大阪地裁は、後れて延長登録された分量12μg製剤の延長の効力は24μg製剤の後発医薬品に及ばないと判断
大阪地裁は、後れて延長登録された特許権の効力は、先行する延長登録の理由となった製造販売承認の対象とする物と、成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物の生産・譲渡等にまでは及ばないとの規範を示し、原告製品(分量24μg)の製造販売承認に基づく特許期間延長後にされた、分量違いの原告製品(分量12μg)の承認を理由として延長された特許権の効力は、分量24μgの後発医薬品に及ばないと判断した。
大阪地判令和8年3月3日、令和7年(ワ)第10786号、同第10790号
事案の概要
存続期間の延長登録を受けた本件各特許権の効力が、被告製品の生産・譲渡等に及ぶとして、原告が、被告製品の生産・譲渡等の差止めを求めた事件。
本件各特許権について
原告(ヴィアトリス製薬合同会社)は、補助参加人(スキャンポ)から本件各特許権につき専用実施権の設定を受けた。
原告製品24μgについて、平成24年6月29日に、アミティーザカプセル24μgの製造販売承認をうけ、それに基づき、本件特許権1及び2の期間延長が登録された(延長登録1-1、延長登録2-1)。
原告製品12μgについては、平成30年9月21日に、24μgと同一の効能・効果、用法・用量の製造販売承認がされ、それに基づき、本件特許権1及び2の期間延長が登録された(延長登録1-2、延長登録2-2)。
被告(沢井製薬)は、令和5年12月9日、本件特許2に対し、特許無効審判を請求(無効2023-800077号)。特許庁は、令和7年4月22日付けで、補助参加人による訂正を認めた上で、請求不成立審決をし、審決取消請求訴訟(令和7年(行ケ)10055)が係属中。
被告は、令和5年9月28日、延長登録2-1及び2-2に対し、延長登録無効審判を請求(無効2023-800062号、無効2023-800063号)。特許庁は、令和7年6月4日付けで、請求不成立審決をし、審決取消請求訴訟(令和7年(行ケ)10059、同10064)が係属中。
被告は、令和6年4月3日、延長登録1-2に対し、延長登録無効審判を請求(無効2024-800052号)。
本件特許権1:特許第4889219号
満了日(延長期間含まず):令和5年12月26日
延長登録1-1:令和6年7月2日まで
延長登録1-2:令和10年12月26日まで
本件発明1
機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置のための医薬組成物
機能性胃腸疾患の処置のための医薬組成物
本件特許権2:特許第4332353号
満了日(延長期間含まず):令和4年4月26日
延長登録2-1:令和7年4月28日まで
延長登録2-2:令和9年4月26日まで
本件発明2(訂正後)
薬物誘発性便秘処置用組成物
アミティーザカプセル(原告製品)
効能又は効果:慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
用法及び用量:通常、成人にはルビプロストンとして1回24μgを1日2回、朝食後及び夕食後に経口投与する。なお、症状により適宜減量する。
被告の行為
令和5年2月24日、厚生労働省に対し、原告製品24μgの後発医薬品として、被告製品についての製造販売承認申請をした。
後発医薬品は、毎年2月と8月に製造販売承認の機会があるところ、被告製品は、令和7年8月には製造販売承認がされなかったが、令和8年2月に製造販売承認がされた場合は、同年6月の薬価基準収載が見込まれる。
争 点
(1) 被告製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか(争点1)
(2) 延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件特許権1及び同2の効力は被告製品の生産・譲渡等に及ぶか(争点2)
(3) 本件延長登録1-2及び同2-2に無効理由があるか(争点3)
(4) 差止め等の必要性(争点4)
大阪地裁の判断
争点1及び争点2について判断し、争点3及び4は判断せず。
争点1及び争点2の判断、並びに、争点2に関する裁判所の判示事項は以下のとおり。
1)争点1について
被告製品は、本件各特許権1及び同2のいずれの技術的範囲にも属する。
2)争点2について
延長登録1-2によって延長された本件特許権1の効力、及び、延長登録2-2により延長された本件特許権2の効力は、被告製品の生産・譲渡等に及ばない。
(理由概要)
延長された特許権の効力範囲は、延長特許の範囲・単位についての解釈と整合的で、特許権者と第三者との衡平にも適うものであるかという観点で検討することが不可欠。
先行する延長登録の理由となった製造販売承認の対象とする物と、成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物は、後行する延長登録の理由となった承認の対象とする物と実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまでは後れて延長登録された特許権の効力が及ばないものとして解されるべき。
分量のみが異なる原告製品12μgと被告製品は、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異と見る余地があることは否定できないが、延長期間が既に終了した延長登録1-1の延長理由処分の対象である原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果を同じくする物の第三者による生産・譲渡等を差し止めることができることになると特許権者と第三者との衡平を損なう結果を招く。
(判決文抜粋)
延長理由処分の対象となった物との同一性の範囲の解釈にあたっては、「特許権存続期間の延長登録制度全体に対する考察、すなわち、延長登録の範囲・単位をどのように解すべきかにも立ち返りつつ、存続期間を延長された特許権の効力範囲をどのように解することが、延長特許の範囲・単位についての解釈と整合的で、特許権者と第三者との衡平にも適うものであるかという観点で検討することが、本問題の性質上不可欠」。
