
第8話: 『理系変人・海軍大佐の航泊日誌』戦艦「霧島」全力公試【後編】第四砲塔は、呪われているか。
こんにちは!海軍大佐だった高柳勝次郎のひ孫の漫画家、上乃です。
大正5年、巡洋戦艦「霧島」の全力公試。
今回は、高柳勝次郎が航泊日誌に残した実験記録をもとに描いた、「霧島」全力公試編の後編です。
第8話: 『理系変人・海軍大佐の航泊日誌』戦艦「霧島」全力公試【後編】第四砲塔は、呪われているか。




高速航行中の照準試験に続き、砲術科では、砲を安全に使用するための噴気装置と、全砲塔を同時に動かした場合の動力試験が行われました。
ところが、圧縮空気は使わなくても減る。
全砲塔を一斉に動かせば、水圧も大幅に低下する。
そして第四砲塔の右砲だけが、誰も操作していないのに、勝手に仰角18度まで上を向きました。
第四砲塔、またおまえか。
このページでは、何を試していたのか
航泊日誌28頁で扱われている主な試験は、次の三つです。
高速航行中に転舵しても、目標を照準し続けられるか
発砲後のガスを排出する噴気装置の圧縮空気は足りるか
全砲塔を同時に動かした場合、水圧動力は足りるか
結論からいうと、どれも余裕のある状態ではありませんでした。
何もしなくても減る圧縮空気
大砲を撃ったあとの砲腔内には、高温のガスが残ります。
そこで圧縮空気を吹き込み、残ったガスを砲口側へ排出するのが「噴気装置」です。
ところが、十分に空気を充填しても、わずか一、二時間で圧力が約二割低下するものがありました。通常の発射速度に合わせて尾栓を動かす試験でも、十数発分の操作で気圧が大きく低下しています。
勝次郎は、戦闘中は一時間ごと、使用しない日でも最低一日一回は、圧縮空気を補充すべきだと結論づけました。
空気ですら毎日補充です。
全部を一度に動かした結果
続いて、水圧機三台を使用し、全砲塔を一斉に半速で180度旋回させました。
しかも旋回中に、砲身の前進と弾薬の装填も同時に行わせます。
その結果、水圧は大幅に低下。
砲塔の旋回は一時的に遅くなり、砲身の前進も止まりました。しばらくすると回復しましたが、第四砲塔の右砲だけは、俯仰用の圧力が著しく低下し、勝手に仰角18度となりました。
誰も操作していません。
呪いでもありません。
水圧低下です。
勝次郎の結論
試験時にも水圧機は三台使用されていました。
勝次郎が最後に述べているのは、「二台では足りないから三台に増やす」という意味ではありません。
戦闘中には三台すべてを常時全力で運転し、将来の方位盤射法による一斉射撃に備えて、十分に余裕のある動力を確保すべきだ、という結論です。
「霧島」は高速で走るだけでなく、曲がりながら敵を狙い、全砲塔を動かし、弾薬を装填し、発砲しなければなりません。
それらを全部同時に試した結果、人間も機械も、かなり限界でした。
終わりに
この第8話をもって、「霧島全力公試編」は完結です。
今後は本シリーズを単行本としてまとめるため、既発表回の整理と描き下ろしの制作を進めます。仕事の都合もあり、noteの更新はしばらくゆっくりになる予定です。
前回
では原本画像と原文の書き起こしと現代語訳載せます。
「射手ノ精神的鎮静ヲ破壊スル」の3章のところから始まります笑
航泊日誌28ページ・原文画像

航泊日誌28ページ 全文書き起こし
(※前頁からの続き)
撃精度及發射速度ハ、此瞬時著シク低下スルモノナルヲ覚悟セザルベカラズ。
(4)
全砲台ノ噴気装置ヲ連続使用セシ時ノ気圧状況如何。 出港前、噴気装置充蓄器等ノ関係各部ノ気密状態ハ、一應検査シタルヲ以テ、漏気等ノ杞憂ナキモノト信ジタルニ係ラズ、装気後時間ノ経過スルト共ニ、圧力ノ降下スルモノアリテ、装気後一、二時間ニシテ下降約二割ニ及ブモノアリ。 又、通常ノ發射速度(十四吋砲三分二發、六吋砲毎分二發)ヲ以テ尾栓ヲ開閉セシニ、十四吋砲ニ在リテハ、僅カニ十數發ニシテ気圧下降シテ十八乃至十二気圧トナリ、六吋砲ニ在リテハ十乃至十五気圧トナリ、一般ニ噴気力稍微弱ナリ。 此下降状態ハ、装気充実後ノ経過時間ノ長短ニヨリ、更ニ甚シキコトアルベシ。 故ニ、噴気装置用圧搾空気ハ、今後戦闘中ハ毎時其補填ヲ行ヒ、縱令使用セザルトキト雖モ、少クモ毎日一回ハ之ヲ充実シ置クヲ必要ト認ム。
(5)
