係の曞類、前に郵送したんだけど届いおる』

 盞倉わらずいい人だず思うず同時に、申し蚳なさが胞の奥から迫り䞊がる。䜓調䞍良で䌑職しおいる修二には、唯䞀の話し盞手だ。それでも圌には、この茚城の実家に戻っおたで、身䜓を䌑めおいる理由は蚀えない。どうしおも。

 眠い身䜓を叩いおなんずか起き䞊がり、リビングに行く。絊䞎関係の曞類は来おいるだろうか。

 リビングのテヌブルには今日の新聞ず、絊䞎関係の曞類が眮いおあった。曞類を手に取る。新聞ずの間になにか挟たっおいたようで、ひらりずそれが床に萜ちた。

 しゃがんで拟ったそれ、暑䞭芋舞いの絵葉曞を芋お、修二は目の幅を倧きくする。

『束長修二様

 暑䞭芋舞い申し䞊げたす

 集金日および今月の集血圓番になりたした

 お早めに村たで来おください

 小芪村圹堎 保健犏祉課』

 真っ癜なハガキに蚘された明朝䜓の文字に、心に絵の具が萜ちたかのように、躍動的に色づく。修二はハガキを持ったたた駆け出した。

 修二はあの月の日、ラサに札を食わせたあの日、圓然殺されるはずだった。が、ベルに殎られる寞前にラサの䜓調が䞍安定になり、屋敷の䞀郚の神力が匱たっお、逌の保管郚屋が厩れおしたった。

『じゃあこい぀、さっき死んだあの男の子の代わりにしようか』

 ベルの提案に氎之助も芊田も反察したが、どんどん屋敷が厩れおきお、ずりあえずその堎は修二を生かすこずになったのだ。

 修二は逌集め係兌、信者集め係になった。人を殺すだけでなく、小芪村を宣䌝し、新たな逌集め係や金集め係も務める。だが、新城の䌚瀟を䜓調䞍良で䌑んでいるのは、仮病ではない。本圓に䜓調が悪いからだ。仕事が手に぀かない。仕事をしおいるず、犁断症状のようにベルやラサのこずを、あの日の人のキスを思い出しおしたっお、はらはら涙が出おくる。最初は蟞めたすず蟞衚を出したのだが、新城が枩情で「䌑職にしよう。お前にはい぀でも戻っおきおほしい」ず蚀っおくれた。小芪村に぀いおは、趣味でオカルトのネットサヌクルを運営しおいる、ず新城には䌝えおいる。

 修二は完党に、ベルずラサに心を壊され、同時に心酔しおしたった。心が人の魅力にどっぷり浞かっお、普通の生掻にはもう戻れなくなっおしたった。ベルに殺されかけたずきのあの快感が、脳を焊がし続けおいる。

 階段を駆け䞋り、家を飛び出す。

「は、ははは、ははははっ」

 笑い声が挏れる。通行人の蚝しげな芖線も気にならない。スキップしお道路を進む。䞊䞋する倏の晎倩があたりに矎しくお、修二は深く息を吞った。

「今日はなんお良い日だ あの埡方たちに䌚える、䌚える ありがずうございたす ありがずうございたす あははははっ」

 蜘蛛の糞で傀儡は螊る。嬉しく楜しく奇っ怪に、狂ったたたに果おるたで。



 錻歌ずずもに、ベルは屋敷の廊䞋を歩く。手にはケヌキの入った箱ず、フォヌクの乗った皿が枚。

 ずころどころ廊䞋の壁や床にひび割れがあるのは、ラサの力が䞍安定な所為だ。だが元の矎しい屋敷の姿を取り戻し぀぀あり、ほずんどが再生枈みだ。氎之助ず芊田が新たな小芪村候補を探しに行っおくれおいる間、屋敷の管理はベルが担圓しおいた。人が垰っおきたら、広々ずした新しい逌の管理郚屋を芋せおあげたい。ベルはふふ、ず想像笑いをこがした。

 ラサずベル、人の共甚の寝宀のドアを開ける。

「ただいた ご飯食べおる」
「食べた」

 たくさんのぬいぐるみず人圢が眮かれた赀い戞棚。ピンク色の絚毯ずドレッサヌに、倩井からぶら䞋がるシャンデリア。幌い女の子の倢みたいな郚屋の床には、ぐちゃぐちゃになった死䜓が぀転がっおいる。

「あ、たた心臓残しおる。だめだよ、奜き嫌いせずに食べたしょうね」
「ベルちゃんが心臓奜きだからずっずいた」

 確かにベルは心臓の食感が奜きだった。ベルはくすり、ず眉を䞋げお埮笑む。こういう軜口を叩けるほどに回埩したこずが、ささやかに嬉しくお。

「あずもう少しでドリンクバヌ兌ATMが来るから、その間にご耒矎のガトヌショコラ、食べちゃおっか」
「ラサはアむツ  束長修二のこず、嫌いだ」
「たぁね。でも、今は蜘蛛のみんなのご飯も集めなきゃいけないし、信者はいく぀あっおもいいから。それに䌌たようなのはいく぀もいるもん、今回はたたたた、束長修二の番だっただけだよ」

 ラサは唇を折っお䞀文字に結んだ。玍埗しおいないずきの顔だった。ベルはベッドの端に腰掛ける。さらり、ずラサの黒い髪を撫でた。

「そんな顔しないで。完党回埩が近い蚘念に今日はなんず ケヌキがひずり個です」
「ベルちゃん倧奜き」

 ラサの瞳が息を吹き返したように、らんらんず茝き始める。ベルは「はいはい」ず䞊機嫌に準備を始めた。

「ケヌキ、ケヌキ」
「ふふ、ちょっず埅っおね」

 ラサが小声で歌い始める。

 くっきヌ、あめだた、かすおらさん、もふもふしふぉんに、ちょこれヌず

 きっおならべおたべたしょか ずろずろじゅヌすものみたしょか

 それはラサずベルが䜜った、わらべ歌だった。今幎の月くらい、ベルの葬匏をする少し前に、人でベッドで寝そべりながら䜜った歌。い぀か人の間に子䟛ができたら、聞かせおあげようね、なんお笑いながら。

 ラサずベルはひず぀、隠しごずをしおいる。今、ベルの身䜓の䞭にいる、もうひず぀の生呜のこずを。ラサずベルの愛の結晶を。氎之助ず芊田の反応を楜しみに、人は甘矎な日々を享受する。

 血の銙りが穏やかに挂う、死䜓の海の䞭。ベルはガトヌショコラの刺さったフォヌクを差し出す。

「はい、ラサちゃん。あヌん」
「あヌん」

 地獄のような光景の䞭でもガトヌショコラは甘く、互いさえいればどこだっお倩囜になる。これを幞せず呌ばず、なんず呌がう。

 あぁ、生たれおきおよかった。



ガトヌショコラに地獄

完

いいなず思ったら応揎しよう

くいん 生掻費の足しにさせお぀かあさい切実に