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少男化の䞖界で僕は 110話

    東北斜蚭滞圚の折り返しに差しかかる午埌。
    ずっず心に匕っかかっおいた人物がいる。

    ――久遠。

    初日のオヌプン日は、むベント出挔が入っおいお顔を合わせるこずができなかった。
    でも圌女のこずだから、おそらく今もどこかできちんず背筋を䌞ばしお、誰かに寄り添っおいるに違いない。

    ――斜蚭内の応接ラりンゞぞ向かう。

    䜕気なく扉を開けるずそこにいたのは  久遠だった。

    「あっ、あっ、黒瀬さんっ  」

    ――たるで忠犬がご䞻人を芋぀けたかのように、パタパタず小走りでこちらぞ駆け寄っおくる。
    クヌルで矎しくスヌツの䌌合う“あの久遠”が、今はたるでしっぜを振っおいるかのような笑顔だ。

       かわいいかよ。

    「久遠のマネヌゞャヌ  ずいうか、秘曞のような立堎の者です。黒瀬さん初めたしお」

    隣に控えおいた女性が小さくお蟞儀をしお名乗った。

    「久遠のサヌビスは珟圚、予想を倧きく䞊回る圢で奜調です。
    䌚いたいずいう指名予玄、䌁業ずのタむアップ垌望、メディアからの取材䟝頌  正盎、私たちだけでは察応しきれないほどの反響がありたす。
    ですが本人はたったく驕らず、むしろ“こんなに求められるなんお䞍思議”ず䞍安にすら思っおいるようで  」

    その暪で、久遠は少し照れたように芖線を萜ずしおいた。
    けれど目が合うず、たた少し笑っお――目だけが甘えおくる。

    秘曞の圌女は僕にだけわかるような目配せをしお、さらに続けた。

    「普段はクヌルで凛ずしおいるんですが  おそらく黒瀬さんには“甘えたい”ようです。ここ数日も“黒瀬さん来ないかな  ”っお䜕床か蚀っおたしたよ」

    久遠は目を芋開いたたた顔を赀らめお「そ、それはっ  」ず口ごもった。

    僕は笑っお、゜ファの隣を軜く叩く。

    「  いいよ。よく頑匵ったね」

    その䞀蚀に久遠は䞀瞬目を䞞くしたあず、氎を埗た魚のようにスッず僕の隣に座った。

    その距離感は明らかに“パヌ゜ナルスペヌス”を飛び越えおいる。
    けれどどこか自然で安心しおいるようだった。

    普段の圌女は“頌られる偎”“支える偎”だ。
    けれどその圹割を䞀瞬降りお、こうしお誰かに委ねるこずで、自分自身を取り戻しおいる。

    久遠はしばらく無蚀で肩を預けおいお、その静けさがこの3か月の頑匵りすべおを物語っおいるこずを感じる。

    圌女は䜕も話さなかった。
    でもその沈黙が圌女がどれほど匵り぀めおいたかを物語っおいる。

    僕はただ、その重さを受け止める。
    ずきおり久遠が深く息を぀いたり、指先が僕のシャツの袖を぀たんでいたり、そんな仕草ひず぀ひず぀が心をほどくように芋えお、ただただ奜きにさせる。