各砲塔ヲ全部仝時ニ使用シタル時、動力ノ能力如何。 水圧機三台ヲ使用シ、各砲身仰角十二度トナシ、後退ノ位置ニ据ヱ、各砲一斉ニ半速ニテ百八十度旋回中、砲ノ前進、弾薬装填ヲ行ハシム。 各砲塔共ニ、旋回中他ノ操作ヲ開始スルヤ、水圧ハ六〇〇乃至四〇〇听ニ降下シ、旋回速力ハ一時微速トナリ、砲身ノ前進亦一時阻止セラレタルモ、暫時ニシテ回復セリ。 唯、第四砲塔右砲身ノミハ、俯仰用筒圧力ノ下降甚シク、自働的ニ仰角十八度トナリタリ。 以上ノ状態ヨリ考察スルニ、戦闘中ハ常ニ三台ノ水圧機ノ全力運転ヲ行フヲ以テ、最モ安全ナルモノト認ム。 殊ニ将来、方位盤射法ノ如キ斉射法ヲ活用スル場合ニハ、益々十二分ノ動力ヲ蘊蓄シ、以テ事ニ臨ムヲ堅実ナル手段ナリト信ズ。
航泊日誌28ページ 省略なしの現代語訳
(3)
高速航行中に転舵した場合、照準をどの程度維持できるか ほかの実験との関係上、さまざまな舵角について試験することはできなかった。 しかし、速力25ノット、舵角15度以上で、3点以上の回頭を行う場合には、照準線を目標付近に保つのが精一杯であり、照準を継続して維持することは、むしろ不可能であるといってよい。 ただし、この問題は、射手や旋回手の熟練度、ならびに天候の状態によって程度が変化するものである。そのため、どの条件を限界とすべきかは断言しにくい。 また、以上のような状況で、いったん目標を望遠鏡の視界外へ逸してしまうと、射手の精神的な平静を失わせるだけではない。 実際に、目標を再び捕捉することが著しく困難になる。 したがって、射撃精度および発射速度は、その瞬間に著しく低下するものであると覚悟しなければならない。
(4)
すべての砲台の噴気装置を連続して使用した場合、気圧はどのような状態になるか 出港前に、噴気装置の充蓄器をはじめとする関係各部の気密状態については、一応の検査を行っていた。 そのため、空気漏れなどを心配する必要はないものと信じていた。 しかし、それにもかかわらず、空気を充填してから時間が経過するにつれて、圧力が低下する装置があった。 なかには、空気を充填してからわずか1、2時間で、圧力が約2割も低下するものがあった。 また、通常の発射速度――14インチ砲では3分間に2発、6インチ砲では1分間に2発――に相当する間隔で、尾栓を開閉した。 その結果、14インチ砲では、わずか十数発分の尾栓開閉を行っただけで気圧が低下し、18ないし12気圧となった。 6インチ砲では10ないし15気圧となり、全般的に噴気力はやや弱かった。 この圧力低下は、空気を十分に充填してからどれだけ時間が経過しているかによっては、さらに著しくなる可能性がある。 したがって、噴気装置用の圧縮空気については、今後、戦闘中には1時間ごとに補充しなければならない。 また、たとえ噴気装置を使用しない場合であっても、少なくとも毎日1回は、圧縮空気を十分に充填しておく必要があると判断する。
(5)
すべての砲塔を同時に使用した場合、動力にはどの程度の能力があるか 水圧機3台を使用した。 各砲身を仰角12度とし、砲身が後方へ下がった後座位置に据えた。 その状態から、すべての砲塔を一斉に半速で180度旋回させ、その旋回中に、砲身を前進位置へ戻す操作と弾薬の装填を行わせた。 各砲塔が旋回している最中に、ほかの操作を開始すると、水圧は600ないし400听まで低下した。 旋回速度は一時的に極めて遅くなり、砲身を前進させる動作も一時停止したが、しばらくすると回復した。 ただし、第四砲塔の右砲身だけは、俯仰用シリンダーの圧力低下が著しく、自動的に仰角18度となった。 以上の状態から考えると、戦闘中は常に3台の水圧機を全力で運転することが、最も安全であると判断する。 特に将来、方位盤射法のような斉射法を活用する場合には、これまで以上に十分な動力を蓄えたうえで事に臨むことが、堅実な手段であると考える。
【本作について】
本作は、私の曾祖父・高柳勝次郎が遺した大正時代の海軍日誌や写真を元にした、個人の記録の再構成です。
当時の生活様式や出来事を後世に伝えるための資料的・創作的な試みであり、特定の政治的思想、宣伝、または差別を助長する意図は一切ございません。
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