「医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で定められた『成分』に関する差異、『分量』の数量的差異又は『用法、用量』の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた『成分、分量、用法、用量、効能及び効果』によって特定された『物』と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきと解される(オキサリプラチン知財高裁判決参照)。」
「延長登録出願の段階での延長登録の範囲・単位と、存続期間が延長された特許権の効力範囲は、規範やその背景事情を異にするもので、両者の範囲は必ずしも一致するものではなく、むしろ、一般的にいえば、後者の方が広がりをもった範囲を有するといえる。」
「医薬品に係る同一の特許権について、複数の政令処分を理由とする延長登録がされている場合、後れて延長登録された特許権の効力範囲は、・・・、少なくとも、先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物は、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまでは効力が及ばないものとして解されるべきである(さらにいえば、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物を基準としたときに、①先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物との数量的差異よりも、数量的差異が大きい物〔例えば、分量の違いがより大きい物〕や、②先行する政令処分の対象とする物と同じだけの数量的差異に加えて別の質的な差異も存在する物〔例えば、同じだけの分量の差異に加えて成分にも一定の差異がある物〕は、物としての遠近がより離れることになるため、やはり実質同一といえないと解するのが、一貫した解釈として相当である。)。」
「後れて延長登録された特許権の効力が、・・、先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物の生産・譲渡等にまで及ぶとすれば、先行する存続期間の延長の方が短かった場合において、その対象とする物の第三者による実施が、存続期間延長制度が規律する以上の期間にわたって禁じられることにな」り、「延長登録出願段階での範囲・単位を成分、分量、用法、用量、効能及び効果で短冊的に区分けし、特許権者と第三者との衡平を、その範囲・単位できめ細やかに調整しようとする存続期間延長制度の趣旨を大きく損なうものであるとともに、既に延長期間が終了した延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物に対して特許権の行使を受けるということは、第三者の予期を期待できるものではなく、特許権の効力を及ぼす実質的正当性に欠けるものともいえる。」
本件へのあてはめ
「原告製品12μgと被告製品は、分量こそ12μgと24μgという違いがあるものの、成分、用法、用量、効能及び効果は同一である上、本件各発明の内容に照らせば、上記分量の差異が技術的特徴や作用効果に違いをもたらすとはいい難いと考えられ・・、・・・僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異と見る余地があることは否定できない。」
被告製品は、先行する延長登録1-1の延長理由処分の対象である「原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物であるところ、上記延長登録に係る延長期間は既に終了したものである。・・・原告製品24μgとの同一性に係る上記一事をもって、少なくとも、被告製品は原告製品12μgと実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまで効力は及ばないというべきである(被告製品と原告製品24μgとの間で、仮に添加剤の違いがあり、これをもって『成分』に一定の差異があると評価されるのであれば、実質同一をより否定する要素といえる。)。」
本件特許権1は、原告製品24μgについての実施をすることができなかったため延長登録1-1が認められたが、「原告の主張によれば、本件延長登録1-2によって存続期間が延長された本件特許権1の効力として、さらに令和10年12月26日までの間、被告製品その他原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果を同じくする物の第三者による生産・譲渡等を差し止めることができることになる。これは、本来、政令処分を受けるまでの失われた期間に限り、存続期間の延長を許容する存続期間延長制度の趣旨、想定とは異なり、失われた期間の回復を超えて、延長登録の理由となった政令処分の対象とする物についての実施権の専有を認めるに等しく、実質において、特許権者と第三者との衡平を損なう結果を招くものといえる。」
コメント
延長された特許権の効力範囲については、判例の蓄積がなく、明確でない。
オキサリプラチン知財高裁大合議判決が実質同一なものに含まれるとして(第4類型)「政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合」を例示している。
しかし、本判決では、第4類型に該当する場合であっても、特許権者と第三者との衡平を考慮し、先行する延長登録の理由となった製造販売承認の対象とする物と、成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物の生産・譲渡等にまでは、後れて延長登録された特許権の効力が及ばないとの判断を示した。そして、特許権者と第三者との衡平を考慮することは、オキサリプラチン知財高裁大合議判決が示した規範でもある。
今回ご紹介した本案と同内容の仮処分命令申立却下決定(令和7年(ヨ)第20008号、同第20009号)が令和8年2月6日に出され、その後、令和8年2月16 日に沢井製薬と東和薬品の後発医薬品(分量24μg)が承認されている。本件の口頭弁論終結日は 令和8年2月4日であり、後発医薬品承認前である。
なお、知財高裁ホームページ情報によると、延長登録2-1及び2-2に対する延長登録無効審判審決取消請求訴訟(令和7年(行ケ)10059、同10064)の判決が、令和8年4月9日に出されるようである。また、東和薬品による延長登録1-2に対する延長登録無効審判(無効2025-800139)も係属中である。
延長された特許権の効力範囲について、今後どのような判決が出るのか、興味深い。
(令和8年3月23日加筆)
(文責:矢野 恵美子)