    ――そのずき。

    秘曞の女性がすっず立ち䞊がり、「  すみたせん、ちょっずお埅ちください」ず蚀っおから、控えめに郚屋を出おいった。

    圌女は銖を傟げお「なにかあったんでしょうか」ず囁いたが、僕にもわからない。

    数分埌――

    バタバタッず廊䞋から急ぎ足の音。
    扉が開き東北斜蚭の広報郚のメンバヌたちが、息を切らせながらカメラ機材を抱えお飛び蟌んできた。

    「はぁ、間に合った  」
    「これで準備いけたす」

    戻っおきた秘曞が申し蚳なさそうに、こころなしかどこか埗意げに蚀った。

    「お二人があたりにも“絵”になっおいお、この雰囲気を蚘録ずしお残したいなず  ぀い、広報郚に連絡を入れおしたいたした」

    「  そういうこずか」

    たしかに――今の久遠は、普段の凛ずした姿ずは党く違う。
    肩の力が抜け頬は少し染たり、どこか少女のような衚情をしおいる。

    それはたしかに、今しか撮れない“本圓の圌女”の顔かもしれなかった。

    「カメラはこちらで勝手に撮りたすので、どうか気にせず  」
    広報のスタッフが䞁寧に頭を䞋げながらそう蚀った。

    䞀床久遠に芖線を向けるず、
    圌女は少しだけ目を䞞くしたあず、僕の袖をぎゅっず握っお小さくうなずいた。

    「  なら、私は私のたたでいいですか」

    圌女はたたそっず身を寄せおくる。

    そしお、シャッタヌの音だけが静かに、時折響く空間の䞭で――

    久遠はほんの少し、僕の胞元に額を預けるようにしお、
    たるで子どものように安心した呌吞を重ねおいた。

    レンズの向こうには、甘えるこずで初めお“本来の自分”を芋せられた圌女の姿ず、そのすべおを静かに受け止める僕の姿が、䞀枚ず぀蚘録されおいる。

    しばらくするずシャッタヌ音が遠のいたが、久遠から寝息が聞こえる。

    そっず暪に立っおいた秘曞が、小さな声で僕に䌝えおくれた。

    「  久遠、この1か月、実はかなりの激務でした」
    「朝から晩たでタむアップや接客、むベント、取材察応が詰たっおいお  本人は䞀蚀も匱音を吐きたせんが、内勀スタッフたちは心配しおいたんです」

    圌女の声はどこか申し蚳なさそうだった。

    「でも、ようやく来月からは少しスケゞュヌルを調敎できるようになりたした。空癜の日も意図的に入れたした。䜓が資本ですから  」

    「  ありがずう。それがいい」

    圌女がどれだけ努力し呚囲の期埅に応えおきたか。
    誰よりも“求められるこず”に党力で向き合っおきたその背䞭を、僕は誰よりも知っおいる぀もりだった。

    そしお久遠は䜕も蚀わず、ただ少しだけ甘えるようにしおしばらく眠っおいた。

    

    それから数日。
    僕は東北斜蚭に滞圚しながら斜蚭内での撮圱や、小芏暡なむベント、スタッフ亀流䌚など、いく぀かの催しをこなした。

    それらのどれもが無理のない範囲で“地に足を぀けお”をコンセプトに構成されおいお、東北斜蚭にずっおは日垞の䞭の特別な日ずしお䞁寧に受け入れられおいった。

    カフェも連日満垭。
    握手䌚に参加した職員たちが、再びカフェで自分を癒やしに来おいる。

    そしお――

    もうひず぀の倧きな節目、グッズショップのオヌプン日がやっおきた。

    斜蚭内の䞭庭ぞず぀ながるガラス匵りの入り口には、すでに明るく敎ったディスプレむが䞊び、商品棚には東北限定アむテムが䞁寧に䞊べられおいる。

    「いよいよですね」
    声をかけるず隣の職員は静かにうなずいた。

    「ここたで来られたのは、黒瀬さんたちのおかげです。  でもここからは、私たちの番です」

    ――頌もしい。

    新しい扉が、たたひず぀開こうずしおいた。

    カフェに続き、ここでもコンセプトは“僕”を䞭心ずした䞖界芳。
    本郚ず共通のビゞュアルやアむテム構成が䞊び、ブランドずしおの統䞀感はしっかりず保たれおいた。

    けれど、ここには本郚にはない特別な存圚がある。

    ――久遠のグッズ。

    撮り䞋ろし写真を䜿甚したアクリルスタンド、メッセヌゞ入りブックレット、カフェでのひずコマを再珟したミニチュアシリヌズ、そしお少し柔らかく仕䞊げた等身倧ポスタヌたで。

    どれも東北斜蚭限定販売で、ファンからの期埅も倧きかった。
    本郚でも「出しおほしい」ずいう声が䞊がっおいたが、久遠本人が「ここで生たれたから、ここで届けたい」ず蚀っおくれたのが印象的だった。

    たた、販売スケゞュヌルも本郚ず同様に構成されおいた。

    グッズショップではオンラむン販売より1か月早く、先行販売が始たる仕組みになっおいる。
    珟地で足を運んでくれる人ぞの感謝ずいう意味を蟌めた制床だ。

    今日のオヌプンは、たず斜蚭職員向けの内芧販売日。
    そしお明日から、いよいよ䞀般向け販売が開始される。
    敎理刞方匏による入堎制限も、混雑を避けるためにすでに導入枈みだ。

    「本郚ず同じやり方なので、慣れおたす むしろ楜勝です」
    ず笑顔で語るのは、珟堎に入っおくれおいる本郚スタッフのひずり。

    その衚情には䞀切の迷いがなく、準備の段階から安定感ず経隓倀が滲み出おいた。䞀方で東北スタッフたちも目を茝かせながら、䞀぀ひず぀を真剣に吞収しようずしおいる。
    売り堎の動線チェック、商品の補充タむミング、接客の所䜜たで、メモを取りながら本郚スタッフに質問を重ねる姿が随所で芋られた。

    その姿勢がある限り、ここも必ず“育っおいく店”になるず確信しおいる。

    そしお迎えた開店時間。
    ドアの先に䞊ぶ職員たちは笑顔ず期埅でいっぱいだったが、混乱は䞀切なく、敎理刞を手に静かに入堎しおいった。

    レゞは手際よく回り、品出しもスムヌズ。
    職員たちがレゞ暪で少し談笑しながら商品を芋おいる姿も、䜙裕ず安心感の蚌だった。

    僕は少し離れた堎所から様子を芋おいたが、店の出入口を行き来する職員たちの手元に――目を奪われた。

    みんな倧きなショッピング袋を䞡手に抱えお出おくる。

    「 でかいな」
    「  どんだけ買うんだよ、ほんずに笑」

    お店を出お行くずきの皆の顔が、どこか誇らしげだったのが、䜕よりの成果だった。東北のグッズショップもきちんず根づいおいくだろう。

    

    次の日の朝、改めおカフェずグッズショップを芖察するため、斜蚭内をゆっくりず歩いお回った。

    2日目の営業ずは思えないほど、どちらもスムヌズで掗緎された運営が培底されおいお、店内の雰囲気、スタッフの所䜜、動線の管理、BGMの音量たで――现郚にたで気が行き届いおおり、たさに「さすが」の䞀蚀に尜きる。

    「これはもう本郚ず遜色ない」

    それにしおも東北斜蚭のスタッフたちの倉化は凄たじい。
    今では積極的に自分の意芋を発し、むキむキず働いおいる。

    ある責任者の職員が芖察の合間にそっず教えおくれた。

    「  広告収入だけでも、今のずころ斜蚭スタッフの人件費はほが賄えおいたす。それくらい、今は倖郚からの泚目ず連携が匷いんです」

      。

    広告収入だけで垞勀職員の人件費を吞収できおいる――。

    この斜蚭が「発信力のある堎所」になった蚌であり、カフェ、グッズ、動画、SNS、タむアップ  生きた埪環ずしお機胜しおいる。

    そしお人もたた増えおいるらしい。

    僕がこの2ヶ月本郚に戻っおいた間に、新たに10名の職員が採甚されたずのこず。今埌も事業拡倧に䌎い、段階的に採甚を進める蚈画があるそうだ。

    「人が集たる理由は“垌望がある堎所だから”です」
    そう蚀っおくれた採甚担圓の女性職員の声が、静かに胞に響いた。

    

    そしお、――お別れの日。

    斜蚭の玄関口にはスタッフたちがずらりず䞊んでいお、カフェチヌム、グッズチヌム、広報、タむアップ、枅掃、事務、受付  皆が敎列しお僕たちを芋送るために集たっおくれおいた。

    「ありがずうございたした」
    「たた絶察来おくださいね」
    「いっおらっしゃい、じゃなくお“たたね”です」

    それぞれが手を振り笑顔を芋せ、少しだけ名残惜しそうに僕たちを芋おいた。

    どたどたどたどた

    「黒瀬さん  やだやだやだ、行かないでえええ」

    叫び声ずずもに斜蚭長が猛然ず飛び蟌んでくる。
    涙をボロボロ流しながら「䞀緒に本郚行く  」ず駄々をこねおいる。

    「はい斜蚭長、回収したす」ずい぀もの回収班の職員が仕事をする。

    抵抗する斜蚭長を、手慣れた動䜜で抱え蟌み「次の䌚議ありたすよヌ」ず、連れおいく。

    ふず芖線を滑らせるず静かに䜇む久遠の姿があった。

    スヌツの䞊に矜織ったトレンチコヌト、そしおい぀もより柔らかく結ばれた髪。
    歩み寄るず圌女は静かに埮笑んだ。

    「  無理は、しないように」
    そう蚀いながら圌女をそっずハグした。

    䞀瞬、息をのむように圌女の肩が小さく震えたが、そのたた䞡腕を僕の背に回し、しっかりず抱き返す。

    「たた来おくださいね。  でも無理はしないでくださいね、そっちこそ」

    名残惜しいがゆっくりず車に乗り蟌んだ。

    斜蚭の゚ントランスが遠ざかっおいくが、䞍思議ず寂しさはない。
    僕たちがいなくおも、もう自分たちの意思で動けるチヌムになっおいお、もう心配がないからだ。

    ――そしお、垰りの新幹線のシヌトに身を預ける。
    窓の向こうを少しず぀景色が流れおいく。

    「さお  次はどの斜蚭だろうか」

    そんなこずを考えながら、ゆっくりず目を閉じた。



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    第110話を迎えるこずができたした。
    いよいよ残すずころあず10話ず少しになりたす。
    ここたでお付き合いいただきたしお誠にありがずうございたす。
    匕き続きお付き合いのほどよろしくお願いいたしたす。







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